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「自閉症治療の到達点」精読・《1》序

【感想】
  「自閉症治療の到達点」(太田昌孝・永井洋子編著・日本文化科学社・1992年)を読み始める。「序」(佐々木正美)によれば、〈東京大学医学部精神神経科小児部で、25年という長い年月をかけて真摯に取り組まれてきた自閉症治療の今日の到達点を示す著作が完成した。わが国で初めての本格的な臨床研究と実践の書といっても過言ではないと思う。遂にわが国でも、自閉症のオリジナルな科学的臨床の書物が出たのだという思いがする〉とのこと、期待をもって読み進めたい。佐々木氏は「序」の以下で、次のように述べている。
《序》
【要約】 
・1970年代にロンドン大学のM.Rutter教授が、自閉症の本態のなかに認知機能の発達障害を発見し、以後の治療教育に新たな指針を与えた。
・その自閉症認知機能障害の実態を詳細に吟味・検討することに本書の研究成果の生命がある。認知機能の背後にある表象機能の発達レベルとプロセスを、PiagetやWallonら先人の英知や遺産と照合しながら、自閉症児それぞれが該当するStageを設定することで明確にした。このことは、自閉症の神経心理学に関する最も本質的な領域を解明したということであり、障害を最も本質的なところから治療しようとする場合の、具体的な視点を明示したことになる。
・1989年1月東京文化会館で、アメリカ・北カロライナ州のTEACCHプログラムを指導するSchopler,Mesibov両教授を迎えて、東大精神神経科の人たちとシンポジウムが開かれた。TEACCHプログラムの方法の原則が、自閉性障害をもったままどう生きるかということであるのに対して、東大グループの治療の視点は、障害の本質的部分を治療・改善しようとするものであって、その視座の相違が討論のなかに上質の対称や争点とともに討議の調和をつくることになり、私の知る限りでは、国内で他の機会には記憶がないほど内容の豊かなシンポジウムになった。
・Mesibov教授は、自分たちがかつてTEACCHプログラムのなかで取り組んだ障害の本質を解消や改善しようとする試みは、いわば挫折したままになっているので、その困難な臨床作業に情熱を燃やす東大グループの人たちの研究や試行には厚い敬意をはらいながら豊かな成果を期待していると繰り返し言っていた。
・本書はこのように独創的研究と臨床試行の成果に基づいて著述されているが、さらに自閉症児の家族問題のほか、遺伝をはじめとする生物学的障害の側面にも、長い年月にわたる世界的な研究や経験の要点を解説しており、自閉症治療に関する広汎な視点をもった今日の到達点を示すものとなっている。

【感想】
 「東大グループの治療の視点は、障害の本質的部分を治療・改善しようとするもので」ある。障害の本質的部分とは何か、その治療法とはどのようなものか、(いわば対症療法としての)TEACCHプログラムとはどのように違うのか、また「自閉症児の家族問題」についてどのように解説しているか、などという点に注目しながら読み進めていきたい。とりわけ、すでに読了した「自閉症治癒への道」(ティンバーゲン夫妻著・田口恒夫訳・新書館・1987年)の内容と、比較・対照することに重点をおくことが、私の課題であると思った。(2014.1.1)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《2》はじめに・謝辞

【要約】
《はじめに》(太田昌孝・永井洋子)
・世界に自閉症が初めて報告されて50年、東大精神神経科に発達障害児を対象としたデイケアが開かれて25年になります。
・当科のデイケアにおいて(も)、自閉症の治療は保育的なアプローチから始まり、世界的な動向とともに行動療法を取り入れた時期を経て、本書にまとめた「認知発達治療」に集約する方向へと歩んできました。
・本書は、世界的な視野での研究の成果を取り入れつつ、私どもが蓄積してきた研究と臨床経験により到達した自閉症治療の理論と実践をまとめたものです。
・自閉症に関してはまだ十分に原因が解明されておりませんが、治療や指導は今日までに明らかにされた科学の成果に立脚し、子どもたちの人間的な成長をめざす方向で行われなくてはならないと思っています。
・私どもが臨床の中で試行錯誤を繰り返すことによって開発し高めてきた「太田のStage」による「認知発達治療」の理論と実践を少しでも広く、医療、教育、福祉などの臨床の現場に役立てていただき、自閉症の治療と研究の土台としてさらに発展させていただくことを願って、以前より本にまとめる企画をしておりました。
・本書をまとめるにあたり、まず第1に、自閉症の表象機能障害をふまえた認知発達的な観点から、理論と実践を一貫したものとして統合すること、第2に、自閉症の治療教育の実践の場に有用に活かせるものにすること、第3に、治療教育的な観点に加えて、家族の問題、薬物療法、生物学的研究、遺伝研究などの側面から臨床経験と最近の知見をまとめることにより、総合的な治療と研究の方向性をさぐること、の3点を目標としてきました。・本書のタイトルを「自閉症治療の到達点」としましたが、もとより本書の内容は完成されたものではなく、その時代の到達点は常に次の時代への出発点でもあります。
・(本書に書かれている)自閉症の治療の観点は、発達障害に対する総合的な治療を考える点で、また認知発達の評価と発達に合わせたプログラムという点で、精神遅滞や学習障害など他の発達障害にも十分応用し、活用できる内容となっております。
・本書が自閉症および他の発達障害の治療と指導のための礎となることを心から願っております。(1992年9月)  
《謝辞》(要約)
・以下の方々に深く感謝の意を表します。
・東大病院諸関係者、同精神神経科の諸兄姉、当科小児部門の旧職員、小児部に通院した子どもたちと御家族の皆様、行事をはじめさまざまに御協力頂いたボランティアの方々。
・小児療育相談センター所長(元・東大精神神経科小児部門責任者)佐々木正美先生
・東大精神衛生・看護学講座の教授 栗田宏先生
・前東京都児童相談センター所長 上出弘之先生
・現横浜リハビリテーションセンター 清水康夫先生
・全国療育相談センター、畑中子ども研究所もスタッフの皆様
・研究助成をしてくれた厚生省(1981年~1986年)、三菱財団(1986年)、安田生命社会事業団。
・当デイケアの親の会・銀杏の会に事業助成してくれた、東京都文京区。
・本の出版に御配慮をいただいた日本文化科学社の星吉弘氏、出版社の方々。
【感想】
 ということで、まずは〈「太田のStage」による「認知発達治療」の理論と実践〉がどのようなものであるか、大いなる期待をもって、読み進めることにする。(2014.1.2)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《3》第Ⅰ章 自閉症の概念と本態(1)はじめに・1.自閉症の定義と診断

【要約】
《Ⅰ章 自閉症の概念と本態》
【はじめに】
・自閉症は、アメリカのKannerにより、1943年に“情緒接触の自閉的障害”として最初に記載され、翌年、早期幼児自閉症と命名された。当時のアメリカの精神医学は、子どもの精神障害をすべて精神分析的に理解しようとしていた。子どもの情緒や行動に異常があれば、それはより早い時期の養育環境に子どもをそのような状態においこむ問題が必ずあると考えられており、その原因は親の態度や性格に求められていた。このために、不幸なことに、「自閉」は心因に対する防衛であり、その原因は家族関係、とりわけ母親のパーソナリティに求められるはずだとする神話が生まれた。
・1960年代頃より、精神医学の中で実証的な方向での見直しが生まれてきた。
・1970年代に入ると自閉症についての研究はいっそうすすみ、多面的となった。この研究の成果と治療の積み重ねによって、自閉症は、心因性の障害でないことがますますはっきりとし、また、分裂病の早期発症型であるとする主張も根拠のないことが示されるようになった。ここに、自閉症に対する神話が崩壊することになった。
・現在では、自閉症は脳の機能障害が強く推測される発達障害であり、行動的症候群とするのが妥当であるとされるようになっている。
【1.自閉症の定義と診断】
1)自閉症の初期症状
・自閉症は、幼児期の早期より起こる発達障害である。
・言葉の発達が遅い、人に対する関心・反応が乏しい、落ち着きがなく多動である、耳が聞こえていないように振る舞う、対人関係がうまくできない、などが自閉症児の特徴的な初期症状と言うことができる。
*自閉症児の母親は、言葉と行動上の異常を強く訴えている。これに対して、精神遅滞児の親は、運動発達の遅滞をより強く訴えている。
2)自閉症の症状
・自閉症は、通常3歳くらいまでに起こってきて、3つの特徴的な症状で定義される障害である。①相互的社会交渉の質的障害、②言語と非言語性コミュニケーションの質的障害、③活動と興味の範囲の著しい限局性である。この3つの特徴的な必須症状は行動異常として現れるために、自閉症はそれらの行動で定義される行動的症候群である。
・この症状は、年齢により変化していく。ときには、対人関係の障害を表す自閉症状ですら、軽快することがある。このため、自閉症は発達障害とされている。
⑴社会的な相互交渉の質的な障害
・対人関係において視線、表情、身振りなどを適切に用いない。情緒的な共感や興味の共有ができず、友人関係を十分に発展させることができない。
⑵コミュニケーション機能の質的な障害
・話し言葉がほとんどなかったり、その発達が遅滞すること、言葉が出てきてもそのままオウム返しをしたり、独り言を言ったりして会話のやりとりができないこと、常同的・反復的な言葉を使用すること、会話のピッチ、リズム、抑揚に異常があったりすること、ジェスチャーの使用が見られないこと、ごっこ遊びや社会的模倣遊びが欠けている。
⑶活動と興味の範囲の著しい限局性
・関心が狭くてパターン的であること、特殊な物に愛着すること、独特な仕草で手をかざしてそれを見つめる行動など、常同的・反復的な奇異な運動、些細な変化を嫌がって、もとに戻したり泣いたり、パニックを起こしたりして苦悩を示す。(同一性の保持)
⑷自閉症にしばしば伴う非特異的行動障害
・低年齢では、多動、感覚の異常、極端な偏食、睡眠障害、思春期頃からは、こだわりや強迫様症状、自傷行為、他害などが大きな問題となる。うつ病を含めた周期性の気分変動を伴うこともある。
3)操作的診断基準
⑴診断基準の改定のポイント
・ICD(世界保健機構から出されている国際分類体系)とDSM-Ⅲ(アメリカ精神医学会)の2つがあり、診断の一致率が高くなるようにすること、比較的妥当な下位群を設けることに力点が置かれた「改定」が行われ、診断基準が少しずつ変わってきているが、自閉症の本態が変わってしまうのではない。
⑵操作的診断基準とその運用
・これらの症状は、2歳半から6歳未満の頃に最も顕著に現れる。子どもが2歳半以下のときには、自閉症の3つの必須症状が部分的にしか現れてこないこと、年齢とともに改善の方向に変化することもあることなどから、自閉症の確定診断は困難なことが多い。自閉症以外の発達障害の可能性も考慮し、親に対する療育指導を行って、経過を見る必要がある。
・6歳過ぎになって初めて診断を下す場合には、幼児期の行動特徴について親の陳述のみならず、母子手帳、アルバム、育児日記、ビデオの記録などのデータを用いて、症状把握の客観化を図る必要がある。
・この自閉症の診断基準では、脳障害があろうとなかろうと、早期の症状発現、3つの必須の行動障害とが認められれば、自閉症と診断できる。しかし、一般には、フェニールケトン尿症など特定の医学的障害が基礎にあれば、二次的自閉症と言われたり、特定の医学的障害の診断が強調される。
4)広汎性発達障害と自閉症
・広汎性発達障害は、DSM-Ⅲで初めて用いられた用語である。それには、自閉症自身はもちろん含まれるし、3つの必須症状を不完全ながら併せ持つ発達障害や、症状の発現や発症年齢の相違で自閉症と区別される行動症候群である発達障害をも含んでいる。ICD-10
によれば、小児自閉症、非定型自閉症、レット症候群、その他の小児崩壊性障害、精神遅滞と常同運動を伴う過動性障害、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、特定不能の広汎性発達障害を「一括」して「広汎性発達障害」と呼んでいる。
・これは、現在でははっきりした原因がわからないので、とりあえず自閉症とその周辺の障害について共通の対象認識を持とうとする過渡的段階であることを示している。
・本態研究と妥当な治療を推しすすめることを通し、やがてもっと妥当な診断基準をもつことになろう。
5)多軸診断
・行動以外の側面を評価することが、多軸診断である。(臨床症候群をいろいろな軸で評価する方法である)
・第1軸は臨床的症候群であり、主要な診断である。第2軸は、精神機能の発達水準である。第3軸は病因的あるいは副次的な生物学的要因である。第4軸は、病因的あるいは副次的な心理社会的要因である。第5軸として、全般的適応の水準が必要となろう。
*多軸診断の利点についての例:脳波異常のある自閉症を除外して、自閉症を治療・教育すると、その対象者での治療の成績や教育の効果は全体としてよくなる。その理由は、知能の低い自閉症は脳波異常を示すことが多く、脳波異常のない自閉症を集めると、どちらかというと知能の高いほうが多くなり、結果的には治療や教育効果が上がるほうに傾くことによる。ある2つの施設における治療や教育を比較するとき、多軸診断によらないと誤った結論が得られることになる。
・多軸診断は、異なる立場にある人々が異なる対象について科学的に評価し合うために不可欠な方法である。治療や教育の有効性を、共通して評価するために最低限必要とされる評価システムであると言えよう。

【感想】
 以上が「自閉症の概念と本態」の内容である。要するに、自閉症とは「脳の機能障害が強く推測される発達障害であり」「①相互的社会交渉の質的障害、②言語と非言語性コミュニケーションの質的障害、③活動と興味の範囲の著しい限局性」という特徴的な3つの症状で定義される行動的症候群である、ということであろう。では、具体的に脳のどこの部位の、どんな機能が障害されて①~③のような症状が現れるのであろうか。また、①②③の症状は、相互にどのような関連性があるのだろうか。たとえば、①の「対人関係の中で身振りを適切に用いない」ことと、②の「ジェスチャーの使用が見られないこと」は、一見同じことのように思われるが、その違いは何だろうか。
 また「はじめに」で〈(1970年代以降)この研究の成果と治療の積み重ねによって、自閉症は、心因性の障害でないことがますますはっきりとし〉とあるが、それを決定づけたのは、いつ、誰の、どのような研究成果だったのだろうか。
さらにつけ加えれば、自閉症の症状は「年齢により変化していく。ときには、対人関係の障害を表す自閉症状ですら、軽快することがある」「子どもが2歳半以下のときには、自閉症の3つの必須症状が部分的にしか現れてこないこと、年齢とともに改善の方向に変化することもある」と述べられているが、「軽快する」「改善の方向に変化することもある」とは、どのようなとき、どのような場合だろうか。
 そのような疑問が解明されることを期待しながら、先を読み進めたい。
なお、最近(2013年5月)の情報では、DSM-Ⅳは19年ぶりに改訂され、「広汎性発達障害」という用語は「自閉症スペクトラム障害」となり、その中に含まれていた「レット症候群、その他の小児崩壊性障害、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害」などは削除された由、著者の「本態研究と妥当な治療を推しすすめることを通し、やがてもっと妥当な診断基準をもつことになろう」という予見は当たったのだろうか。(2014.1.3)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」解読・《4》第Ⅰ章 自閉症の概念と本態(2)疫学と予後・近縁の障害と鑑別

【要約】
【2.疫学と予後】
1)疫学
・自閉症は、男に圧倒的に多く、男女比は4対1程度である。
・出現頻度は、1万人に対して3~4人とされていたが、最近の日本の研究では1000人に1人以上の割合で出現すると報告されている(石井ら、1983)。これは、日本人に特に多いという民族差の問題であるというよりは、診断基準の運用の問題である可能性が高い(とされている)。また、特定の社会階層から高い頻度で出現することもない(とされている)。
2)予後
・生命的予後については、寿命は一般人口より短いとは必ずしも言えず、青年期に入っても事故死が最も多い死因として報告されている。
・社会適応から見た予後は楽観できない。仕事に就いて、自分で独立して生きていかれる状態の転帰をとる者はだいたい20%以下である。わずかな助けでなんとか自立した生活を営める状態の者もまた20%以下である。これに対して、独立した生活ができず、施設に入ったり、人の助けを大幅に借りなければいけなかったりする者は半数から70%に及んでいる(若林、1980;中根1988)。
・最近になり、思春期・青年期の実態がわかってきた。成長に伴う変化と問題点については、第7節で扱う。

【近縁の障害との鑑別】
・行動が自閉症と似ていても、本態が明確に異なっているときには鑑別が大切である。(例:成人期の分裂病、ホスピタリズムはリハビリテーションの方法や薬物の使い方、治療に対する反応性などが異なっている)
1)広汎性発達障害とその近縁群
・レット症候群、崩壊性障害は、経過や予後が異なっているので分けることの意義が高い。(栗田ら、1991)他の障害については、あまり鑑別診断にこだわるべきではない。
⑴自閉的な子ども
・ICD-10の診断基準で見ると、発症年齢と3つの主要症状がきちっとそろっていなければ、自閉症とは診断できない。当然、境目の症状を持った子どもがいるわけで、その際、非定型的自閉症と診断される。この非定型的自閉症を「自閉的な子ども」と呼んだり、自閉症と非定型的自閉症を示す子どもを合わせて「自閉的な子ども」と呼ぶこともある。この二者は本態的な相違があるかどうかという問題が残る。実際には、治療や教育の面で大きく異ならないが、今後のために、どの範囲を示すかをはっきりさせておいたほうがよい。
⑵古典的症候群
・自閉症との異同が問題とされている症候群として、自閉的精神病質、共生幼児精神病、非定型児などがある。
・自閉的精神病質は1944年にウィーンのAspergerにより記載された。現在では、アスペルガー症候群と呼ばれ、認知能力の高い自閉症の軽症型と考えられている。ISD-10において広汎性発達障害の下位分類として定義されているが、症状が3歳過ぎてから現れたり、自閉症の診断基準を満たさない場合があり、自閉症との異同についてまだ議論がある。
・共生幼児精神病は1952年にMahlerにより記載され、母親と強い共生関係を示すことが特徴的であるとされたが、現在では、自閉症の経過型の1つとされている。
⑶レット症候群
・女子のみに起こる原因不明の疾患である。2歳前後に、手の目的的使用の喪失や手もみ様の常同運動などの神経症状と、知的機能の退行で始まる進行性の症候群である。発症初期にはほぼ80%に自閉症あるいは自閉傾向が認められるのでICD-10の最新案ではサブカテゴリーの1つとしてあげられているが、その後の経過や働きかけが異なるので、広汎性発達障害のカテゴリーに含めるのは適当ではないと思われる。
⑷折れ線型
・自閉症のうち、早い時期の経過において、発達に退行が認められる場合に、折れ線型自閉症と言われる。言語面の退行が強調されるが、治療的、教育的に非折れ線型自閉症と大きな違いがないので、現段階ではあえて分ける必然性はない。
・崩壊性障害もまた、折れ線型の経過をとり、ICD-10では広汎性発達遅滞の下位障害とされている。2歳までの精神発達がほぼ正常であり、その後急速に退行し、自閉症と類似の状態像を示す。脳器質性の障害も考えて医学的検査を十分に行うべきである。
2)発達障害という観点からの症候群
⑴精神遅滞
・精神遅滞は、知的能力の明確な遅れと適応行動の障害で定義される。
・知能テストで見ると、自閉症児の80%ぐらいに精神遅滞を認め、残りは正常の知能を示す。これに対して、圧倒的多数の精神遅滞児は自閉症状を示さない。このことから、自閉症と精神遅滞は異なったカテゴリーであると容易に言える。治療的には、自閉症においては精神遅滞の程度や認知の発達程度の決定が重要になる。精神遅滞の有無は、自閉症の原因論的な相違を示唆しているとも考えられている。
⑵微細脳機能不全(Minimal brain dysfunction:MBD)
・MBDの概念は、子どもの行動的異常は、脳機能の微細な偏奇により起こるとの病因論的観点から付けられた診断である。
・広い意味でMBDの概念を用いる人は、精神遅滞、学習障害、行動障害などの臨床症状を示し、明白な神経学的な症状や脳障害の所見がなければMBDと診断する。もう少し狭く使う人は、臨床症状をある程度に限定して用いている。この際には、MBDは、多動症候群(多動を伴う注意欠陥障害)と特異的発達障害に分けられる(太田、1980)。
・いずれにせよ、MBDは自閉症はおろか多くの子どもの臨床症候群を含みこむことになりかねず、分類的にも治療的にも極めて不適切な使い方である。
⑶多動症候群
・多動症候群は、多動と注意散漫と衝動性で定義される「行動的症候群」である。幼児期の自閉症には、ほとんどの場合多動症状が見られるが、多動症候群とは行動的に区別しておいたほうがよい。それは治療や予後が異なるからである(太田、1990)。
⑷特異性発達障害あるいは学習障害
・特異的発達障害は、言葉や言語、学科学習の能力および随意運動に関する認知機能に視点をおいて定義された発達障害である。したがって、自閉症の「行動的症候群」に対してこの障害は「認知的症候群」ということができる(太田、1991)
・ICD-10では、特異的発達障害は「会話および言語の特異的発達障害」と「学業能力の特異的発達障害」および「運動機能の特異的な発達障害」の3つに区分されている。
・「会話および言語の特異的発達障害」は、「特異的な会話構音障害」、「受容性言語障害」および「てんかん性後天性失語症」の4つに分けられている。
・「学業能力の特異的発達障害」は、「特異的読字障害」「特異的書字障害」「計算能力の特異的障害」の3つに分かれている。
・「運動機能の特異的な発達障害」は単独で構成されている。
・自閉症などの広汎性発達障害は、行動的症候群であるが、知的能力は不均衡であり、認知の特異的な障害がある。このため、診断の際に認知の次元に焦点をあてれば、自閉症と学習障害とは区別できなくなることがある。
・診断は治療や脳機能の特異性に従って発展するものであり、漠然とした概念への流し込みは科学の退行への道である。
・自閉症は行動で定義された症候群であり、特異的な認知や学習の障害を持っている。自閉症の認知面だけを取り出して、学習障害と漠然と括ることはできない。学習障害は単一の障害と考えられがちであるので、注意が必要である。学習障害は自閉症より年齢が高くなってから診断が可能になるので、混乱を避けるためにも、既往歴をきちんと把握し、自閉症の行動特徴の有無を検討することが大切である。その上で、自閉症を伴った学習障害と特定化しておけば、自閉症と学習障害との混乱を最小限にすることができよう。
3)病因論から見た近縁群
・自閉症の発見は、分裂病の発症をどのくらいまで若い年齢まで遡れるか、その場合どのような症状を示すかという歴史的関心の中でされたものである。したがって、発見当初より、自閉症は分裂病の最早期型であるという暗黙の了解が存在していた。また、精神分析学や力動精神医学の影響を受け、心因的障害とも考えられていた。自閉症と、分裂病や環境に対する反応である障害との相異を整理しておくことは、自閉症の病因を考える上で意味があろう。
⑴分裂病
・自閉症と(最早期型)分裂病には、いろいろな違いがあり、異なった疾患である。
・その相異についてRutter(1972)のまとめに従って簡単に述べる。第1は、主要症状が違う。第2は性差が異なり、分裂病は男と女が1対1であるのに、自閉症は4対1である。第3に、知的能力では自閉症では多くが遅滞しており(WISCやWAISなどの)知能検査では特有の不均衡さを示すが、分裂病ではこれらの所見は認めない。第4に、発症年齢は自閉症は3歳未満に発症し、分裂病の発症頻度は15歳くらいから急に高くなり始める。第5には、経過が違い、分裂病は良くなったり悪くなったりの経過をたどるが、自閉症ではこのようなことはない。第6に、分裂病では家族的に出現する傾向があるが、自閉症にはこの傾向はない。これらの点から、自閉症と分裂病は違った疾患だと考えざるを得ない。
⑵ホスピタリズムと被虐待症候群
・この2つの障害は、環境により引き起こされる心因性あるいは環境性の代表的な障害である。
・ホスピタリズム(社会的遮断)などの障害は、施設に入所などして、刺激が少なかったり、不適切な扱いを長期にわたって受けたときに起こる。その臨床症状は自閉症と違っているのみならず、一般的に早くに発見し、良好な環境に戻せばよく治療に反応し、一過性のものである。このように多くの点で自閉症とは違い、区別できる。
・被虐待症候群は、乳幼児期において、親に身体的、性的、精神的な虐待を、意図的に繰り返し行われたときに生ずる症候群である。一般には、自閉症の典型的な症状を示すことはなく、治療的にも自閉症と大きく異なる。
・なお、ICD-10の自閉症の診断基準のE項に鑑別を要する診断としてあげられている脱抑制型愛着障害はホスピタリズムに、反応性愛着障害は被虐待症候群にほぼ相当する障害である。
 
【感想】
 以上が、「疫学と予後」、「近縁の障害との鑑別」の内容である。
「疫学と予後」では、自閉症は男に圧倒的に多く、男女比は4対1であること、また予後は楽観できず、将来、社会的に自立できるのは20%以下、支援されてなんとか自立できるのも20%以下であり、半数から70%は、独立した生活ができず施設に入ったり、大幅な援助が必要である、と述べられている。
 「近縁の障害との鑑別」では、自閉症と精神遅滞、レット症候群、崩壊性障害、多動性障害、学習障害、ホスピタリズム、被虐待症候群との「違い」がわかりやすく解説されており、たいへん参考になった。要するに、自閉症とは、「診断基準」(3歳以前の発症、3つの臨床症状を「完全に」満たしていることが条件になる。たとえ、臨床症状が類似していても、その条件が満たされていなければ、自閉症とは診断できないということであろう。しかし、その治療や教育の方針が「同じ」であれば、「診断基準」に拘ることは意味がない。まして、「診断基準」は変動(動揺)しており、最近では「広汎性発達障害」に変わって「自閉症スペクトラム」という用語が使われ始めた。「近縁群」も整理され、レット症候群、崩壊性障害は除外されたと聞く。専門家の間では「まず診断基準ありき」といった風潮があるように思われるが、そのことが、はたして「予後が楽観できない」現状を打破することにつながるのだろうか。
 また、著者は「自閉症が心因的もしくは環境的な要因である」ことを明確に否定しているが、その論拠としてRutter(1972)のまとめを引用したとすれば、肯けない。Rutterは、そこで「自閉症」と「分裂病」の違いを述べたに過ぎないからである。さらにまた、もともと臨床症状が異なるホスピタリズムや被虐待症候群が、環境により引き起こされる心因性・環境性の障害であることを述べたところで、「自閉症はホスピタリズムや被虐待症候群ではない。したがって、その原因は異なる」ということ以上の説得力はない、と私は思った。しかし、次節ではいよいよ「自閉症の認知障害」について述べられる。期待をもって、読み進めたい。(2014.1.4)

自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《5》第1章 自閉症の概念と本態(3)自閉症の認知障害・自閉症の生物学的障害

【要約】
【4.自閉症の認知障害】
・自閉症の特徴的な行動(3つの必須症状)は、親の性格や養育態度により強まったり弱まったりすることもある。また、現代文明の“非人間的な”環境にも影響を受ける。それらこそが自閉症の原因とまことしやかに述べ立てる人もいる。
・確かに、自閉症児の行動がこれらの環境因に影響を受けるとはいえ、それらの要因は自閉症という障害をつくりあげる原因ではない。このことは、この間の研究や臨床経験が明らかにした重要な進歩であった。
・それでは、自閉症の原因は何だろうか。特徴的な3つの必須の行動の背後にどのような精神機能の障害があり、どのような脳の機能障害が対応しているのだろうか。このように、より本質的なものを探ることが本態研究である。この節では、認知機能のレベルにおける障害の本態について、発達的観点から述べる。
1)認知障害についての理解の変遷
⑴初期の認知障害の理解
・自閉症はKanner(1943)の報告した当初は、部分的に高い認知能力を示すことから、知的能力は障害されていないと考えられていた。その知的能力(認知能力)が発揮されないのは、自閉という症状のためであると解釈されていた。このため、知能テストをはじめとする認知テストは、能力を正しく測っていないとして、その結果については無視されてきた。
・1960年代になり、認知科学の影響も受けて、自閉症の認知機能に対する研究が始まった。それは、まず標準知能テストについて行われたが、潜在的知能の良好さという仮定に疑問が向けられるようになった。知能テストをはじめとする認知テストは自閉症においても十分な妥当性があることが明確になってきた。
⑵知能テストによる所見とその意義
・第1には、自閉症児が課題を拒否するのは情緒障害のためではなく課題ができないためであり、適切な課題を選択すると非常によく応じるということである。
・第2には、自閉症やそれに伴う症状の変化にかかわらず、長期的に見た自閉症児の知能指数(IQ)は安定しており、再現性は保たれていることである。
・第3には、言語能力の評価を含む標準的な知能テストで求めたIQを見ると、50以下が過半数以上を占め、境界知能を含めた正常範囲は10~20%程度に分布する。
・第4には、自閉症児の認知発達は不均衡であり特有なパターンを持っていることである。この特有な認知のパターンは世界の報告ともかなりの類似性をもっている。文化や人種の違いを越えて類似した認知のパターンを持つことは、自閉症における脳機能の共通の障害を表していると考えられる。
・第5には、5~6歳のときに総合的な知能テストで得られたIQは、予後を予測する重要な因子である。特定の部分的に高い能力は将来の適応とはあまり関係しないことである。
・これらの心理学的テストの結果の示すことは、自閉症では“自閉”という情緒障害のために、本来正常である認知能力が現れてこないとする仮定が崩れたことである。それと同時に、この結果は、自閉症の認知障害に対して、神経学的な方法により接近することが可能であることを示している。
・このような心理学的研究を土台に、我々は自閉症の認知発達の障害について研究し、Stageによる発達段階分けを工夫した。Stage分けの詳細については、別章で述べてあるので、この節では、以下に、ヒトの認知発達の概略を示し、Stage分けの理論に限って説明する。
2)表象機能と認知機能
・一般の子どもの表象機能と認知発達に関する理論が、自閉症児の認知発達とその障害を解明するための方法論を提供することになる。このような観点からの、自閉症の認知を発達的に解明するための発達段階の具体化が「Stage分け」である。
⑴表象機能とは
・人間は環境から入ってくる情報に対して、即、反応するわけではなく、頭の中で、その情報の意味を理解し、過去の経験と照合し、加工し、どのように自分がふるまおうかと計画する。このような一連の機能を表象機能と呼ぶことにする。つまり、表象機能とは、心の世界ということになる。しかし、表象機能という言葉を使うのは、精神の機能を脳機能との関連で捉えようとする方法論を明確にしようとする意図があるからである。
⑵認知と情意の関係
・表象機能としての心の構成要素としては、認知と情緒・意欲(情意)の2つの側面がある。昔から、精神機能を知、情、意と分けているが、認知とはその“知”にあたり物を知ることであり、情意は“情”と“意”に相当し、物を感じること、物事に対する意欲をさす。今までは、情意と認知が非常に対立して考えられてきたが、表象の世界では、認知があると同時に情意がある。情意は、知ろうとする意欲であるし、行動しようとするエネルギーである。これに対して、認知は何かに到達するための方向を示す能力である。何かをしたいという気持ちがあっても、認知による方向性がないと、行動はまとまらない。また、方向性があっても、やる意欲がなければ、その行動は達成できない。この2つは、密接した分けがたい関係を持っており、自閉症でもまったく同様のことが言える。
・認知と情緒はヒトの発達の過程で、並行して発達していく。自閉症の表象機能の発達を、認知機能の発達の観点から接近するのは、自閉症の本態にせまる上で、意義があることであろう。
3)認知発達とその節目
・ヒトの認知発達には、節目があり、その節目にさしかかったときに発達のみかけの退行や異常行動の増悪がみられたりする。自閉症などの発達障害児では、その節目がときに越えがたい壁として立ちはだかる。
・そこで、その節目を中心にして。ヒトの認知発達について、Piaget(1966,1970)の理論を中心に、述べてみよう。
・発達の時期は、生まれてから順に、無シンボル期(0歳0か月~1歳6か月)とシンボル期(1歳6か月以降)に大きく分けられる。Piagetによれば無シンボル期は、第1期から第6期までに分けられ、シンボル期は前操作期から操作期へと移っていく。前操作期は前概念的思考期と直感的思考期とに分かれており、操作期は具体的操作期と形式的操作期に分かれている。各々の移り変わりの時期が、ここでいう節目の時期に相当する。
⑴無シンボル期
・ヒトは生まれながらにして、言語を中心とするシンボル機能を持っているわけではない。ヒトは社会の中に生まれ、その中でシンボル機能を獲得していく。ヒトの子どは生後間もなくより、子どもなりに外界を認知し表象する。この時期を、無シンボル期と呼んでいる。認知機能のおよぶ範囲が直接感覚・運動が及ぶ範囲に限られていることから、感覚運動期とも言われている。この時期の知能は、直接実行の試行錯誤によるために実行的知能期とも呼ばれている。
・無シンボル期においては、因果性の認識、物の永続性の獲得および手段と目的の分化が、次々と急激に起こってくる時期がある。Piagetは、この急激な変化の過程の中で、感覚運動期の「知能の誕生」が起こるとしている。この時点が無シンボル期の質的転換期である。この移行期を「手段と目的の分化の節目」と呼ぶことができよう。
⑵シンボル表象期へ移行
・指さし行動の出現は、無シンボル期に終わりを告げる行動である。シンボル期への移行は、Piagetによれば、遅延模倣、象徴あそび、描画、イメージおよび言語の出現によって知ることができるとされている。この無シンボル期からシンボル期へ移行することにより、子どもは人生のうちで最大の発見をする。つまり、言葉があり、言葉によって物に名前が付けられることを発見する。この移行期は「名前の発見の節目」と呼ぶことができる。この時期は、年齢的には1歳半から2歳にあたる。やがて、前操作期としての前概念的思考期に突入することになる。
⑶前操作期
・この時期は、前概念思考期と直感的思考期に分けられる。前概念思考期では、シンボル活動がはっきりしとてくる。言葉で見れば、表出が増えてくるとともに、意味把握は、状況から徐々に離れて見えないものを思い浮かべることができるようになる。言語による概念化の基礎が出来上がるとともに、象徴遊びが飛躍的に発展する。          ・直感的思考期に入ると、子どもの概念化は進み、物と物との関連づけや分類の心的操作が活発に行われる。思考は直感的であり、見かけに強く影響を受ける。
・前概念思考期では、基本的な概念の形成が行われ始め、直感的思考期では、子どもにおいて概念を使った思考ができ始める。前概念思考期から直感的思考期の移行期にも節目がある。この時期を「概念の形成の節目」と呼んでおこう。そして、小学校1,2年頃の具体的操作期になると、思考は質的に異なった性質を持つことになる。
⑷操作期
・操作期の特徴は、理論的操作が可能な時期である。この時期の初期は具体的操作期と言われ、小学校の2,3年から始まるとされる。小学校の終わり頃から形式的操作期が始まり、思春期を通り青年の思考として開花する。
4)自閉症児におけるStage分け
・このような一般の子どもの認知発達の段階は、そのままでは自閉症児に適用できない。
・そこで「手段と目的の分化」(無シンボル期)「名前の発見」(シンボル表象期)「概念形成」(前操作期)の節目を参考にして、自閉症児の認知を測る「発達段階」(太田のStage)の基準を工夫した(太田、1983)
・(感覚運動期から表象的思考期(シンボル表象期)への移行については連続的であるか。飛躍的に到達するかについて議論があり、まだ結論が出ていないので)発達段階は、無シンボル期、移行期、明確なシンボル表象期の3つに大きく分けることにした。最終的に設定したStage分けは以下のとおりである。
・StageⅠ:シンボル表象能力が認められない段階。非言語性の時期であり、感覚運動期である。
・StageⅡ:不連続点が想定される移行期
・StageⅢ:前概念期
*Ⅲ-1:シンボル表象機能が明確に認められ始めた段階
*Ⅲ-2:概念形成の芽生えの段階
・StageⅣ:直感的的思考の時期
・このStageの概念は、自閉症児の重症度を測っているものでもないし、全般的な能力を代表するものでもない。ただ、自閉症の子どもが物事に対処するときの思考の方略の基本は何だろうかという立場から考えたものである。
5)特異な認知の障害を求めて
・ここでは、自閉症の認知障害の研究における問題点と方向性について述べてみよう。
⑴認知と情緒
・現在では、自閉症には認知機能と情意機能ともに障害があると考えられている。
・自閉症における認知と情意の関係は、未熟な(偏奇した)認知機能に対して、未熟な(偏奇した)情意機能が相応していると考えられる。つまり、自閉症において認知障害と情意障害をどちらか一方が他方の原因であり結果であると説明するのではなく、この2つの機能は互いに相補的であり、並行関係を有しているという認識がまず必要であろう。この2つの過程のダイナミクスを検討していく必要があると考えられる。
⑵認知発達からの接近
・発達的に見ると、自閉症の認知障害は、年齢とともに変化する。そして、認知の構造は、一人ひとり異なった発達をし、その過程で修復されたり、ますます不均衡が目立ってきたりする。この発達の過程において、自閉症を特徴づける認知の構造の異常を探求することが課題となる。
・年齢が低かったり、発達が低かったりする場合の特徴としては、感覚運動知能(知覚レベルでの知能)はほとんど障害を受けず、シンボル機能のすべてが出現してこない構造的障害があげられる。
・比較的高機能の自閉症児には、特徴的な認知の構造的障害がある。この障害は、概念形成の節目で、越えがたい困難にぶつかっているように思われる。高機能の自閉症児の多くは、失行様症状としての部分模倣が認められる(Ohta,1987)。この構造的障害はLuriaの「意味失語症」(1970,1976)に相当するものであろう。またこれは「意味論的語用論的障害」にも類似しているように思われる(Rapin,1982:Brook,1992)。
・相手の気持ちや感情を認知する過程の障害について、心の理論(theory of mind:相手の立場に立って認識することについての機構)の研究がこれにあたる(Frith,1989)。彼らの実験は、言語の理解の水準を見ているのか、心の理解を見ているのかわからないなど、多義的であるので、自閉症児に、この意味の心の理論についての認知障害があるとするには、飛躍があるように感じる。
⑶孤立的に高い認知能力
・シンボル機能に関係する概念形成の能力は極めて発達が遅滞するが、機械的な記憶能力あるいは視覚運動系の能力が孤立的に高いことがある。(カレンダーや鉄道の時刻表の丸暗記など)この不均衡さが自閉症の特有の思考の不可解さを生んでいると思われる。まわりに対する興味が限られているために、繰り返し、繰り返し記憶のリハーサルを行うため発揮されるのだと説明されている。この能力はidiot savant(白痴の天才)との関係で興味が引かれており、自閉症の認知障害の特異性を明らかにするための鍵になるかもしれない。(Treffert,1988)。
【5.自閉症の生物学的障害】
・ここでは、自閉症において、なぜ、中枢神経系の障害が想定されるかを考えてみる。
1)中枢神経系の障害の存在
・自閉症においては、臨床的脳波検査を丹念に行うと、かなり高率に脳波異常が見出される。その脳波異常は、多くは発作性異常であるのが特徴的である。また、てんかん発作が高い頻度で出現する。一般には、幼児期に起こることが圧倒的に多いが、自閉症では、前思春期、思春期になってからもかなりの頻度で出現してくるという特徴がある。脳波異常、てんかん発作は、ともに知能指数(IQ)あるいは発達指数(DQ)の低い群に有意に高い頻度で出現する。これは、自閉症における生物学的障害の関与を強く示唆する所見である(清水ら、1985)。
・これに対して、CTスキャン、MRIなどの検査では、粗大な構造的な変化は認められない場合が多いのも1つの特徴である。最近になり、小脳の異常がMRIで認められることがあり、議論を呼んでいる。
2)自閉症になりやすい疾患
・フェニールケトン尿症、先天的風疹症、点頭てんかんは、自閉症になりやすい疾患である。
・広汎性発達障害は1000人に2人未満しか起こっていないが、先天的風疹症では7%、点頭てんかんでは13%ぐらいが自閉症と診断できる。
・これらの所見も、自閉症において中枢神経系の障害の存在を示す根拠を与えており、自閉症の病因を追究する手がかりとして注目される。
3)遺伝的研究
・自閉症という疾患そのものの遺伝は考えられない。
4)生物学的障害の意義
・生理学、生化学の分野などにわたっても、自閉症の中枢神経系の障害、生物学的障害についての研究が行われており、自閉症において脳障害が存在していることを、ほとんど確実に示しているが、脳のどこに、どんなシステムに、どのような障害があるのかは明らかにしていない。
・もし、自閉症の障害の本態が(生物学的に)解明されれば、もっと明確な診断ができることになろう。

【感想】
これまでの著者の論脈を、私なりに整理すると以下の通りである。
1.自閉症児の特徴的行動は親の性格や養育態度により強まったり弱まったりすることもあり、現代文明社会の“非人間的”な環境にも影響を受けるが、それらの要因は自閉症という障害をつくりあげる原因ではない、ということがこれまでの研究や臨床経験により明らかになってきた。
2.自閉症児は、知能テストの適切な課題を選択すると、非常によく応じる。その結果、IQ50以下が過半数以上を占め、境界知能を含めた正常範囲は10~20%程度に分布する、ということがわかってきた。(自閉症では“自閉”という情緒障害のために、本来正常である認知能力が現れてこないとする仮定が崩れた)つまり、自閉症児には認知障害がある。
3.その認知障害に対して、神経心理学的な方法により接近することが可能である。
4.我々は、自閉症の認知発達の障害について研究し、Stageによる発達段階分けを工夫した。StageⅠは無シンボル期(およそ1歳半まで)であり、非言語性の感覚運動期である。StageⅡは移行期である。StageⅢ-1はシンボル表象機能が認められ始めた段階である。StageⅢ-2は概念形成の芽生えの段階である。StageⅣは直感的思考の時期である。このStageの概念は、自閉症の子どもが物事に対処するときの思考の方略の基本は何だろうかという立場から考えたものである。
5.自閉症には認知機能と情緒機能ともに障害があると考えられている。認知の発達段階と情意の発達水準に“並行性”があるという発達論の観点から見れば、自閉症における認知と情意の関係は、未熟な認知機能に対して未熟な情意機能が相応していると考えられる。
つまり、自閉症において認知障害と情意障害をどちらか一方が他方の原因であり結果であると説明するのではなく、この2つの機能は互いに相補的であり、並行関係を有しているという認識がまず必要であろう。
6.発達的に見ると、自閉症の認知障害は、発達の遅滞と障害として現れ、年齢とともに変化する。認知の構造は発達の過程の中で修復されたり、ますます不均衡が目立ってきたりする。この発達の過程において、自閉症を特徴づける認知の構造の異常を探求することが課題となる。課題①年齢が低かったり、発達が低かったりする場合の特徴としては、感覚運動知能(知覚レベルでの知能)はほとんど障害を受けず、シンボル機能のすべてが出現してこない。②高機能の自閉症児は、概念形成の節目で、越えがたい困難にぶつかっているように思われる。
7.孤立的に高い能力は、自閉症の認知障害の特異性を明らかにするための鍵になるかもしれない。
8.自閉症に、かなり高率で見出される脳波異常は、生物学的関与を強く示唆する所見である。最近、小脳の異常がMRIで認められることがあり、議論を呼んでいる。
9.フェニールケトン尿症、先天的風疹症、点頭てんかんは、自閉症、広汎性発達障害になりやすい疾患である。
10.自閉症という疾患そのものの遺伝は考えられない。
11.自閉症において脳障害が存在していることはほとんど確実だが、脳のどこに、どんなシステムに、どのような障害があるのかは明らかになっていない。
 そこで、私が疑問に思う点は以下の通りである。
1.自閉症の行動特徴が(親や現代文明社会)の影響を受けて強まったり弱まったりするとあるが、どんな時に強まり、どんな時に弱まるか、という所見はあるか。(その情報をどれだけ集めているか)
2.自閉症の過半数以上がIQ50以下、境界知能を含めた正常範囲は10~20%程度に分布する、とあるが、その10~20%が自閉症になった原因は何か。自閉症の過半数以上が中度精神遅滞以下(認知障害?)だとして、その認知障害と自閉症の行動特徴にどのような相互関連性があるか。中度精神遅滞(者)のすべてが自閉症にならないのはなぜか。
3.著者は、自閉症の認知障害に対して、神経心理学的な方法により接近、認知発達の障害について研究し、Stage分けを行ったが、それは「自閉症の子どもが物事に対処するときの思考の方略の基本」を明らかにするためとされている。はたして、子どもは(自閉症に限らず)、思考の方略だけで物事に対処するだろうか。情意で対処することもまた自明であろう。だとすれば、思考の方略を情意に優先して「とりたてた」理由は何だろうか。
4.「自閉症には認知機能と情緒機能ともに障害があると考えられている。(略)自閉症において認知障害と情意障害をどちらか一方が他方の原因であり結果であると説明するのではなく、この2つの機能は互いに相補的であり、並行関係を有しているという認識がまず必要であろう」と述べられているのに、《自閉症は情緒障害ではない》と断定する理由は何か。自閉症が環境要因による情緒障害でないとすれば、自閉症の認知障害「自体」が情意障害を引き起こす原因として考えられないか。「この2つの機能は相補的であり、並行関係を有しているという認識」から導き出される治療法とはどのようなものか。
5.本書のタイトルは「自閉症治療の到達点」だが、その治療とは「自閉症の『認知障害』」だけを対象にしたものであったのだろうか。
 私は、第Ⅰ章1節「自閉症の定義と診断」の後で以下のような疑問を述べた。「自閉症とは「脳の機能障害が強く推測される発達障害であり」「①相互的社会交渉の質的障害、②言語と非言語性コミュニケーションの質的障害、③活動と興味の範囲の著しい限局性」という特徴的な3つの症状で定義される行動的症候群である、ということであろう。では、具体的に脳のどこの部位の、どんな機能が障害されて①~③のような症状が現れるのであろうか」。その回答が、5節「自閉症の生物学的障害」で以下のように述べられていたので付記する。「生理学、生化学の分野などにわたっても、自閉症の中枢神経系の障害、生物学的障害についての研究が行われており、自閉症において脳障害が存在していることを、ほとんど確実に示しているが、脳のどこに、どんなシステムに、どのような障害があるのかは明らかにしていない」。(2014.1.6)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」・検討・第Ⅰ章・《1》

*第Ⅰ章の以下の部分は、自閉症が「認知障害」であることの論拠が述べられていると思われるので、要約しながら逐条的に検討を加えてみたい。

《要約》
【4.自閉症の認知障害】
・自閉症の特徴的な行動(3つの必須症状)は、親の性格や養育態度により強まったり弱まったりすることもある。また、現代文明の“非人間的な”環境にも影響を受ける。それらこそが自閉症の原因とまことしやかに述べ立てる人もいる。
・確かに、自閉症児の行動がこれらの環境因に影響を受けるとはいえ、それらの要因は自閉症という障害をつくりあげる原因ではない。このことは、この間の研究や臨床経験が明らかにした重要な進歩であった。
・それでは、自閉症の原因は何だろうか。特徴的な3つの必須の行動の背後にどのような精神機能の障害があり、どのような脳の機能障害が対応しているのだろうか。このように、より本質的なものを探ることが本態研究である。この節では、認知機能のレベルにおける障害の本態について、発達的観点から述べる。

《検討》
 自閉症の原因は、今のところ誰にもわからない、というのが現状である。環境要因かもしれない。本人の「脳の機能障害」かもしれない。しかし、著者らは「それら(環境)の要因は自閉症という障害をつくりあげる原因ではない」と断定している。その根拠は何だろうか。「この間の研究や臨床経験が明らかにした」という説明では不十分である。同じ親に育てられた兄弟の一方は自閉症になり、他方は自閉症にならなかったという事例があるからだろうか。それは「同じ親が同じ環境の下で同じ育て方をする」ことを前提としている点で無理がある、と私は思う。また兄弟が一卵性双生児の場合、一方が自閉症になり、他方がならなかったという事例がある。「同じ親が同じ環境の下で同じ育て方」をしたかもしれない。確かに一方の「脳の機能障害」が疑われるが、一卵性双生児であるならば他方にも「脳の機能障害」が疑われることにはならないか・・・?、といったことから、自閉症の原因は未だに特定できない。著者らは「確かに、自閉症児の行動がこれらの環境因に影響を受けるとはいえ」と述べているのだから、自閉症児のどのような行動が、どのような環境の影響を受けるか、についても追求するべきである。環境よりも脳(精神機能)の方が「より本質的なもの」だと判断する基準は何か。「発達的観点」だろうか。発達が環境とかかわりなく、環境を無視して行われるはずもない。「環境とのかかわり」こそが発達の原点であることは(「発達的観点」の)イロハである。
 したがって、ここで「それら(環境)の要因は自閉症という障害をつくりあげる原因ではない」と断定することは、早計である。確かに「脳の機能障害」かもしれない。しかし、その「かもしれない」が「おそらくそうだろう」になり「きっとそうだ」「間違いない」と《思い込み》、「みんなそう思っている」という《決めてかかり》になれば、論理とは言えない、と私は思った。
(2016.11.22)



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「自閉症治療の到達点」・検討・第Ⅰ章・《2》

《要約》
1)認知障害についての理解の変遷
⑴初期の認知障害の理解
・自閉症はKanner(1943)の報告した当初は、部分的に高い認知能力を示すことから、知的能力は障害されていないと考えられていた。その知的能力(認知能力)が発揮されないのは、自閉という症状のためであると解釈されていた。このため、知能テストをはじめとする認知テストは、能力を正しく測っていないとして、その結果については無視されてきた。
・1960年代になり、認知科学の影響も受けて、自閉症の認知機能に対する研究が始まった。それは、まず標準知能テストについて行われたが、潜在的知能の良好さという仮定に疑問が向けられるようになった。知能テストをはじめとする認知テストは自閉症においても十分な妥当性があることが明確になってきた。
⑵知能テストによる所見とその意義
・第1には、自閉症児が課題を拒否するのは情緒障害のためではなく課題ができないためであり、適切な課題を選択すると非常によく応じるということである。
・第2には、自閉症やそれに伴う症状の変化にかかわらず、長期的に見た自閉症児の知能指数(IQ)は安定しており、再現性は保たれていることである。
・第3には、言語能力の評価を含む標準的な知能テストで求めたIQを見ると、50以下が過半数以上を占め、境界知能を含めた正常範囲は10~20%程度に分布する。
・第4には、自閉症児の認知発達は不均衡であり特有なパターンを持っていることである。この特有な認知のパターンは世界の報告ともかなりの類似性をもっている。文化や人種の違いを越えて類似した認知のパターンを持つことは、自閉症における脳機能の共通の障害を表していると考えられる。
・第5には、5~6歳のときに総合的な知能テストで得られたIQは、予後を予測する重要な因子である。特定の部分的に高い能力は将来の適応とはあまり関係しないことである。
・これらの心理学的テストの結果の示すことは、自閉症では“自閉”という情緒障害のために、本来正常である認知能力が現れてこないとする仮定が崩れたことである。それと同時に、この結果は、自閉症の認知障害に対して、神経学的な方法により接近することが可能であることを示している。
・このような心理学的研究を土台に、我々は自閉症の認知発達の障害について研究し、Stageによる発達段階分けを工夫した。Stage分けの詳細については、別章で述べてあるので、この節では、以下に、ヒトの認知発達の概略を示し、Stage分けの理論に限って説明する。

《検討》
 ここでは、1943年以降、自閉症の「知的能力は障害されていないと考えられていた」が1960年代に入って、知能テストをはじめとする認知テストが可能になり、①自閉症が課題を拒否するのは情緒障害のためではなく、課題ができないためであること、②自閉症児の知能指数は安定しており、再現性は保たれていること、③IQは50以下が過半数を占め、正常範囲は10~20%であること、④自閉症児の認知発達は不均衡であり、特有(世界共通)のパターンをもっていることから、脳機能の共通の障害を表していること、⑤5~6歳 のときに総合的な知能テストで得られたIQは予後を予測する重要な因子であり、特定の高い能力は将来の適応とはあまり関係しないこと、が明らかになったと述べられている。
 要するに、自閉症児に心理学的テストを実施することが可能になり、その結果「認知発達の障害」があることがわかった、ということにすぎない。IQ50以下が過半数だったが正常範囲も10~20%存在する。著者らはIQ50以下に注目しているようだが、正常範囲についてはどのような見解をもっているのだろうか。すべての自閉症児・者に「認知障害」があるということでなければ、「自閉症では“自閉”という情緒障害のために、本来正常である認知能力が現れてこないとする仮定が崩れた」と断定することはできない、と私は思う。
 著者らは自閉症を以下のように定義している。(第1章・1「自閉症の定義と診断」)

・自閉症は、通常3歳くらいまでに起こってきて、3つの特徴的な症状で定義される障害である。①相互的社会交渉の質的障害、②言語と非言語性コミュニケーションの質的障害、③活動と興味の範囲の著しい限局性である。この3つの特徴的な必須症状は行動異常として現れるために、自閉症はそれらの行動で定義される行動的症候群である。
・この症状は、年齢により変化していく。ときには、対人関係の障害を表す自閉症状ですら、軽快することがある。このため、自閉症は発達障害とされている。

 3つの特徴的な症状の要因が「認知発達の障害」だと断定する根拠は何か。著者らの「心理学的テスト」が①相互的社会交渉、②言語と非言語性コミュニケーションを前提として行われることは言うまでもない。そこに「質的障害」があるとすれば、「本来正常である認知能力が現れてこない」のは当然である。知能テストをはじめとする心理検査は、特定の環境(場所、検査者)下において実施される限り、時間、空間、対人からの影響を受ける。その影響を考慮せずに、「心理学的テスト」の結果だけを見て判断することには肯けない。そもそも「心理学的テスト」は人為的なものに過ぎず、本質のすべてを明らかにはできないからである。
 まして「この症状は、年齢により変化していく。ときには、対人関係の障害を表す自閉症状ですら、軽快することがある」という見解に至っては無責任きわまる。自閉症児・者、家族たちが最も望んでいることは、まさにその「軽快する」という一点であり、どうすれば軽快(治癒)するのか、その方法を明らかにしてもらいたいはずである。《ときには》といった、偶然性に依存するのではなく《どんなときに軽快するのか》を明確に説明しなければならない。しかし、自閉症の要因が本人の「認知発達の障害」であると断定している限り、環境からの影響は度外視され続け、いつまでたっても無理な話であろう、と私は思う。
(2016.11.26)



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「自閉症治療の到達点」・検討・第Ⅰ章・《3》

《要約》
2)表象機能と認知機能
・一般の子どもの表象機能と認知発達に関する理論が、自閉症児の認知発達とその障害を解明するための方法論を提供することになる。このような観点からの、自閉症の認知を発達的に解明するための発達段階の具体化が「Stage分け」である。
⑴表象機能とは
・人間は環境から入ってくる情報に対して、即、反応するわけではなく、頭の中で、その情報の意味を理解し、過去の経験と照合し、加工し、どのように自分がふるまおうかと計画する。このような一連の機能を表象機能と呼ぶことにする。つまり、表象機能とは、心の世界ということになる。しかし、表象機能という言葉を使うのは、精神の機能を脳機能との関連で捉えようとする方法論を明確にしようとする意図があるからである。
⑵認知と情意の関係
・表象機能としての心の構成要素としては、認知と情緒・意欲(情意)の2つの側面がある。昔から、精神機能を知、情、意と分けているが、認知とはその“知”にあたり物を知ることであり、情意は“情”と“意”に相当し、物を感じること、物事に対する意欲をさす。今までは、情意と認知が非常に対立して考えられてきたが、表象の世界では、認知があると同時に情意がある。情意は、知ろうとする意欲であるし、行動しようとするエネルギーである。これに対して、認知は何かに到達するための方向を示す能力である。何かをしたいという気持ちがあっても、認知による方向性がないと、行動はまとまらない。また、方向性があっても、やる意欲がなければ、その行動は達成できない。この2つは、密接した分けがたい関係を持っており、自閉症でもまったく同様のことが言える。
・認知と情緒はヒトの発達の過程で、並行して発達していく。自閉症の表象機能の発達を、認知機能の発達の観点から接近するのは、自閉症の本態にせまる上で、意義があることであろう。

《検討》
 ここでは、人間の表象機能について以下のように述べられている。
 
表象機能とは「環境から入ってくる情報を、頭の中でその意味を理解し、過去の経験と照合し、加工し、どのように自分がふるまおうか計画する、その一連の機能のこと」(心の世界のこと)である。表象機能(心の世界)の構成要素には認知と情緒・意欲(情意)の2つの側面がある。認知とは物を知ることであり、情意は物を感じること、物事に対する意欲をさす。表象の世界では認知があると同時に情意がある。情意は、知ろうとする意欲であるし、行動しようとするエネルギーである。これに対して、認知は何かに到達するための方向を示す能力である。何かをしたいという気持ちがあっても、認知による方向性がないと、行動はまとまらない。また、方向性があっても、やる意欲がなければ、その行動は達成できない。この2つは、密接した分けがたい関係を持っており、自閉症でもまったく同様のことが言える。。 
 
 ここまでの内容に異論はない。著者らは認知と情意は「対立して考えるものではない」ことを強調しているが、大切なことは「この2つは密接した分けがたい関係をもっており」というとき、その《相互関連性》を明らかにすることである。認知があると《同時に》情意があるというだけでは、何もわからない。その《相互関連性》を曖昧にしたまま、著者らは、認知発達の側面だけに注目していくのである。以下の記述はその証しである。 

《要約》
3)認知発達とその節目
・ヒトの認知発達には、節目があり、その節目にさしかかったときに発達のみかけの退行や異常行動の増悪がみられたりする。自閉症などの発達障害児では、その節目がときに越えがたい壁として立ちはだかる。
・そこで、その節目を中心にして。ヒトの認知発達について、Piaget(1966,1970)の理論を中心に、述べてみよう。
・発達の時期は、生まれてから順に、無シンボル期(0歳0か月~1歳6か月)とシンボル期(1歳6か月以降)に大きく分けられる。Piagetによれば無シンボル期は、第1期から第6期までに分けられ、シンボル期は前操作期から操作期へと移っていく。前操作期は前概念的思考期と直感的思考期とに分かれており、操作期は具体的操作期と形式的操作期に分かれている。各々の移り変わりの時期が、ここでいう節目の時期に相当する。
⑴無シンボル期
・ヒトは生まれながらにして、言語を中心とするシンボル機能を持っているわけではない。ヒトは社会の中に生まれ、その中でシンボル機能を獲得していく。ヒトの子どは生後間もなくより、子どもなりに外界を認知し表象する。この時期を、無シンボル期と呼んでいる。認知機能のおよぶ範囲が直接感覚・運動が及ぶ範囲に限られていることから、感覚運動期とも言われている。この時期の知能は、直接実行の試行錯誤によるために実行的知能期とも呼ばれている。
・無シンボル期においては、因果性の認識、物の永続性の獲得および手段と目的の分化が、次々と急激に起こってくる時期がある。Piagetは、この急激な変化の過程の中で、感覚運動期の「知能の誕生」が起こるとしている。この時点が無シンボル期の質的転換期である。この移行期を「手段と目的の分化の節目」と呼ぶことができよう。

《検討》
「ヒトは生まれながらにして、言語を中心とするシンボル機能を持っているわけではない。ヒトは社会の中に生まれ、その中でシンボル機能を獲得していく。ヒトの子どは生後間もなくより、子どもなりに外界を認知し表象する。」と述べられているが、「ヒトは社会の中に生まれ、その中でシンボル機能を獲得していく」というとき、その社会とはどのようなものか、その中でどのような活動が行われたときシンボル機能を獲得していくことが可能になるか、ということについては触れられていない。「ヒトの子どもは、生後間もなくより、子どもなりに外界を認知し表象する」が、それは子ども単独では不可能な活動なのである。まさに「相互的社会的交渉」(親子のかかわり)の結果に他ならない、という事実を著者らは見落としているか、意図的に避けているように思われる。
 「認知と情意は密接な分けがたい関係を持っており、自閉症においても全く同様のことが言える」と言いながら、認知の側面だけを《分けて》注目していくのは何故か、私には理解できない。以下、ピアジェらの発達論の説明が延々と続き、それに基づい自閉症児の「ステージ分け」が示されることになる。

《要約》
⑵シンボル表象期へ移行
・指さし行動の出現は、無シンボル期に終わりを告げる行動である。シンボル期への移行は、Piagetによれば、遅延模倣、象徴あそび、描画、イメージおよび言語の出現によって知ることができるとされている。この無シンボル期からシンボル期へ移行することにより、子どもは人生のうちで最大の発見をする。つまり、言葉があり、言葉によって物に名前が付けられることを発見する。この移行期は「名前の発見の節目」と呼ぶことができる。この時期は、年齢的には1歳半から2歳にあたる。やがて、前操作期としての前概念的思考期に突入することになる。
⑶前操作期
・この時期は、前概念思考期と直感的思考期に分けられる。前概念思考期では、シンボル活動がはっきりしとてくる。言葉で見れば、表出が増えてくるとともに、意味把握は、状況から徐々に離れて見えないものを思い浮かべることができるようになる。言語による概念化の基礎が出来上がるとともに、象徴遊びが飛躍的に発展する。          ・直感的思考期に入ると、子どもの概念化は進み、物と物との関連づけや分類の心的操作が活発に行われる。思考は直感的であり、見かけに強く影響を受ける。
・前概念思考期では、基本的な概念の形成が行われ始め、直感的思考期では、子どもにおいて概念を使った思考ができ始める。前概念思考期から直感的思考期の移行期にも節目がある。この時期を「概念の形成の節目」と呼んでおこう。そして、小学校1,2年頃の具体的操作期になると、思考は質的に異なった性質を持つことになる。
⑷操作期
・操作期の特徴は、理論的操作が可能な時期である。この時期の初期は具体的操作期と言われ、小学校の2,3年から始まるとされる。小学校の終わり頃から形式的操作期が始まり、思春期を通り青年の思考として開花する。

4)自閉症児におけるStage分け
・このような一般の子どもの認知発達の段階は、そのままでは自閉症児に適用できない。
・そこで「手段と目的の分化」(無シンボル期)「名前の発見」(シンボル表象期)「概念形成」(前操作期)の節目を参考にして、自閉症児の認知を測る「発達段階」(太田のStage)の基準を工夫した(太田、1983)
・(感覚運動期から表象的思考期(シンボル表象期)への移行については連続的であるか。飛躍的に到達するかについて議論があり、まだ結論が出ていないので)発達段階は、無シンボル期、移行期、明確なシンボル表象期の3つに大きく分けることにした。最終的に設定したStage分けは以下のとおりである。
・StageⅠ:シンボル表象能力が認められない段階。非言語性の時期であり、感覚運動期である。
・StageⅡ:不連続点が想定される移行期
・StageⅢ:前概念期
*Ⅲ-1:シンボル表象機能が明確に認められ始めた段階
*Ⅲ-2:概念形成の芽生えの段階
・StageⅣ:直感的的思考の時期
・このStageの概念は、自閉症児の重症度を測っているものでもないし、全般的な能力を代表するものでもない。ただ、自閉症の子どもが物事に対処するときの思考の方略の基本は何だろうかという立場から考えたものである。

《検討》
 著者らが述べているように、このステージは「自閉症児の《認知》を測る『発達段階』の基準」に過ぎない。認知と情意が不可分の密接な関係にあるならば、《情意》の発達段階も示す必要があるのではないだろうか。その点について、著者らは以下のように述べている。

《要約》
5)特異な認知の障害を求めて
・ここでは、自閉症の認知障害の研究における問題点と方向性について述べてみよう。
⑴認知と情緒
・現在では、自閉症には認知機能と情意機能ともに障害があると考えられている。
・自閉症における認知と情意の関係は、未熟な(偏奇した)認知機能に対して、未熟な(偏奇した)情意機能が相応していると考えられる。つまり、自閉症において認知障害と情意障害をどちらか一方が他方の原因であり結果であると説明するのではなく、この2つの機能は互いに相補的であり、並行関係を有しているという認識がまず必要であろう。この2つの過程のダイナミクスを検討していく必要があると考えられる。

《検討》
 著者らは、「自閉症には認知機能と情意機能ともに障害がある」「未熟な認知機能に対して未熟な情意機能が相応している」と考えており「この2つの機能は互いに相補的であり、並行関係を有しているという認識がまず必要であろう」と述べているが、どのように相補的なのか、どのような並行関係なのかを明らかにしていない。要するに「まだわからない」から「2つの過程のダイナミクスを検討していく必要がある」ということなのだろう。だから、まず「認知発達からの接近」だけが試みられることとなった。以下は、その証しである。

《要約》
⑵認知発達からの接近
・発達的に見ると、自閉症の認知障害は、年齢とともに変化する。そして、認知の構造は、一人ひとり異なった発達をし、その過程で修復されたり、ますます不均衡が目立ってきたりする。この発達の過程において、自閉症を特徴づける認知の構造の異常を探求することが課題となる。
・年齢が低かったり、発達が低かったりする場合の特徴としては、感覚運動知能(知覚レベルでの知能)はほとんど障害を受けず、シンボル機能のすべてが出現してこない構造的障害があげられる。
・比較的高機能の自閉症児には、特徴的な認知の構造的障害がある。この障害は、概念形成の節目で、越えがたい困難にぶつかっているように思われる。高機能の自閉症児の多くは、失行様症状としての部分模倣が認められる(Ohta,1987)。この構造的障害はLuriaの「意味失語症」(1970,1976)に相当するものであろう。またこれは「意味論的語用論的障害」にも類似しているように思われる(Rapin,1982:Brook,1992)。
・相手の気持ちや感情を認知する過程の障害について、心の理論(theory of mind:相手の立場に立って認識することについての機構)の研究がこれにあたる(Frith,1989)。彼らの実験は、言語の理解の水準を見ているのか、心の理解を見ているのかわからないなど、多義的であるので、自閉症児に、この意味の心の理論についての認知障害があるとするには、飛躍があるように感じる。
⑶孤立的に高い認知能力
・シンボル機能に関係する概念形成の能力は極めて発達が遅滞するが、機械的な記憶能力あるいは視覚運動系の能力が孤立的に高いことがある。(カレンダーや鉄道の時刻表の丸暗記など)この不均衡さが自閉症の特有の思考の不可解さを生んでいると思われる。まわりに対する興味が限られているために、繰り返し、繰り返し記憶のリハーサルを行うため発揮されるのだと説明されている。この能力はidiot savant(白痴の天才)との関係で興味が引かれており、自閉症の認知障害の特異性を明らかにするための鍵になるかもしれない。(Treffert,1988)。

《検討》
 ここでは、自閉症児・者の認知機能には「構造的障害」があると指摘されているが、その内容(構造的障害とはどんな障害なのか、その本態)については言及されていない。要するに、彼らの欠点をあれこれと列挙しているに過ぎない。例えば、「感覚運動知能(知覚レベルでの知能)はほとんど障害を受けず、シンボル機能のすべてが出現してこない」とあるが、それは著者らが実施した「心理学的検査」の結果だけを見てそのように断定しているだけである。また「この障害は、概念形成の節目で、越えがたい困難にぶつかっているように思われる。高機能の自閉症児の多くは、失行様症状としての部分模倣が認められる(Ohta,1987)。この構造的障害はLuriaの「意味失語症」(1970,1976)に相当するものであろう。またこれは「意味論的語用論的障害」にも類似しているように思われる(Rapin,1982:Brook,1992)」という記述は、先行研究を紹介しているだけで、私にはどのような意味があるのか判然としなかった。さらに、「シンボル機能に関係する概念形成の能力は極めて発達が遅滞するが、機械的な記憶能力あるいは視覚運動系の能力が孤立的に高いことがある。(カレンダーや鉄道の時刻表の丸暗記など)この不均衡さが自閉症の特有の思考の不可解さを生んでいると思われる。まわりに対する興味が限られているために、繰り返し、繰り返し記憶のリハーサルを行うため発揮されるのだと説明されている。この能力はidiot savant(白痴の天才)との関係で興味が引かれており、自閉症の認知障害の特異性を明らかにするための鍵になるかもしれない。(Treffert,1988)」という記述に至っては、「孤立的に高い能力」を「自閉症の特有の思考の不可解さ」と決めつけ(表現は「思われる」と極めて曖昧にぼかしているが・・・)、しかもその要因を「まわりに対する興味が限られているために、繰り返し、繰り返し記憶のリハーサルを行うため発揮されるのだと説明されている」と他人事のように述べている。《説明されている》?、誰が説明しているのだろうか。無責任きわまる論述だと私は思う。
 さらに著者らは、自閉症の「生物学的障害」にも言及している。
 
《要約》
【5.自閉症の生物学的障害】
・ここでは、自閉症において、なぜ、中枢神経系の障害が想定されるかを考えてみる。
1)中枢神経系の障害の存在
・自閉症においては、臨床的脳波検査を丹念に行うと、かなり高率に脳波異常が見出される。その脳波異常は、多くは発作性異常であるのが特徴的である。また、てんかん発作が高い頻度で出現する。一般には、幼児期に起こることが圧倒的に多いが、自閉症では、前思春期、思春期になってからもかなりの頻度で出現してくるという特徴がある。脳波異常、てんかん発作は、ともに知能指数(IQ)あるいは発達指数(DQ)の低い群に有意に高い頻度で出現する。これは、自閉症における生物学的障害の関与を強く示唆する所見である(清水ら、1985)。
・これに対して、CTスキャン、MRIなどの検査では、粗大な構造的な変化は認められない場合が多いのも1つの特徴である。最近になり、小脳の異常がMRIで認められることがあり、議論を呼んでいる。
2)自閉症になりやすい疾患
・フェニールケトン尿症、先天的風疹症、点頭てんかんは、自閉症になりやすい疾患である。
・広汎性発達障害は1000人に2人未満しか起こっていないが、先天的風疹症では7%、点頭てんかんでは13%ぐらいが自閉症と診断できる。
・これらの所見も、自閉症において中枢神経系の障害の存在を示す根拠を与えており、自閉症の病因を追究する手がかりとして注目される。
3)遺伝的研究
・自閉症という疾患そのものの遺伝は考えられない。
4)生物学的障害の意義
・生理学、生化学の分野などにわたっても、自閉症の中枢神経系の障害、生物学的障害についての研究が行われており、自閉症において脳障害が存在していることを、ほとんど確実に示しているが、脳のどこに、どんなシステムに、どのような障害があるのかは明らかにしていない。
・もし、自閉症の障害の本態が(生物学的に)解明されれば、もっと明確な診断ができることになろう。

《検討》
 著者らが、自閉症にはかなり高い頻度で「脳波異常」(発作性異常)が認められ、「中枢神経系の障害」が存在するだろうと考えることは自由である。しかし「脳波異常、てんかん発作は、ともに知能指数(IQ)あるいは発達指数(DQ)の低い群に有意に高い頻度で出現する。これは、自閉症における生物学的障害の関与を強く示唆する所見である(清水ら、1985)」と言うだけでは、その論拠にはならない。まして「CTスキャン、MRIなどの検査では、粗大な構造的な変化は認められない場合が多いのも1つの特徴である。最近になり、小脳の異常がMRIで認められることがあり、議論を呼んでいる」ということであれば、自閉症における生物学的障害の関与は「認められない」と考えた方が妥当ではないだろうか。すべての自閉症児・者において、小脳の異常が(MRIで)認められなければ、生物学的障害の関与は認められないことは(科学の)イロハである。
 また「フェニールケトン尿症、先天的風疹症、点頭てんかんは、自閉症になりやすい疾患である」という所見から「広汎性発達障害は1000人に2人未満しか起こっていないが、先天的風疹症では7%、点頭てんかんでは13%ぐらいが自閉症と診断できる」という出現率だけで「自閉症において中枢神経系の障害の存在を示す根拠を与えており、自閉症の病因を追究する手がかりとして注目される」という結論に結びつけることも早計である。要するに、著者らの論述はほとんど「推測」を根拠にしているのであって、自閉症児・者に生物学的障害、中枢神経系の障害があることを一つも証明していないのである。そのことは著者ら自身が「生理学、生化学の分野などにわたっても、自閉症の中枢神経系の障害、生物学的障害についての研究が行われており、自閉症において脳障害が存在していることを、ほとんど確実に示しているが、脳のどこに、どんなシステムに、どのような障害があるのかは明らかにしていない」と述べていることからも明らかである。「脳のどこに、どんなシステムに、どのような障害があるのか明らかにしていない」研究なのに《ほとんど確実に示している》と断定することは早計である。
 私自身の結論を言えば、著者らのこれまでの論述は、「著者らが《自閉症において脳障害が存在してもらいたい》と思っている《願望》に過ぎない」ということである。(2016.11.27)



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「自閉症治療の到達点」精読・《6》第Ⅰ章 自閉症の概念と本態(4)自閉症の障害の今日的理解 

【要約】
【6.自閉症の障害の今日的理解】
1)自閉症の障害の連鎖
・自閉症の障害を整理すると次のようになろう。まず、脳に障害を起こす何らかの原因がある。いくつかの原因がからみ合って、ある特定の脳機能システムに障害を起こすことになる。そのために表象機能障害が起こり、それが一方では認知の障害、他方では情緒の障害として現れる。成長とともに行動という形でこの障害が現れてくる。つまり、自閉症的行動が外界との関連で形成され、内的世界と外的世界がフィードバックし合い、いろいろな行動の異常が強まったり弱まったりする。そして、これらのすべての次元に働いている内的発達が行動を変化させる力が生じ、このフィードバック系にいっそうの複雑さを付け加えている。
2)認知と情緒の関係
・自閉症においては、認知の障害もあるし、情緒の障害もある。シンボル機能のない感覚運動期に属する自閉症の子どもたちはより自閉的に見え、年長になったり認知発達の水準が高くなったりすると自閉性は減弱する。つまり、自閉症には、認知にも情緒にも障害があり、発達の時期によって認知と情緒のどちらの側面が前景に出るかが変わっていくと考えられる。
3)認知機能と脳機能
・自閉症の脳機能障害を研究するときには、認知機能の水準をある程度合わせた対象について、共通の障害を明らかにすることが必要であろう。シンボル群機能が出現していない群と明確に認められる群とは、異なった脳機能系の障害が想定される。一方、共通の脳機
能の障害を示す一群が明確になれば、自閉症の認知、情緒、行動障害とどのような関係があるかを明らかにすることが次の課題として提起される。

【感想】 
ここでは、「自閉症の障害」が《今日的理解》によって整理されているが、その内容(結果)は、わかったようでわからない。まず、①何らかの原因→②脳機能障害→③表象機能障害→{④認知障害⇔⑤情緒障害}→⑥行動障害(言語の障害・対人関係の障害・異常行動)という連鎖が示されているが、顕在化されている事実は⑥の行動障害だけである。これまでの研究により、②では「脳波異常」(発作性異常)が「かなり高率に」見出されているが、それだけでは(科学的な)「事実」とは認定できない。(最近になり、小脳の異常がMRIで認められることがあったが「議論を呼んでいる」に過ぎない)また、③と④も、人為的な「知能テスト」によって証明されているに過ぎない。自閉症の過半数以上が、「中度精神遅滞以下」であることを証明したところで、そのことが⑥に連鎖する根拠にはならないのではないだろうか。事実、著者自身、共通の脳機能の障害を示す一群が明確になれば、自閉症の認知、情緒、行動障害とどのような関係があるかを明らかにすることが次の課題として提起される」と述べているのだから、②→③→④→⑥の連鎖は「確定」できていないということであろう。さらに、著者の論述に従えば、④と⑤は、あくまで④→⑤でなければならないはずなのに、(モデル図では)④⇔⑤となっている。つまり、自閉症の認知障害が情緒障害を引き起こすはずなのに、情緒障害が認知障害を引き起こすこともあるということになり、理論としてはきわめて「曖昧」ではないか。著者は一貫して「自閉症(の行動障害)は情緒障害に因るものではない」と主張している。だとすれば、「脳の機能障害が表象機能障害を引き起こし、それが認知障害へとつながって行動障害を引き起こす」と説明するべきだと、私は思う。そこにあえて「情緒障害」の関与を認めるということは、「自閉症の行動障害の原因として情緒障害もありうる」ということを暗示することになってしまうのではないだろうか。ただし、「自閉症の表象機能障害および認知障害が情緒障害を引き起こす」ということであれば、(考え方として)わかる。しかし、そこでもまた、その情緒障害が行動障害を引き起こすという「連鎖」になり、「自閉症は情緒障害に因るものではない」という主張は崩れてしまうのではないだろうか。著者は、「その情緒障害は外的な環境要因によるものではない。内的な表象機能障害(学習障害・学習能力の不均衡)が生活上のストレスを高め、それが行動障害となって顕在化しているのだ」と主張するだろう。「つまり、自閉症的行動が外界との関連で形成され、内的世界と外的世界がフィードバックし合い、いろいろな行動の異常が強まったり弱まったりする。そして、これらのすべての次元に働いている内的発達が行動を変化させる力が生じ、このフィードバック系にいっそうの複雑さを付け加えている」と述べているが、《内的世界と外的世界がフィードバックし合い》《すべての次元に働いている内的発達が行動を変化させる力が生じ、このフィードバック系にいっそうの複雑さを付け加えている》という文句の意味もまた「複雑すぎて」私にはわからなかった。(2014.1.7)

自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《7》第1章 自閉症の概念と本態(5)・思春期から青年期での変化と問題・おわりに

【要約】
【7.思春期から青年期での変化と問題】
1)自閉症と思春期
・自閉症者にとって、思春期は精神発達の加速があって、自尊心が芽生えてきたりする時期である(Schopler & Mesibov,1983)が、危機の時期でもある。自傷行為、パニック、他者に対する攻撃行動、執着傾向が強まったり、強迫症状などの精神医学的状態を示す者が少なからず現れてくる。
・重要なことは、適切な働きかけと条件を整えることにより、多くの自閉症者は、言葉をはじめ認知と情緒は思春期を越えて発達していくということである。一人ひとりの能力に合わせて社会参加の可能性の開ける時期でもある。
2)対人関係の変化
・対人関係は、概ね成り立つ方向へと変化する。その方向は一見多様であるが、おおまかな特徴がある。
⑴対人関係能力の障害の評価
・Wing & Attwood(1987)の研究では、自閉症について相互的なやりとりの関係の成り立ちに着目、孤立群、受動群、積極・奇妙群、適切な相互交流群に分類している。
・孤立群は、社会的な接触が最も欠けているグループである。
・受動群は、他者に対して自発的な社会的接近をすることのないグループである。
・積極・奇妙群は、他者に対して自発的な接近をするが、その方法は奇妙で幼稚であり一方的なやり方であるグループである。
⑵対人関係の変化
・変化の特徴は、①年齢が高くなるにつれ、孤立群が少なくなり、受動群、積極・奇妙群が多くなる、②知能が低いと孤立群が多く、孤立群、受動群、積極・奇妙群の順で知能が高くなる。
3)適応行動の獲得
・小林・村田(1990)の研究、我々のデイケアの18歳以上のフォローアップの研究によれば、就労者は20%前後であったが、まったくの自立は少なかった。施設入所者はおよそ28%~38% であった。多くの場合、基本的生活習慣は身につけることができるが、社会や職場での適応行動の獲得は困難な場合が多い。
4)非特異的異常行動の変遷
・幼児期に目立った多動などの異常行動の多くは概ね減弱し、代わって無気力が目立つ状態になることが少なくない。対策の原則としては、早期からの適切な治療・教育、年長になってからは、適切なまわりからの働きかけと余暇を過ごす能力の獲得の指導などが必要になる。幼児期から学童期までの不適応行動の変化についての、横断的研究の結果は以下の通りである。
《受診時の主訴についての年齢変化》
・「言葉に問題や遅れがある」:幼児期・学童期ともに90%程度であまり変化なし。
・「知恵が遅れている」:幼児期20~50%程度であったが、学童期には70~80%に増えている。
・「全体的に運動発達が悪い」:幼児期・学童期ともに10~20%程度で変化なし。
・「不器用」:幼児期30%程度であったが、学童期10%程度に減っている。
・「対人関係がうまくできない」:幼児期60%程度であったが、学童期30%程度に減っている。
・「集団生活になじめない」:幼児期10%から40%、学童前期に50%近くまで増えるが、学童後期には10%程度まで減っている。
・「耳が聞こえないようにふるまう」:幼児期には20%余りであったが、学童期には消失している。
・「人に対する関心反応が乏しい」:幼児期は45%程度、学童前期に60%近くまで増えるが、学童後期には20%程度まで減っている。
・「落ち着きがなく多動」:幼児期50%近くまであったが、学童後期では30%以下にまで減っている。
・「変なくせやきまりがある」:幼児前期には10%未満であったが、幼児後期には40%近くまで増え、学童後期には40%を超えるまで増えている。
・「偏食など」:幼児期前期には10%程度、幼児期後期には20%、学童前期には30%以上まで増えるが、学童後期には15%程度まで減少する。
・「自傷行為」:幼児期はほとんどなかったが、学童期には15%程度まで増える。
5)性的行動
・思春期になっても、自閉症者は、他の人と十分な情緒的交流や共感をすることが困難である。異性との間でも同様であるが、異性に対する接近行動や顔を赤らめるような情緒的な反応を起こすようにもなる。異性に対する接近行動は、極めて純真な動機に基づいていることが多い。それは自閉症者に独特なものであり、周囲には理解しがたいことがある。また、相手がどのように感ずるかを考慮できないために、結果的には相手を無視した行動になることがある。(例:セーラー服の模様が気になるという理由で、女子生徒の胸元を覗き込むという行動など)
6)思春期に合併しやすい精神医学的状態
・この時期に、てんかん発作、トゥレット障害、強迫神経症、周期的気分変動などがかなりの頻度で出現する。情緒不安定、パニック、攻撃的行動が増強したときには、これらの障害の合併の可能性を考慮する必要がある。てんかんでは薬物療法が不可欠であり、屋の障害で著効を上げることがあるからである。
⑴てんかん発作
・てんかんは思春期になって初発することがあり、おおよそ20%程度の合併率となる。
・発作型は大発作が多いとされていたが、最近になり複雑な部分発作も無視できないことが指摘されている。
⑵トゥレット障害
・トゥレット障害は、運動性のチックと声によるチックを持つことにより診断される。その症状は、自閉症に伴う常同行動や奇声などとの区別が困難なことがあるが、この症候群を疑ってみたほうがよい。
・トゥレット障害は、自閉症あるいは自閉的な子どもの中で数%から20%の割合で発症する(Kano,et,al 1988)。
⑶強迫神経症様状態
・同じ動作を繰り返したり、何度も物に触ったりする強迫様行動が見られることがある。
⑷周期性気分変動
・この障害は、行動面での減動状態と増動状態が繰り返し起こってくる障害をさす。抑うつ状態、躁状態を思わせる状態を示すことがある。
・自閉症では、対人関係の障害、言葉の発達の遅滞、精神発達の遅滞があるため、自分の内的感情を表現することが困難であるばかりか、感情の発達に遅滞がある。このため、抑うつ状態、うつ病、躁状態、躁病などと診断をつけることが困難である。
・増動状態だけのことは少なく、増動、減動の両極性、減動状態の場合が多いようである。
【おわりに】
・自閉症は、発達障害であり、行動的症候群である。認知と情緒の発達に障害があり、それは脳機能の障害によるものと推測される。原因は様々な要因が関与しており、それらの要因が脳のある特定の機能系に障害を与えることにより、この症候群が惹き起こされると思われる。
・認知や情緒の特異性や、特定の脳機能の障害は、いまだ明らかになっていない。とりわけ、生物学的指標の探求が望まれる。(太田昌孝)

【感想】
 ここでは、「自閉症の(社会適応から見た)予後は楽観できない」とする著者の論拠として、「思春期から青年期での変化と問題」が述べられている。
著者は「適切な働きかけと条件を整えることにより、多くの自閉症者は、言葉をはじめ認知と情緒は思春期を越えて発達していく」「一人ひとりの能力に合わせて社会参加の可能性の開ける時期でもある」と述べているが、著者らの「懸命な」治療・教育を受けてきたにもかかわらず、社会自立できる者は20%程度に過ぎないということであろうか。
また、対人関係は、「概ね成り立つ方向へと変化する」が、「年齢が高くなるにつれ孤立群が少なくなり、受動群、積極群が多くなる」(だけ)ということである。「適切な働きかけと条件を整え」ても「適切な相互交流群」は多くならない、ということであろうか。
 いずれにせよ、「思春期から青年期での変化と問題」の要点を(私なりに)まとめると、以下の通りである。
1.対人関係は、概ね成り立つ方向へと変化するが、①他者の接近を抵抗せずに受け入れる(受動群)か、②他者に対して自発的な接近をするが、その方法は奇妙・幼稚・一方的(積極・奇病群)であることが多い。
2.多くの場合、基本的生活習慣は身につけることができるが、地域社会や職場での適応行動を獲得することは困難である。
3.幼児期に目立った「多動」は概ね減弱するが、それに代わって「無気力」が目立つ状態になる。「偏食」は減少するが「自傷行為」や「攻撃的行動」が新しく現れたりする。
4.性衝動が出現し、強まってくるが、人への対象化がされていないことが多い。(詳細はわかっていない)
5.てんかん発作、トゥレット障害、強迫神経症様の状態、周期的気分変動などが、かなりの頻度で出現する。(情緒不安定、パニック、攻撃的行動が増強したときには、これらの障害の合併の可能性を考慮する必要がある)
 以上で「第1章 自閉症の概念と本態」は終了する。著者(太田昌孝氏)は【おわりに】で、再度、自閉症の原因は「脳機能の障害によるものと推測される」としながらも「認知や情緒の特異性や、特定の脳機能の障害は、いまだ明らかになっていない。(中略)とりわけ、生物学的指標の探究が望まれる」と結んでいるが、《「動物行動学的指標」の探究》を望まないのはなぜだろうか、と私は思った。(2014.1.8)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《8》Ⅱ章 自閉症の治療と治療教育(1)はじめに・治療の組み立て

【要約】
《Ⅱ章 自閉症の治療と治療教育》
【はじめに】
・自閉症の治療は、受容的遊戯療法から、子どもに積極的に働きかける治療教育と薬物治療へと変化してきている。さらに、異常行動の改善や適応行動の獲得のみならず、認知と情緒の発達を促す方法にすすんできている。そして、認知発達的な見方から、子どもを受け入れ、行動の意味を理解し、行動の変容を図ろうとする方向に歩み出してきている。
・この章では、まず自閉症の治療の組み立てを述べ、次いで、治療形態について触れる。第3には、治療教育の歴史と現代的意義について述べる。第4には、我々の開発した認知発達治療の意義を概略する。第5には薬物療法の基本について述べる。最後に、自閉症の思春期から青年期に起こる諸問題への対処を述べる。
・なお、ここでは、治療は、自閉症児自身への働きかけであり、医学的治療をはじめ、心理的、教育的、福祉的働きかけを含んで使うことにする。
【1.治療の組み立て】
1)働きかけの2つの側面
・治療を考える際には、2つの側面がある。1つは、子ども自身に対する働きかけであり、もう1つは、まわりの受け入れ、理解、設備、様々な環境の要因をよくする働きかけである。
・一般に治療とは、子ども自身に対するものに力点が置かれた働きかけをさす。
・治療の方法は、治療教育と薬物療法に分けられる。また、親に対する療育指導も治療に含めることができる。
2)治療の目的と3つの次元
・治療のレベルには、行動、表象機能(認知と情緒)、脳機能の3つのレベルがある。
・行動レベルでは、異常行動を減弱させたり予防すること、社会生活を営む上で必要とされる行動を獲得するように促すことである。表象レベルでは、表象機能の発達を促したり、表象機能の障害を克服したりすることである。脳機能レベルでは、脳機能障害の克服と代償をめざすことまで含んでいる。
・自閉症の治療の目的は、3つの次元に分けられる。
⑴第1の次元(基本的障害の代償と克服)
・自閉症の特異的な情緒と認知の障害(その基盤にある脳機能障害)の克服と代償に(も)焦点が当てられる。年齢が低いほどこの次元の働きかけは重要である。
・我々の行っている認知発達治療の中心となる認知発達学習は、この次元の働きを狙ったものである。
⑵第2の次元(個々の適応行動の発達を促すこと)
・幼児期には、基本的な生活習慣の確立、直接役に立つ話し言葉や言語の獲得を含めた意思伝達技能の獲得、他人とかかわるための基本能力としての社会性の獲得、微細および粗大な協応運動の獲得などが含まれる。
・学童期では、基本的な家庭生活技能、相互交渉の技能、学科学習、集団生活への参加と適応などの技能の獲得が課題になる。
・青年期では、より高度な家庭生活技能、職業的技能、社会参加と社会的責任の遂行能力の獲得が課題となる。
・年長になるにつれ、家庭、社会、職業に直接役立つ技能を教えることが重要になる。
⑶第3の次元(行動の異常と偏奇の減弱と予防)
・異常行動への対処の基本は、発達を促す働きかけや適応行動を増やすことにより減少させることである。
・子どもの認知の発達に合わせた課題による働きかけと、子どもが自由に衝動を表現できるような設定の中で、異常行動をしばしば減弱させたり予防することが可能である。
・能力を大幅に超えた課題の強制や急激な環境変化は異常行動を増やすので、注意する。
また、異常行動の年齢による自然経過をも考慮して対処することは重要である。
3)治療の評価
・従来は、特定の適応行動を獲得すること、異常行動を減弱させることを治療目標とする短期的な効果に対する評価が行われてきたが、行動異常の背後には、認知と情緒にかかわる表象機能の重篤な発達の障害があるので、認知発達的な側面、情緒的な発達の評価も必要である。(太田、1989,1991)
・我々は、3つの次元から見た評価、全般性の重症度、親の満足度を含めた評価バッテリーを用いて評価を行っている。(精神発達、適応行動、異常行動、全般的改善度、親の満足度が何らかの方法で評価されることが重要である)
*東大デイケアの評価バッテリー:(太田のStage評価、Stage別課題チェックリスト、遊びの評価、5つの行動特徴、行動観察)(田中ビネーテスト、乳幼児精神発達質問紙、S-M社会生活能力検査、言語発達質問紙、PVT、小児行動質問紙、改訂行動質問表、CGAS、CARS)(年度末治療アンケート、健康調査票、療育調査票)
4)治療における両親と家族
・親は、自閉症の原因ではない。(このことは最近の研究により明確に支持されている)
・親は、子どもの最大の援助者である。
・治療教育を行う際には、治療者と親とはお互いに学び合い、適切なプログラムを実践していくことが大切である(schopler,1976)。
・親子関係にひずみが見られ、子どもに異常行動が見られるからといって、親の養育態度や性格が、子どもの異常行動や情緒障害の病因ではない。しかし、親と子は互いに影響し合い、そのひずみは子どもの異常行動へ親が反応した結果であるとともに、親の不安に対する子どもの反応でもある。子どもの年齢が若いほど、この相互に見られるひずみが強い。
・親を自閉症の原因として責めることは、成因論から見ても正しくない上に、両親はそのような子どもを持ったことへの罪悪感、劣等感などを有していることが多く、両親のそれらの感情を拡大することになる。そのため、親への支持的な働きかけはとりわけ重要である。
・自閉症児が、治療教育で獲得した様々な技能を、家庭や地域での生活において般化できるようにする必要がある。一方、自閉症児が家庭や地域での生活において獲得した技能を、治療教育の場において、確実なものにしていくことも必要である。家庭内での自閉症児特有の問題行動への助言、援助も大切である。
・親は、程度の差はあれ不安抑うつ状態を示すことがあり、ときに親の精神科的治療が必要なこともある。また、自閉症児の同胞への配慮も必要となってくる。その対処の詳細については第Ⅶ章を参照されたい。

【感想】
この節では、「治療の組み立て」として、治療の目的、治療の評価、治療における両親と家族について、述べられている。治療には、子ども自身に対して行われるものと、子どもに周囲(たとえば家族)に対して行われるものという2つの側面がある。子ども自身に対して行われる治療には、行動レベル(異常行動の減弱や予防)、表象機能(認知と情緒)レベル(表象機能の発達促進、障害克服)、脳機能レベル(脳機能障害の克服と代償)の3つのレベルがあり、①基本的障害の代償と克服(認知発達治療など)、②適応行動の発達促進(基本的生活習慣の確立、意思伝達技能、社会性、協応運動、学科学習、職業的技能など)、③行動の異常・偏奇の減弱と予防、を目的としている。治療の評価は、この目的が、どの程度達成できたか(に加えて)、全般性の重症度、親の満足度を含めて行う。治療の2つめの側面として、両親・家族へのアプローチも重要である。「親と子はお互いに影響し合い、そのひずみは子どもの異常行動へ親が反応した結果であるとともに、親の不安に対する子どもの反応でもある。子どもの年齢が若いほど、この相互の関係にみられるひずみが強い」。しかし「親を自閉症の原因として責めることは成因論から見ても正しくない上に、両親はそのような子を持ったことへの罪悪感、劣等感などを有していることが多く、両親のそれらの感情を拡大することになる。そのため、親への支持的な働きかけはとりわけ重要である」。「親は、程度の差はあれ不安抑うつ状態を示すことがあり、ときに親の精神科治療が必要なこともある」。「また、自閉症児の同胞への配慮も必要になってくる」。
 以上を読んで、私が思ったことは以下の通りである。
1.治療者は、自閉症児・者に対して(そう言明するか、しないかにかかわりなく)「あなたの病気は、脳機能障害です。だから、まずその障害を克服しましょう。また代償の手段を見つけましょう。そして、みんなと同じことが、同じようにできるようになることを目指しましょう。そうして、あなたの「風変わりな言動」を減らしていきましょう」と思っている。
2.治療者は、親に対して「あなたの性格や育て方は、自閉症の原因ではありません。自閉症の原因はまだわかりませんが、お子さんには脳機能障害があり、それが原因で様々な異常が生じていると思われます。したがって、お子さんの自閉症は(現状の医学では)治りません。しかし、早期から適切な治療・教育を行えば、今、生じている様々な異常は減少し、社会的に自立することも可能です」と思っている。
 その思いは、子どもや親にどのような影響を及ぼすだろうか。おそらく治療者は「そうか、ぼくがおかしいのは、ぼくの責任ではなかったんだ」「私の性格や育て方が悪かったのではないのですね。安心しました」といった反応を期待しているのだろうが、では、はたして「ぼくは、自分の障害を克服するために一生懸命がんばります」「親として、適切な療育ができるように勉強します」という気持ちに変容するだろうか。
 大切なことは、「親と子はお互いに影響し合い、そのひずみは子どもの異常行動へ親が反応した結果であるとともに、親の不安に対する子どもの反応でもある」という事実を冷静に見つめなおし、まず「親子関係のひずみ」(自体)を治療することではないだろうか。
子どもが異常だから親が不安になる、しかも、その異常が治らないとすれば、その不安は絶望に変わる他はない。その絶望が、親の「不安抑うつ状態」を招くことは火を見るより明らかであろう。親は、自分の性格や育て方を責められなくても、罪悪感、劣等感が拡大していくことに変わりはないのである。さらに言えば、親の「不安抑うつ状態」がいつ始まったかを見極めることも重要である、と私は思う。もし、子どもの誕生前(ということも十分あり得る)だとすれば、その「不安に対する子どもの反応でもある」と言えなくもないのではないだろうか。
というわけで、著者が言う、とりわけ重要な「親への支持的な働きかけ」とはどのようなものか、その中身について知りたいと強く思った。(2014.1.9)

【付記】
 著者らは、「自閉症の治療の目的として3つの次元に分けられる」として、以下を挙げている。
⑴第1の次元(基本的障害の代償と克服)
⑵第2の次元(個々の適応行動の発達を促すこと)
⑶第3の次元(行動の異常と偏奇の減弱と予防)
 第1の次元では「自閉、の特異的な情緒と認知の障害(その基盤にある脳機能障害)の克服と代償に(も)焦点が当てられる」としながらも、準備されているのは「認知発達治療のための認知発達学習」だけであり、《情緒の障害》の克服と代償には焦点があてられていない。情緒の障害は「親子関係のあり方」と深くかかわっており、避けて通ることはできない。しかし、著者らは「親子関係にひずみが見られ、子どもに異常行動が見られるからといって、親の養育態度や性格が、子どもの異常行動や情緒障害の病因ではない」と考えているために、その問題を軽視せざるを得ないのだ、私は思う。第2,第3の次元は「適応」を主目的としており、「発達」的観点が欠落しているように思われる。
(2016.12.3)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《9》Ⅱ章 自閉症の治療と治療教育(2)指導形態・治療教育・認知発達治療の原理

【要約】
【2.治療形態】
・治療の形態としては、医療機関に限れば、外来、デイケア、入院の別がある。外来治療では、通常は子どもと母親と一緒に来院し、子どもの発達評価などに基づいて母親が療育指導を受ける。この延長として、比較的長い時間治療を受けるデイケアがあり、デイケアより短い治療の場として外来ケアが区別される。
1)外来治療
・基本的には個人を対象にして行われる。
・2歳から3歳頃にかけては、外来通院・通所指導が中心となる。自閉症の診断を伝えて、その知識や発達の捉え方などを親に教えることから始める。次いで、言葉や適応行動の発達を促す療育指導が行われる。この時期は、異常行動の矯正は重点になってこない。偏食が育児上の苦痛となるが、すぐに矯正すると他の行動障害を強くするかもしれないので、粘り強い働きかけが必要となる。睡眠障害には、薬物の使用が有効な場合がある。
・学童期には、家庭と学校での不適応行動が治療の中心になってくる。
・学校卒業後は、社会参加が課題となり、作業所、職場での適応が問題の中心となる。(対応については6節を参照されたい)
2)デイケア
・子どもが昼間、家庭を離れて比較的長時間を過ごす場所と機能をさす。保育園、幼稚園、学校、学童クラブなどが該当する。
・医療的デイケアは、外来と入院の中間的なものである。入院治療のように社会から隔離することなく、外来よりもより計画的で多面的かつ濃厚な治療ができる。
・デイケアより短時間の外来ケア(仮称)という治療形態もある。比較的長い時間を使う精神療法、心理指導、学習指導などがこれに当たる。
3)入院治療
・自傷行為、多傷行為が著しい障害を与えるときには、その行為を緩和するために入院治療が適応となる。
・生活のリズムが著しく乱れ、家庭生活が困難である場合にも、適応となる。
・子どもと親のよくない関係ができ、子どもの状態が不安定になったときも考慮される。
・親や家族が自分自身の生活の質的向上のために子どもを一時的に預けるレスピットケアも考えられる。
【3.治療教育】
・治療教育は、自閉症の治療において中心的な役割を担っている。治療教育は、デイケアで行われる働きかけの中心である。保育園、幼稚園、小・中学校、学童ケアなどにおいても有効に適用できる、学校卒業後の受け入れ機関においても応用できる方法である。
1)治療教育の歴史と意義
・治療教育は、教育的な手段を使って、精神障害に基づく精神機能の障害や行動の異常を改善するように働きかけたり、精神発達や適応行動を促進したりする方法である。
・治療教育は、今世紀の始め頃より起こった精神医学的治療法である。
・「治療教育学は、児童や青年に見られる知的障害や感情的欠陥、神経的・精神的障害の治療に際して教育的な方法を求める学問である」(Asperger,1961)
・「教育にともなっての各種の精神活動によって、一方では脳およびその他の神経系統の廃用性萎縮を防ぎ、他方訓練によって、それらの正常機能の増進を可能にする。この神経活動は同時に身体各部にも影響し、全身の代謝を旺んにし、その諸機能の活動を促し、相互間の調和をもたらし、ひいては障害部位の快復転機をも促進する。学習またはそのほかの教育は、元来子ども自身の自然な欲求であるから、それを満足させることで、子どもの欲求不満や不全感は解消され、情緒は安定し、異常行動はなくなるか、または著しく減少する」(菅,1965)
・治療教育の目的は、発達障害児の適応行動の獲得や異常行動の予防と減弱に置かれているのみでなく、精神機能の発達の促進と脳機能の増進にもある。
・オペラント学習理論による行動療法、その発展である認知行動療法も、治療教育に含まれる。
・治療教育は、個々の障害の本態の解明と経験的実践の科学化に伴って、時代とともに変化し、豊富になっていく。
2)自閉症の治療教育
・治療教育は、現在、自閉症に対する不可欠な働きかけの方法になっている。
⑴初期の治療
・自閉症は発見当初、精神分析的な考え方の影響を受け、親の性格や養育方法の不適切さによる心因性の障害と考えられたため、治療については、親によって代わって子どもを受容することを主体とする精神療法が本質的な治療とされた。(具体的な方法は、受容的遊戯療法 親から早期に切り離すこと)
・その後、自閉症の原因は心因でないことが明らかになり、精神療法は無効と言わざるを得ないことが認められるようになった。有害であるとする主張すらも現れてきている。
⑵自閉症の治療の質的転換
・1960年代より、教育的あるいは行動的接近法が取り入れられ始めた。(治療教育の概念が導入された)
・自閉症についての考え方が、次のように変革された。「自閉症は、乳幼児期に現れる、人との関係の成り立ちにくさを中心とする障害である。情緒的な交流の薄さと特異な症状は、自閉症状という形をとって早期に現れる。年齢とともに変化し、その状態は比較的特異的なパターンをとって変わっていく。この障害の基礎には、高次の中枢神経系におけるまだ特定できぬ“システム”の障害があると考えられる」。
・Rutter & Sussenwein(1971)は、自閉症児の治療の場についての比較研究を行い、「自閉症児は受容的な自由な場より、構造化された場のほうがよく学習することを指摘し、教育的な構造化の必要性」を主張した。
⑶ 行動療法の見直し
・当初から行われてきたオペラント型の行動療法(Lovaas,1966)は、動物をモデルにしたものであり、報酬として即物的な食べ物・飲み物を使ったが、現在ではほめ言葉、スキンシップなどの人間的報酬へと変化してきている。
・異常行動のみを標的とするパニッシュメントによる陰性オペラント療法については、反省が生まれてきている。(虐待につながりやすい。その方法で常同行動を消去しても、別の行動が出たり、不穏になったりする)
⑷認知的・発達的視点の導入
・最近の行動療法は、オペラント型から認知行動療法と呼ばれるまでを含むようになってきており、行動変容法と言われている(小沢・上里,1992)
・この先駆けは、Schopler(1971,1971a)のTEACCHに見られる個別教育の方法である。発達評価とそれに基づいた視覚認知課題の系統学習と物理環境の構造化が基本となっている。
・Rutterら(1971,1973)は、自閉症への働きかけとして、構造化された行動的、教育的働きかけの重要性を指摘している。精神発達を促すことと常同行動やこだわり行動の減弱と予防がその柱であり、親が子どもに対処するプログラムの必要性をあげている。精神発達では、認知、言語、社会性の発達および学習の促進が考慮されなければならないとされている(Rutter,1985; Howlin & Rutter,1987)。
・我々も、自閉症の治療教育について、認知的発達的な観点が必要なことを、早い時期から主張し、実践してきた(仙田ら,1978)
⑸妥当な治療教育の現在的用件
・現在、自閉症の働きかけは、いろいろの考え方と手法があり、混沌としているが、いくつかの原則が明らかにされてきた。その第1は、自閉症は発達障害であるので、発達的観点が必要であるという点である。第2には、自閉症は、自由な、受容的な方法では有意義な学習をしがたいことである。第3には、異常行動の減弱だけを主要な目的とするべきではなく、必ず、適応行動のプログラムが用意される必要があることである。第4には、行動の変容は、普通の子どもで適応できる範囲から逸脱しないことである。
・最も妥当な治療教育の要件は、精神発達の促進と広い意味での行動の変容の2つの側面から構成されることである。さらに、社会参加の観点も含め総合的な視野に立って計画され、行われる方向性を待たなければならない。
【4.認知発達治療の原理】
・我々は、自閉症児の精神機能の発達の障害の特徴は、シンボル表象機能の出現の著しい遅滞、あるいはその機能が出現した場合にはシンボルの動的操作の障害である、と考えている。
・それゆえに、表象機能における認知の側面の発達を促し、その障害を改善したり、克服することが治療教育の焦点の1つであると考えられる。(「認知発達治療」)
・この節では、その原理に限って述べる。(詳細は第Ⅳ章を参照されたい)
1)認知発達治療の基本的な考え方
・認知発達治療は、自閉症の認知発達段階に基づいている。自閉症の発達段階分けは、認知発達治療に科学性を与える。
・自閉症の表象レベルとしての認知の障害は、特異的な発達的な障害であり、脳機能の障害の反映と想定される。したがって、認知レベルに働きかけて認知の発達を促すことと、認知の障害を改善したり克服したりする働きかけが不可欠と思われる・
・自閉症児は認知発達にあった課題を選べば、それらの課題をよく遂行する(Arpern,1967)
。このことから、自閉症に認知の発達に合った課題を適切に配列すれば、認知の発達を促し、認知障害の改善や克服に向けての働きかけが可能であることが仮定された。これが、認知発達治療の中心を構成している認知発達学習の理論である。
・認知発達治療は、学習セッションのみならず、日常のセッションまで広げることができる。働きかけにより、認知のレベルを引き上げ、情緒の安定と発達を促し、子どもの行動を変えて、環境に能動的に適応できるような可能性を付与することが予測された。脳機能に対しても、その活性化を促し、障害を代償・克服するように働くことも期待される。
・行動療法と比較してみると、行動療法は目に見える行動だけを対象にしてきたが、認知発達治療は、認知力を発達させることによって、行動に柔軟性を持たせ、内的に行動を変化させる治療教育である点で異なっている。
2)認知発達治療の理論的な意義
⑴治療の3つの次元との関連
・第1の次元(基本的障害の代償と克服)との関連で見ると、認知発達学習は、自閉症の認知の障害の改善や克服をねらい、認知能力を発達させることである。同時に、対人関係を含め情緒の発達を促すことをねらいとしている。心理教育学的アプローチではあるが、脳の機能の活性と不全の克服にも関連していると思われる・
・第2二次元(個々の適応行動の発達を促すこと)との関連では、認知機能を高めることにより適応行動の獲得において柔軟性を持たせることが期待できる。発達段階から期待される適応行動と年齢や社会的環境から要請される適応行動を組み合わせることにより、治療者は、獲得すべき適切な適応行動をえらぶことができる。
・第3に次元(行動の異常と偏奇の減弱と予防)との関連では、子どもの認知の発達に合った課題による働きかけと、子どもが自由に衝動を表現できるような設定の中で、異常行動は減弱する。自閉症児の認知能力に合わせた働きかけは、自信をつける作用を生み、異常行動への予防へとつながる。
⑵認知発達学習の意義
・Stage分けによる発達段階評価は、自閉症の精神機能レベルでの基本障害と考えられる表象能力に焦点を当てた評価法である。この段階分けは、思考の主体となる言語理解の水準によって発達段階を決めているために、課題の選択に指針を与え、自閉症における学習を容易にする。スモールステッププログラムは、Vygotsky(1978)の言う最近接領域を示している。
・Stage別に適切な課題を選んで適用すると、本人の理解のレベルに合っているので、子どもは自発的にその課題に取り組むことが期待される。
⑶認知発達治療の限界
・自閉症児において、認知発達を促し、発達の節目を乗りこえて、その障害を克服することは、非常に困難である。そのため、同じ認知発達の段階内に止まっていようとも、自閉症児の生活全体を見わたし、治療の第2の次元の観点から、認知発達の水準をふまえつつ適応行動を豊富にする働きかけを同時に行う必要がある。
・また、認知発達治療は、働きかけの第2の側面である受け入れや環境整備の働きかけと組み合わされたとき、その有効性が発揮されることになろう。

【感想】
 ここでは、治療教育の形態や、自閉症の治療教育のついての歴史・基本原理が端的に述べられている。当初は(1960年頃まで)、精神分析的立場から「受容的遊戯療法」が 本質的な治療とされたが、1960年代以降、「行動的接近法」が取り入れられ始めた。この障害の基礎には、高次の中枢神経系における“システム”の障害があると考えられるが、Rutter & Sussenwein(1971)の比較研究、Schopler(1971)らによって、「自閉症児は受容的な自由な場より、構造化された場のほうがよく学習することを指摘」され、教育的構造化、すなわち「オペラント型行動療法」「TEACCHプログラム」などが取り入れられるようになった。現在、自閉症の働きかけについて、いろいろな考え方と手法があり、混沌としているが、①自閉症は、発達障害なので発達的観点が必要である、②自閉症は、自由な、受容的な方法では有意義な学習をしがたい、③異常行動の減弱だけを目的とするべきでなく、適応行動の獲得プログラムが必要である、④行動の変容は普通の子どもでも適応できる範囲から逸脱しないこと、などの原則がある。我々は、自閉症の特徴は、シンボル表象機能の出現の著しい遅滞、あるいはシンボルの動的操作の障害であると考え、「認知発達治療」を行う。それは、認知の発達を促してその障害を改善・克服する働きかけを主軸に置き、そのことにより、行動や情意の発達を動かしてその障害を改善・克服することをねらいとしている。(認知力を発達させることによって、行動に柔軟性をもたせ、内的に行動を変化させる治療教育である)そのために、まず自閉症の表象能力に焦点をあてた「発達段階評価」(Stage分け)を行う。次に、その発達水準に合ったスモールステップのプログラムに基づいて、学習を支援する。とはいえ、認知発達を促し、発達の節目を乗り越えてその障害を克服することは、自閉症児において「しばしば非常に困難である」。そのため、自閉症児の生活全体を見わたし、適応行動を豊富にする働きかけを同時に行う必要がある。
 と、言うことで要するに、まず自閉症の(表象機能における)「認知発達」を促せば、対人関係やコミュニケーションの問題、常同行動並びに様々な行動上の問題が、改善・軽減・克服できる、ということであろう。いわば、「知・情・意」の中の「知」を最優先する考え方だが、はたして、「情・意」が置き去りにされることはないのだろうか。著者は、自閉症を(脳機能障害が推測される発達障害であり)「行動的症候群」としているが、人間の行動を(大きく)左右するのは「知」であるか、「情」であるか、「意」であるか、それが問題である、と私は思った。(2014.1.10)

【付記】
 この節では、「①自閉症は、発達障害なので発達的観点が必要である、②自閉症は、自由な、受容的な方法では有意義な学習をしがたい」と述べられているが、発達的観点は「認知」(知)の領域に限られており、「情意の発達」という観点が抜けている。また、「自由な、受容的方法では有意義な学習をしがたい」と判断した根拠は何か、判然としない。既存の方法を見ただけで判断することは独断に過ぎない。「自閉症児は認知的な学習が可能である」ということは、認知的な障害がないことを証明している。「情意的な学習」に特化した治療教育を目指さなければ、「自閉」という問題はいつまでも改善されないだろう、と私は思った。
(2016.12.5)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《10》Ⅱ章 自閉症の治療と治療教育(3)薬物療法の基礎・思春期から成人期での働きかけ・おわりに

【要約】
【5.薬物療法の基礎】
・自閉症の薬物療法の適応、留意点、目的および実際に関して、基本的なことを簡単に述べる。(詳細と文献については第Ⅷ章を参照されたい)
1)自閉症に対する薬物療法の適応
・薬物は、症状の緩和を目的にして、対症療法的に用いられる。しかし、薬物の適切な使用により、相当程度の効果が期待できる。
2)その留意点
・親、教師、指導員などは、服薬の目的と標的症状を理解する必要がある。また、起こりやすい副作用とその対策を、あらかじめ知っておくことが大切である。
・薬物療法を開始したら、服薬は決められたとおりに行うことが大切である。
・行動や情緒の変化を観察して医師へ報告ことが必要である。
・行動の変化は、他の環境要因によっても起こるものであることを理解されたい。
・強い副作用が起こったら、すみやかに主治医に連絡する。
3)薬物療法の目的と実際
・おおよそ、次の3つの目的で使用される。
①脳機能障害の全般あるいは特定の病理の改善、②非特異的な情緒障害や異常行動の改善、③合併しやすい精神医学状態に対する治療。
⑴脳機能障害の改善を目的とする薬物
・脳機能の全般的な改善を目的とするものは、ビタミンB群や老人の痴呆に作用するといわれる薬物である。
・特定の脳病理の改善を目的とするものは、現在、研究段階にある。(効果は限られている)
⑵非特異的な情緒障害や異常行動の改善を目的とする薬物
・興奮、不穏、不眠、こだわり行動、多動、自傷行為、常同行動、パニックなどの異常行動の改善を目的にして、様々な「向精神薬」が使われる。高力価の坑精神病薬(神経遮断薬)がしばしば著効を示し、世界的によく使われている。これは、自閉症が精神病であるという意味ではなく、対症療法として有効であると経験的に認められているということである。ハロペリドール、ピモジドなどが含まれ、少量の使用で効果が上がることが多い。副作用としては、錐体外路性症状(体が硬くなったり震えたりする症状など)や過鎮静(ボーッとして動きが鈍くなる)がある。錐体外路性症状の予防として、低年齢では最初から坑パーキンソン剤を併用することがしばしばである。
⑶合併しやすい精神医学的状態に対する治療
①てんかん
・てんかん発作があれば、坑けいれん剤の使用は必須である。服薬開始にあたっては、安全性(てんかんのコントロールにより生ずる利益と服薬により生ずる不利益とのバランス)の十分な検討が必要である。坑けいれん剤の選択は、てんかん発作型とてんかんの種類に従って行われる。
・服用を始めたら、勝手に断薬してはならない。一般には、長期にわたることになる。どの時点で中止することができるかという原則は、いまだ確立されていない。
・発作がない場合(脳波異常の所見だけで)、一律に坑けいれん剤を使用することは妥当ではない。
②トゥレット障害
・神経遮断薬(ハロベリドールなど)で比較的よくコントロールされる。
③強迫神経性様状態(こだわり行動も含む)
・神経遮断薬や坑不安薬により緩和が可能である。坑うつ薬の使用は、かえって増強することもあるので注意が必要である。
④周期性気分変動
・感情調整薬の使用が著効を示すことがある。
4)薬物療法の限界と展望
・自閉症の本態に働きかける薬物の研究が進んでいるが、テトラハイドロバイオプテリンやフェンフルラミンなどの薬物は、当初期待されたほどの効果は上げていない。(Aman & kern,1989)
・自傷行為の治療の試みも、アメリカなどで行われている(Panksepp,et ai,1987)。効果は十分ではないが、注目に値する。
・本態に触れる薬物の発見は、現段階では模索の状態にある。
【6.思春期から成人期での働きかけ】
・思春期から成人期での働きかけの特徴を、経験と文献を合わせて概略する(Schopler & Mesibov,1983)。
1)よき対人関係と適応的行動の獲得
⑴年齢による変化と働きかけの基本
・この時期になると、自己の社会的評価を感じ取るようになってくる反面、強い劣等感が形成されることもある。自尊心も芽生え始める。(一般の青年と変わりない)
・適応行動を獲得するための働きかけは、このような自我意識の獲得という個人の変化に基づいて行われる必要がある。
・適応行動の獲得にあたっては、課題に成功したときには社会的報酬や評価が第1に必要とされる。
・成功しない場合でも、課題に取り組んだ努力の過程を評価することが大切である。
・また、日常のパターンがずれたりすることなどによって生じる不安、不機嫌、自傷・他害、パニックを防ぐために、日常のルーチンの変更や行事の予定を予告することが大切である。
⑵Wingの分類から見た働きかけの特徴
・孤立群では、特定の人に依存する傾向が出てくる。介護者が頻繁に交代したり、仲間が多すぎたりすると、行動障害(他害、器物破損、奇声、徘徊、自傷、頻回な常同行動)が出現する可能性がある。認知する能力が低いために状況の変化を理解できず情緒的混乱をきたす、コミュニケーションの表出・理解の障害により慣れた介護者でなければ意志交換ができないためと考えられる。介護者は彼らの認知能力の水準を把握して、その能力に見合った働きかけが必要となる。また、日常生活における独自のパターンをある程度認めて、特別な空間を設けることが必要なこともある。認知能力の中で相対的に優れている視覚的で機械的な能力を発揮させることも必要である。
・受動群では、対人関係の特徴として、自発的な表現の少なさとコミュニケーションの低さがあるので、他者の働きかけを「身体的および精神的に疲労しきるまで〉受け入れてしまうことになる。自己の気持ちを伝達できるように、認知水準に適したコミュニケーション方法を習得させること、数少ないコミュニケーションの兆候を介護者が見逃さないようにすることが必要である。また、自発的にかつ適切に他者に働きかけるスキル(技術)の獲得が課題となる。
・積極・奇妙群は、一見適応の程度が良好だと考えられるが、対人関係の障害などを修正することができない。これに対処するには、知的に高い内容を含んだ微妙な調整が要求される。その人の知的レベルに応じた「言い聞かせ」で納得を得ることにより、適切な行動を促すことが可能である。
2)非特異的異常行動への対処
・この時期には、無気力な状態、自傷行為、パニックなどが目立ってくるが、非特異的な異常行動への対処の原則は、適応行動を増やすことにある。異常行動をなくすことだけをねらった働きかけは好ましくない。必ず、適応行動の獲得と組み合わせて対処することが要請される。
・働きかけは、社会的な活動において適切な課題と構造化された環境を用意し、自発的な取り組みを促すことから始まる。取り組んだこと自身を評価し、励ますことが大切である。・薬物療法を中心とする医学的な関与が必要な場合もある。
3)性的行動への対処
・性的衝動が、自閉症の行動異常を強めているという確証はない。
・自慰は、他人の目にふれないように処理することを教える。
・異性への接近行動については、相手の感情を無視しているところがある。相手が迷惑することや、どのように受け取るかを、1つずつ具体的にそのたびごとに十分に説明する必要がある。
・相手には、本人にきちんと謝らせることも大切である。(本人の状態を、相手や周囲の人に理解してもらえるとよい)
・異性の身体の部分に触ったり、抱きつくなどの行動が見られることがある。このような場合に、トゥレット障害や強迫症状の1つであることなどがあり、薬物療法が効果を上げることがある。
4)思春期に合併しやすい精神医学的障害の治療
・てんかん発作、トゥレット障害、強迫性神経症様状態、周期性気分変動などがある。
・治療は、薬物療法の章で述べてある。
【おわりに】
・治療を発展させ、その有効性を検討するにあたり、3つの留意点がある。
①自閉症について現在までに得られた知見、諸研究の成果と矛盾しないかどうかを、本質的な障害との関連で考察すること。
②より豊かな人間性をつくるという観点からも治療は検討されなければならない。
③治療の効果が妥当な方向で評価されなければいけない。再現性が確認されなければならない。
・さらに、治療に際して、治療にかかわる者は自分たちの見方とかかわり方も含めて検討する、厳しい態度が必要と思われる。

【感想】
 以上で、「Ⅱ章 自閉症の治療と治療教育」は終了する。著者は「おわりに」で、治療の有効性を検討するにあたり、3つの留意点をあげているが、その内容に、私は全く同意する。そのうえで、著者が「現在までに得られた知見、諸研究の成果」の中に、動物行動学者、ニコ・ティンバーゲン博士の研究、マーサ・ウェルチ博士の実践は含まれているのだろうか、それらの成果は、「再現性が確認されない」ために「妥当な方向で評価」することはできないということであろうか、また、著者は、治療にかかわる者として「自分たちの見方とかかわり方」をどのように検討したのだろうか、という点が気になった。いずれにせよ、次章からはいよいよ本書の核心と思われる「認知発達治療」についての論述が始まる。期待を込めて、読み進めたい。(2014.1.11)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《11》Ⅲ章 「太田のStage」評価法の開発(1)はじめに・自閉症の認知発達とその障害(1)

【要約】
《Ⅲ章 「太田Stage」評価法の開発》
【はじめに】
・東大の精神神経科で25年の歴史を持つ小児科デイケアにおいても、20年近く前には行動療法を取り入れた治療が行われた。(太田,1971;徐,1975)。しかし、子どもは教え込んだ課題の行動自体は学習したが、課題の意味は学ばなかった。我々は、目標とする行動についての短期の効果を科学的に数値で示すことはできたが、自閉症児の長期的な発達から見ての治療効果を上げることができなかった。
・その頃より、Rutter(1967,1968)の認知・言語障害説に代表されるような世界的な研究の流れにより、自閉症の行動異常の背後には重篤な認知・情緒の障害があることが明らかになってきた。
・東大精神神経科小児部でも、新しい知見を踏まえた認知障害に関する臨床研究が始まり、自閉症児の認知発達の特徴を明らかにするとともに、治療の試みの検討が始まった。Piagetなどの発達理論にそった表象能力の発達段階分けによる治療教育が有用性に高いことを明らかにするとともに、治療の実践の中で確認してきた。後に、その発達段階分けの評価法を提唱者の名前に因んで“太田のStage”と命名した。
・この章では、自閉症の特徴と障害をLDT(Language Decoding Tast:言語解読能力テスト)との関係で述べる。さらに、自閉症状との関連を示す。その後に、“太田のStage”についての臨床研究と臨床的有用性について述べる。
【1.自閉症の認知発達とその障害】
・自閉症は行動の特徴で定義されているとはいえ、その症状は個人個人によって大きく違う。自閉症の行動は、子どもの年齢と発達の段階によって特徴が異なる。ここでは、自閉症児の認知発達の特徴を明らかにするとともに、どの認知発達の段階でどのような行動の特徴が求められるかについて述べる。
1)シンボル表象期の壁
・一般の子どもにおいては、シンボル機能は1歳半から2歳までの間に出現し、言語、遅延模倣、遊び、描画、イメージの5つの側面で観察できるとされている(Piaget,1969)。
それ以前の時期では、子どもの認識は、経験に依存した知能であり、言語のように記号に置き換えたシンボルで物事を思考することはできない。
・自閉症児は発達の過程の中で、どのようにシンボル機能を獲得していくのであろうか。
我々の目標は、感覚運動期にとどまっている自閉症児が示す行動の特徴を知り、シンボル機能を獲得した子どもたちとどのように違ってくるのかを明らかにすることである。そこで、我々の研究(永井ら,1984b.1985a)を以下の紹介しつつ、自閉症児の初期の認知発達の特徴について述べる。
⑴自閉症幼児の認知発達
・対象児は、DSM-Ⅲの診断基準を満たす41名の幼児であった。
・その中で、どのくらいの子どもがシンボル機能を獲得しているかを知るために、LDT-1(子どもに絵カードを見せて物の名称をたずね、子どもが指さして答える)を実施した。このテストに応じられなかったり、6問中3つ以下の正答の場合は、単語の理解のない群(StageⅠに該当)、4つ以上に正答した場合は単語の理解のある群(StageⅡに該当)とした。結果は、単語の理解のない群が19名、単語の理解のある群が22名であった。年齢は2つのグループでよくつり合っていた。対象児の田中ビネーテストの結果は、テストに応じられない子どもから正常知能まで広い範囲に散らばっていた。単語の理解のない群では、テストに応じられない子が4名、その他15名の精神年齢(MA)の平均は19か月(1歳7か月)であり、ほとんど全員が24か月(2歳)以下のMAであった。これに対して、単語の理解のあるグループでは全員がテストに応じることができ、平均MAは37か月(3歳1か月)であり、ほとんど全員が24か月(2歳)以上のMAを示していた。また母親の評価した乳幼児精神発達質問紙で見ても、言語性の発達年齢では24か月(2歳)を境に分けられ、ほぼ同様の結果を示していた。単語の理解のある子どもで24か月(2歳)以下のDAを示したのは8名、いずれも言葉の表出のない子どもであった。
・LDT-1による評価法は、認知発達の点でかなり明確に2つのグループを分けることができた。
⑵単語の理解のない自閉症児の認知構造
・日常療育の中での観察により、シンボル表象機能の出現を評価した結果は、以下の通りである。単語の理解のない群では、大部分の子どもたちが有意味語を持たず、身振りによる表示もほとんどなかった。遊びは、物を振る、物をなめる、物をとんとんたたくなど感覚刺激的遊びに固執していた。描画は2名を除いて全員が形のある絵は描けなかった。これらの結果から、単語の理解のない群は2名を除いて全員が、無シンボル期または感覚運動期に相応する認知構造であることがうかがえた。
・一般の子どもたちでは、1歳半から2歳の間にシンボル機能を獲得し、感覚運動期からシンボル表象期へと移行するが、この移行には非連続性があることが多くの学者によって指摘されている(Piaget & Inhelder,1966;Vygotsky,1978;Emde & Harmon,1984)。ここでの我々の研究の結果から、自閉症における認知発達は、感覚運動期からシンボル表象期への、その非連続点が発達の越え難い壁として存在していることが強く推論される。この点についてはWingら(1977)の指摘とも一致している。
・幼児期の多くの自閉症児はシンボル機能の獲得に難しさがあり、その壁を乗り越えられずに感覚運動期にとどまっていること、シンボル象徴機能の発達の障害が自閉症の認知の発達の重篤な障害として現れていることが指摘されよう。
⑶クレーン現象の発達的意味
・幼児期の自閉症児では、目的のところに大人の手首をつかんで持っていって要求を達成するクレーン現象が目立つ。
・対象児41名のうち11名にクレーン現象が目立って観察された。この11名は全員が単語の理解のないグループに属し、クレーン現象が人への主な要求の手段となっていた。単語の理解のないグループのうち、1名は「何らかの身体接触」、5名は「指さし」、2名は「指さし+単語」であった。これに対して、単語の理解のある子どもたちは、主な要求手段として7割以上(16名)が「言葉」を用いており、その他は「指さし」2名、「指さし+単語」1名、「指さし+動作表示」2名、クレーン現象1名(ただし、まれに)という結果であった。
・自閉症児によく見られるクレーン現象は、シンボル機能を獲得していない感覚運動期にかなり特異的に見られる現象であることが推察できる。
・単語の理解のないグループでは、クレーン現象を主に用いている12名と、指さしあるいは単語を用いている7名とに分けられた。この子どもたちの平均年齢は、クレーン群では66か月(5歳6か月)、非クレーン群66.6か月(5歳7か月)で、差がなかった。
この2つのグループに認知発達的な相違があるのであろうか。その疑問を解くために、多くの側面からシンボル機能の出現の芽を調べて比較してみた。その結果、指さしあるいは言葉を要求手段としているグループでは、身振り模倣が7名中6名に認められ、(感覚遊び以外の)遊びや絵本への興味が見られていた。クレーン現象を要求手段とするグループには、身振り模倣はほとんど認められず、大半が感覚遊びになってしまっていた。つまり、クレーン現象のグループでは、どの側面にもシンボル機能の芽生えが認められなかった。また、知能テストの結果で見ると、テストにまったく応じられなかった子どもを含めて、18か月(1歳6か月)以下の精神年齢の者全員がクレーン現象の子どもたちであった。
・自閉症児の示すクレーン現象は、人への要求手段が多様化しておらず、感覚運動期の中でもより認知発達の低い段階にあり、指さしの獲得以前の段階であることを示していると言えよう。一般の子どもの発達では、クレーン現象は感覚運動期の第4期、月齢では8か月から12か月くらいの間に現れるとされている(Piaget,1966)。クレーン現象を主な手段としている自閉症児たちは、この時期に相応する認知構造であることが推測される。
⑷認知発達と自閉症状
・同じ対象児について、シンボル表象機能の獲得と自閉症状との関連について考察する。母親が評価した「自閉症行動質問表」により、社会性に関する項目を比較すると、視線を避ける、孤立、他の子を無視するなど対人関係の5つの項目では、その行動が「ある」と答えた母親の割合は、子どもに単語の理解の有る無しにかかわらず、差がみられなかった。しかし、それらの行動の程度が“目立つ”と評価した母親の割合は、単語の理解のない群のほうに多く、また常同行動などもこの群に多く訴えが認められた。これらの結果は認知発達の水準によって自閉症状が異なることを示している。
・認知発達の水準が低い子どもほど人への関心は乏しく、声かけに反応せず、常同行動が目立つなどの症状が強く認められている。単純な常同行動が精神遅滞の重い自閉症児に多いことはRutter & Bartak(1976)によっても指摘されている。
⑸課題と自閉症状
・次に、自閉症状と治療者の働きかけの課題との関係を見てみる。
・単語の理解のない子どもたちは、呈示された絵カードを無視する、チラッと見て目をそらす、絵カードをなめる、ヒラヒラと振って感覚遊びにふけるなどの行動が目立った。これに対して、単語の理解のある子どもたちは、絵カードをきちんと見て指さしていた。しかし、高すぎる課題になった途端に、視線回避、エコラリーなどが見られ、さらに課題をやらせようとすると、コマーシャルの繰り返し、訳のわからない独語、立ち歩き、子どもによっては自傷行為などが観察された。これらのことは、外界との相互交渉によって自閉症状が変化することを示している。
・本人の認知発達から見て不適切な働きかけは、自閉症状を強め不適応行動を増加させる要因になること、治療教育を行う際に、適切な課題を選択することの重要性をさし示していると言えよう。
⑹まとめ
・自閉症児は認知発達が高くなるに従って、人への関心、声かけへの反応は出現してくるが、いずれの認知水準であっても社会性の障害が強く現れている。「乳幼児精神発達質問紙」で見ると、単語の理解のある群でも、社会性発達指数は、単語の理解のない子どもたちと同様に低く、2つの群に差は認められない。
・自閉症は認知発達的には極めて低い段階にあるが、粗大な運動発達の点ではそれほど大きな遅れは認められない。また、シンボル機能のない子どもたちは、声かけへの反応は乏しいが、自分が一度体験していたことをよく覚えていたり、大人のやるのを見て機械の操作などをすぐに覚えてしまうなど、その認知水準ではあるが断片的に高い機能がしばしば認められる。これらのことから脳の機能障害との関連を推定すれば、障害は脳の機能全般には及んでおらず、比較的良好に保たれている部分があることを示していると言える。言葉の発達の遅滞、視線の合わなさ、同一性の保持、多動などの幼児期の自閉症児の行動特徴は、運動発達が比較的良好であること、一方で、認知発達に重篤な遅れがあり、しかも断片的に高い部分を残していることなど、発達的な不均衡さが一因となって形成されると考えることができる。

【感想】
著者は【はじめに】で、25年にわたる自閉症治療の経験をふりかえり、当初の5年間は「行動療法」を行った、と述べている。その結果は、目標とする行動についての「短期の効果」を科学的に数値で示すことはできたが、長期的な発達から見ての治療効果を上げることはできなかった。そこで、自閉症の障害を発達的側面から捉えようとする方向をめざし、認知障害に関する臨床研究に着手した。この章では、まず自閉症の表象機能の発達を認知発達の面から捉え、その特徴と障害をLDT(言語解読能力テスト)との関係で述べ、さらに、認知発達と行動(自閉症状)との関連で示す、ということであった。
 その結果は(私なりに要約すると)以下の通りである。
1.41名の自閉症幼児に、LDT-1(絵カードを見せ物の名称をたずねて指さしで答えさせる・6問)を実施したところ、正答率50%以下が19名であった。その19名の精神年齢(田中ビネーテスト)の平均は1歳7か月であり、全員が2歳以下であった(単語の理解のない群・A)。正答率50以上は22名であった。その精神年齢の平均は3歳1か月であり、全員が2歳以上であった(単語の理解のある群・B)。母親の評価した「乳幼児精神発達質問紙」でも、A群とB群は2歳を境に分けられ、ほぼ同様の結果であった。
2.日常療育の中での観察により、シンボル表象機能の出現を評価した結果、A群では、有意味語、身振り表示がなく、感覚刺激的な遊びに固執し、2名を除いて描画ができなかった。したがって、17名は無シンボル期(感覚運動期)に相応する認知構造である。
3.41名のうち12名にクレーン現象が観察された。(クレーン群)12名は全員がA群に属し、それが人への要求手段になっていた。A群の中で7名は指さしや単語を要求手段として使っていた。(非クレーン群)クレーン群には、身振り模倣はなく感覚遊びが大半であったが、非クレーン群には身振り模倣が認められ、おもちゃや絵本への興味が見られた。クレーン群の精神年齢は1歳6か月以下であり、一般の子どもの8~12か月くらいの時期に相応する認知構造であることが推測される。
4.母親が評定した「自閉症行動質問票」の社会性の対人関係に関する5つの項目では、「ある」と答えた母親の割合はA群とB群に差が見られなかった。しかし「目立つ」と評価した母親の割合はA群の方が高かった。また、常同行動もA群の方が多かった。認知発達の水準によって自閉症状が異なることを示している。認知発達の水準が低い子どもほど、症状が強く認められている。
5.A群に比べてB群は「課題」に対してよく集中するが、高すぎる課題になった途端に自閉症状が顕著になった。不適切な働きかけは、自閉症状を強め不適応行動を増加させる要因になる。
6.自閉症児は、いずれの認知の水準であっても、社会性の障害が強く現れている。(「乳幼児精神発達質問紙」の社会発達指数はA群とB群に差はない)
7.幼児期の自閉症児の行動特徴は、運動機能が比較的良好であることと、認知発達に重篤な遅れがあり、しかも断片的に高い部分を残していることなどの発達的な不均衡さが一因となって形成されていると考えられる。

以上の7点から明らかになったことは何であろうか。自閉症の幼児の半数は「無シンボル期」の認知構造にある。しかし、半数はシンボル(有意味言語)を獲得している。その境目は、精神年齢・発達年齢の2歳レベルである。クレーン現象は「無シンボル期」にある子どもが、人への要求手段として用いる。認知発達の水準によって、自閉症状は異なる。しかし、どの水準にあっても、社会性の障害は強く現れている。要するに、それらは自閉症児に、様々なテストを行い評価した結果の「実態」に過ぎない。私が知りたいのは、そうした認知の障害が、どのようにして「自閉症状」を引きおこすかという「因果関係」である。「⑸課題と自閉症状」の節で、著者は「外界との相互交渉によって自閉症状が変化する」「本人の認知発達から見て不適切な働きかけは、自閉症状を強め不適応行動を増加させる要因になる」と述べている。また「⑹まとめ」の節では、「幼児期の自閉症児の行動特徴は(中略)発達的な不均衡さが一因となって形成される」とも述べている。要は、「不適切な働きかけ」(環境要因)か、「発達的な不均衡さ」(脳機能障害)か、という問題に絞られるが、現状では「そのいずれも該当する」という答が妥当であろう。だとすれば、臨床研究の方向として、そのエネルギーを「認知構造」の解明だけに向けるのではなく、その子どもを取りまく(生育歴をも含めた)「環境要因」にも向けなければならないのではないか、と私は強く思った。(2014.1.12)

【付記】
・著者らが対象にした自閉症児41名に見られる「能力差」は、「認知」の領域ではなく、「情意」(コミュニケーションへの意欲と、その手段の獲得)の差であることが見落とされている。例えば「自閉症児の示すクレーン現象は、人への要求手段が多様化しておらず、感覚運動期の中でもより認知発達の低い段階にあり、指さしの獲得以前の段階であることを示していると言えよう。一般の子どもの発達では、クレーン現象は感覚運動期の第4期、月齢では8か月から12か月くらいの間に現れるとされている(Piaget,1966)。クレーン現象を主な手段としている自閉症児たちは、この時期に相応する認知構造であることが推測される」と述べられおり、「人への要求手段が多様化」しない要因を「認知発達の低」さに求めているが、生後8カ月までの(親子の)コミュニケーション(情報の伝達、感情の交流)のあり方を見極めることの方が、より「現実的」ではないか。物に向かって手を伸ばす、親と一緒に対象物を見る、親の指差し行動に注目し、それを模倣する、といった行動の繰り返し(コミュニケーションの頻度)がどの程度であったかを見直すことが重要である。一般の子どもの場合、クレーン現象が現れずに指差しを始めるケースがほとんどではないだろうか。
・要するに、自閉症児と一般の子どもの違いは「認知発達」ではなく「コミュニケーション能力」(親子のかかわり方)の差であると考えるべきである。
(2016.12.8)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《12》Ⅲ章 「太田Stage」評価法の開発(2) 自閉症の認知発達とその障害(2)

【要約】
2)シンボル表象期への移行期の問題
・自閉症児にとって感覚運動期からシンボル表象期への移行は滑らかではない。言葉の芽生えが認められても、その後、シンボル機能を獲得していく移行期の意味を持っている場合と、本来のシンボル機能を容易に獲得できない場合とがある。
⑴シンボル機能を伴わない言葉
・一般の子どもでは、10~12か月くらいからカタコトながら少数の有意味語を発するようになる。パパ、ママ、ネンネ、バイバイ、ココ、ワンワンなどであり、これらの言葉は、本来の言語としての機能であるシンボル性を持っていないとされている。また、指さし行動も、これらのいわゆる“1語文”とほぼ同じ時期に現れるとされている(小林,1980)。
・中島(1980)の研究によれば、ある女児は10か月のときから「ボッチ(帽子)」を使い始めたが、外出時にいつも帽子をかぶっていたので「外に行きたい」ことを意味していた。
この言葉は表現の対象と子どもの欲求とが分化していない。このような現象は、シンボル機能を獲得していない比較的重度の遅滞の自閉症児によく観察される。(外に行きたいときに「クツ」と言う。ドライブに行きたいときに「カギ」と言うなど)女児は「ボッチ」をいったん使わなくなった後、1歳5か月時に、改めて帽子に対して「ボーシ」と表現するようになった。中島は、“帽子に関する語を使用するという形は連続しているが、その機能は非連続である”ことを指摘している。シンボル機能を伴わない言葉の使用がいったん消える時期には、自作語や無意味な音声が一時的に増えているとの観察も、自閉症児の認知発達、特に言葉の発達を考える上で興味深い。
*女児が30分間に発した各種音声の平均頻度(中島,1980)
・自発的使用の有意味語:10か月に現れ(10回)11か月まで増える(30回)が、以後1歳2か月まで減少(数回)、1歳3か月より増え始め(30回)1歳6か月では(70回まで)上昇した。
・模倣的使用の有意味語:10か月に現れ(10回)たが1歳まで減少、以後1歳2か月より飛躍的に増加した。1歳6か月では90回以上。
・自作語:10か月に現れ(数回)、徐々に上昇して1歳1か月にはピークに達する(90回)が、以後は激減して、1歳4か月には消失した。
・無意味音声:10か月時には最多(100回以上)、以後1歳1か月まで徐々に減少(30回、1歳2か月に再度上昇(85回)するが、以後再び減少して1歳6か月には15回程度になった。消失はしない。
⑵“折れ線現象”の発達的な意味
・“折れ線現象”とは、自閉症児の発達経過の中で、退行的な変化が現れることをさし、その大部分は発語の消失である。自閉症での発生頻度は20~50%である(栗田、1987)。
・消失以前の言語は、極めて限定された場面での使用であり、シンボルとしての機能を有していないことが推察できる。
・一般の子どもの言語発達では、これらの言葉がいったん消失すると同時に音声の記号化、体制化過程が進行し、改めて本来のシンボル機能を持った言語が発達する。
・自閉症児においてはシンボル表象機能に障害を持ち、この過程が発達してこないために、移行期のつまずきが退行的な変化として観察されると考えられる。その後、遅れてシンボル機能を持った言葉が出現する場合と、シンボル機能を獲得しないまま成長する場合がある。
・“折れ線現象”を示した自閉症児のほうが予後が悪く、その後の発達の遅滞が大きいと報告されている。(星野ら,1986)
・発達的な観点からは、退行とは言い難く、シンボル機能の形成の不全を意味していると考えられる。
・少数の自閉症児では、シンボル機能を獲得した後に退行を示すこともある。この場合には、脳機能の強い脆弱性あるいは変性を想定する必要もあろう。
3)概念形成の難しさ
・自閉症児の中でも半数以上は幼児期にシンボル機能を獲得している。また、全体としては加齢とともに徐々に発達し、多くの自閉症児がシンボル機能を獲得していく。
・ここでは、シンボル機能を獲得した自閉症児にはどんな認知の障害があるか、について行った研究(太田ら,1978;Ohta,1987)について述べる。
・この研究の対象はDSM-Ⅲの基準を満たし、かつWISCでP-IQ(動作性知能指数)が70以上を示す16名の自閉症児であった。男15名、女1名であり、暦年齢は6歳3か月から14歳4か月、平均年齢10歳2か月であった。対照群は、年齢とP-IQをつり合わせた16名の正常児と多動児であった。
⑴比較の概念における障害
・まず比較の概念が形成されているか否かを調べるために、まるの大小比較が理解できるか否かを調べた。方法は2つのまるの大小比較と3つのまるの大小比較からなっており、我々はこれをLDT-3と呼んでいる。3つのまるの大小比較とは、一番小さいまるを手で隠してどちらが大きいかを問い、次に一番大きいまるを隠してどちらが大きいかを問う課題である。
・この課題では正常発達の3歳児では90%以上が正答したが、対象の自閉症児では16名中7名が正答しなかった。対照群の子どもは全員が正答だった。自閉症群の精神年齢(MA)の平均は7歳で、最低でも4歳2か月であった。当然できてよいはずの大小比較の課題ができず、自閉症児は比較の概念の形成が特異的に落ちていることを示していた。
・次に、空間関係の概念の形成を見るために、LDT-4と呼ぶ空間関係のテストを実施した。このテストの方法は、子どもの目の前に積み木、ボタン、犬(ミニチュア)、箱、ハサミ、を順に並べておき、①犬を取って下さい、②ボタンを箱の上に置いてください、③ハサミを積み木のそばに置いてください、④箱をボタンの上に置いてください、⑤積み木をハサミのそばに置いてください、の5問に答えるテストである。
・結果は、自閉症群の16名中8名は、5問中2問以下の正答であった。対照群は16名すべてが全問正答していた。5問中2問の正答は正常発達の3歳児水準に相応している。
これらの結果から、自閉症児はシンボル表象機能を獲得した後も、関係の概念の形成の時点において発達の困難さを伴うことが指摘できる。
⑵自閉症における認知の特異的パターン
・自閉症児の認知発達の特徴を明らかにするために、対象となった子どもたちのWISCの結果を示す。
・自閉症群の言語性知能指数(V-IQ)の平均は65、動作性知能指数(P-IQ)は85であり、言語性のほうが有意に低かった。下位問題を見ると、言語性の中でも「一般的理解」は最も悪かった。「数唱」は言語性の中では最もよくできていた。動作性の中で、「積木模様」と「組み合わせ問題」の課題は、対照群と同様に正常範囲の成績であった。しかし「絵画配列」のできは最も悪かった。
・この結果は、諸外国の他の研究者の報告(Allen, et al, 1991:Bartak & Lutter,1976;Wassing
1965)ともかなり一致しており、非常に再現性の高い所見であることがわかる。
・Allenらの研究の結果を比較してみると、「WISCの検査のプロフィール」は、驚くほど一致したパターンと達成率を示していた。(動作性に比べて言語性の成績が低い、「積木模様」「組み合わせ問題」が突出してよい、「絵画配列」はできが悪いなど)
・このようなパターンは、自閉症児が、言語性の意味理解の乏しさに対して、非言語性の視覚入力に関する機械的な記憶能力を運動系で表出する能力は障害されていないことを示している。また、言語性であっても、機械的な記憶力に関するものは比較的良好であり、言語的な意味理解を必要とする能力は劣っていることを示している。
・これらの研究結果から、視覚的入力による機械的な記憶能力は10歳代の能力を持っているが、社会性と関係のある言語の表現能力は極めて低い能力しかないと仮定できる。
・ここでの結果は、人種・文化・言語が違い、育ってきた生活や教育環境が違っていても、対象の自閉症児はまったく類似した認知のパターンを示すことを明らかにした。これらのことにより、自閉症児の示す極めてアンバランスで特異な認知のパターンは、自閉症における精神機能のある特定のシステムの障害と深く関係していることが考えられる。そのことは、脳機能の障害の特異性を表している可能性があることを示している。さらに、これらの障害が自閉症の示す必須の症状を形成する一因となっていることが強く推論される。

【感想】
 ここでは、「自閉症児は、シンボル表象機能に障害をもち、遅れて獲得する場合と、獲得しないまま成長する場合がある。後者の場合は、予後が悪く、その後の発達の遅滞が大きい(星野ら,1986)。自閉症児の半数以上は幼児期にシンボル機能を獲得しているが、その後の概念形成に難しさがある。大小の比較の概念、空間関係の概念形成について、テストしたが、正答者数43%~50%程度であり、「特異的に」落ちていた。正常発達の3歳児水準に相応している。また、WISCの結果では、①動作性優位、②「一般的理解」が最も悪く「数唱」はよくできる、③「積木模様」「組み合わせ問題」は正常範囲だが「絵画配列」は最も悪かった。このパターンは諸外国の研究報告ともかなり一致しており、自閉症児に共通した「特異な」の認知構造だと思われる」というようなことが述べられていた。つまり、自閉症には、シンボル表象機能の障害、概念形成の困難さがあり、アンバランスで特異な認知パターンが認められる、という「事実」が述べられている。そこまでは、(事実なのだから)私も十分に納得できるのだが、「その認知パターンは、自閉症における精神機能のある特定のシステムと深く関係している」「そのことは脳機能の障害の特異性を表している可能性がある」「これらの障害が自閉症の示す必須の症状を形成する一因となっている」という推論になってくると、肯けない。まず第一に、「(精神機能の)ある特定のシステム」とは、どのようなシステムか、具体的に「事実」として説明してもらいたい。また「脳機能の障害の特異性」という表現も曖昧である。脳のどのような機能が、どのように障害されているのか、具体的に示してもらいたい。さらに言えば、「これらの障害が自閉症の示す必須の症状を形成する一因となっている」という推論には、根拠が示されていない。もし、その根拠が自閉症に共通した「特異な認知パターン」だと言うのなら、その「認知」と「必須の症状」との関連性(因果関係)が証明されなければならないのではないか。私の独断と偏見によれば、シンボル表象機能に障害があり、概念形成が困難で、動作性優位、「一般的理解」「絵画配列」の成績が悪く、「数唱」「積木模様」「組み合わせ問題」が正常範囲であるというような子どもは、「自閉症児」以外にも、数多く見受けられる(たとえば、いわゆる「学習障害児」)。学習障害児が「自閉症」にならないのはなぜか(学習障害児の「特異的な認知パターン」と自閉症児の「特異的な認知パターン」にはどのような違いがあるのか)。著者の見解を伺いたい、と強く思った。(2014.1.13)

【付記】
 著者らは「自閉症児」を第三者として『客観的』に観察し、その結果を『統計学的』に分析しているにすぎない。一度獲得した言語
が消失していくことを「折れ線現象」と称して、自閉症児の側だけに支障(障害)があるかのように述べられているが、「なぜ消失していくか」ということを、親子の「かかわり方」の問題として考察するべきである。言語に限らず、子どもが発した「泣き声」を親が無視すれば、「泣き声」は消失する。子どもがパパ、ワンワン、ネンネ、バイバイなどという言語を発しても、親がそれを言語として受け入れ「かかわろう」としなければ、消失する。言語はコミュニケーションの手段であり、発信者と受信者の「相互交渉」によって発達していくことは当然であろう。著者らは、①子どもが泣き声を発した場合、親はどのように対応したか、②子どもが喃語を発した場合、親はどのように対応したか、③子どもがパパ、ママ、マンマ、ネンネなどと言い始めたとき、親はどのように対応したか、についても追求しなければならない。
 また、自閉症児に実施したWISC知能検査から、「人種・文化・言語が違い、育ってきた生活や教育環境が違っていても、対象の自閉症児はまったく類似した認知のパターンを示すことを明らかにした。これらのことにより、自閉症児の示す極めてアンバランスで特異な認知のパターンは、自閉症における精神機能のある特定のシステムの障害と深く関係していることが考えられる。そのことは、脳機能の障害の特異性を表している可能性があることを示している。さらに、これらの障害が自閉症の示す必須の症状を形成する一因となっていることが強く推論される」と述べているが、早計である。人種が違っても言語発達は、「喃語期」までは世界共通であり、「育てられ方」が同じであれば、類似した認知のパターンを示すことは当然であろう。子どもの側の共通点を明らかにする前に、親の「育て方」に共通点はないかを考えるべきである。
 専門家は、第三者としてではなく、『第二者』として自閉症児に接することが大切であり、今、スムーズにかかわることができない相手との「かかわり方」(自分と相手との関係)を研究の対象にしなければ、結局「推論」(推測)の域を出ることはできないのである。(2016.12.11)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《13》Ⅲ章 「太田のStage」評価法の開発(3)「太田のStage評価」の妥当性と有用性(1)

【要約】
【2.「太田のStage評価」の妥当性と有用性】
・自閉症児の認知発達における障害には、①感覚運動期からの脱出に困難さがある、②シンボル表象的な思考の段階に移行できない、③シンボル機能を獲得後も、比較や空間の概念などが獲得しにくい、などの問題がある。さらに比較的良好に発達を遂げた場合でも、認知のアンバランス、特異なパターンが認められる。
・我々は、そのような障害を踏まえた上で、シンボル表象機能の5つの段階を評定する方法としてLDT(言語解読能力テスト)を用いた発達段階評価法を開発してきた。この認知発達段階を“太田のStage”と命名し、その妥当性と有用性について検討してきた。さらに、その評価法による治療教育のねらいと課題を系統的に整理し、実践の中で試みつつ修正を加えてきた。
1)発達評価法としてのStage評価の検討
 ここでは、①仮説した5つのStage段階に従って自閉症児を発達の順序に矛盾なく評価できるか、②各Stageごとに認知能力に明瞭な相違があるか、について研究・検討してきた過程を述べる。
⑴研究の際のStage分けの方法(LDT)
LDT-1:時計・猫・りんご、ボール、靴、自動車の絵が描かれている1枚の絵カードを呈示して、物の名称で質問し、子どもは指さしで答える。4問以上の正答で合格とし、StageⅡ以上と評価する。不合格の場合はStageⅠとなる。
LDT-2:帽子、はさみ、三輪車、椅子、コップ、鉛筆の絵が描かれている1枚の絵カードを呈示して、物の用途で質問し、子どもは指さしで答える。幼児は4問以上、学童は6問正答で合格とし、StageⅢ-1以上と評価する。不合格の場合はStageⅡとする。
LDT-3:大小の2つのまるが描いてある1枚のカードを呈示して、どちらが大きいかを問う。正答の場合はさらに、3つのまるの描いてある1枚のカードを呈示して、初めは一番小さなまるを手で覆ってどちらが大きいか問い、次に一番大きなまるを手で覆ってどちらが大きいか問う。いずれの場合も子どもは指さしで答える。どちらの課題も正答の場合に合格とし、Stage-2以上と評価する。不合格の場合はStageⅢ-1とする。
LDT-4:子どもの前に、積木、ボタン、犬のミニチュア、箱、ハサミを順に横に並べて、5つの課題を2回ずつ施行する。①犬を取ってください。②ボタンを箱の上に置いてください。③ハサミを積木のそばに置いてください。④箱をボタンの上に置いてください。⑤積み木をハサミのそばに置いてください。①から③までの課題と④または⑤の課題が2回とも正しく実行できたときにStageⅣと評価する。不合格の場合はStageⅢ-2となる。
LDT-5:この課題はStageの操作基準には入っていない。白と黒の碁石を用いいて以下のように行う。①黒の碁石を5つ並べそれと対応させて白の碁石を4つ並べて、どちらが多いかを問う。②白の碁石を1つ足して、白黒を同じ5つずつ並べてどちらが多いかを問う。③黒の碁石だけ間隔を広げて、どちらが多いかを問う。
⑵研究の対象
・対象は3~13歳の自閉症児(DSM-Ⅲに従った)89名であった。幼児35名、小学生52名、中学生2名。性別は男児74名、女児15名で性比は約5対1であった。
⑶LDTによるStage分けの結果
・結果は、StageⅠが21名(23.7%)、StageⅡが18名(20.2%)、StageⅢ-1が20名(
22.5%)、StageⅢ-2が24名(27.0)、StageⅣが6名(6.7%)であった。
⑷田中ビネーテストとの関係
・StageⅠでは、全員がIQ50未満で中度以下であり、重度と最重度が大部分(90.5%)を占めていた。
・中度以下の占める割合は、StageⅡ83%、StageⅢ-1では45%、StageⅢ-2では29%、StageⅣで0%であった。StageとIQとの間には強い相関があった。
・IQを暦年齢との関係で見ると、対象児全体ではまったく相関が認められなかった。
・Stage別にIQと暦年齢との関係を見ると、各Stageともに、暦年齢が高くなるにしたがって、ゆるやかにIQが低下する有意な負の相関が見られた。
・精神年齢(MA)と暦年齢との関係では、対象児全体では年齢が高くなるにつれてMAが高くなるという有意な正の相関が認められた。Stage別に年齢とMAとの関係を見ると、StageⅡを除いては、両者に明白な関係は認められなかった。
・Stageが上がるごとにIQは高くなり、Stage間に明瞭な差が認められた。同じStageでは暦年齢が高いほど、発達の遅滞が重度なことを示していた。
⑸表出言語との関係
・対象児全体の中で、有意味語のない子どもが28%(A)、1語文が8%(B)、2語文が25%(C)、3語連鎖以上が39%(D)であった。StageⅠではAが8割以上を占めており、残りの子どもたちもたまに単語を発する程度であった。StageⅡでは、AからDまで最も多様であった。StageⅢ-1になるとAは少なくなり、9割の子どもはC、Dであった。StageⅢ-2、Ⅳの子どもでは全員が確実に言葉を獲得しており、日常のコミュニケーションの手段として用いていた。
・Stageの段階は言語理解の程度で評価され、表出する言葉とは関係なく評価されるが、両者は強く関係していることが示されていた。
⑹空間テスト(LDT-4)の達成率
・「犬を取ってください」:StageⅠの子どもはほとんどできなかったが、StageⅡ以上では全員ができていた。
・「ボタンを箱の上に置いてください」:StageⅠ,Ⅱではまったくできず、StageⅢ-1でも40%しかできなかったが、StageⅢ-2の子どもでは約80%の子どもが正答していた。
・「ハサミを積木のそばに置いてください」:さらに正答率は低く、StageⅢ-1の子どもでもほとんどできず、StageⅢ-2の子どもでも30%余に過ぎなかった。
・このテストの結果ではStageが高くなるごとに言葉による関係の理解がすすんでおり、Stage間に明瞭な差が認められた。認知面では、StageⅢ-1ではもちろんのこと、StageⅢ-2
の子どもでも、物と物の関係を正確に言語で理解することは難しいことが示されていた。
⑺保存の概念の達成率
・LDT-5の正答率をStage別に見ると、①多少の理解、②同じの理解、③数の保存の概念についてどの課題もStageⅠ、Ⅱ、Ⅲ-1の子どもはまったくできなかった。StageⅢ-2の子どもでは、①多少の理解は50%余、②同じの理解は約40%、③数の保存の概念は25%の子どもができていた。StageⅣは対象人数が6名で、①多少の理解、②同じの理解は1名を除いてできていた。(達成率83.3%)③数の保存の概念は2名ができなかった。(達成率66.7%)
⑻指さしとの関係
・要求時の指さしは、StageⅠの子どもでは30%に満たないが、StageⅡ、Ⅲ-1では60%
近くに認められ、Stage-Ⅲ-2、Ⅳではほぼ全員に認められていた。
・応答的な指さしは、StageⅠの子どもではほとんど認められず、StageⅡ以上ではほぼ全員に認められていた。
・叙述的な指さしは、最も遅れて出現し、StageⅢ以上にならないと、あまり観察されなかった。
・つまり、Stageが上がるごとに、指さしの出現率の上昇と分化の方向が認められた。
⑼5つの行動特徴とStageとの関係
・89名の対象児のうち、StageⅠの子どもたちの47.9%は①言葉をかけても知らんふり、47.6%は②絵本を見せても目をそらす、52.4%は③機能的なおもちゃ遊びをしない、42.9%
は④ものまねによる表示をしない、47.4%は⑤基本的な要求はクレーン現象のみ、という行動特徴が目立っていたが、StageⅡ以上の子どもでは、目立たなく(多くても22.2%
程度)なっていた。このような行動特徴は、感覚運動期にある自閉症児の特徴であることが再確認された。
⑽この研究のまとめ
・このStage評価は、矛盾なくきれいに分類できた。設定した5つのStageの段階は、認知発達の側面から見ても発達の順序に並び、各々のStage間にはっきりした相異が認められた。したがって、Stage評価は、発達評価尺度として、かなりの妥当性がある。
・また、LDT-4、LDT-5などの課題への応答のしかたにより、子どもの認知の水準をさらに的確に知る利点もある。
⑾他の研究から
・黒木ら(1990)の研究(学齢児に対してStage別に田中ビネーテストの下位設問を詳しく解析した):StageⅠでは、言語系の課題はまったくできておらず、シンボル機能を獲得していない段階であること、StageⅢ-1では、物の名称がわかり、シンボル機能を獲得した段階であると言えるが、「理解」や「反対類推」のように、物と物の関係を頭の中で考えることはできないなどが示され、Stageによる認知の違いを明らかにしていた。
・岩口ら(1989)の研究(太田のStage評価を用いて、一般保育園児の前言語的行動の発達を調べた):Stage評価の高い子どもは、感覚運動的な遊びよりも見立て遊びやふりをする描写的な遊びが多く見られたこと、Stage評価の高い場合は、親と保母の前言語的な行動の評価がともに高いことを報告している。このことは、太田のStage評価は、一般の子どもの発達についても、表象機能の発達の評価が可能であること、発達評価法としての妥当性があることを示している。
2)一般の子どもでの検討
・LDT-1(物の名称の理解)、LDT-2(物の用途の理解)については、田中ビネーテストの標準化の際の年齢による達成率から知ることができるが、LDT-3(大小の比較)、LDT-4
(空間関係の概念)、LDT-5(数の保存の概念)は独自の課題であるために、一般の子どもについての年齢による達成率を調べる必要があった。そこで3~5歳までの幼稚園児176名を対象にLDTの課題、動作模倣の発達に関する課題のテストを施行した。
・その結果、LDT-3(3つのまるの大小比較)では、3歳児の90%ができていた。LDT-4
(空間関係の概念)では、4歳前半で50%を超え、4歳後半では80%を超えていた。したがって、この基準による課題は4歳台で達成されると考えられる。サブテスト④および⑤の達成率を見ると、④「箱の上にボタンを置いてください」の課題は、⑤「積木をハサミのそばに置いて下さい」よりも難しい課題であり、4歳前半で約50%、4歳後半で70%台の達成率を示していた。LDT-5(数の保存の概念)では、多少の理解は3歳前半から80%を超えていた。「同じ」の理解は、3歳後半で50%台を超え、4歳前半では80%を超えていた。「保存の概念」は5歳前半までの子どもはほとんどできず、5歳後半から急に達成率が立ち上がっていた。おそらく6歳台に達成される課題であると思われる。

【感想】
 ここまでは「太田のStage」評価法の内容と方法、および妥当性について述べられている。つまり、そのStageが、いかに認知の発達を踏まえたものであるか、それぞれのStageの間に、いかに明確な差異があるかについて詳しく説明されている。評価法の内容は「言語性検査」であり、子どもには、①検査者から逃げ出さない、②検査者の働きかけ(指示)を理解する、③検査者の働きかけに応じる(指さし・動作・口答)という条件が必要である。StageⅠは、LDT-1(6種類の絵が描かれている1枚の絵カードを呈示され、○○はどれですか」という質問に指さしで答える)ことが不合格(正答率50%以下)ということだが、そうした子どもたちには、①の条件が満たされない、また②の条件を満たしても③の条件が満たされない、といった様々なケースがあるのではないか。この評価法の中で要求される能力は(まず検査者との信頼関係という情緒的安定は大前提として)、①視覚的弁別能力(絵を見分ける)、②聴覚的弁別能力(音声を聞き分ける)、③聴覚ー運動連合過程(聞いて・見て指さす、聞いて・見て手で操作する)、④聴覚ー音声連合過程(聞いて・見て口答する)である。LDTのそれぞれの課題は、それらの能力のうちどれを必要なものとしているか、という観点から、結果を解析することも必要ではないだろうか、と私は思った。著者は、89名の対象者にLDTを施行し、各Stageと田中ビネーテスト、表出言語との関係を考察し、空間関係テストや保存の概念の達成率を解析しているが、「Stageが高くなるほどIQが高くなる」「Stageが高くなるほど表出言語が豊かになる」「Stageが高くなるほど比較・空間・保存の概念が高くなる」といった、いわば「当たり前」のことが明らかになっただけではないだろうか。そのことで、「太田のStage」の妥当性が証明されたことは肯ける。しかし、Stage1に分類された21名(23.7%)「全員」が、(認知発達の観点から)「無シンボル表象期」(感覚運動期)と断定してよいか。著者はまた、Stageと「指さし」との関係を考察している。その結果は、「Stageが上がるごと指さしの出現率の上昇と分化の方向が認められた」と要約されているが、StageⅠで、要求時の指さしが28.6%と最も多く、以下「応答的](14.3%.)、「叙述的(4.8%)という順であった。この傾向(出現順)はStageⅡ以上でも顕著であったが、なぜだろうか。つまり、自閉症児には「同じ指さしでも、興味のある物を見た時に出現する叙述的な指さしが遅れる」という特徴がある、それななぜだろうか、という観点からは考察されていない。さらにまた、Stageと「5つの行動特徴」との関係にも触れているが、StageⅠの半数(50%前後)が①言葉かけをしても知らんふり、②絵本を見せても目をそらす、③ものまねによる表示をしない、④基本的な要求はクレーン現象のみ、という行動特徴が「目立つ」ことが明らかになっただけで、それ以上のことはわからなかった。大切なことは、その「目立つ」群と「目立たない群」の差異はどこにあるかを明らかにすることだと、私は思うが、認知発達の水準は、いずれもStageⅠで、(認知発達の水準からは)解明のしようがない。
 いずれにしても、ここまでは「妥当性」があるかないかという論述だから肯くとして、ではどのような「有用性があるか」、次節を期待をもって読み進めたい。(2014.1.15)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《14》Ⅲ章 「太田のStage」評価法の開発(4)「太田のStage評価」の妥当性と有用性(2)・おわりに 

【要約】
3)Stage評価の臨床的検討
・我々は、臨床的な側面での有用性に関しても臨床研究を行いつつ、デイケアの治療教育の実践の中で深めてきた。ここでは、Stageの有用性を確認したり、さらに深めるのに役立った臨床研究を紹介する。
⑴StageiⅠの検討
・4症例を通してまとめた研究(仙田ら,1984)からStageⅠの治療教育の取り組みの内容および問題点を示す。
・4症例は全員5歳、重度な遅滞をもつ自閉症の幼児、この子たちに対してStageⅠの治療教育のねらいと課題内容を盛りこんだプログラムにそって、1日5時間、週2日の治療が行われた。この症例から以下のことを学んだ。
①1年間の治療教育の終了後、いずれの子どももStageⅠの段階にとどまっており、「乳幼児精神発達質問紙」の初期のシンボル機能に関係する項目および象徴遊びの面から見てもほとんど変化が見られなかった。(シンボル表象機能の発達の障害が重篤であることを示している)
②この子どもたちはStageの変化は見られなかったが、状況に即した言葉かけを理解して行動できるようになり、課題や場面の意味に気づきはじめ、働きかけに対する拒否がなくなり、大人に関心をもち目的的なかかわりが増した、などの発達的な変化が認められた。(発達を促進するための治療教育が必要であり、治療の効果が期待できる)
③4名の子どもたちは同じStageⅠといえども、働きかけの内容と配慮を2名ずつによって変える必要があり、特に、一方の2名は働きかけに細かい工夫が必要であった。(2つのグループには認知発達の違いのあることが推察された)
⑵StageⅠの下位段階
・同じStageⅠの幼児期の子どもの中で、認知発達が違うと推定された3症例を通して幼児自閉症の認知発達指針の再検討をまとめて報告した(斎藤ら,1985)。
・子どもの示す人への主な要求手段によって、認知発達の水準がさらに3段階(クレーン現象しか示さない、クレーン現象以外の手段を持つ)に分けられることを再確認し、各々の段階での発達課題をまとめた。
・StageⅠの中に、StageⅠ-1、StageⅠ-2、StageⅠ-3の下位段階を設定した。
⑶StageⅢ-1の検討
・StageⅢ-1(物の用途の理解)からStageⅢ-2(比較の概念)に移行するために、どのような課題ができるようになればよいか、を検討した。
・LDT-4(空間関係テスト)への反応のしかたで、StageⅢ-1の子どもたちは、認知発達の観点から2つに分けられる。すなわち「ボタンを箱の上に置いてください」「ハサミを積木のそばに置いてください」のどちらか一方の課題で、指示された2つの物を何らかのかたちで関係づけようとする場合(“関係づけ群”)と、2つの物を正しく取れない、あるいは反応しないなどの場合(“非関係づけ群”)である。この2つのグループについて比較研究をした(太田ら,1989)結果、IQ、有意味語の出現状態、描画、象徴遊びなど、いずれも“関係づけ群”のほうがより高次の段階にあることが明らかになった。(“関係づけ群”年齢6歳7か月、発達年齢4歳1か月、発達指数62、言語領域発達年齢3歳8か月、言語領域発達指数55:“非関係づけ群”年齢6歳0か月、発達年齢3歳0か月、発達指数49、言語領域発達年齢2歳3か月、言語領域発達指数35 *数値はいずれも平均)
・この視点は、我々がStageⅢ-1の自閉症児の治療教育を行うときの重要な目安になっている。
⑷Stage評価と遊びの発達
・これまでの研究(亀井ら,1988)によると、自閉症児は象徴遊びの出現が乏しいこと、象徴遊びの発達とStage評価との間には明瞭な関係が示されている。
・StageⅠ:象徴遊びなし5名、象徴遊びはないが再現遊びがある3名
・StageⅡ:象徴遊びはないが再現遊びがある5名、象徴遊びの芽生えが認められる2名
・StageⅢ-1:象徴遊びはないが再現遊びがある1名、象徴遊びの芽生えが認められる3名、象徴遊びがある1名
⑸Stage評価とこだわり行動
・DSM-Ⅲ-Rでは、こだわり行動(常同行動)を5項目にまとめている。①常同的な身体運動、②物の部分への持続的な没頭、③環境のわずかな変化に対する激しい苦痛、④通常の手段への過度の執着、⑤興味の範囲の限局と狭い興味への没頭。
・仙田らの臨床研究(1990)によれば、①は認知発達によって必ずしも減弱しない、②から⑤の出現状態は、Stageの段階によって明確な違いが認められる、という結果であった。
⑹Stage評価と自傷行為
・仙田らの研究(1988)は、明確な自傷行為を伴う2名の自閉症児(幼児)について、治療教育の経過を追ってまとめたものである。1名はStageⅠ-2の段階にあり、有意味語はなく、要求手段はクレーン現象のみ、遊びは物をヒラヒラする感覚遊びのみ、身辺処理はほぼ全面介助、頭の両側面をげんこで打ち青あざになるほどの自傷行為があった。もう1名はStageⅡの段階にあり、発語はまれに単語を発する程度であったが、ひらがなやカタカナを読むことに強く固執、象徴遊びは見られず、身辺処理はかなりの介助を要した。手の甲が堅く盛り上がるほどの手咬みの自傷行為があった。
・自傷行為が2症例に共通して起こった状況は、子どもの発達水準から見て高すぎる課題が与えられた場合、子どもの直接的な要求が阻止された場合であった。症例1では、原因が了解できない自傷行為が多く認められていたこと、新しい場所への通院、通所など物理的な環境の変化があったとき増強していたこと、気候の不順や不眠などによる身体的な不調のときに多く認められた。症例2では、絵本の文字を読むという強い同一性の保持の欲求が崩れたとき最も頻繁に自傷行為が認められた。また、親が病気により精神的に不安定な状況に陥ったときも自傷行為が増強した。
・自傷行為は脳機能障害による生物学的な要因によるところが多いと考えられるが、ここで示された所見から、自傷行為の起こってくる状況は認知発達の水準に依存し、その予防と減弱のためには認知発達によって対処法を変える必要があること、認知発達に適したねらいと働きかけ、留意点が必要なことが示されていた。
⑺Stage評価とCGAS(全般的重症度評価)
・自閉症に対する治療や治療教育の有効性を検討するためには、全般性の重症度の観点からの評価が必要である。そこで我々は、全般性の重症度尺度としてCGAS(Children's Global Assesment Scale)の意義と有用性を検討した(永井,1989)。
・StageⅠの子どもではCGASは非常に低い価であったが、StageⅡ以上では相関が認められなかった。
・CGASは、MAやIQとの相関は認められず、認知能力とは別の側面を測っていると考えられた。
・これに対してSM社会能力検査のSAやSQとは高い相関が認められた。
・これらの結果よりCGASを自閉症児の全般的評価として用いることは、一応の妥当性と有用性があると考えられた。
・現在、我々のデイケアでは、治療者から見た全般的な適応度の評価としてCGASを用いている。
3)Stage別の発達課題の検討
・1983年から1986年までの研究により、Stage別に系統化してきた課題と教材は、ほぼ適切であると考えることができたが、以下のことが問題点としてあげられた。
①StageⅡの発達課題は、やや難しすぎる。
②StageⅠの下位段階を考慮する必要がある。
③StageⅢ-1の子どもたちは、特定の教材では“比較”が理解できたように見えても、概念の獲得につながらず、治療者側が課題を呈示したり評価するときに、その点を留意する必要がある。
・Stage別の発達課題は、治療者側にとっては子どもの発達レベルに即した課題を偏りなく選択して治療教育を行うことができること、子どもにとっては発達の最近接領域の課題を呈示されるために内発的な動機づけがかかること、の両面から非常に有用であることが改めて再確認された。
4)TEACCHの課題との比較
・1989年にTEACCHのDr.Schopler, Dr.Mesibovを招いて「自閉症の治療教育の評価に関するシンポジウム」を開いた。そこでの最も大きな討論点は、幼少時から個人の発達のレベルに合った適応行動の獲得を治療の目標にし、環境側を調整することに力点を置く必要があるとするTEACCHの考え方と、発達の障害に働きかけて自閉症児自身に少しでも柔軟に適応できる力をつけていくことが重要であるとする我々の考え方との相違にあった。しかし、太田のStage評価は、PEP(TEACCHの発達評価プロフィール)との相関は高く、相関係数は、0.92であった。
・さらにその後に、TEACCHの「発達単元」にまとめられている225の課題を太田のStage別の発達課題と比較した(亀井ら,1991)結果、以下のことが明らかになった。
①TEACCHの発達単元は、知覚、微細運動、目と手の協応など視覚運動系の課題が多く、言語課題の数は少なかった。太田のStage別発達課題では言語に関する課題数が多く、課題の内容の点で大きく違っていた。②TEACCHでの「発達単元」225のそれぞれの課題を太田のStageにあてはめて分類すると、半数(112課題)はStageⅠに相応する課題であり、Stageが上がるごとに相応する課題数は少なくなっていた。太田のStage別課題はStageが高いほうが課題数が多くなり、発達的な観点から見た課題構成の点でも相異があった。TEACCHでは、年齢の低いうちから一貫して家庭や地域社会で直接役立つスキルの獲得を目標にしている。これに対して、我々の小児部では、自閉症の発達の障害に働きかけて認知と情緒の発達を促すことを重点にしつつ、将来のより広い適応行動の獲得をめ目指すことに置いている。このような、発達課題の内容と課題構成の相異は、我々とTEACCHにおける治療教育の基本的な考え方の違い(太田,1991;永井,1991)の一部を表しており、興味ある結果であった。

【おわりに】
・我々は、これまでの研究と臨床経験を蓄積することによって、以下のような点に努力してきた。①Stage別のねらいと課題リストをさらに整理し充実させること。②対人・コミュニケーションについてのねらいと課題を開発すること。③課題を組み合わせた有効なプログラムの組み方を検討すること。④認知発達を促すための学習を含めた治療全体の環境をいかに構造化するかを検討すること。⑤治療効果を上げるために家族との連携を深めて般化を図るためのプログラムを作成すること。これらの課題は少しずつ解決されてきているが、まだ不十分であり、多くの課題を残している。(永井洋子・太田昌孝)

【感想】
 「ここでは、Stageの有用性を確認したり、さらに深めるのに役立った臨床研究を紹介する」と述べられているが、その《有用性》がどこのあるのか、正直言って、よくわからなかった。まず、「⑴StageⅠの検討」では、4症例(全員5歳児)に対して行われた1年間の臨床教育の結果、「終了後に、いずれの子どももStageⅠの段階にとどまっており、乳幼児精神発達質問紙の初期のシンボル機能に関する項目、および象徴遊びの面から見てもほとんど変化が認められなかった」とある。しかし、「状況に即した言葉かけを理解して行動できるようになり、課題や場面の意味に気づき始め、働きかけに対する拒否がなくなり、大人に関心を持ち目的的なかかわりが増した、などの発達的な変化が認められた」。にもかかわらず、「StageⅠの段階にとどまっている」ということであれば、その《発達的な変化》はStage評価に反映されていないことになる。つまりStageⅠの有用性が疑われた。そこで著者らは、StageⅠをさらにⅠ-1、Ⅰ-2、Ⅰ-3の3段階に細分した。「そして、治療教育のねらいを3段階に分けて、各々の段階での発達課題をまとめた」とあるが、その詳細は述べられていない。おそらく(人への要求手段として)Ⅰ-1はクレーン現象なし、Ⅰ-2はクレーン現象のみ、Ⅰ-3は指さしあり、ということになるのだろうが・・・。
また、「⑶StageⅢ-1の検討」では、「ボタンを箱の上に置いてください」「ハサミを積木のそばに置いてください」という課題に対する子どもの反応には2つの物を関係づけようとする“関係づけ群”と、そうしない(できない)“非関係づけ群”があり、2グループには段階の「差」があることについて述べられているが、「(その)視点は、StageⅢ-1の自閉症児の治療教育を行うときの重要な目安になっている」というだけでは、「StageⅢ-1」という評価自体の有用性は(私には)感じられなかった。(しかし、以後の章で明らかになるかも知れない)さらに「⑷Stage評価と遊びの発達」では、自閉症は言語発達のみならず、遊びに代表されるシンボル機能も障害されることが確認された。「⑸Stage評価とこだわり行動」では、常同的な身体運動は認知発達によって減弱しない、その他のこだわり行動は、Stage段階によって明確に違いが認められる。「⑹Stage評価と自傷行為」では、自傷行為の起こってくる状況は、認知発達の水準に依存する。などと述べられていたが、そのこととStage評価の有用性がどのように結びつくのか、その詳細が、私にはわからなかった。(以後の章を期待したい)いずれにせよ、「3)Stage別の発達課題の検討」の結果、「Stage別の発達課題は、治療者側にとっては子どもの発達のレベルに即した課題を偏りなく選択して治療教育を行うことができること、子どもにとっては発達の最近接領域の課題を呈示されるために内発的な動機づけがかかること、の両面から非常に有用であることが改めて再確認された」と述べられているので、そのことがStageの《有用性》に違いないと思わざるを得なかったが、肝心の「中身」が、まだ私にはわからなかった。この節では、他にCGAS(全般的重症度評価)の妥当性と有用性、TEACCHの課題との比較も述べられていたが省略する。【おわりに】で述べられていた(著者が当面する)5つの課題は、よくわかった。とりわけ、「対人・コミュニケーションについてのねらいと課題を解決すること」「家族との連携を深めて般化を図るためのプログラムを作成すること」の結果がどのようなものであったか、私は興味津々である。(2014.1.18)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《15》 Ⅳ章 Stage評価と認知発達治療

【要約】
《Ⅳ章 Stage評価と認知発達治療》
【はじめに】
 この章では、第1に、太田のStage評価について説明する。第2に、太田のStageによる認知発達治療の方法論を示す。第3に、認知発達治療の評価について述べ、最後に、この治療法による異常行動・不適応行動の予防とそれへの対応について述べる。
【1.太田のStageの評価】
・自閉症の治療に際しては、子どもの認知発達を評価して、発達に即した働きかけにより認知と情緒の発達を促し、より広い適応行動を身につけるように働きかける必要がある。
・太田のstageは、自閉症の発達評価として妥当性が高く、自閉症の治療教育にあたって臨床的にも非常に有効である。
1)発達評価の視点
・我々は、評価の視点は表象機能の発達段階に置くことが最も妥当であると考えている。なぜなら、この視点は、自閉症の認知発達において最も克服しがたい機能であり、基本障害との関連が想定されるからである。同時に、表象機能は人間の思考の枠組みを形成する基本となると考えられるからである。
2)シンボル表象機能の諸側面
・子どもの発達においてシンボル機能の出現は、言葉の理解と表出、見立て遊び・ごっこ遊び、延期模倣・身振り表示、描画、イメージなどの側面で観察される。これらのうちで言語は、人間のシンボル機能の中心的な手段となる。また、言語は他の側面からの評価よりも客観性が保てる利点もある。そのような理由から、我々はシンボル表象機能の発達を言語の理解の側面から評価している。
3)太田のStageによる発達段階
・発達段階は低いほうから順に、StageⅠ、StageⅡStageⅢ-1、StageⅢ-2、StageⅣの5段階に分けられる。
・StageⅠ:感覚運動期・無シンボル期に相当する。物に名前のあることを十分にわかっていない段階。人に対する要求手段によって、さらに3段階に分けられる。StageⅠ-1・「手段と目的の分化ができていない段階」(泣く、ウロウロするなどの情動表現のみで要求を人に向けてこない)、StageⅠ-2・「手段と目的の分化の芽生えの段階」(クレーン現象で要求を示す)StageⅠ-3・「手段と目的の分化がはっきりと認められる段階」(複数の要求手段が使用できる。言葉、指さし、身振り、発声などで要求を示す。クレーン現象が少なくなる)
・StageⅡ:感覚運動期からシンボル表象段階への移行期にあたる。物に名前があることがわかり始めているが、物の理解はまだ一義的な理解にとどまり、明確にシンボルを持った言語を獲得したとは言えない段階である。
・StageⅢ-1:物に名前のあることがはっきりと理解できるようになり、本来の言語の機能を獲得する。しかし、基本的な比較の概念はまだ成立していない段階である。
・StageⅢ-2:ごく基本的な比較の概念が出来始めた段階である。しかし、物と物との関係づけは経験に左右され、言語のみによって理解することは不十分な段階である。
・StageⅣ:空間関係などの物と物との関係が言語で理解できるようになり、表象的思考の柔軟性がます段階である。(上限はPiagetによる前操作期の終わりの点)
4)太田のStage分けの方法
・LDT-R(言語解読能力テスト改訂版)の課題を用いてStage分けをする。
〈LDT-R1〉:名称による物の指示(「○○はどれですか」に指さしで答える。6問中4問以上の正答で合格とし、StageⅡと評価する。不合格の場合は、StageⅠとなる。人への要求手段によってStageiⅠ-1、Ⅰ-2、Ⅰ-3の3段階に分けられる)
〈LDT-R2〉:用途による物の指示(「乗る物はどれ?」に指さしで答える。6問中4問以上の正答で合格とし、StageⅢ-1と評価する。不合格の場合は、StageⅡとなる)
〈LDT-R3〉:3つのまるの比較(「どちらが大きい?」に、指さしで答える。2問中全問の正答で合格とし、StageⅢ-2と評価する。不合格の場合は、StageⅢ-1となる)
〈LDT-R4〉:空間関係(「犬を取ってください」「ボタンを箱の上に置いてください」などに、動作で答える。2回試行し、5問中4問以上の正解で合格とし、StageⅣと評価する。不合格の場合は。StageⅢ-2となる。
〈LDT-R5〉:保存の概念(白黒の碁石を5つ、4つ並べ、「どちらが多い?」に指さしで答える。白黒の碁石を両方とも5つ並べ「どちらが多い?」に「同じ」と口答する。そのまま、黒の碁石の間隔を広げて「どちらが多い?」に「同じ」と口答する。黒の碁石を3~4個足して、「黒と碁石全部とではどちらが多い?」に「碁石全部」と口答する。全問正解の場合、StageⅣの上限とする。
*以上の記録はは、課題の正否だけでなく、反応のしかた、答え方などを記録しておくとよい。(目をそらす、立ち上がる、勝手に指さすなど)
5)太田のStagrの意義と有用性
①各々の子どもについて的確な認知発達の評価ができる。(治療教育の方針、課題の選択、個別の教育プログラムを立てることができる)
②自閉症の子どもの行動を理解するのに役立つ。(日常の治療教育の中でどのように異常行動を減弱させ、適応行動を獲得させたらよいか、対処のしかたを工夫することができる)
③評価法が簡便である。(誰でも簡便に短時間でできる。客観性・再現性が高く、妥当性も示されている。
④太田のStageにより発達段階を知ることは、治療・教育の内容やその適切性を共通の基盤に立って検討することができる。また、研究の際にも、対象を明確に記述することが可能になり、自閉症の本態を究明するのに役立つと思われる。
【2.認知発達治療】
1)治療教育の目標
・自閉症に対する治療は心理学的な障害のレベルに働きかける治療教育的な働きかけが主体となる。我々は、治療教育の目標を以下に述べる3つの次元から考え、治療教育に有機的、総合的に取り組んでいる。
⑴第1次元の目標
・自閉症の基本障害を克服したり、代償したりすることである。
・一人ひとりの子どもの認知発達の水準に適した治療教育を行うことにより、認知・情緒の発達を促し、思考の柔軟性を促すように働きかける。(Stage別の認知発達学習)
・低年齢では、認知発達学習と並行して感覚運動訓練を行う。(歩く、走る、登るなどの全身運動、スイミング、リズム体操、サーキット運動など)
⑵第2次元の目標
・個々の適応行動の獲得を目標とする。
・低年齢の子どもでは、生活習慣の確立、意思の伝達技能の獲得、人とかかわる基本的なスキルの獲得などを目標とする。
・学齢児では、コミュニケーションスキル、学科学習、家庭作業スキル、集団生活への参加と適応のスキルの獲得などが目標となる。
・家庭、学校、社会に適応するために直接役立つスキルの獲得と促進を目指す。(認知の水準に合った目標を定めて行う)
⑶第3次元の目標
・異常行動を予防し減弱を図ることである。
・それぞれの子どもの認知発達に合った働きかけにより、考える力と自己統制力を養うこと、適応行動のスキルを獲得する中で減弱と予防を図ることである。
・この次元への対処は異常行動の強さとその性質、および発達的な意味の2つの側面から検討する。(本章第4節参照)
2)認知発達治療とは
・我々は、太田のStage評価を開発し、Stage別の治療のねらいとStage段階に適した課題を系統的にまとめて、それに基づいた治療教育を行っている。我々は、これを“認知発達治療”と呼んでいる。そのねらいは、言語発達を中心としつつ、遊び、描画、対人・コミュニケーションなど幅広い領域の発達の促進を含んでいる。
・認知発達治療にはには2つの側面がある。
①自閉症の認知障害を克服し、改善し、さらに情緒障害をも改善しようとするねらいがある。(第1次元の目標)この側面は、とりわけ発達期の自閉症児にとっては重要である。(認知発達学習)
②適応行動を獲得させると同時に、異常行動や不適応行動を予防したり減弱したりすることである。(第2次元、第3次元の目標)
3)認知発達治療の意義
①個々の自閉症児に対して的確な治療教育の目標やプログラムを立てることができることである。
②発達に合った適切な働きかけは、自閉症児の異常行動を予防したり減弱したりすることである。(適切な働きかけの場合は、喜んで応じる。高すぎる課題の場合は、拒否、奇声、視線回避、立ち歩き、(強制すると)自傷行為、他傷行為が見られる。低すぎる課題の場合は、常同行動、注意の集中が悪くなったりする)
【3.評価】
・我々のデイケアでは、治療の歴史とともに、評価の視点が行動の評価から精神発達の評価へと変遷してきた(永井ら,1991)。現在では、太田のStage評価を基本にして、3つの次元の目標にそって評価を行っている。評価が偏らないように、親側の評価も取り入れた評価バッテリーを組んでいる。
1)第1次元の目標の評価
・最も効果の上がりにくい次元でもある。
・太田のStage評価、治療教育の経過記録、(要求手段、声かけへの理解、物の扱い方、遊び、異常行動などの観察)、田中ビネーテスト、乳幼児精神発達質問紙)
*遊びから見たシンボル表象機能の発達評価(PL-Ⅰ象徴遊びなし、感覚遊びのみ:PR-Ⅰ'象徴遊びなし、おもちゃの機能に合わせて遊ぶが単一のシェマ1の場合、日常見慣れた物ならその物の機能に応じて扱うことができるが別の物をそのように見立てて扱うことはしない場合、一度経験した遊びを、まったく同じ物を用いてそのとおりに行う場合:PL-Ⅱ象徴遊びの芽生えがある、2つのシェマの結合された象徴遊びがいくつか見られるが、まだ一連の流れのある遊びには発展しない場合:PL-Ⅲ象徴遊びがある、一連の流れのある象徴遊びが複数、はっきりと認められる場合
2)第2次元の目標の評価
・我々独自の生活スキルに関するチェックリスト
・乳幼児精神発達質問紙
・S-M社会能力検査
・「言語発達質問紙」「幼児基本語彙表」
3)第3次元の目標の評価
・客観的な評価が最もしにくい。
・特別にある異常行動が目立つ場合には、その行動が起こる状況と頻度などを具体的に記録する。その異常行動が子どもがにとってどのような意味をもつのかを考えることによって、治療的な対策の必要性があるかどうかを検討する。
・「改訂行動質問票」を用いて、親と治療者の双方が子どもの行動を別々に評価している。
4)全般的評価
・全般的適応度をCGASで評価している。
・低い数値になることが多いが、適応行動の獲得などでこの数値が変化するので、このような総合評価は重要である。
5)家族からの評価と家族への評価
・家族の評価を知るために、「年度末アンケート」を実施している。
・親の精神的・身体的な状況を把握するために、独自に作成した「療育の調査表」と「健康調査表」およびBeck抑うつ尺度を使用している。
・親は子どもにとって重要な援助者であり、治療教育の最も重要な協力者であること、治療者は親に対して支持的・援助的立場であること、などの基本的なコンセンサスが前提となる。この前提なしでこの側面への評価を行うことは、治療教育のマイナスになるので十分な留意が必要である。
【4.異常行動・不適応行動の予防とそれへの対処】
・ここでは、認知発達治療の観点から、まず異常行動や不適応行動への基本的な考え方について述べる。その後に、異常行動や不適応行動にかかわる要因を整理することによって、治療・教育上での対処のしかたと予防の方策についてまとめる。
1)異常行動・不適応行動に関係する要因
・自閉症児自身の要因(個体側の要因)と、環境側の要因の2つに大別される。
(1)個体側の要因
①発達との関係                                  発達の遅滞の重度なほど、常同行動、情動の不安定さ、睡眠障害、感覚の異常、自傷行為などが目立つことが多く、気候などによる体調の影響も受けやすい。減動状態と増動状態の周期性を持つ子どももいる。重度な場合は、行動と外部からの働きかけとの関連が未分化であり、子ども側の生理的な要因の影響が強く推定され、異常行動を起こす環境因との関係を特定できないことが多い。発達を遂げた自閉症児は、環境の変化や物事の変更の際にパニックを起こすが、この場合には異常行動を起こす誘因をはっきりつかむことができる。しかし、しばしば強迫様の症状として現れることと、本人の頭の中でのイメージと外界との不一致によって起こすために、より複雑になり、対処に苦慮することも多い。
②年齢との関係
 多動、情動の不安定さ、睡眠障害、感覚の異常、極端な偏食、パニックなどは、低年齢に多く、成長に伴って減少する。しかし、年長に至るまで持続した場合、年長になって増強した場合は、非常に激しい不適応行動として現れることがある。思春期には精神的にも身体的にも状態が不安定となるために、爆発的なパニック、自傷、攻撃行動などの異常行動の引き金になることもある。対処のしかたが不適切でなければ、多くの場合は一過性の状態として経過し、青年期になるまでに徐々に改善する。頻度としては少ないが、脳の変性を想定させる退行様の症状を起こすこともある。
③身体的な健康状態との関係
 異常行動が増加したときには、頭痛、腹痛、発熱、歯痛などの身体的な状態も念頭において検討する必要がある。
⑵環境側の要因
①家族の要因
 親の育て方やかかわり方は子どもの行動に強く影響する。子どもが幼少期には両親をはじめとする家族が最も強い影響を与える。自閉症児は精神発達が未熟な上に、趣味や娯楽は限られており、友人関係も極めて希薄である。部分的には対人関係における非常な敏感さを持っている。親のかかわり方や精神的な状態が自閉症の子どもの行動に直接的な影響を与えることを十分に考慮しておく必要がある。
②治療・教育機関の要因
 これらの機関からの影響も重要な要因となる。自閉症児への不適切な治療教育の方法やかかわり方が異常な行動を引き起こしたり、増強させたりすることがあるので、(治療者は)留意しなければならない。そのことによって二重に子どもの異常行動を増悪させることがある。治療教育者は常に自らの治療教育の効果を客観的に評価する態度を忘れてはならない。
2)対処の優先順位のガイド
 すべての異常行動に対してすぐに対処しなければならないとは限らない。優先課題とすべき順位をSchoplerら(1976)に準じて以下に示す。
①本人あるいは他人の生命あるいは身体を傷つける行為(自傷、他害、危険な行為)の場合は、本人を安定させることを目標とした精神療法、薬物治療、入院治療を含めた積極的な方策を検討する必要がある。
②個人の家庭内、施設内生活を脅かす行動である。激しいパニックや奇声、極度の偏食、睡眠障害、強迫様症状、跳びはねる常同行動などは、治療教育と薬物治療の併用で、積極的な対処を検討する必要がある。
③集団行動の妨げになる行為である。
④地域社会や、仕事の適応を妨げる行為である。これらは、多動、独語、注意の集中の悪さ、癖やきまり、手指や体の常同行動などがあげられる。③と④は程度の差として表わすことができる。これらの場合は発達を促す治療教育の全体の枠組みの中で予防と改善を図る。
3)基本的な考え方
・認知発達治療によって自閉症児自身の理解力と自己統制力を高めることにより、異常行動や不適応行動を減弱したり予防したりする。治療者は個々の異常行動に直接対処することのみを治療教育の目標とせず、自閉症児の特徴的な認知障害を克服する過程の中で、認知障害を踏まえた適切な働きかけによって、減弱と予防を図る。
・自閉症児の異常行動に対して、罰を課したり力抑えや大声でおどすような態度で対処したりすることを主要な手段とすることは、大きな誤りである。
・異常行動への対処は日常の治療や教育の不断の積み重ねによって改善され得るものである。発達障害児の人間性を大事にした教育本来の自然な方法で対処することを基本としたい。
4)予防と対処のしかた
①子どもの生活全体からの検討をする。食事、睡眠などの生活のリズムを整えることがまず必要である。さらに、成就感の持てる生活になっているか、十分に発散できる日課が組まれているか、などがポイントである。
②日課や物事の突然の変更に対しては、事前に声かけをすることにより、起こってくる事態の理解を促し、不安を軽減させることである。
③異常行動を禁止するだけでなく、日頃からできることや楽しめることを作っておくこと、その場では適切な行動を具体的に教えることが大切である。自閉症児は何をしたらよいかわからないときに不安が増強する。いつも言われる禁止の言葉をエコラリーしながらその行動をしてしまう。繰り返し根気よく適切な行動に転換できるように指導することが必要である。
④異常行動が増強したときは、引き上げ課題を少なくして、できることで楽しみながら様子を見る。引き上げ課題はそのものが緊張を高め、異常行動を増強させる要素を持っている。不安定なときは、日課や学習の際に子どもの精神の安定を考慮に入れることである。
⑤パニックなどの異常行動を起こしてしまったときには、大声で叱ったり騒ぎ立てたりしないで、子どもの興奮を静めるように留意する。安全性への配慮をして、興奮のピークの納まるのを待つか、他のものへの気分転換を図る。
⑥異常行動が日常生活や治療教育に支障となるほどに激しい場合には、薬物の服用を含めた治療全体を再検討する。本人の精神安定を主眼にした精神療法を取り入れること、入院治療の必要性も含めて検討する。多くの場合、精神安定剤を服用して、日常のプログラムに配慮を加えつつ認知発達治療を行うことによって、激しい異常行動も減弱させることができる。
・Stage別の対処法は第Ⅴ章で具体的に述べる。
5)治療教育上の配慮点
①本人の発達水準と障害の特徴に合った治療教育の方針とプログラムの立案と施行が大切である。自閉症児は働きかけの方法や課題が本人に合っていると、律儀に応じる特徴がある。
②かかわる者が精神的安定を保つことが大切である。親や治療教育者自身の情緒的な不安定さは敏感に子どもに伝染する。治療者が安定して子どもと家族にかかわることが基本である。親の精神的な不安を受けとめるだけでも子どもの行動が改善されることはよくある。治療教育における誤った指導方針は、それ自体が子どもに悪影響を与えるばかりでなく、親の不信感による不安が高まることによって、子どもの異常行動を二次的に増強させる。さらに、治療教育者の自信のなさが子どもと親に不安を与える。子ども、親、治療教育者が、相互に不安を高め合う悪循環が形成されることがあるので、十分な留意が必要である。

【おわりに】
・認知発達治療の効果は、それぞれの自閉症児が持っている生物学的な条件(脳の器質的、機能的な障害の程度)に強く規定される。我々は、認知発達治療によって自閉症の障害を改善させることはできても、治癒させることはできない。したがって、この治療法によって、その子どもの自然の発達をどの程度変え得るかは明らかではない。また、この治療法はスタートしてからまだ日が浅く、長期的な効果の評価は今後の縦断的な研究結果を待たなくてはならない。しかし、治療教育的な接近法だけでは自ずと効果に限界があり、薬物など生物学的なレベルに働きかける治療法が開発され、この認知発達治療と組み合わせることにより、さらに治療の効果を上げることが期待される。(永井洋子)

【感想】
 この章では、太田のStageの評価法と、それを踏まえての「認知発達治療」の基本的な考え方について詳しく述べられているが、今ひとつ私には「腑に落ちない」。そもそも、自閉症の要因は「脳の器質的・機能的な障害」だとすれば、環境的な要因などあり得ない。
にもかかわらず、自閉症児の「異常行動・不適応行動」の要因には「環境的要因」があるという。「自閉症の要因」と「(自閉症児の)異常行動と不適応行動の要因」は区別されなければならない、という理屈なのだろうが、自閉症は「行動的症候群」であり、その行動特徴が「異常行動・不適応行動」そのものであるのだから、自閉症と「異常行動・不適応行動」を分けて考えることなどできようはずがないではないか。もし、自閉症の要因が、脳の器質的・機能的障害による「認知障害」にあり、それが「異常行動・不適応行動」を引きおこす要因だというのなら、「認知発達治療」を行うことによって、「異常行動・不適応行動」を減弱・防止できるということを(自閉症の要因が「環境」に因るものではないと断定したように)「断定」すべきではないだろうか。
 著者らは、これまでに随所随所で、自閉症の「環境要因論」を否定し、《自閉症の原因は親ではない》と主張したきた。ならばなぜ、ここで「親の育て方やかかわり方は子どもの行動に強く影響する」などと、異常行動・不適応行動の要因の中に《養育態度》を入れてくるのだろうか。「子どもの行動に強く影響する」のは、親のどのような育て方なのか、どのようなかかわり方なのか。もし、親の育て方が子どもの「自閉的行動」を引き起こしていることを認めるなら、従来の「環境要因論」を《完全に》否定することはできないのではないだろうか。
 要するに、著者らは、自閉症児の「異常行動・不適応行動」の要因として、親の《養育態度》を含めた「環境」の影響を認めている。その「環境」を改善しない限り、「我々は、認知発達治療によって自閉症の障害を改善させることはできても、治癒させることはできない。したがって、この治療法によって、その子どもの自然の発達をどの程度変え得るかは明らかではない。また、この治療法はスタートしてからまだ日が浅く、長期的な効果の評価は今後の縦断的な研究結果を待たなくてはならない。しかし、治療教育的な接近法だけでは自ずと効果に限界があり、薬物など生物学的なレベルに働きかける治療法が開発され、この認知発達治療と組み合わせることにより、さらに治療の効果を上げることが期待される。(永井洋子)」というような「結論」になる他はない、と私は思った。
 次章からは、いよいよ「Stage別の認知発達治療」の実際が述べられるが、なにかその前に「水をさされた}感じがして、少なからず興ざめであった。(2014.1.20)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
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「自閉症治療の到達点」精読・《16》 Ⅴ章 Srage別の認知発達治療(1)認知発達治療の手順

【要約】
《Ⅴ章 Stage別の認知発達治療》
【はじめに】
・この章では、StageⅠからStageⅢ-2までの認知発達治療の実際を、Stage別に具体的に述べる。
・この章の内容は、技術的な側面に絞って記述しているので、背景となる理論的な側面については第Ⅳ章までを参照いただきたい。
・ここでは、幼児から学齢期までの年齢に重点を置きながら、Stage別に代表的な自閉症の状態像を示し、各Stageにおける認知発達治療の目的の置き方、プログラムの組み方、対人・コミュニケーションを促す方法、異常行動への対処のしかたなどを実践的な立場から説明する。
【1.認知発達治療の手順】
1)治療開始時の評価
⑴認知発達の評価
・まず、太田のStageを評価する。LDT-R1(物の名称のカード)に応答しないときは、①人への要求の出し方、②物の扱い方、③言葉かけへの理解、④遊び方、⑤絵本への興味の持ち方など、ポイントをおさえて行動観察する。
・発達質問紙、母親、所属学級からの情報により、シンボル機能の出現の程度を把握し、どのStageの段階に相応する認知構造かの見当をつける。
・標準的な心理検査を施行しておくとよい。
⑵異常行動・不適応行動の評価
・異常行動(こだわり、常同行動、パニック、感覚の異常、自傷行為、他害、極度な偏食、情動の不安定さなど)、生活習慣上の問題(睡眠、食事、排泄など)については、強さと頻度などを、行動観察と親の情報からよく把握しておく。
⑶開始時の評価の記録
・治療開始時のベースラインを正確に記録しておく。
・Stage評価は、合否だけでなく、課題への答え方や行動も記録しておく。
2)導入期
⑴治療者が子どもを把握する
・治療者のねらいは、①子どもの特徴と状態を正しく把握する、②その子どもの指導のこつをつかむこと、③子どもの治療教育の方針を検討すること、などである。
・パニックを起こしやすい状況や行動パターン、気分転換の方法、働きかけに対する耐性の度合い、特別に執着している物、強い興味を持つ物などを知っておく必要がある。
⑵子どもが治療場面に慣れる
・導入期の大切な側面は、子どもが担当者や場所に慣れ、楽しくプログラムに参加できるようにすることである。
・強い不安やパニックを起こす場合には、母親に一緒に治療教育場面に入ってもらい徐々に慣れるようにしていくとよい。
・治療教育のプログラムや設備などについて、前もって声かけをしたり、場所や場面、道具などを実際に見せたり、絵や写真などで示したりなど、子どもが新しい場での生活になれるための配慮をする。
⑶親との協力関係の基礎をつくる
・親に治療教育の概略と大枠の目標を説明すると同時に、治療教育の内容をできるだけ具体的に伝えるようにする。
・家庭での子どもの状態を知ること、子どもに対する親の希望や心配ごとを、治療者がよく聞いて知っておくことも大切である。
・この期間に、治療者と親が相互に理解し信頼関係の基礎固めができるようにする。
⑷導入期の期間
・基本的には1か月くらい置き、長くなり過ぎないように注意する。
・子どもが極度に不安定であったり、自傷など異常行動が激しい場合には通常のプログラムをしばらく見合わせて、薬物治療の検討も含めて、情緒の安定のための特別な治療的なかかわりを検討する必要がある。
3)治療の目標と日課の配分の検討
⑴目標は3つの次元から
・長期的には1年間を目標に置きつつ、1か月、あるいは1学期くらいの目標を具体化する。
・目標は3つの次元から立てる。①発達を促すことにより認知と情緒を高めること、②家庭や学校などに役立つ適応行動を獲得すること、③異常行動を減弱したり予防したりすること。
・子どもの年齢が低いときには①に重点を置き、思春期以降になると②に重点が移される。しかし、どの発達段階、どの年齢段階でも3つの次元のすべてを考慮して目標を立てる必要がある。
⑵日課の配分の検討
・日課の配分は、認知発達学習のような緊張と集中を必要とする時間と、自由遊びやリズム体操のようなリラックスする時間を組み合わせ、さらに身辺処理のスキルなどの適応行動の獲得のための時間を加えて検討する。
4)グループ構成と指導体制
・子どもの年齢と認知発達レベルができるだけ同程度の小集団を編成するとよい。
・子どもが5~6人に対して治療者は2~3人くらいの体制が望ましい。
・複数の治療者がグループを担当する場合には、個別の治療方針とプログラムをしっかりと立て、できるかぎり個別の認知発達学習の時間を確保する。
5)認知発達学習プログラムの立案
・長期の治療目標の中で、約1~3か月程度の中期目標を定めて、それにそって学習プログラムを立案する。
・まず、認知レベルを把握して学習のねらいを定める。それにそった学習プログラムにより子どもの内発的な動機づけを重視しながら指導する。(『認知発達治療の実践マニュアル』参照)
・発達を促す課題だけでなく、得意な課題やすでに修得した課題を上手に組み合わせる必要がある。また、机上の学習と運動サーキットのような身体の動きのあるものを適宜組み合わせる。
・1回の学習セッションとして幼児では20分くらい、学童では40~50分くらいでもよい。
・指導形態は、1対1の個別指導と、5~6人のグループ指導を組み合わせるとよい。グループ指導では、運動技能の向上とコミュニケーションの基礎づくりを主な重点にする。
また、獲得した認知発達的課題を小集団の中で遂行できるように般化を促すこともねらいとなる。
6)日常の評価と記録
・セッションごとの学習記録、Stage別の発達課題の通過状況、生活スキルのチェック、行動の記録などをきちんとつけ、日常の治療にフィードバックさせる必要がある。
7)総合評価
⑴ケース検討会
・総合評価は1年あるいは半年に1回の割合で行い、その間の子どもの発達的な変化をまとめる。その期間に立てた目標は達成できたか、方針は適切であったかを治療者全員で検討する。家庭生活など他の場面への般化についての検討も重要である。これらの議論を基に時期への方針を立てる。
⑵ケース検討会のメンバー
・総合評価は、直接的な担当者だけでなく、できるだけ異なった職種や立場の違う専門家とともに検討したい。
8)家族との連携
・子どもの最終責任者は親であることを認識して、家族、特に親との良好な協力関係を持ちつつ治療教育を進めることが、治療効果を上げるための必須の条件となる。
⑴親との連携のあり方
・治療者は、親を支持し、援助する立場に立つことを基本とする。
・認知発達治療で子どもが習得したものを家庭で般化できるようにするとともに、治療者は親から学んだ情報を治療教育にできる限り活かすことが大切である。
⑵療育への援助
・まず、その子どもの治療目標と何が発達課題なのかを具体的に伝え、親に理解してもらう。その上で、家庭での目標を話し合う。家庭にはそれぞれ事情があり、生活があることを考慮して、達成可能な現実的な目標を母親と相談して決めるようにする。
・ある期間をおいて、定めた目標をどの程度達成できたかを話し合う。
⑶親指導の際の留意点
・親はしばしば、強いストレスを受けており、不安定な抑うつ状態に陥っている。治療者はこの点に十分留意しつつ、長期的な展望に立って、親への助言と援助をすることが大切である、(永井洋子)

【感想】
 ここでは「認知発達治療の手順」が述べられているが、その内容は、どこの治療機関でも行われている、ごく一般的なもので「ごもっとも」であると同時に「言わずもがな」という感じがしたが、ただ一点、導入期で「(子どもが) 強い不安やパニックを起こす場合には、母親に一緒に治療教育場面に入ってもらい徐々に慣れるようにしていくとよい」、さらには「子どもが極度に不安定であったり、自傷など異常行動が激しい場合には通常のプログラムをしばらく見合わせて、薬物治療の検討も含めて、情緒の安定のための特別な治療的なかかわりを検討する必要がある」という文言は、気になった。著者らは、前章で子どもが「異常行動や不適応行動」を引き起こす要因として、「治療・教育機関」のあり方を指摘し、「自閉症児への不適切な治療教育の方法やかかわり方が異常な行動を引き起こしたり、増強させたりすることがあるので、(治療者は)留意しなければならない。そのことによって二重に子どもの異常行動を増悪させることがある。治療教育者は常に自らの治療教育の効果を客観的に評価する態度を忘れてはならない」と自戒を込めて述べている。導入期において「子どもが極度に不安定であったり、自傷など異常行動が激しい場合には通常のプログラムをしばらく見合わせて・・・」ということは、通常のプログラム、つまり「認知発達治療」(の実際)そのものが、子どもの異常行動を引き起こす要因になっていることを暗示・黙認することにならないか。まして、それによって引き起こされた異常行動を「薬物治療」で対処するなどとは、まさに「本末転倒」の対応ではないだろうか。そこで問題になるのは「通常のプログラム」だが、それが「子どもの発達段階」に即した「適切な課題」であることが前提に作られているのだから、(著者らの論述に従えば)子どもが極度に不安定になるはずがないのである。要するに、著者らが構築した「Stage別の認知発達治療」のあり方全体を、つねに《客観的に評価する態度を忘れてはならない》のではないか、と(不遜にも)私は思ってしまったのである。とは言え、まだその「実際」の詳細を知っているわけではない。期待をもって次節を読み進めることにする。(2014.1.27)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《17》 Ⅴ章 Stage別の認知発達治療(2)StageⅠの治療教育 

【要約】
【2.StageⅠの治療教育】
1)StageⅠの状態像
・子どもたちの多くは言葉がなく、あったとしてもオウム返しがほとんどである。状況に合っていれば言葉かけに応じた行動ができるようになるが、言葉の意味は理解しておらず、その場面での行動のきっかけとなる信号としての機能しか持っていない。
・遊びは、おもちゃを機能どおりに遊ぶことはほとんど見られない。物をヒラヒラさせる、トントン叩く、水遊びや砂をサラサラさせる、ピョンピョン跳びはねるなどの感覚刺激的な遊びが大部分である。物を並べて眺めたり、特定の物を集めたりすることに没頭することもある。
・描画はまったく描かないか乱画であり、形のある絵は描けない。
・絵本は見せても目をそらして興味を示さないが、食物や乗り物の写真絵本や特定の絵本を見ることもある。
・対人関係では、人を無視しているような感じ、視線が合わない、孤立などの行動が目立つ時期である。人への自発的なかかわりは乏しく、食物や自分の欲しいものを多くはクレーン現象で要求する。
・情緒、行動面では、感覚の異常(痛みに鈍感、耳をふさぐ、物を斜めに見る、においをかぐ)などの行動が目立ち、ときには自傷行為が見られる。理由もなく泣いたり笑ったりする情緒の不安定さが目立つ。
・睡眠や食事などの生活のリズムが崩れやすい。体調や気候に左右されやすく、生理的な不快感が子どもの状態に直接影響してしまう。
・奇妙な手の動きやピョンピョン跳ねるなどの常同行動が目立つことが多い。
2)StageⅠの治療教育の目標
⑴第1次元の目標:表象能力の芽生えを促すこと
①視覚、聴覚、触覚などの各種感覚の発達と、感覚の統合を促すこと。(感覚刺激に慣れさせること、目と手の協応を促すこと、身体の調節を図ること、模倣を促すこと)
②感覚運動的知能の発達、手段と目的の分化を促すこと。
③物に名前があることに気づかせること、イメージの芽生えを促すこと。
*対人関係においては、身近な大人との安定した関係をつけることを目標とする。
⑵第2次元の目標:個々の適応行動の獲得
・生活のリズム(睡眠・食事)を整える。
・着脱、食事、排泄の基本技能を獲得させ、身辺自立を図る。
・日常生活の中で、言葉かけによる行動の形成を促す。
・集団生活に参加する際の基本的な適応行動(着席、まわりの動きに気づいて行動する、順番を待つ)を身につける。
・あらゆる機会を通して人とのコミュニケーション技能の基礎をつくる。
*年長児の場合は、言葉かけにより行動できること、適切に要求を出せることを目標にする。また、目と手の協応課題を生かした作業的技能を高めること、集中力や持続力をつけることも大切な目標となる。
⑶第3次元の目標:異常行動(常同行動、情緒不安定、自傷行為、睡眠障害など)の予防と減弱
・基本的には、発達を促す治療教育を行う中で予防と減弱を図る。
・生活全体に影響するような場合には、薬物治療を含めて治療教育の配分を検討し、治療の方針を決める。
3)StageⅠの認知発達学習
・治療者の適切な働きかけ、教材、課題設定によって、着席しての学習をすすめることが可能である。集中的な学習の設定により、認知発達を促し、適応行動スキルの獲得をも促すことができる。
・認知レベルを把握し、ねらいに沿ったプログラムで、子どもの興味を引き出しながら、根気強く持続的に指導していくことが大切である。
⑴認知レベルの把握
・StageⅠ-1:子どもの行動の手段と目的が分化していない。泣く、ウロウロするなど人へ向けての要求がなく、大人が状況で要求を察する場合。
・StageⅠ-2:手段と目的の分化の芽生えが認められる。クレーン現象のみを用いる段階。
この場合は、物を機能的に扱えるかどうかを観察する。何を渡してもなめる、振るなどの感覚遊びになる場合と、渡された物をその機能に応じて扱える場合とでは、その後の学習の進展が異なる。
・StageⅠ-3:手段と目的の分化が認められる。クレーン現象以外にいくつかの手段(指さし、単語、発声など)を用いるようになる段階。
⑵認知学習のねらい
①StageⅠ-1のねらい
・各種感覚の発達、異種感覚の統合を促す(物を目で追う、音源を見る、皮膚刺激に慣れる、物を吹く。手の操作。身体の調節。)
*感覚運動訓練が有効である。運動感覚を楽しみ、姿勢の転換や人からの身体的介助を受け入れることができるようにすることが大切である。
*感覚運動的知能を促すことも重要である。(隠された物に気づき、障害物を取り除いて探し出すなど、目的達成のための手段に気づくことを促す課題を設定する)
②StageⅠ-2のねらい
・各種感覚の発達、異種感覚の統合を促す(目と手の協応、動作模倣)
・感覚運動的知能を養う(隠された物を探す、手段と目的の分化)
・対象指示活動の基礎をつくる(指さし)
・物に名前のあることの理解の基礎をつくる(物の機能的な扱い、弁別・分類、マッチング)
*同じ色や形の物をマッチングしたり、分類したりする課題を通して、物への認識を高めるようにする。
③StageⅠ-3のねらい
・各種感覚の発達、異種感覚の統合を促す(目と手の協応、動作模倣)
・対象指示活動の基礎をつくる(指さし)
・物に名前のあることの基礎を促す(弁別・分類、名前の指示で物を取る、名前の指示で指さす)
・コミュニケーションの基礎を養う(日常での言葉かけの理解)
*物に名前があることの理解を促すことが重点目標である。(実物や絵カードを使って、物の名称を教える。言葉を出させることではなく、言葉の理解をしっかりしたものにすることが大切である)
*同時に、イメージの芽生えを促す。(再現遊び、ままごと遊び、塗り絵、描画の基礎づくり、わかりやすい形で見立てを促す構成課題)
*日常での簡単な言葉かけの理解を促す。
④StageⅠに共通のねらい
a)運動感覚を楽しめるようにする。(姿勢の転換、運動遊具、乗用玩具での身体調節)
b)音楽リズムに合わせて体を動かす。(手を合わせる、動作模倣)
c)「ちょうだい」に応じて物を渡す、人と手をつないで歩く・走る・ピョンピョンとその場で跳ぶなど相手の動きに応じられること、指さし指示や身体介助で求められる行動を遂行すること。
⑤グループ学習のねらい
a)小集団活動に慣れて楽しめるようになること
b)周囲の動きに気づいて大人の介助のもとに行動できること
c)いすに座って待っていられること
d)自分の課題を終えたら席に戻ってこられること
⑶認知学習のプログラム
・このStageの子どもは、1つの課題を獲得するのにかなりの時間がかかるので、継続して取り組む必要がある。治療者は、どう介助すればできるかという視点で常に工夫しながらプログラムに活かしていく。
①認知学習への導入
・最初は、子どもが興味を持ちそうな、目と手の協応を促す教材や乳児用玩具を用意し、いすに座ることを促す。(本人なりに何かをすればよい。着席時間を徐々に延ばしていく。約1か月くらいで学習の形態に慣れるようにする)
②個別学習プログラム
・1回のセッションを30分くらいとした場合、8~10課題を用意する。(StageⅠ-2の個別学習プログラム例:①手合わせ動作模倣、②目と手の協応(モンテッソリー分銅)、③目と手の協応(ひも通し)、④絵と実物のマッチング、⑤色の分類(プラステン)、⑥目と手の協応(はめ板)、⑦指さしの理解(「これちょうだい」)、⑧くすぐり(「一本橋コチョコチョ」)
*学習の最後は、得意な課題で達成感を持たせ、本人が頑張ってやったことをほめて、気持ちよく学習を終了できるように配慮する。
③グループ学習プログラム
・集団全体で動く課題と、着席して順番に行う課題を組み合わせてプログラムを立てる。
(StageⅠのグループ学習プロ気ラム例:①たいそう(「ぞうさんのあくび})、②リズム遊び(まわりの動きに気づく)、③歌に合わせてお名前呼び(名前を呼ばれたら手をあげる)。④手合わせ動作模倣(治療者と手を合わせる)、⑤実物の分類(順番を待つ、集団の中で課題を遂行する)、⑥運動サーキット(治療者の動きを見る・両足跳び乗り、平均台歩き)
*リズム遊びや運動用具を用いた課題は、年間を通じて継続して行う。認知発達的な課題や対人関係を促す課題は2か月くらいで目標を達成できるようにする。
⑷認知学習のすすめ方の留意点
①言葉かけに応じる行動を形成する。認知学習の課題に入る前に、治療者の言葉かけに応じる基本的な行動を形成する必要がある。
②治療者は機に合った言葉かけをする。治療者が物の名前をはっきりと発音し、常に物とその名前を対応させておく。
③認知学習はテンポよく課題を切り替える。そのことが、一定時間着席して学習させるコツでもある。
④スモールステップのねらいを定める。課題のねらいを達成するにはかなりの時間がかかるので、個別に課題のスモールステップのねらいを定め、変化を評価できるように治療者が工夫する。
⑤評価は課題の意味を考える。StageⅠの課題は、できたかできないかの評価がしにくい。合否の評価を厳密にすることにより、それぞれの子どもの発達にとって、その課題がどういう意味を持つかを常に考える。
⑸動機づけを高めるために
①視知覚に訴える教材を使用する。(音や光が出る、色が鮮やかなど)
②賞賛は身体接触で表す。(頭をなでる、抱く、くすぐる、握手する)
③タイミングよくほめる。(課題ができたら、すぐに、わかりやすくほめる。学習の終了後、子どもが喜ぶ遊びをして、終わると楽しいことがあるという期待感を持てるようにする)
4)対人・コミュニケーションの基礎づくり
①担当の治療者との関係をつけるようにする。(幼児期は抱っこ、おんぶ、くすぐり、振りまわし、年長児は握手、肩を叩く、などの身体接触で関係をつけ、安定できるようにしていく)
②人への要求を育てる。(子どもが要求行動を起こしやすいように場面を工夫する)
③要求物を通して何らかのコミュニケーションを図る。(例・子どもの要求する物を渡すときに、それ以外の物を含めて、1つずつ「これかな」と期待感をゆさぶりながら呈示する。子どもの好きな物を持って、治療者がにげて追いかけっこを楽しむ)
5)異常行動・不適応行動への対処のしかた
・基本的には、認知発達を促す積極的な治療教育をすすめる中で減弱と予防を図る。
⑴身体的な健康を整え、生活のリズムを整える。
・睡眠などのリズムが崩れたとき、風邪や歯痛などの身体的な不調が原因になることもある。
⑵環境を整える。
・暑いときに氷水を飲ませる。むしむしするときは体を拭くなど。
⑶適度に情動の発散を図る。
・散歩、戸外での運動、水遊びなどが有効である。
⑷規制・禁止の連続は他の異常行動を生む
・感覚遊びなどは、本人にとっての遊びなので、家庭などのリラックスする場所では、適宜容認する。
⑸少しでも見ばえのよい行動に変えていく。
・常同行動、感覚遊びは、社会的デメリットの少ないものに変えていく。
⑹薬物療法の検討を行ったほうがよいこともある。
6)生活全般の中での発達課題
・StageⅠの子どもたちは、認知発達学習だけでは成果を上げることはできず、日常生活のあらゆる面で、恒常的で一貫した指導がどのStageの子どもたちにも増して重要である。
⑴日常の安定したよいパターンをつくる。
・生活のそれぞれの場面が生活習慣を身につける場であると同時に、物への認識を高める場でもある。
⑵基本的生活習慣の形成を促す。
・睡眠や食事が規則正しくとれるようにし、着脱、排泄、食事といった身辺自立の技能を獲得させる。
⑶言葉かけによる行動の形成を促す。
・生活の一つ一つの場面で、言葉と動作を結びつけていく。最初は言葉と身体介助で、徐々に言葉と指さしで、最終的には言葉だけで行動できるようにする。
⑷物に名前があることに気づかせる。
・日常生活の必要な場面で、物の名称に気づかせるように物の名前をはっきり伝え、物と言葉を対応させておく。
⑸子どもの要求を引き出して育てる。
・日常の中で子どもに積極的に働きかけて、喜ぶことを見つけ、楽しい経験を十分にする。治療者や親しい大人と楽しい経験を共有するとにより、人への要求を引き出し、育てる。
7)健常児集団での目標と接し方
・保育園や幼稚園での目標は、ある程度大枠のプログラムにそって行動できるようにすることである。最初は介助者の言葉かけと身体的な介助で流れにそった行動を身につけ、徐々に、個別の言葉かけでまわりの子どもたちの動きを見て行動できるようにする。自由保育の場面では、本人の好きなことを十分にして情動の発散を図ると同時に、遊具や運動的な遊びを楽しめるようにするとよい。誘われて、他児と手をつないだり、みんなの輪の中にいられるようにするなど、社会性の基礎を養うことが大切である。(亀井真由美・松永しのぶ)

【感想】
 ここでは、「StageⅠの治療教育」の概要が述べられている。対象となる「StageⅠ」は、「健常児の1歳半くらいまでの発達水準に相当する」と述べられているが、1歳半くらいまでの健常児は、どのような環境の中で、どのような生活(学習)を行っているのだろうか。言うまでもなく、彼らの生活の中に「治療教育」という場面は存在しない。彼らは、ごくあたりまえの日常生活の中で、家族とかかわり、必要な要求手段を身につけ、彼らなりの「認知学習」を自由奔放に行いながら、シンボル表象機能(言語など)、基本的社会生活能力(身辺処理能力や対人関係・コミュニケーション能力など)を発達させていく。しかし、自閉症児は、まず家族とうまくかかわれない、人への要求をしない、認知発達(とりわけシンボル表象機能)が遅れている、その結果、基本的生活習慣、社会生活能力も育ちそびれてしまう、だからこそ、彼らを日常生活の中から「切り離して」、「治療教育」という名の「とりたて指導」を行う、もしくは彼らの日常生活の中に「治療教育」という場面(あるいは要素)を「挿入」する必要がある、ということであろう。しかし、その「場面」だけでは効果は期待できない。それは、著者ら自身が、「6)生活全般の中での発達課題」の冒頭で「StageⅠの子どもたちは、認知発達学習だけでは成果をあげることはできず、日常生活のあらゆる場面で、恒常的で一貫した指導がどのStageの子どもたちにも増して重要である」と述べていることからも明らかである。だとすれば、日常生活のあらゆる場面で、恒常的で一貫した《指導》を行うのは誰であろうか。言うまでもなく、「親」であろう。では、はたして、その親に「言葉かけによる行動の形成を促」したり、「子どもの要求を引き出し育て」たりすることが、それほど容易にできるのであろうか。むしろ、問題はそこにある、と私は思う。すなわち、健常児は「生活全般の中での発達課題」を、(一見)誰からの助けも必要とせずに次々とクリアしていくのに、自閉症児はどうしてつまずいてしまうのか、また、「治療教育」(認知発達治療)を行うだけでは成果を上げることができない(思うように般化しない)のはなぜか、ということが明らかにされない限り(または、その問題に真正面から取り組まない限り)いつまでたっても「自閉症治療の到達点」は見えてこないのではないだろうか。
著者らの「挙げ足をとる」つもりは毛頭ないが、StageⅠの「⑴認知レベルの把握」で「StageⅠ-1:子どもの行動の手段と目的が分化しておらず、泣く、ウロウロするなど人へ向けての要求がなく、大人が状況で要求を察する場合である」とあるが、「泣く」という行動は「人へ向けての要求」ではないのだろうか。StageⅠの子どもは「泣く」ことによってしか「人へ向けての要求」ができない。しかし、そのことを「要求がない」と《評価》されてしまったのでは「身も蓋もない」ではないか。子どもは「泣く」という手段によって、(不快感を取り除くという)目的を果たすための要求をしているのである。はたして、「行動の手段と目的が分化しておらず」と断じてよいか。著者らが、StageⅠの子どもが「泣く」のを見て「要求がない」と評することは、その子が「ただ泣いている」「目的もなく泣いている」「泣くためだけに泣いている」と断じていることと変わらない。つまり、子どもが「なぜ泣いているのか」、その行動を見ているだけではわからない。その結果、「大人が状況で要求を察する」という羽目に陥ることになる。大切なことは、(ごくあたりまえのことであり、通常の大人なら誰でもしていることだが)その「泣く」という行動の源泉である(または背後にある)子どもの「心理」を読み取り、大人が「声かけ」で応えることであろう。その「読み」が当たれば、子どもの要求は満たされ、当たらなければ「泣き続ける」。その繰り返し(大人にとっては試行錯誤)こそが、無シンボル表象期における「子ども」と「大人」の(重要な)コミュニケーションの「1つ」に他ならない。したがって、StageⅠ-1段階における「泣く」という行動は、「泣かない」(ウロウロしている)という行動とは明確に「区別」されなければならない、と私は思った。(2014.1.28)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《19》 Ⅴ章 Stage別の認知発達治療(4)StageⅢ-1の治療教育

【要約】
【4.StageⅢ-1の治療教育】
・StageⅢ-1は、やっとシンボル表象的思考期に入ったばかりの時期で、健常児のほぼ2歳半前後に相応する。
1)StageⅢ-1の状態像
・2語文以上を話す子どもが多くなるが、会話はほとんど成立しない。言葉かけの理解は、日常生活の中ではほとんど問題がなくなる。言葉による物と物との関係づけは、経験と結びついていることが多い。
・遊びでは、一度経過した遊びをそのとおりに再現して行う型どおりのひとり遊びが一番目立つ時期である。ごく簡単な象徴遊びができるがパターン的である。絵本への興味は限られており、ストーリーは理解できない。描画では、簡単な人の絵が描けるようになり始める。
・対人関係では、言語を介してのかかわりができ始める。特定な人に特定なことのみを要求するなどパターン的、一方的である。やりとり遊びができるようになるが、十分なものではない。
・異常行動の面では、物事の順番や配列などこだわりの強い行動が目立つ。課題や言語指示が理解できなくなったとたんに、エコラリー、視線回避、場に関係のない行動など、異常行動が強くなる。
2)StageⅢ-1の治療教育の目標
⑴第1次元の目標:シンボル表象機能の基礎を確実にし、基本的な関係の概念の理解を促す
・シンボルを初歩的な関係の概念の中で理解できるようにする。
*言葉により属性を認識し、言語で表出することを促す、言葉の世界を豊かにする。
*1つの物を別な手段で表現したり、ある物を他の物で見立てたりする。
*同種の物を集めたり、比較したりすることによって。物と物との比較の概念の基礎をつくる。
・対人関係では、大人との関係をより豊かにし、子どもどうしのかかわりをもてるようにする。
・運動面では、動作模倣での左右の分化・協応動作、遅延模倣の発達を促す。
⑵第2次元の目標:適応行動の獲得
・StageⅢ-1では、基本的な身辺処理技能はほぼ自立しているので、般化を促すことが必要となる。
・言葉の面では、あいさつ、日常会話など、意思伝達の技能を獲得することが目標となる。
・集団生活への適応面では、全体への言葉かけで行動できるようにする。人への関心を広げ、適切なかかわり方や集団行動の枠組みに参加できるようにする。
・年長では、単純なものであれば一連の作業が自発的にできるようにする。
⑶第3次元の目標:異常行動の予防と減弱
・こだわり行動は、認知発達と適応行動を促しつつ、日常の治療教育の中で改善の対策を図る。
・こだわり行動、パニックが激しい場合には、諸要因を検討し、治療教育の配分を考慮し、薬物治療を含めた基本的な方針を立てる。
3)StageⅢ-1の認知発達学習
⑴認知レベルの把握
・「ボタンを箱の上に置いてください」「ハサミを積木のそばに置いてください」の課題のどちらか一方で、呈示された2つの物を正しく取り、行動的になんらかの関係づけをすれば後期の認知レベル、できなければ前期の認知レベルと判断する。
⑵認知学習のねらい
①前期のねらい
・言葉により属性を認識し、言語で表出する。(色・形の理解と言語表出、動作語)
・言葉の世界を豊かにする。(語彙数を増やす)
・物と物との関係の概念の理解を促す。(チャンキング、仲間あつめ)
②後期のねらい
・言葉の世界を豊かにする。(簡単な文の言語表現)
・物と物との関係の概念の理解を促す。(“同じ”“違う”の理解、比較の基礎をつくる)
*物と物との関係の概念の理解を促し、言葉で表現できるようにする。
*絵カードや実物による仲間あつめ(食べ物、乗り物など)、大小の理解、比較、異同の理解を促す。
③共通のねらい
・イメージの世界を確実にする。(身近な物の描画や制作)
・コミュニケーションを豊かにする。(コミュニケーションに有用な言葉、小集団活動に参加する)
*多様なシンボル活動を促す。(ゲーム、再現遊び、見立て遊び、描画活動)
*運動サーキット、遊戯、リズム体操、言葉による行動の調節を促す。
*コミュニケーションを豊かにするための有用な言葉、社会的なルールの理解を図り、般化する。
④グループ学習のねらい
a)子ども側から人に働きかける意欲を育てる。
b)子どもどうしお互いを意識しつつ、適切なかかわり方を学び、集団生活を楽しむ。
c)全体への声かけで行動でき、当番などの役割を持ち、遂行できるようにする。
d)人への適切な表現方法を学ぶ。
e)がまんすること、順番を待つなどのルールを学び、感情をコントロールできるようにする。
⑶認知学習のプログラム
①個別学習プログラム(例)
1.動作模倣(グー・チョキ・パーなど)
2.構成(積木構成:見本を見て、同じように作ることを促す)
3.チャンキング(公園、風呂場、台所のシートに、その場にあるブランコ、石鹸、包丁などの絵カードを分類して貼る)
4.手探りゲーム(袋や箱の中に物を入れておき、言われた物を手探りで取り出す)
5.複数指示(4枚くらいの絵カードの中から2枚の絵カードを取れるようにする)
6.大小分類(絵カードを大小で分類する)
7.パズル(6ピースくらいのピクチャーパズル)
《自習学習》(2点結び、ジグゾーパズル、迷路シート、描画、塗り絵、切り絵、折り紙、粘土、プリント学習)も行う。
②グループ学習プログラム
1.手遊び(“グー・チョキ・パーで何つくろう”の歌)
2.名前呼び(“ガンバリマン”の歌に合わせて、名前を呼ばれたら返事をする。
3.絵合わせ椅子取りゲーム(絵カードを持ち、同じ絵カードの椅子に座る)
4.腕相撲(ルールの理解、勝負に気づく)
5.言葉の指示による運動サーキット(巧技台をまたぐ、くぐる、跳ぶなど)
*動的な課題と静的な課題を上手に組み合わせる。
⑷認知学習のすすめ方の留意点
①不適切な課題は異常行動を高める。
・難しすぎると:「やりたくない」といって拒否、視線をそらす、席を立つ、奇声や独り言が増える。
・やさしすぎると:飽きる、わざと間違える。
②教材や言葉かけに変化をつける。
・学習課題を本来の意味の把握ではなく、別の手がかりによって応答のパターンを覚えてしまったり、学習時に使ったことのある教材を見ただけで、次の手順までやりたがるなど、行動だけを1セットにして学んでしまいがちである。治療者は、まず教材や呈示方法に変化(バラエティかつ新奇性)をつけることである。
③プログラムの変更の際には事前に言い聞かせ、納得できるようにする。
・子どもに興味の狭さや偏りがあり、教材や呈示方法に強くこだわり、勝手にやりたがることがあるので、絵や写真カード、具体物などを理解の補助に使いながら、言い聞かせると効果が期待できる。
⑸動機づけを高めるために
①子どもがすでに獲得した課題を発達課題に組み合わせる。
・StageⅠ、Ⅱの課題も組み合わせ、ゲーム的な要素を加味するとよい。
②子どもの高いスキルを利用する。
・ジグゾーパズル、文字、数字、乗り物、描画など高い能力を持っている場合には、そのスキルを教材化し、動機づけを引き出すこともできる。
③治療者は肯定的な言葉かけを多くする。
・「だめ」「違う」というよりも「やったね」「できたね」とほめて励ますような声かけを多くする。
4)対人・コミュニケーション能力を豊かに
ステップ1:治療者が子どもの興味に合わせた話題で働きかけ、コミュニケーションのきっかけをつくる。
ステップ2:限局した興味とその表現を少しずつ広げていくように工夫する。
ステップ3:かかわり方の適切な時と状況を具体的に丁寧に教える。
ステップ4:言葉での応答パターンの種類を増やしていき、実際に使える場面を持てるように工夫する。
*子どもどうしでかかわりや関心を育てる課題を用意する。(遊戯やゲームなど)
5)異常行動・不適応行動への対処のしかた
・頭の中で自分なりのきまりやイメージをつくり、それが壊れたときには不安と混乱を生じやすく、パニックとなって現れる。人への攻撃行動や物への破壊行動として現れる場合もある。直接的な対処法は以下のとおりである。
⑴事前の言い聞かせにより納得させる。
⑵理解を助けるために視覚的なてがかりをそえる。
⑶パニックが予測されたら早めに気分転換を図る。(好きなことに誘う)
⑷パニックには冷静に対処する。(少し弱まるまで様子を見る)
⑸原因の解釈よりも実態を正しく把握する。(子どもの気持ちを勝手に推察したり、まわりのかかわり方を批判することからは建設的な方策は生まれない。その異常行動が、いつどこで、どのように起こるかをよく観察し記録することである)
6)生活全般の中での発達課題
・このStageの子どもは、学習課題は得意であっても日常の中での理解や応用はきわめて乏しい。認知学習で学んだことを日常の中に般化させること、実生活の中で発達課題を意識して働きかけることが、認知構造を柔軟にし、適応行動を身につける上でとりわけ重要である。
⑴日常生活であいさつやきまりの言葉の2語文が使える。(おはよう、こんにちわ、おやすみなさい、いただきます、行ってきます、さようなら、ありがとう、ごめんなさい、~食べたい、~行きたい、~ほしい)
⑵言葉の指示で2つの用事がたせる。
・「~と~を持ってきて」「~をしてから~をしてきて」などの言葉の指示で正しく実行できるようにする。
⑶言葉により行動を調節する。
・全体への声かけで行動できるように、事前の言い聞かせによって通常のパターンを変更できるように、「~したらいけない」という約束事によって行動の調節ができるようにする。
⑷体験したことをもとにコミュニケーションを図る。
・絵や写真を呈示しながら、子どもが体験したことを話題にしてコミュニケーションを発展させる。
⑸家族の中での役割を持つ。
⑹地域社会での適応の基礎をつくる。
・交通機関の使い方、安全のルール、外食、買い物のマナー、お金の使い方などを具体的に教えることによって、社会的適応行動の基礎をつくる。
7)健常児集団での目標と接し方
・個別に何をすべきかを具体的にわかりやすく教えるようにする。
・健常児の行動を模倣したり、やり方を真似たりすることでみんなと一緒の活動を楽しめるように配慮する。
・名前を呼びかける、握手する、手をつないで歩くなど、適切な行動で他児とのかかわりが持てるように教える。
・言葉で要求や拒否が表現できるようにする。
・小学校での目標は、クラスの中での役割を意識して集団活動の大きな枠組みに参加することである。学習面では、学科学習の基礎である文字や数に慣れ親しみ、その意味に気づくことを目指す。学校での集団生活のルールやコミュニケーションのモデルを学ぶ機会とする。(染谷利一・関根洋子)

【感想】
 ここまでの記述を読んで、私が思ったことは以下のとおりである。
1.著者らは、「自閉症の治療」を、自閉症児の日常から切り離し(治療機関に呼び寄せて)、一定の「非日常的な空間」の中で、「認知学習」と(称)して行うが、その「治療」そのものが、場合によっては自閉症児の「異常行動」を増悪させるおそれがあるので、細心の注意が必要である。「認知学習」は、専門家が直接(または、専門家の監督下で)行わなければならない。また、「認知学習」で課題を獲得(達成)できたとしても、それだけでは「治療」効果は期待できない。そこで「できるようになったこと」は、日常の生活の中に「般化」されなければならない。そこで、「生活全般の中での発達課題」が《とりわけ重要になる》。ではいったい、著者ら専門家が行った「治療」(認知学習)を、日常の生活の中で「般化」させるのは、誰なのか。これまでの(StageⅠ、Ⅱ、Ⅲ-1の治療教育の)「生活全般の中での発達課題」を読む限り、その内容は、きちんと(発達論的に)整理されており、(私には)何の異存もない。私が思うことは、著者らは、どうして「そのこと」を、日常の生活の中(だけ)で「展開」しようとしないのだろうか、という一点である。自閉症児をStage分けで分類し、その能力に応じた治療(認知学習)プログラムを立てること(仮説)と、同じStageに分類された子どもたちを「非日常的な空間」に集めて「実践」することとは、区別されなければならない、と私は思う。前者と後者では「次元」が違うからである。また、実践の場である「非日常的な空間」と、子どもたちの日常的な生活の場(家庭・地域社会)とでも「次元」が異なる。それぞれの治療教育で立てられている「次元別の目標」には、どのような相互関連性があるのだろうか、判然としなかった。いずれにせよ、著者らは、「Stage別の認知発達治療」を、「生活全般の中での発達課題」に絞り、その子ども一人ひとりに即して行わない限り、「自閉症治療の到達点」は見えてこないのではないだろうか、と私は思った。
2.著者らは、「4)対人・コミュニケーション能力を豊かに」で、(私なりに要約すると)以下のようなステップを想定している。
ステップ1:治療者が子どもの興味に合わせた話題で働きかけ、コミュニケーションのきっかけをつくる。
ステップ2:限局した興味とその表現を少しずつ広げていくように工夫する。
ステップ3:かかわり方の適切な時と状況を具体的に丁寧に教える。
ステップ4:言葉での応答パターンの種類を増やしていき、実際に使える場面を持てるように工夫する。
このステップは、治療者が子どもと「接触」(コミュニケーション)するためのものだが、「働きかける」「教える」「工夫する」といった治療者側からの「接近」が述べられているだけで、子どもの側からの「反応」に対してどのように応じるか、は明らかではなかった。もし、子どもがその働きかけを「無視」「拒絶」「反抗」したときは、どのような「対処」をするのだろうか。「異常行動」として、「冷静に対処」するには違いないだろうが・・・?ちなみに、「自閉症治癒への道」(ティンバーゲン夫妻著・田口恒夫訳・新書館)の著者・エリザベス・ティンバーゲン氏は、以下のような(自分自身の)《実践例》紹介している。《即興のゲームによる「会話」の例》(積み木遊びをしていた6歳の男児が、「自分の仕事」《積み木遊び》が一段落するたびに、その作品を眺め満足そうにしていたが、最後には静かに、リズミカルに手を叩いた。その様子を観察していた治療者・エリザベス・ティンバーゲン博士は)〈すぐに、それに続いて私が代わって同じリズムで同じように拍手をしてみました。その子は私の方を振り向き、一瞬さっと私を見て、それからまた前に向き直って、私の拍手に応えて、また手を叩き始めました。そういう「対話」がしばらく続きました。それから私が拍手のしかたを少し変えてみたところ、嬉しいことにこどものほうもそっくりそれをまねてくれました。これもしばらく続き、こんどは「子どものほうが」リズムを新しいものに変えてきましたので、私もその「指示」に従いました。それから子どもはそういう「会話」を続けながら、部屋の中をうろうろ歩き始め、しばらくあてもなくさまよったあと、急に気が変わったように「偶然」に私の近くにきて、腹ばいになりました。子どもの足が私に一番近い位置になっており、ちょうど私の手の届くところにきていました。そこで、私が同じリズムで子どもの足をパタパタ叩いてみますと、それが子どもを喜ばせたようでした。子どもは、それに「答えて」手を叩きながら少し私の方ににじり寄ってきました。子どもがだんだん近くに寄ってくるので、手を伸ばすと子どもの脚や尻に私の手が届き、おしまいには背中をくすぐることもできました。子どもは喜んで身をくねらせながら、さらに近くにすり寄ってきました〉。この6歳男児(積木遊びに没頭している姿から、太田のStage分けでは、おそらく感覚運動期からシンボル表象期への移行段階のStageⅡだと思われる)に対して、治療者は、初め、相手のしていることを(無言で)「模倣」(手を叩き)しただけである。それが、きっかけとなって、相手は治療者に注目、「手を叩き合う」という「会話」が成立したのであった。さらに、治療者は相手の「指示」に従うことによって、相手は徐々に治療者に接近、身体接触によるコミュニケーションができるようになったのである。著者らは、たしかに「StageⅡの治療教育」の「4)対人・コミュニケーション能力を豊かに」で「担当者が子どもの要求に十分応じること、楽しい経験を共有すること」の重要性を述べている。しかし、「その際に、要求手段の出し方を教える。また、遊具やおもちゃの使い方はステップを踏んで教えていく」など、どうしても、治療者の意識は《教える》ことの方に偏りがちである、と私は感じた。その結果、StageⅢにおいては、(いきなり)「治療者が子どもの興味に合わせた話題で働きかけ、コミュニケーションのきっかけをつくることから始める」というような、(私から見れば)「無造作な」ステップが考えられてしまうのではないだろうか。こと「対人関係・コミュニケ-ション」に関する限り、「認知能力」の程度よりも、「情緒」のあり方(双方が相手をどのように感じているか)が最優先されなければならない、と私は思う。「担当者が子どもの要求を十分に応じること、楽しい経験を共有すること」は、言葉で言うほど単純・容易なことではない。そのことがスムーズに行われ得ないことこそが「自閉症」の「本態」なのだから・・・。(2014.2.3)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《18》Ⅴ章 Stage別の認知発達治療(3)StageⅡの治療教育

【要約】
【3.StageⅡの治療教育】
・StageⅡは、Piagetの感覚運動期からシンボル表象期への移行の時期にあたり、健常児の1歳半から2歳になるまでぐらいに相応する。
1)StageⅡの状態像
・言葉(1~2、3語文)がある子どもが多くなる。しかし、その使用頻度は乏しく、言葉数も限られたものである。「~ちょうだい」「~持ってきて」の指示でそのものを取ってこられる。まだ、状況に依存しがちであり、言葉かけの内容と関係なく、その場面でいつもしている行動をとってしまうこともある。
・遊びはひとりで物を並べたり、執着する物での遊びに没頭している姿が目立つ。機能的なおもちゃ遊びができるが、ミニカーを押す、人形に食べさせる、寝かせるなど単一のシェマの遊びである。まだ感覚遊びが多い。
・描画は、ほとんど描けないか、簡単な絵が描けるようになる。
・対人関係では、人への要求時に言葉または指さしなどの手段を用いることができるようになり、何らかの形で関心を示す行動が見られるようになるが、ひとりでいることを好んでいることが多い。
・情緒・行動面では、生理的なリズムの乱れは少なくなる。こだわりや奇妙な物への執着が目立ち始める。日課や状況、パターンの急激な変化に対してとまどいやパニックを起こしやすい。
2)StageⅡの治療教育の目標
⑴第1次元の目標:シンボル表象能力の芽生えを確実にすること
・まず、物に名前があることの基礎を確実にすることが重要である。名詞の理解を確実にし、広げるとともに、その物の属性(形、色、用途など)を抜き出し、言葉で認識できるようにすることなどが重点になる。
・さらに、視覚ー運動協応を促すこと、対象指示活動を十分にすること、イメージの世界の芽生えを促すことも大切な目標になる。
・対人関係では、身近な大人との関係を確実なものとすると同時に、子どもどうしの関係にも慣れることを目標とする。
⑵第2次元の目標:適応行動の獲得
・生活習慣の個々のスキルを獲得するとともに、よい日常生活のパターンを形成することである。
・ことばの理解を広げ、きまりやこだわりがあっても言葉かけなどによって変更ができるようにして、徐々に適応行動を広げることである。
・集団生活への適応面では、大人の介助があれば集団活動に大きくはずれないで参加できることを目標に置く。人とのコミュニケーション技能の基礎をつくるために、要求手段を有効に使用できることも重要な課題である。
⑶第3次元の目標:異常行動の予防と減弱
・情動の不安定さ、自傷行為、睡眠障害など、生理的な基盤に影響される異常行動もしばしば認められるし、こだわりによるパニックも問題になる。基本的には、認知発達と適応行動を獲得する中で、予防と減弱を図るが、激しい場合には、薬物治療を含めて治療の方針と治療教育の配分を検討する。
3)StageⅡの認知発達学習
⑴認知学習で重点となる発達課題
[1]視覚ー運動協応や随意運動の発達を促す(構成)[3]物に名前のあることの理解を確実にする(色・形の抽出、色・形の統合と分解、名詞理解を確実にする、用途による物の理解)[5]イメージの世界の芽生えを確実にする(再現遊びと簡単な見立て遊び)[6](要求手段の有効な使用、小集団の中で行動できる)
①個別の認知学習のねらい
・第1に、“物に名前のあることの理解”を確実にすることである。物のいろいろな属性を取り出し、言葉で認識できるようにする。物には色や形のあることに気づく。名詞だけでなく、用途でもそのものを理解できるようにする。言葉で2つの物がとれる、などを具体的なねらいとする。
・第2に、物と物との関係の概念の基礎をつくることである。お茶碗と箸、飲み物とコップ、ノートと鉛筆など、近い関係にある“近接”課題で理解を促していく。
・第3に、距離のある指さしの理解と、指さしで応答する課題にも取り組む。
・第4に、見本と同じように形をつくる“構成”課題、動作模倣として、指を折っての微細な運動や、右手と左手、上肢と下肢で形の違う模倣をする課題などに取り組む。
・第5に、要求手段の有効な使用、小集団の中で行動できることを促していく。
②グループ学習のねらい
a)数人の小集団の中で着席したり、順番を待つなどの適応行動が、大人の介助のもとにできること
b)他児がやっているのを見て模倣したり、他児への関心を高めるようにすること
c)音楽に合わせて皆で体操をしたり、簡単な遊戯などを楽しむことによって、情緒の安定と情動の発散を図ること、などをねらいとする。
⑵認知学習のプログラム
①個別学習プログラム
・1回の学習セッションを30分くらいの学習プログラムの例
1.動作模倣(向かい合って粗大、微細などの動作を模倣させる)
2.身体部位の名称(「~はどこ?」と質問し、指さしでの応答を促す)
3.構成(ひも通し:見本を作って見せ、同じように通させる)
4.動作語の理解(「~しているのはどれ?」と尋ね、絵カードを取らせる)
5.同じの理解(ペアになっているカードを見せ「同じのちょうだい」と言って応答を促す)
6.用途による物の理解(「~するものちょうだい」と言って、実物を取らせる)
7.色・形の分類(“色・形の仲間集め”色の分類、形の分類をする)
*ねらいとする課題がまだ難しすぎると思われる場合には、課題のレベルを下げてスモールステップを設定するか、それでも難しい場合には早めに切り上げて、次の課題に移行する。最後は、やさしい課題で終わるようにし、達成感を持たせ、次回の学習の意欲につなげていく。
②グループ学習のプログラム
1.リズム遊び(動作を模倣させる:「動物行進曲」)
2.歌でお名前呼び(友だちの名前に気づく:名前を呼ばれたら手をあげる)
3.椅子取りゲーム(まわりの動きを見て行動する、合図に気づく:笛などの合図)
4.運動サーキット(運動スキルの獲得、順番を待つ:マット、平均台)
5.御用学習(言われた物を取ってくる:離れた所にある実物を持ってくる)
⑶認知学習のすすめ方の留意点
①治療者が課題のねらいを意識する
・子どもは課題の意味に気づかずに、行動のパターンだけを学んでしまう傾向が強い。治療しゃは、課題のねらいが達成できたかを常に意識しつつ認知学習に取り組む。
②できない課題は早めに切り上げる。
・やさしい課題と、引き上げ課題とを柔軟に組み込んでいくことが大切である。
③机上の学習だけでなく、学習形態に変化をつける。
・着席していることが困難な子どもが多い。子どもの注意を持続するためのプログラムを工夫する。
④執着の強すぎる教材は避ける。
・執着が強すぎる教材だと、治療者の指示が入らなくなる。
⑷動機づけを高めるために
①好きな物で興味を引き出す
②身体接触でほめる
③課題の正否にかかわらず努力をほめる
④ごほうびを期待して頑張らせる
4)対人・コミュニケーション能力を豊かに
・StageⅡの子どもは、何らかのかたちで人との接触を求めることもみられるようになる。(誰かと楽しい経験をして、その後にその人を見ると同じことを要求する、気に入った友だち顔をのぞき込んだり抱きついたりする。一方で、人を押したり、つねったりすることもある)
・StageⅡでのねらいは、芽生えてきた対人・コミュニケーションの基礎を確実にし、適切な方向に育てることである。
①担当者が子どもの要求に十分に応じること、楽しい経験を共有することを通して、対人関係の基礎を確実なものにする。遊具、ボール、プラレール、粘土などでの楽しいかかわりを増やすことによって、もっと遊びたいという気持ちを引き出す。その際に、要求手段の出し方を教える。また、遊具やおもちゃの使い方はステップを踏んで教えていく。
②これらの関係を担当者以外の治療者にも広げ、楽しめる遊びの種類を増やす。
③子どもどうしの関係に慣れるようにする。輪になって座ったり、手をつないだりして、対人意識を育てていく。人を押したりつねったりする不適切な行動は、適切なかかわり方を具体的に教えることによって修正する。
5)異常行動・不適応行動への対処のしかた
 このStageの子どもは、興味の範囲は狭く、物事の理解は一義的で、日常の行動はパターンかしている。日常の物の位置や物事の手順へのこだわりが強く、それが壊されたときは強い不安と混乱のために激しいパニックを起こす。これらの行動は、このStageの認知構造に強く依存していると考えられる。また、常同行動(手をバタバタさせる、斜めに見つめるなど)や情動の不安定さ(意味もなく泣いたり笑ったりする)、自傷行為も目立つ。
 治療は、基本的には認知発達を促し、適応行動を身につけることにより予防と減弱を図る。以下は、そのポイントである。
⑴生活のリズムを整える。(StageⅠと同じ)
⑵適度に情動の発散を図る。(StageⅠと同じ)
⑶視覚的な手がかりと声かけで事前の納得を得る。(物事の手順やプログラムの変化については、絵、写真、関係する物などの視覚的な手がかりを示しつつ声かけをして理解を促す)
⑷対象物に事前に注意を向けさせる。(特定の音、物への過敏な反応によるパニックは、事前に子どもの注意を向けさせることで減弱することもできる。
⑸パニックが起こってしまったら冷静に対処する。
⑹社会的に容認できない行動ははっきりと禁止する。
⑺薬物治療の検討を行ったほうがよいこともある。(パニック、自傷行為、睡眠障害)
6)生活全般の中での発達課題
⑴声かけで日常生活での適応行動がとれる。
⑵1つのことなら言葉の指示で用事がたせる。
⑶好きな絵本で興味を広げ、対人関係を育てる。(大人とのコミュニケーションを楽しむ)
⑷家族や慣れた大人との安定した関係をつくる。(安心・安定など基本的な関係をつけつつ、要求行動や情緒の発達を促していく)
7)健常児集団での目標と接し方
・保育園や幼稚園での目標は、大枠のプログラムにそって行動できることを目指す。
(介助者の声かけと身体的な援助が必要である。徐々に援助を減らし、個別の声かけで動けるようにする)
・園の子どもたちからの誘いかけに応じて、手をつないだり、輪の中に入ったりして他児といることが楽しいという経験をすることにより、対人関係を豊かにすることである。介助者は、直接的な手出しは避けて、背後からそれとなく援助するように心がける。
(相沢幸子・仙田周作)

【感想】 
ここまでの記述を読んで、私が想起するのは(1980年代から2000年代まで勤務した当時の)知的障害養護学校小学部の「授業風景」である。子どもたちの約30%は「自閉症」と診断されていた。カリキュラム(学習プログラム)は「日常生活の指導」「遊びの指導」「個別課題学習」(養護・訓練、後の自立活動)、「ことば・かず」「体育」(リズム運動)「生活」など、整然と準備され、子どもたちは、それぞれの発達段階に応じて、「個別」に、あるいは「集団」の中で、きめ細かな指導を受けていた(はずであった)が、そして、身体面・生活面での「適応技能」(スキル)は着実に獲得していったが、肝心の「知的障害」もしくは「自閉症」という状態から「脱却」することはできなかったように思う。なぜなら、(私自身も含めて)そこにいる周囲の大人たち(多くは教員)の中で、「知的障害が治る」「自閉症が治る」などと考えている者は一人もおらず、その障害の本態はそのままにして、「社会適応」(社会自立)を第一義とする目標が立てられていたからである。「知的障害を治す」「自閉症を治す」などと言うことは、論外の発想であった。
 では、「太田のStage評価」に基づく「認知発達治療」はどうであろうか。単純に言えば、自閉症(もしくは行動的症候群)の原因(本態)は「脳の器質的・機能的障害」による「認知発達の障害」(シンボル表象機能の障害)である。したがって、その障害に焦点を当てた「認知発達治療」を行えば、自閉症(の本態は治るとは言わないまで)改善され、対人関係、コミュニケーション、異常行動など様々な「問題」を軽減・解消できるだろう、という仮説である。しかし、その仮説は「検証」される必要はない。なぜなら、自閉症は「脳の異常」であり、その本態はまだ十分に解明されていないからである。といった「堂々巡り」(負の循環)が蔓延しているように(私には)思われる。
 「Ⅴ章 Stage別の認知発達治療」をここまで読んで、私の期待は徐々に失われつつある。なぜなら、StageⅠ、Ⅱの内容は、すでに私自身が「経験済み」(養護学校小学部の状況と「瓜二つ」もしくは「五十歩百歩」)であり、そのことで、自閉症の「本態」が改善された例が(寡聞にして)見当たらないからである。また、著者らは、「Ⅱ章 自閉症の治療と治療教育」の【はじめに】で、「(初期の)受容的遊戯療法は、自閉症の本質的治療になり得ないことがはっきりと認められるようになった。それに代わり、自閉症の治療の基本は、子どもに積極的に働きかける治療教育と薬物療法へと変化してきている。さらに治療教育は、異常行動の改善や適応行動の獲得のみならず、認知と情緒の発達を促す方法にすすんできている。そして、認知発達的な見方から、子どもを受け入れ、行動の意味を理解し、行動の変容を図ろうとする方向に歩み出してきている」と述べているが、「受容的遊戯療法」が「自閉症の本質的治療になり得ないこと」を、どこまで実践的に証明できたのだろうか、またその限界は何かについて、どこまで究明できたのだろうか。「積極的に働きかける治療教育」は、いわば「受容的遊戯療法」とは正反対の「対処法」」である。自閉症の治療は「遊び」ではなく「学習」(教育)で、ということを提唱していることに他ならないが、はたして、(認知)発達レベルが3歳未満の子どもたちに「学習療法」(なるもの)が有効であろうか。「Stage別の認知発達治療」(積極的に働きかける治療教育)のⅠ、Ⅱを見る限りでは、その「認知学習プログラム」は、「学習」形態をとらなくても、「遊戯療法」の中で(も)十分に「展開可能」である、と私は思う。言うまでもなく3歳未満の「健常児」は、日々の生活、遊びの中で「認知学習プログラム」に相応する学習を(自発的に、自由奔放に)行っている。それを「自閉症児」は、なにゆえ、日々の生活、遊びから切り離された、(非日常的な)「学習場面」(個別学習・グループ学習)で(治療者に「積極的に働きかけながら」行わなければならないのだろうか。なるほど「受容的遊戯療法」には「(認知)発達的な観点」が欠けていたかもしれない。しかし、3歳未満の子どもたちが、日々の「遊び」や「生活」の中で「学習」し、「認知発達」を遂げていくことが自明である以上、自閉症児の「治療教育」もまた、日常的な場面の中で、治療者に「自然に」働きかけられながら、行われなければならない、と私は思う。さらにまた、著者らは、「個別学習プログラム」の「指導のしかた」の中で、頻繁に「促す」という言葉を使っている。(Ⅱ章・まえがきの)「さらに治療教育は、異常行動の改善や適応行動の獲得のみならず、認知と情緒の発達を促す方法にすすんできている」という文言からも、「促す」ことに重点がおかれていることは明らかである。しかし、「認知と情緒」は、《促されて》発達するものではない、と私は思う。当然のことながら、「促されて」できるようになった技能は、「その場限り」で終わることが多く、日常の生活場面に「般化」しない。そこで著者らは、あらためて「生活全般の中での発達課題」を設定しなければならなくなる、といった「二重手間」のプログラムを余儀なくされるのではないだろうか。
 私の独断と偏見によれば、自閉症児の治療教育は、彼らの「生活全般の中で」「恒常的に」行われなければならない。その指導者は、家族(主として両親)である。治療者は、その家族を支え、家族が「自然に」「有効的に」指導が行えるように援助する。場合によっては、「家庭訪問」して、その子どもの「実態」「問題点」を「観察」し、「治療プログラム」を作成する。つまり、治療者の役割は、自閉症児を「直接」治療するのではなく、自閉症児をとりまく周囲の大人たち(主として家族)が、彼の当面する問題(対人関係、コミュニケーション、異常行動など)を解決できるように援助することに、重点が置かれなければならない。著者らは、かつての(20年近く前)「行動療法」をふりかえり「子どもは教え込んだ課題の行動自体は学習したが、課題の意味は学ばなかった。また、(中略)学習した行動を忘れてしまったり、消去したはずの行動が違う形で現れたりことなどを(中略)経験してきた」(Ⅲ章・はじめに)と述懐しているが、その「行動療法」も、「Stage別の認知発達治療」も、子どもたちを「一堂に」集め、治療者が(一方的に)「積極的に働きかける、指導形態」であるという点では、まったく変わっていないのである。
 次節を読み進めていく上で、私の疑問は解決できるだろうか。(2014.1.29)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《20》 Ⅴ章 Stage別の認知発達治療StageⅢ-2の治療教育

【要約】
【5.StageⅢ-2の治療教育】
・Piagetの前操作期前半(健常児の3歳~4歳初め)に相応する。
・文字や数が概念としての意味を持ち始め、従来の教育的な学習が可能となるが、子どもたちの「限定された枠組みでの理解」をいかに広げ柔軟にすることができるか、いかに自我発達を促すことができるか、重く根本的な課題を含んだ時期である。
1)StageⅢ-2の状態像
・3語文以上の言葉を持つ子どもが7割近くを占める。会話は一方的(一面的)だが、具体的なことでの「一往復程度」の会話ができる。言葉かけの理解はできるようになるが、その意味を文字どおりに理解してしまい、背後の状況まで理解することは難しい。
・遊びでは、象徴遊びが見られるようになる。しかし、役割を伴った「ごっこ遊び」は難しい。本やテレビ等のストーリーに強い関心を持ち、本を1冊暗記したり、その中のセリフを適切な場で使ったりすることもある。文字、漢字、アルファベット、カレンダー、天気図、マークなどに興味を持つ子どもが多い。
・描画では、経験したことを絵にすることもできるようになる。
・対人関係では、言葉でのコミュニケーションが可能となる。治療者が気持ちの交流を感じるようになってくる。反抗的な行動、負けてくやしいという感じも見せたりする。
・異常行動では、パニック、自傷行為が激しく出ることもあるが、適切な働きかけがあれば、コントロールが可能になってくる。文字による約束、予告が効果を持つ。常同行動、物への執着も、言語の制止でコントロールできるようになる。
2)StageⅢ-2の治療教育の目標
⑴第1次元の目標:表象空間を豊かにさせ、思考の柔軟性を高める
・言葉の意味内容をふくらませ豊かにすること、物と物との関係の概念の理解を深め確実にすること、大小の比較、数、量、時間、空間の概念などを、頭の中で自由に操作できるようにすることである。
・人格構造の基礎ができ始める時期にあたるので、自我意識をさらに促すことも大切な目標である。自分の意思を言葉で表現(主張)したり、相手に合わせて行動を調節することも目標となる。
⑵第2次元の目標:適応行動の獲得
・集団の一員としての適応行動ができるようにすることを目標とする。(一斉の声かけで指示を理解し行動する、他児の行動を見る、競争、応援をする)
・自主的な行動の管理(服を選び、着て、汚れた物を片づけるなど)ができるようにする。
・家の手伝いの習慣をつけ、家族の一員としての役割と自覚を持たせる。
・学習面では、手をあげてから答える、ひとりで課題に取り組む、できたらそれを大人に伝えるなどができるようにする。
⑶第3次元の目標:異常行動の予防と減弱
・状況の見通しが立たなかったり、何をすべきかわからなかったり、人の気をひきたかったりするときに異常行動が起きることが多いので、言葉の理解力と社会性の技能を高めることで対応する。
3)Stage-2の認知発達学習
⑴認知レベルの把握
・「頭の中での大小比較:目の前にない2つの物の大小を比較する」の課題が通過しない場合は「前期」、通過した場合は「後期」という目安を立てる。
⑵認知学習のねらい
《前期》
1.視覚ー運動協応や随意運動の発達を促す(言葉の指示による運動、サーキット)
2.言葉の意味内容をふくらます(簡単な類推)
3.物と物との関係の概念の理解を確実にする(言葉による列挙、言葉による異同弁別)
4.数・量の概念の発達を促す(数の概念)
*“概念づくり”をすることが中心的なねらいである。
*物と物の関係が同じか違うか(口答)、前後の関係を判断(絵画配列)し、連続した関係がわかるようにしていく。
*指示に合わせて頭の中の表象空間で物を分類し、列挙できるようにする。
*動作語や反対言葉の語彙数を豊かにしたり、数字や文字の理解を確実にしていく。
《後期》
1.視覚ー運動協応や随意運動の発達を促す(言葉の指示による動作)
2.言葉の意味内容をふくらます(多側面からの質問への応答、疑問詞の理解、文字による意味理解)
3.物と物との関係の概念の理解を確実にする(頭の中での大小比較、空間における位置関係)
4.数・量の概念の発達を促す(数の合成・分解、やさしい応用問題)
*“概念操作の初歩”を促すことがねらいである。
*頭の中で大小を比較したり、算数のやさしい応用問題を考えたりする。
*因果関係、物と物との共通点や相違点を理解する。
*体験を絵や日記で表現する。
*ストーリーのある絵本やテレビを楽しんだり、思考の柔軟性を高めたりする。
《共通》
5.イメージの世界を豊かにする(絵本、本等の簡単なストーリーを楽しむ、描画・制作)
6.コミュニケーションを活発にする(ソーシャルスキルとしての言葉、集団でのゲームや約束事を理解する)
a)見本カードを見て同じように構成する。
b)切る、貼る、折る等の工作の基礎的な技能を養う。
c)ラジオ体操で、連続的な身体模倣、他人の指示で自分の身体の動きを調節する。
d)ソーシャルスキルとしての言葉を獲得する。
e)ゲームを楽しむ。
④グループ学習のねらい
a)全体への声かけで行動でき、いつもと違う言葉の指示に従う。
b)集団ゲームの技能とルールを学ぶ。
c)相手に合わせて行動する。ゲームや競争を通して相手を意識する、役割遊びにより、自己と他者の立場や言葉の使い方の違いを認識できるようにする。
d)自我形成を促すために、自分の意思や主張を言葉で言えるようにする。
⑶認知学習のプログラム
①個別学習プログラム(2人の子どもで行う30分程度の認知学習の例)
1.かけあいの歌(“森のくまさん”で、リーダーを交代して歌う)
2.絵本を2人で読む(絵本「ぐりとぐら」、誰がいた?など内容の質問をする)
3.頭の中での大小比較(目の前にない物を2つあげて、大小の比較を問う)
4.空間関係「~番目」(実物を5段以上の引き出しに入れ「上から何番目に入れた?」と問う)
5.カードゲーム(トランプ:配る係を決めて、カードゲームのスキルを学ぶ)
*子どもどうしがかかわり合うようなソーシャルスキルの獲得のための課題を必要に応じて配分する。
②グループ学習のプログラム(6人程度30分:運動を中心としたプログラムの例)
1.協力して物を運ぶ(2組で競争):風呂敷や長い棒2本の間に物を載せ、2人で落とさないように運ぶ。
2.三角ベース:技能の向上(取る、投げる、打つ)、ルールの理解(打順、打ったら走る他)
3.フルーツバスケット:ゲームの理解、役割の理解(鬼は果物の名を指名する)
a)より複雑な模倣や協応運動、筋力を養う課題
b)言葉の指示により動作を調節するような随意運動の課題
c)ルールの理解や相手を意識したり合わせたりする課題(ゴロベース、バスケット、フォークダンス、綱引き、大縄跳び)
⑷認知学習のすすめ方の留意点
①自然なかかわり方に近づける。(ほめ方、声のかけ方)
②教科学習に偏らない。
③総合的な課題はねらいをよく吟味する。(ごっこ遊び、劇遊び、ゲームなどの総合的な課題は、すでに習得した課題を確実にし、般化をねらいとする)
④理解の補助として、図や文字、パターン的な言葉を利用する。
⑤集団指導では個別の配慮を心がける。認知課題を複数の子どもで学習するとき、相手の答えを聞きながら自分も学んでいくということはまだ十分にできないので、個別の配慮を欠かしてはならない。
⑸動機づけを高めるために
①子どもの内発的な喜びを引き出す(治療者のほめ言葉、皆に認められること、ごほうびシールなどで、楽しく頑張れるように働きかけの工夫をする)
②その子にとって楽しみな課題を学習プログラムの中に入れる(期待を持たせ、課題に集中させる)
③課題の区切りの見通しが立つようにする(どこまですれば終わりなのかの見通しが立つようにすると、集中力を持続できる)
4)対人・コミュニケーション能力を豊かに
・このStageの子どもたちは2つのタイプに大別できる。1つは、積極・奇妙群である。もう1つは、受動群である。
・治療教育的には、自我形成と対人関係を発展させることに重点を置く。
1.自分の意見・意思を表す機会を多くする。(プログラムの中に「何をしたい?」「どっちがいい?」など、意思を問うものを盛り込む)
2.経験したことを言葉や文字で表現できるようにする。(日記や作文で表現法を覚え、情緒を豊かにしていく。その際には、写真や絵などを使ってイメージを喚起させながら、治療者とのコミュニケーションを楽しみつつ表現のしかたを教えていく。それを徐々に文章で表現できるように指導する。
3.友人関係を発展させる。集団の中で役割を持って責任を果たせるようにする。(カードゲームなどを活用する)
*このStageでは、本人のプライドやコンプレックスの形成に留意しつつ、治療者からの一方的なかかわりでなく、本人の気持ちや意思を大切にしつつ、子どもの情緒を豊かにしていけるような配慮が特に必要である。
5)異常行動・不適応行動への対処のしかた
・パニックや自傷行為、独り言等の異常行動が問題になる。これらの異常行動は、まわりの出来事と自分なりの頭の中でのイメージとがずれたとき、指示に対して何をなすべきかわからないとき、周囲の要求と生活が本人の適応レベルに合っていないときなどに増強する。激しい場合には、薬物治療を含めて治療の方針を再検討する必要がある。基本的な対処法の概略は以下の通りである。
⑴本人の適応レベルに合った生活を整える。
⑵文字を使った予告や約束を有効に用いる。
⑶不得手感からくる混乱を減らす。(呈示をわかりやすくする。答え方を補助する)
⑷意思を伝えるスキルを教える。(援助や許可の求め方、拒否のしかた、要求の出し方などの言葉のスキルを具体的に教える)
6)生活全般の中での発達課題
・計算や漢字などの学習的なことは得意でよく覚えるが、生活の中で活かしていくことは難しい。認知学習場面だけでなく、日常の中で般化させるように働きかけることがとりわけ重要である。家庭や他機関とも協力して、言葉の使い方を豊かにする、イメージを持った遊びを発展させる、友だちへの関心を広げる、などを日常の中での課題とする。
⑴認知発達学習を日常生活に般化させる。(時計の活用、買い物、乗り物、電話などの体験)
⑵体験したことや情報を言葉で伝えられる(子どもからの具体的な言葉の表現を引き出していく)
⑶事前の言葉かけで予定を理解し、行動が調節できる。(カレンダーや予定表の活用)
⑷家族員としての役割と自覚を持つ。(家事の分担、家事作業のスキル)
7)健常児集団での目標と接し方
・幼児期には、集団活動に興味のありそうなものから誘い、徐々にプログラムに参加できるようにする。
・小学校では、学校生活の流れについていくことがねらいとなる。待つ、並ぶ、行進する、手をあげて答える、当番をする、時間割にそって必要な準備をする、など学校での基本的な行動が獲得できるように働きかける。学科の習得は小1レベルの教科も本当に理解することは難しいことが多い。しかし、漢字や計算等では年齢相当の力を出すことも多く、級友に受け入れられる手がかりになる。所属意識が出てきて、友だちに受け入れられたり、注意されるのが一番効き目がある。皆から外れたくないために、自分をコントロールしようという意欲が見られたりするので、クラス全体の指導に配慮することが大切である。

【感想】
 以上で、「Ⅴ章 Stage別の認知発達治療」は終了する。私はこの章の冒頭部を読んで以下のような感想を書いた。
 〈導入期において「子どもが極度に不安定であったり、自傷など異常行動が激しい場合には通常のプログラムをしばらく見合わせて・・・」ということは、通常のプログラム、つまり「認知発達治療」(の実際)そのものが、子どもの異常行動を引き起こす要因になっていることを暗示・黙認することにならないか。まして、それによって引き起こされた異常行動を「薬物治療」で対処するなどとは、まさに「本末転倒」の対応ではないだろうか。そこで問題になるのは「通常のプログラム」だが、それが「子どもの発達段階」に即した「適切な課題」であることが前提に作られているのだから、(著者らの論述に従えば)子どもが極度に不安定になるはずがないのである。要するに、著者らが構築した「Stage別の認知発達治療」のあり方全体を、つねに《客観的に評価する態度を忘れてはならない》のではないか、と(不遜にも)私は思ってしまったのである。とは言え、まだその「実際」の詳細を知っているわけではない。期待をもって次節を読み進めることにする。〉
 そして今、著者らの「Stage別の認知発達治療」の理論的な概略の《全貌》(詳細)が明らかになったのだが、残念ながら、私の期待が満たされることはなかった。たしかに、「認知発達治療」のプログラムは「理路整然と」(発達理論を踏まえて)紹介されていた。子どもたちは、そのプログラムにそって「着実に」認知発達を遂げていくだろうことも推測できる。しかし、その段階毎に、「対人・コミュニケーション」の問題、「異常行動・不適応行動への対処のしかた」および「生活全般の中での発達課題」について「説明を加えなければならない」とすれば、肝心の「認知発達治療」そのものに、さほどの有効性は認められないのではないだろうか。著者らの研究は、もともと「自閉症の本態」に迫り、本質的にその「症状」を改善・減弱することを目指していたはずである。しかし「StageⅢ-2」においてもなお、《学科の習得は小1レベルの教科も本当に理解することは難しい》とか、対人関係において《積極・奇妙群、受動群に大別される》《対人関係は一方的で一面的であり、相手に合わせた会話はほとんどできず、まわりからの調節が必要である》とかの記述が見られるということは、「認知発達治療」だけでは、「自閉症」の「症状」を改善・減弱することはできない、ということを暗黙のうちに認めていることにはならないか。著者らは、自閉症の「本態」が「認知発達障害に因る」と主張する以上、その改善を図るためには「認知発達治療」を行うだけでよい、そのことによってすべての問題が解決するということを「証明」しなければならないのではないか、と私は思う。
 「揚げ足をとる」ようで恐縮だが、未だに(StageⅢ-2の段階になっても)「異常行動・不適応行動への対処のしかた」で、〈⑷意思を伝えるスキルを教える。(援助や許可の求め方、拒否のしかた、要求の出し方などの言葉のスキルを具体的に教える)〉というような項目をあげなければならないのはなぜだろうか。人への要求(手段)は、すでにStageⅠ-2の段階で「芽生え」、StageⅡでは「確実」になっていたはずではなかったか。私の独断と偏見によれば、その段階での評価が「曖昧」なままま、(「認知能力」が向上したので)次のStageに進んでしまったためだと思われる。「認知能力」が向上しても、「コミュニケーション能力」には「般化」されないという「証し」ではないだろうか。
 だがしかし、失望するのはまだ早い。次章はいよいよ「認知発達治療の実践」である。これまでの失望が希望に変わることを期待して、読み進めたい。(2014.2.4)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《21》 Ⅵ章 認知発達治療の実際 東大デイケアの経験から(1)

【要約】
《Ⅵ章 認知発達治療の実践 東大デイケアの経験から》
【はじめに】
・この章では、東大精神神経科小児部のデイケアの概略を述べた後に、認知発達治療を行う治療者側の体制について説明する。そして、認知発達の異なる2症例を呈示する。また、認知発達治療を支えるために最も重要な役割をになう親との連携のあり方や地域との協力関係についても触れる。
【1.東大デイケアの概略】
1)デイケアの歴史
・25年前に開設されてしばらくの間はダウン症が主な対象となっていたが、障害児に対する地域の受け入れがよくなるにつれて、デイケアの対象は自閉症およびその近縁の波立障害児で占められるようになった。
・第1期:1967年の開設当初にあたり、自閉症を保育の対象として受け入れた時期である。
・第2期:1969年からの数年間で、オペラント条件づけの学習理論による行動療法を導入した時期である(太田,1971:徐,1975)。治療の目標とする行動に焦点をあてて詳細な行動評価が行われ、短期的な治療の効果を実証的に示すことができた。模倣行動や発声の頻度の向上など一定の成果を上げることができた。
・第3期:治療の方法についての模索期(現在の発達的な治療教育への移行期)として位置づけられる時期である。行動療法では行動の改善に限界があるばかりでなく、見かけ上の行動だけをまなんでしまうこと、家庭や他の場面に般化できないことなどから、再度治療の基本的な見直しがなされた(太田,1975)。
・第4期:1977年頃より始まり、現在の認知発達治療の基礎を築いた時期であり、大きく質的な転換を図った時期である。治療の重点は行動の改善から精神発達の促進におかれ、治療の主な目標は、自閉症児の認知発達の促進に置かれるようになった(仙田ら,1978)。
・第5期:1982年より現在に至る期間である。認知発達治療の開発と充実の時期にあたり、自閉症の基本障害に焦点をあてた治療がすすめられてきた。「太田のStage」に基づいて、Stage別の臨床像と治療のねらいをまとめ、各々の発達課題を系統化してきた。また、薬物治療の積極的な検討、家庭との連携にも力を入れ、総合的な治療プログラムを考慮してきた(太田ら,1988,1990)。
2)デイケアの機能
・デイケアの治療形態では、日常生活を保ちつつ、一般の外来診療よりも治療密度が高く、本人に対する働きかけを計画的にすすめることができる利点がある。
・長年にわたり就学前の発達障害を対象として1日5時間、週2回の治療教育を行ってきた。
・1992年度より幼児のデイケアの時間を短縮して小・中学生までを対象とした学童のデイケアをスタートさせた。(この章では幼児を対象とするデイケアに限定して述べる)
・デイケアの任務は、社会のニーズに応えて質の高い治療を提供することと同時に、それを支える本態研究と臨床研究を推しすすめていくことにあり、そのために多くのエネルギーを注いできている。
3)デイケアのスタッフと役割
・スタッフは、治療全体の責任をもつ医師を中心として、心理スーパーバイザー、子どもを直接担当して治療教育を行うセラピストがおり、チームワークで運営されている。
・セラピストはほとんどが臨床心理士で、子どもの発達的観点からの治療教育全般を担当している。また、両親に対しては日常の家庭での療育のしかた、接し方などについてアドバイスを行う。さらに家庭訪問、通園先との連絡などを親と相談しながら行う。
・心理スーパーバイザーは、子どもの療育上の相談や親の心理相談を行う。また、日常の治療教育全般についてセラピストへの助言と指導を行う。
・医師は、デイケアの運営および治療全体の管理責任と医学的治療、デイケア治療教育全般のスーパーバイズを行う。医学的検査、薬の処方も行われるが、デイケアスタッフ全体の会議で検討されたり、確認されたりしている。
・臨床研究、スタッフの研修、症例検討会が、全スタッフの参加の下に行われている。
【2.デイケア治療の目標とプログラム】
1)3つの次元からの目標
・第1次元に属するシンボル表象機能の発達に焦点を置き、その発達を促す中で、いかに第2次元の適応行動を獲得させ、第3次元の異常行動の予防と減弱を図るかが重要であると考えている。
*第1次元と第2次元の関係(場面ごとのスキルと幅広い柔軟な適応行動の獲得を目指す)
*第1次元と第3次元の関係(理解力をつけることによって自分の力でコントロールしたり場面を理解した行動がとれる)
*第2次元と第3次元の関係(よい適応行動のパターンを身につけることで異常行動を減少する)
2)デイケアの日課と3つの次元
・デイケアの日課には、認知発達学習を中心として、生活習慣の確立、運動技能の促進、衝動を発散できるような自由遊びなどが総合的に組み込まれている。特に、第1次元のシンボル表象機能を獲得させ、対人意識を育てる働きかけは、個別の認知発達学習の時間だけではなく、治療教育のすべてを通して行われている。また、適応行動の獲得をねらいとした第2次元への取り組みも並行して行われている。
・Stageが低い子どもの場合には、認知発達学習としての独立性がうすく、治療者は着脱や食事などの身辺自立の獲得や自由遊びなどを通して物への認識や人への意識を高める働きかけをより意図的に行っている。認識レベルが高くなるにしたがって認知発達学習に日課の重点が置かれ、そこで学習されたものを日常の治療教育の中で般化させるように働きかけている。
3)年間プログラムとその意義
・月1回の親の会、各種行事(待機児の集い、遠足、諸調査、父親参観、デイキャンプ、クリスマス会、諸調査、卒院式)および家庭訪問、園訪問などが計画的に配置され、年間プログラムが組まれている。
*年間プログラムのねらい
①親が自閉症の障害や特徴、子どもの発達についての理解、デイケアにおける治療の理解を深めること。
②治療者との連携がスムーズになること。
③両親・家族と治療者との交流により信頼関係の基礎をつくること。
④親・家族の精神保健を良好に保つことができること。
⑤通園先など地域との良好な連携を保つこと。
【3.認知発達治療の実践にあたって】
1)デイケアでの指導体制
⑴グループ編成
・子どもは、週2回ずつ通院し、通院日によって2つのグループに分かれている。さらに、同じ通院日の中で4~5名の2つの小グループに分かれ、この小グループが日常の活動の単位となっている。
・グループ分けでは、ねらいや課題が類似していること、構造化された場面が用意されること、グループ指導の効果を上げやすいこと等を考慮する。(Stage評価による認知発達水準を主とし、障害の違いや年齢、生活習慣の自立度、異常行動の強さを考え合わせて小グループを編成する。
⑵指導体制
・子ども5人に対し、セラピスト2~3人で担当する。子どもの担当は、1~2か月ごとのローテーションで交代する。子どもが多様な人にかかわることで人への興味や対人関係を豊かにすることをねらいとしている。発達的に低い子どもや不安が強い子どもの場合には、数か月間担当者を固定して安定した関係ができるように配慮する。異常行動が強い場合にはマンツーマンの体制を必要に応じてとる。
⑶実践計画
①小グループごとに月1回の検討会を持つ。そこで計画を決定する。
②その内容を、セラピスト全体の月1回の会議で報告し、全体から見ての調節と統合を図る。
③医師やスーパーバイザーとの連携は、週1度のスタッフ全員が出席する連絡会議で、子どもの状態、特別のプログラムの計画などについての報告と討議がなされる。
2)認知発達学習
⑴個別学習
・個別のプログラムを立てて、基本的にはマンツーマンにより学習を行う。
(Stage評価→課題の試行→方針の決定→課題の選択→学習→評価)
*課題の試行:課題リスト(「認知発達治療実践マニュアル」)から動作性と言語性の課題をいくつか選択し試行する。(重点課題は必ず実施する)
*発達の特徴と問題点を把握して、方針を立てる。(今の水準を、次の段階に引き上げる
垂直方向に発達を促すねらいと、現在の水準を確実にして充実させる水平方向への発達を促すねらいの両側面から課題を組み合わせて設定する。
*幼児では20~30分の学習プログラムを作成する。(学習への動機づけが高まる課題、一定努力を要する主要課題、達成して満足感が得られる課題を配置する)
・学習セッション終了後、学習内容と結果を学習記録票に記載する。
・半年に1回の割で、一人ひとりについての詳細なケース検討会を持つ。(課題、方針の再検討を行う)
⑵グループ学習
・小グループごとに、20~30分の体操や集団遊び、サーキットなどに取り組むグループ学習の時間を割り当てている。
・グループ学習の計画にあたっては、課題の試行を行い、集団への適応の状態、対人関係の持ち方などの側面から評価を行う。
・これらを総合して目標を立てる。①集団での適応行動を育てること、②対人認知を育て対人関係を豊かにすること、の2つの側面から個別の発達段階に合わせた目標をあきらかにしておく。適応行動を獲得するねらいは、現在の発達段階に合わせた目標を立てることと、先々のより広い社会参加のために何が必要で、今から何を取り組んでおくべきかという長期的な視点も考慮に入れる。
・実践にあたっては、グループ全体の課題や環境を工夫して集団のアクティビティを盛り上げ、それを積極的に利用する取り組みをする。「Stage別の発達課題」を参考にして、子どもの個別のねらいを明確にしつつ、グループ指導を行う。

【感想】
 ここまでは「1.東大デイケアの概略」「2.デイケア治療の目標とプログラム」「3.認知発達治療の実践にあたって」が述べられているが、要するに、「4.認知発達学習の実際・・症例を通して・・」の「前置き」である。それにしても、その「前置き」は、冗長であった。とりわけ「3.認知発達治療の実践にあたって」は、前章までに述べられてきたことの繰り返しで、いわば「二番煎じ」。また文末に「~しておくことが大切である」、「~を行う必要がある」、「~ことを忘れてはならない」などという表現があったが、それらは《誰に対して》言っているのだろうか。この章は「実践」について記述するのだから、読者に対して「心がけ」を説諭することは不要ではないだろうか・・・、などと思ってしまった。それはともかく、ここまでを読んで、私が考えたことは以下の通りである。 「東大デイケア」は、1979年の養護学校義務化以前から、ダウン症等、障害のある就学前幼児に対するケアを行っていた。当初は《オペラント条件づけの学習理論による行動療法を導入し、短期的な治療の効果を実証的に示すことができた。模倣行動や発声の頻度の向上など一定の成果を上げることができたが、行動療法では行動の改善に限界があるばかりでなく、見かけ上の行動だけを学んでしまうこと、家庭や他の場面に般化できないことなどから、再度治療の基本的な見直しがなされ、治療の方法についての模索(現在の発達的な治療教育への移行)が行われた》。養護学校義務化以後(それと並行して)《自閉症の基本障害に焦点をあてた治療がすすめられ、「太田のStage」に基づいて、Stage別の臨床像と治療のねらいや、各々の発達課題を系統化してきた。また、薬物治療の積極的な検討、家庭との連携にも力を入れ、総合的な治療プログラムができあがった》、ということであろう。興味深いことは、「東大デイケア」の治療システムである。その形態、スタッフの体制、治療プログラムは、「(養護)学校教育」と「瓜二つ」であった。まさに「養護学校幼稚部」といった「有様」だが、さればこそ(「東大デイケア」は全国の中心的存在ということで)多くの養護学校が、その治療システムを「小学部」に導入したかもしれない。私の独断と偏見によれば、そこに「自閉症治療」の大きな不幸(誤謬)があった。「東大デイケア」は、《治療》を《(学校)教育》で行おうとしたのである。デイケアのスタッフは、医師、心理スーパーバイザー、セラピスト(臨床心理士)であり、「教員」は1人もいない。にもかかわらず、「実践」の内容は《(学校)教育》に他ならなかった。言うまでもなく、《治療》とは「病状の快復」を目指すものであり、《(学校)教育》は(究極には)「人格の完成」を目指すものであるが、「東大デイケア」においては、その区別が「極めて曖昧」である。なるほど「治療教育」という概念を用いているが、その意味は、ただ単に「医療関係者が(学校)教育を行う」ということではないであろう。子どもを「教育的に診断し」、問題点(発達上の「個人内差」)を明らかにしたうえで、治療仮説(指導方針)をたて、(その子どもに即した)個別教育(治療教育)を展開する。たしかに、「東大デイケア」においても、そのような「実践」を行っているが、「太田のStage分け」だけで、それを「教育的な診断」と見なすことは、極めて不十分(安易)ではないか。「東大デイケア」は、医師、臨床心理士の立場から、あくまで《治療》に拘った(専念した)「実践」を目指すべきではなかったか。さらに言えば、その方法論にも誤謬がある。当初「オペラント条件づけの学習理論による行動療法を導入し、短期的な治療の効果を実証的に示すことができた。模倣行動や発声の頻度の向上など一定の成果を上げることができたが、行動療法では行動の改善に限界があるばかりでなく、見かけ上の行動だけを学んでしまうこと、家庭や他の場面に般化できないこと」という文言から察するに、「東大デイケア」は、「行動療法」で「短期的な治療の効果を実証的に示すことができた。模倣行動や発声の頻度の向上など一定の成果を上げることができた」と、それまでの実践を(医療の立場から)《肯定的に》評価しているが、そのことで、自閉症の病状が快復しない限り、「教育的」には肯定できない。なぜなら「行動療法では行動の改善に限界があるばかりでなく、見かけ上の行動だけを学んでしまうこと、家庭や他の場面に般化できない」からである。では、「行動療法」から「自閉症の基本障害に焦点をあてた治療」(認知発達治療)に移行した今、行動の改善に限界はなくなったのか、見かけ上の行動だけを学んでしまうことはなくなったのか、家庭や他の場面に般化できるようになったのか、そのことを(自閉症の要因は親の育て方ではない、自閉症は情緒障害ではない、と断言したように)確信を持って断言できるか。その結果は、次節で明らかになるであろう。(2014.2.5)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《22》 Ⅵ章 認知発達治療の実践 東大デイケアの経験から(2)

【要約】
【4.認知発達学習の実際・・ 症例を通して・・】
1)StageⅠの症例(症例1)
⑴症例の概要(Y君・男子 初診3歳9か月、小学校入学まで2年間通院)
・主訴:言葉が出てこない、言葉をかけても応じない、偏食が激しい、何でも口に入れてしまう。(家族は父、母、兄、本児)
・現病歴:出産時異常なし。1歳までテレビを見せるとおとなしくてのかからない子だった。始歩1歳3か月、この頃鏡を見ながらバイバイをした。遊びは、車のタイヤを回してながめること、ソファで硬い表紙の絵本をパラパラめくることがほとんどだった。
・初診時の所見:多動、孤立、言語遅滞、言語理解の乏しさ、象徴遊びの欠如、特定の物への興味、などの症状により、幼児自閉症と診断された。
⑵デイケア通院開始時の状態
・名前を呼んでも振り向かず、目的もなく動き回っており、落ち着きがなかった。おもちゃには興味を示さず、口に入れてしまうか投げ捨ててしまう。人への興味は乏しく、お菓子がほしいときに人の手を引いて要求する程度で、ほとんどは実力行使でやっていた。有意味語はなく、言葉かけによる行動のコントロールはまったくできなかった。
・排泄面では、大小便ともにおもらしで、気配やサインも見られなかった。食事は偏食がひどく、立ち歩きや手づかみが目立った。着脱は介助されて協力姿勢をとるのみだった。
・働きかけによって、ぐずり泣きや頭つきを起こしやすかった。何でも口に入れてしまい、お菓子への執着が強く、目が離せない状態だった。
・「太田のStage」はⅠ-2の段階であった。
⑶治療方針
・担当者との安定した対人関係をつけること。
・デイケアの場面で、言葉かけで行動がコントロールできること。
・感覚運動的な知能を充実させること。物に名前のあることの基礎を養うこと。
*個別指導を重点にして治療教育をすすめる。
⑷導入期
・初めての集団参加であったが、母子分離は淡々としており、職員室への冷蔵庫への突進が目立った。集団参加への誘いかけには、当初は抵抗もなく一見おとなしいと思われたが、回を重ねるにつれ、ぐずり泣きや頭つきをして抵抗するようになった。不安と緊張の表れと理解し、導入期の1か月は、デイケア生活に慣れ親しむことを目標に、Y君のペースに合わせつつプログラムにのせていくように留意した。
・治療者は、家庭での様子、母親の接し方を聞き、どの程度まで本人に頑張らせればよいかを、働きかけの中でつかむようにした。
⑸認知発達学習
・日常のあらゆる場面で物への認識を高める働きかけをすると同時に、認知発達学習の時間をとるようなプログラムを立てた。
・最初は着席行動がまったくできなかったので、動き回っているY君のところに教材を置き、自由にさわって楽しむことによって、教材への興味を引き出していった。
・次に、興味のある教材を学習机に移して、着席できるようにした。1つの教材の操作が終わると「できたね」と言って頭をなでたりくすぐったりしてほめながら、次の教材を出し、興味を引き付けて5分間くらい着席できるようになった。飛び出せないような環境設定を工夫することにより、1か月くらいで学習する形態をつくることができた。
・課題は、はめ板、クーゲルバーン、ひも通し、ラッパを吹く、ボールを治療者が指さしたかごに入れることであった。
・1年目の認知発達学習では、目と手の協応問題、色の分類、指さしされた所に物を入れることが(喜んで)できるようになったが、物に名前のあることの基礎を促す問題、絵と実物のマッチングの課題になると、教材を見ただけで机にうつぶせてしまい学習が進まなかった。そこで、Y君の好きな果物の絵カードを数枚作成し、その日のお弁当で持参した果物と絵カードをマッチングさせるようにしたところ、功を奏して何回かやっているうちにできるようになってきた。それをきっかけに、学習場面でも物の分類やマッチングが確実になり、課題遂行がスムーズになってきた。1年目の終了時には、御用学習(絵を見せて実物を取ってくる)ができるようになった。
・2年目になるとY君の行動は安定し、治療者のペースで学習をすすめられるようになった。徐々に、視覚的な手がかりを様々にしながら、物の名称を教えた。写真カードや、白黒のデフォルメカードでも同じ物を取ることができるようになった。顔や身体の構成、果物の形を見せ、色を選ぶこと、などの課題にY君は嬉々として取り組んでいた。
・動作模倣は、治療者と対面すると治療者の膝にうつぶせてしまい、進歩がなかったが、
歌に合わせて手を上下に合わせたり、手のひらをくすぐったりして、治療者の動作に注目させるように工夫したところ、簡単な粗大模倣ができるようになった。その頃から、日常生活でも働きかけるとお辞儀やバイバイなどの動作ができるようになった。
・微細運動面では、ハサミでまっすぐな直線が切れるようになった。
・日常の着脱場面でもボタンのはめはずしを練習し、できるようになった。
⑹適応行動の獲得に向けて
・生活のそれぞれの場面で、はっきりと個別に言葉かけし、身体介助をしながら行動を促した。(靴を脱ぐ、椅子を持ってくる等)毎回繰り返して教えてきた行動については3か月くらいで行動パターンを学んできた。次には、指さしによる指示に気づかせることをねらいにした。
・2年目の終了時には、日常生活の流れにそった指示であれば、ほぼ言葉かけだけで理解できるようになった。
・Y君は偏食が激しく、基本的な食事行動もできていなかった。最初は意外に手がかからなかったが、デイケアに慣れてきた頃になって、食事の時間になると、食事用ワゴンを見ただけで大泣きするようになった。何が原因かわからなかった。治療者と2人だけで、別室で、Y君の好きなドーナツとゼリーを自由に食べさせたところ、立ち歩きながらも食べるようになった。徐々に他の菓子パンも食べるようになり、自分勝手に食べた後は、みんなと一緒の部屋に入って、弁当の好きなおかずだけ取って食べられるようになった。その後は、スモールステップで改善させることができた。卒院時には、(信じられないほど)行儀よく食事できるようになった。
・身辺自立の技能に関しては、家庭での的確な母親の指導との連携で徐々に獲得することができた。
⑺対人意識を育てる
・Y君の好きなトランポリンを通して、治療者との身体接触(手をとる、抱く、揺らす、放り投げる、震動させる等)を喜んだ。治療者が何をしてくれるか期待するようになった。
・ワゴン車、抱っこ(ぐるぐる回し)を喜ぶようになった。人の手を引いて喜ぶようになった。それを利用して“ちょうだい”の手のポーズで要求することを教えたたところ、要求を実現するためには何らかの行動をしなければならないことを学んだ。
・その後、何かをしてほしい時(お菓子が欲しい、教材を取って欲しい、部屋から出たい、ブランコに乗りたい等)、治療者に対して“ちょうだい”の仕草をして要求するようになった。
・次に、対象を指さして要求することを教えたところ、指さしの形は学んだが、指さしの意味に気づくことはできなかった。
・この頃から、禁止の言葉かけで行動の抑制ができるようになった。(部屋から飛び出す、絵の具を口に入れる等の時)2年目の終わり頃には、治療者の視線や動きを見て、禁止されそうなことをやめることもできるようになった。家庭では、帰宅した父親の顔を見て、嬉しそうな顔をしたり、母親が外出すると泣き出すたりすることも見られるようになった。
日常生活の中での言葉かけによる行動がスムーズになり、本人からの要求表現も出てきてコミュニケーションがとりやすくなった。
・2年目は、人への関心が、人をつねったり噛んでみたりして反応を楽しむ行動として現れた。そのことを禁止すると、さらに増強した。適宜無視することと叱るときにはきちんと叱ること、他に楽しむことを経験させるように留意すると減少させることができた。
⑻治療効果と今後の課題
・日常生活における言葉かけの理解、Y君なりの表現方法でコミュニケーションができるようになった。
・家族への愛着も示すようになった。
・基本的な適応行動が形成された。
・問題点:①異食や飛び出しへの管理が不可欠である。②集団場面で行動をコントロールするには個別の言葉かけと介助が必要である。③シンボル表象能力を獲得させることができなかった。
・今後の課題:①身のまわりの物の名称に気づくようにすること、②ジェスチャーや簡単なサインに気づき、コミュニケーション手段として用いることができるようにすること,③集団場面での適応行動を身につけること、④Y君なりの楽しみが増えること、が必要だと思われる。
*「発達質問紙」の経時的変化(数字はDA:推定 4歳→6歳)
〈運動〉40→72 〈生活習慣〉36→65 〈探索〉36→38 
〈言語〉29→38 〈社会性〉24→29
*「StageⅠ-2」の発達課題達成度(終了時「確実にできる」課題)
〈動作模倣〉「手合わせ・足合わせ」:〈指さし〉「指さしの理解」:
〈弁別・分類〉「実物の分類」:〈マッチング〉「同じ物どうしで」「形の違うもので」
〈日常での言葉かけの理解〉
・開始時にできていた課題:「目と手の協応」「隠された物を探す」「手段と目的の分化」「物の機能的扱い」
・達成度(達成した課題数÷StageⅠ-2の〈取り組んだ〉課題数)50%(ただし開始時にできていた課題を除くと32%)

【感想】
 以上が「症例1」の事例である。はたしてY君は3年間の「東大デイケア」の「認知発達治療」を中心とした「治療教育」によって、どのような「変化・成長」を遂げたのだろうか。「発達質問紙」の経時的変化を見ると、〈運動〉と〈生活習慣〉の伸びが著しく、「ほぼ年齢並み」になるまでめざましく成長している。しかし、〈探索〉〈言語〉〈社会性〉の変化はすくなく、まだ3歳レベルにとどまっている、ということがわかる。「太田のStage評価」でも、StageⅠ-2の段階を超えることはできなかった。また、当初の親の主訴「言葉が出てこない」「言葉をかけても応じない」「偏食が激しい」「何でも口に入れてしまう」のうち、改善できたのは「言葉をかけても応じない」くらいであろうか。著者らが、この症例をとりあげた理由は、おそらく「認知発達的には重度の遅滞を示している」子どもでも、(認知学習の)プログラムに沿っって「根気よく」働きかければ「物や人への認識が高まり、言葉かけによる理解と行動のコントロールができる」ようになることを示したかったためであろう。だがしかし、私の独断と偏見によれば、その企図は成功していない。なぜなら、Y君の「認知発達」はStageⅠ-2の段階にとどまっているにもかかわらず、〈運動〉〈生活習慣〉は「ほぼ年齢並み」にまで《成長》してしまったからである。つまり、Y君は「Stage別の認知発達治療」(の成果)にかかわりなく、運動能力や基本的生活習慣の技能を獲得したということである。しかし、卒院時のY君の「状態像」は、判然としない。通院開始時、①名前を呼んでも振り向かない、②多動で落ち着きがない、③おもちゃには興味を示さず、口に入れてしまう、④人への要求は乏しく、まれに手を引く、⑤有意語はない、⑥排尿便が自立していない、⑦偏食が激しく、立ち歩きや手づかみが目立つ、⑧着脱は介助が必要、⑨働きかけによってぐずり泣きや頭つきを起こしやすい、⑩何でも口に入れてしまいお菓子への執着が強い、といった「状態」の中で、改善できたのは④⑥⑦⑨ぐらいであろうか、と想像する他はないのだが・・・。
 再び、私の独断と偏見によれば、「東大デイケア」の「治療教育」の中でY君に効果をもたらした「働きかけ」とは、《自由にさせたこと》である。例証①認知発達学習の場面で着席行動ができなかったとき「動き回っているY君のところに教材を置き、自由にさわって楽しむこと教材への興味を引き出し・・・」、②食事の時間に大泣きしたとき「治療者と2人だけで別室で、Y君の好きなドーナツとゼリーを自由に食べさせたところ・・・」③Y君の大好きなトランポリンを通して、治療者が様々な身体接触をすると、「可愛い笑顔を見せて喜んだ」。ワゴン車、抱っこのぐるぐる回しを喜ぶようになり、「その後、人の手を引いて要求するようになった」。いずれも「認知発達学習」とは無縁の場面で、Y君の「変化」が現れていることに、注目しなければならない。そのような、治療者との《自由な》《楽しみを共有》できる「個別」のかかわりの中で、Y君は「変化・成長」していった、と私は確信する。 
 さらに言えば、Y君の「ぐずり泣き」や「大泣き」を軽視してはならない。それは、間違いなく「感情」「意思」の表現であり、コミュニケーションの手段としての「発声」「発語」の源(可能性)だからである。また、著者は「働きかけによってぐずり泣きや頭つきを起こしやすい」食事の時間の大泣きを「何が原因なのかわからず」と述べているが、それを「異常行動」と断じる前に、Y君が何を拒否しているのか、どんな不安があるのか、Y君の「異常行動」を引き起こしている原因は、治療者の側(「働きかけ方」あるいは「働きかける」という方法自体)にあるのではないか、といった反省が必要ではないだろうか、と私は思う。
 それにしても、「言葉がでない」という親の主訴、「有意味語はない」という治療開始時の実態が、2年後(卒院時に)どのように「変化」したのか、「発声」「発語」に関して、まったく記述されていないのは何故か、私には理解できなかった。(2014.2.8)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《24》 Ⅵ章 認知発達治療の実践 東大デイケアの経験から(4)

【要約】
3)2症例の治療効果の検討
・2症例の子どもの発達的な変化と行動の改善は、「太田のStage評価」による認知発達の効果として考えることができる。
・しかし、この2年間に、症例1では言語のみならず他の側面でもシンボル機能を獲得させることはできず、症例2では、基本的な比較の概念を獲得させることができなかった。このことは、自閉症のシンボル表象機能の障害がいかに重篤であるかをさし示しており、同時に、認知発達治療の限界をも示していると言えよう。
・今後、生物学的な障害に焦点をあてた薬物などの治療法が開発されることを期待している。
【5.認知発達治療を支えるもの】
1)親との協力
・家庭との協力と連携は自閉症児の治療上とりわけ重要である。
・東大デイケアでは、親や家族全体の精神保健に十分配慮した上で、よき協力者としての連携を保つねらいでプログラムが組まれている。
⑴病気や障害の理解を深めるための親への援助
①「親の会」(毎月開催)、②デイキャンプ(年1回開催)、③父親参観(年1回開催)の3つから、親に子どもの病気や障害の理解を深めるよう働きかけている。
①親の会:病気や障害についての現在までの世界的な治療・研究の到達点、デイケアでの治療理論、方針、方法などをテーマに、医師や心理スーパーバイザーが講義をする。親の会での話は、スタッフ全員に伝えられ、日々の治療教育に活かされる・
②ディキャンプ:通院児の全員を対象に行われる。午前の部は運動会、午後の部では、両親を対象にして医師が病気や発達の問題について講演し、質疑応答を行う。
③父親参観:治療教育の参観、その後、医師による講義と、質疑応答の時間を持つ。父親を含めた家族全体のダイナミズムを考慮に入れた働きかけの一環として位置づけている。
⑵療育に対する情報の交換とアドバイス
・治療者は治療教育の場面で取り組んだことが日常生活に般化するように指導し、般化の状態を把握する。また、子どもの家庭での日常生活を具体的に知り、治療教育上の手がかりや示唆を得る。
①親との面接:親の性格、精神状態、家庭の状況を十分に配慮してアドバイスする。
②お便り帳:毎日、子どもの様子と親の考えを知る。治療者が取り組みの概略を伝える。
③療育の参観:親が療育の場面に入り、治療者の接し方や認知発達学習を見る。参観終了後、親と面接する。
④家庭での課題:家庭学習教材での宿題や家事の手伝いなど、適応行動の獲得に関する課題である。夏休み、就学を控えた時期など「家庭学習」の習慣を身につけるのに役立つ。
⑤家庭訪問:年に1回実施する。家庭の状況、子どもの様子を具体的に知り、療育に活かすことを目的にしている。
・以上、家庭との連携では、治療者が自閉症と発達について科学的な観点から理解しておくこと、療育のねらいを発達の上から明確にしておくこと、子どもの変化や親の状態、訴えに敏感に反応できるチームプレーができる体制をつくっておくことが重要である。
2)地域との連携
・現在、ほぼ全員が地域の保育園や幼稚園で受け入れられ、デイケアと並行通園している。
・年1回は親の了解のもとに、治療者が園訪問を行っている。その目的と意義は、①自閉症児が健常児の集団の中でどのような状態であるかを知る、②自閉症の病気や障害、デイケアでの治療教育内容などを伝え、理解と協力をお願いする、園の方針や問題となっていることについてデイケア治療の中で協力する、ということである。
・お互いの期間の特徴を尊重し、お互いの不足している部分を補い合う協力関係をつくること、通院児のプライバシーに関する秘密の保持に最大限の注意を払うことの2点に留意している。
【おわりに】
・この章では、デイケアでの治療教育実践を通して認知発達治療の意義について述べた。2症例での発達的な変化は、一般の子どもの発達から見ればほんのわずかな進歩なのかもしれない。しかし、この子どもたちにとっては大きな進歩であり、人間としての成長過程を示しており、豊かな人間性の獲得の過程であると言えよう。

【感想】
 以上は、「Ⅵ章 認知発達治療の実際」のいわば「まとめ」の部分であるが、「報告」というよりは、「~が必要である」式の「解説」が目立ち、私にとっては「言わずもがな」の内容であった。また「2症例の治療効果の検討」の中で、症例1ではシンボル機能を獲得させることができなかった、症例2では基本的な比較の概念を獲得させることができなかった、と反省し、「同時に認知発達治療の限界をも示している」と述べられているが、認知発達治療の《何が限界なのか、どこに問題があるのか》は明らかにされていない。以降で「(我々は)技量を上げるような努力が必要」とも述べられているので、東大デイケアのスタッフ、とりわけセラピスト(治療担当者)の技量が足りなかったことが「限界」だと考えられているようにも思われるが、はたしてそうか。私の独断と偏見によれば、「認知発達治療」の原理、そしてその方法《自体》に「限界」があるということである。その理由1、自閉症の原因は、子ども自身の「認知発達の遅れ」にあるのだから、その部分に対する治療教育を行えば(認知発達水準が高まれば)、自閉症の様々な症状は減弱するという考え(仮説)には誤りがある。なぜなら「認知発達」(シンボル表象機能)に障害のない自閉症児(高機能自閉症、アスペルガー症候群など)の原因は何か、またその「症状」はどのようにして減弱するのか、明らかにされていない。理由2、発達年齢が3歳未満の子どもたちに対して「1対1の《学習形態》」を行うことは、(オペラント行動療法の名残であり)「発達的に」不自然である。行動療法的な「働きかけ」を(3歳未満の)子どもが拒否・回避しようとすることは「発達的に」自然であり、彼らには「自由な場面」の「試行錯誤」の《学習形態》が保障されなければならない。著者らは(精神分析学的)「受容的遊戯療法」の限界を指摘しているが、その代替として「(言語)指示的学習療法」に拘泥するのはいかがなものであろうか。
 もし「認知発達治療」が「自閉症の治療の到達点」であるのなら(著者らがそう信じるのなら)、それは(認知発達学習は)、デイケアの「自由な遊びの場面」で行われるべきである。具体的に言えば、「1)親との協力 ⑵療育に対する情報の交換とアドバイス ③療育の参観」で述べられている「親が実際の療育の場面に入り、治療者の接し方や認知発達学習を見る」だけでなく、親自身が参加することを、《毎回、日常的に》行うべきである。治療を行うのは専門家(セラピスト)、それに協力するのは親(非専門家)といった分担が、「認知発達治療」を《分断》し、「般化」などという「二重手間」を生じさせてしまうのだ、と私は思う。
 いずれにせよ、東大デイケアの「認知発達治療」には《限界》があることが明らかになった。著者らは、それをどう乗り超えようとするのか。「生物学的な障害に焦点をあてた薬物などの治療法」?、だとすれば、心理アドバイザーや臨床心理士(セラピスト)の「出番」はなくなるのではないだろうか。次章からを興味津々で読み進めたい。(2014.2.19)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《23》 Ⅵ章 認知発達治療の実際 東大デイケアの経験から(3)

【要約】
2)StageⅢ-1の症例(症例2)
⑴症例の概要
症例:N君(男子)は、4歳2か月で受診、小学校入学までの2年間通院した。主訴は、言葉の遅れ、きまりが多い、対人関係がうまくできない、であった。家族は、父、母、本児、弟の4人である。
現病歴:8か月頃、声をかけても振り向かないので変だと思った。10か月頃より歩き始め、1歳頃には走り回るようになった。手をつなぎたがらず、抱くと固くなってしまった。言葉は、最初の有意味語「パパ」が2歳頃に出現し、この頃からオウム返しが多くなった。遊びは乏しく、ひとりで走り回るのが好きであった。TVの画面に手をかざしたり、特定の音を嫌がり耳ふさぎをした。こだわりが強く、生活に支障があった。診断は幼児自閉症であった。
⑵デイケア通院開始時の状態
・人を無視しているように、孤立していることを好んだ。治療者からの働きかけを拒否し、嫌がり、泣き騒ぐなど取りつく島がなかった。TVのCMなど独り言を言いながら歩き回ったり、好きな特定のおもちゃをいじったりと、ひとりで淡々と過ごしていた。新しい道順や散歩の場所に不安を示し、泣いて騒ぐことが多かった。絵カードの隅にある数字を言ったり、パズルを裏返し数字で合わせたり、会社のマークに執着するなど、細かなこだわり行動が目立った。
・言語の理解は、身のまわりの物の名はだいたいわかり、靴を履く、弁当箱を持ってくるなど日常簡単なことは言葉かけで行動できた。言語表出は、抑揚のない単調な言い方で「こっち、こっち」と同じ言葉を何度も繰り返し、拒否のときに「やなの」と言うだけで、コミュニケーションとしての言葉の使用は乏しかった。食事はまったく手をつけず、強い拒食を示した。
⑶治療方針
・1年目は、行動上の問題を持っている5名のグループに所属して、個別の働きかけを主体としてきた。2年目は、認知レベルが向上し、StageⅢ-1以上のグループに所属し、子どもどうしのかかわりあいをねらいとすることができた。
・N君の問題点は、①働きかけ誘いかけに対する拒否的態度が強く、人への関心が乏しいこと、②遊びの内容が貧困で、シンボル機能の広がりが乏しいこと、③小食、偏食、ムラ食いなど、食事の偏りがあること、であった。
・1年目の初期には、治療者からの働きかけに慣れ、指示に応じられることを重点にし、後期には、StageⅢ-1の前期の課題を中心に、言語の多義的な理解を促すことを重点にした。
・2年目には、StageⅢ-1の後期の課題をに重点が置けるようになり、言語による物と物との関係概念に気づき、理解を促すことを主なねらいにした。
・治療者からの働きかけに、泣いて騒ぐことが多かったので、学習と食事の場面だけ集団活動に参加するように行動を促し、その他の場面はN君が比較的自由にふるまえるようにした。
・学習の場面では、N君が好きな手遊びやリズム運動、サーキットなど運動課題を多くし、着席している時間を短くした。言い聞かせながら手をにぎり、安心させ、着席時間を徐々に長くしていった。
・自由な場面では、集団から孤立しがちであったので、治療者は身体接触を伴うくすぐりっこ、おいかけっこなどをして誘いかけるようにした。
・食事の場面では、食べることを拒否し、強くすすめると泣いて騒ぎ混乱がエスカレートしたので、好きな麺類を家庭から持ってきてもらい、少しでも食べられるようにしていったところ、拒食だけは改善された。
⑸認知発達学習
・パズルやペグさしなど好きな教材・課題を多く取り入れ、好きなCMソングを歌って気分転換を図るなどの配慮をしたところ、15分間の学習プログラムが可能になった。
・1年目の前期には、治療者がN君の横に座って、StageⅡの課題の充実を図った。
・1年目の後期には、StageⅢ-1の課題に向上した。
*《20分間の学習プログラム》①導入の動作模倣、②白黒絵カードを呈示、「~するものはどれ?」「~(名詞)はどれ?」に指さしで答える、③動作カードを呈示、「~しているのはどれ?」に指さしで答える、④実物数個を呈示、「~と~をちょうだい」または、実物を離れた所に隠し「~と~を取ってきて」の複数指示に答える、⑤実物を風呂敷の中に隠し、絵カードを見せてその実物を取る。
・N君は一度教えると、教材を見せただけで前にやった学習のときとそっくり同じ答えをしてしまい、なかなか意味の理解につながらなかったので、同じ絵カードを使っても名詞や用途で交互に質問する、質問の順序を変える、質問から応答までの時間をおく、応答のしかたは指さし、身振り、言葉というように多様にする、などに留意した。
・2年目の中頃になると、N君は複数指示の理解が確実になり、StageⅢ-1の前期の課題が着実にできるようになった。そこで、近接の関係や比較の基礎をつける後期の課題に重点を移していった。
・2年目の後期には、就学を控えて文字や数に親しむことを含めてStageⅢ-1の重点課題を達成できるように取り組んだ。幼児基本語彙で150語の理解と表出ができ、用途や動作語の言語表出も確実になった。描画では人の顔や体が描け楽しめるようになった。ひらがなの文字見本を見て書け、数も10まで数えられた。しかし、比較の理解、言語による物と物との関係の概念を理解することは十分ではなく、今後も課題である。
⑹適応行動の課題に向けて
・着脱、排泄はほぼ自立していたが、食事面では偏食が問題であった。治療者は、食べられるものをお弁当に入れてもらい、好きな食べ物をごほうびにしながら、食べ物の種類を増やすようにした。治療者はN君の頑張れそうな目標を置き、それに向けて根気よく働きかけた。偏食は大幅に改善されなかったが、安定して適量の食事が食べられるようになった。
・N君は、自由な場面ではおもちゃやトランポリンなどの遊具で転々と遊んだが、グループ学習では、環境の設定を配慮することによって、音楽に合わせて簡単な遊戯やゲームを楽しめるようになり、全体の指示や集団の動きに応じて行動できるようになった。
・学習形態は、1年目は1対1であったが、2年目のStage-Ⅲ-1の後期の認知レベルの時期になって、2人組の学習が意味を持つようになってきた。1対1よりもリラックスして学習に取り組み、自習では「パズルをやりたい」と自分から課題を選び、済むと「終わりました」と治療者に言ってくるようになった。
・着替えの順序、名札をつける位置、ボタンのかけ方、寄る店、買う物などが「お決まり」のこだわり行動に対しては、治療者が事前に言葉かけをしたり、「~と~のどっちがいい?」とN君が選択できるように促したりした。N君のこだわり行動は、言語理解がすすむことで行動のコントロールができるようになり、こだわり行動も緩和でき、少しずつ柔軟になってきた。
⑺対人・コミュニケーション能力を育てる
・人に背を向けてひとりで数字合わせの遊びなどに執着していたN君に対しては、まず治療者からの働きかけに慣れ、好きな遊びを一緒にし、人からの誘いかけに応じることをねらいにして働きかけた。
・2年目にはグループの子どもたちの力動を活かすように場面を設定した。簡単な遊戯を通して友達と手をつなぎ踊ったり、楽器を使って歌遊びに取り組んだ。簡単な身振りはよく覚え、友達と手をつなぐことも自発的にできるようになった。N君がリードする場面も見られるようになった。
・コミュニケーション面では、当初、拒否の言葉や場面に関係のない独り言が目立ったが、2語文を有用なコミュニケーション手段として確実、豊富にすることをねらいにして、その都度促したところ、2年目の後半になると「トランポリンがしたい」「~ちゃんと踊りたい」「おしっこ行ってきます」など、自分の意思を言葉で表現したり、許可を求めるようになった。治療者が「着替えた?」と聞くと「やってるよ」と答え、「これ食べなさい」と言うと「最後だよ」と答え、「終わりにしようか」と言うと「まだやりたい」と答えるなど、簡単な応答、要求の表現、自分からの意思表示も見られるようになった。全体的にパターン的であるが、やや自然さが感じられ、担当の治療者と共感できるようになった。
⑻治療効果と今後の課題
・この2年間の治療教育の経過の中でN君は大きく変化した。表情が豊かになるとともに言語理解、言葉での表出、対人・コミュニケーション、適応行動の獲得など、どの面から見ても発達と進歩が見られた。
*「発達質問紙」の経時的変化(数字はDA:推定 4歳→6歳6か月)
〈運動〉36→72 〈生活習慣〉21→38 〈探索〉21→26 
〈言語〉0→10 〈社会性〉21→20
*「田中ビネーテスト」
〈生活年齢〉52か月→72か月 〈精神年齢〉33か月→42か月
〈知能指数〉63→58
*「絵画語い能力検査」
〈生活年齢〉53か月→72か月 〈修正得点〉0→13
〈語彙年齢〉2歳以下→3歳8か月
*「StageⅢ-1」の発達課題達成度(終了時「確実にできる」課題)
〈視覚運動協応や随意運動の発達を促す〉
〈言葉により属性を認識し言語で表出する〉「色・形の理解と言語表出」「動作語」
〈言葉の世界を豊かにする〉「語彙数を増やす」「簡単な文の言語表現」(前期に達成済み)
〈短期記憶の容量を増やす〉
〈物と物との関係の概念の理解を促す〉「チャンキング」「仲間あつめ」「同じ違うの理解」
〈イメージの世界を確実にする〉「身近な物の描画や制作」
・未達成の課題:「比較の基礎をつくる」「コミュニケーションを豊かにする」
・達成度(達成した課題数÷StageⅢ-1の〈取り組んだ〉課題数)83%(ただし開始時にできていた課題を除くと82%)
・会話はまだパターン的であり、物と物との関係の概念を就学までに獲得させることはできなかった。今後のN君の課題は基本的な比較の概念を獲得することにある。今後その壁を乗り越えられれば、より柔軟な言語思考を獲得することが期待できる。

【感想】
 以上が、「症例2」(N君)の「認知発達学習の実際」である。著者らは、〈この2年間の治療教育の経過の中でN君は大きく変化した。表情が豊かになるとともに言語理解、言葉での表出、対人・コミュニケーション、適応行動の獲得など、どの面から見ても発達と進歩が見られた〉と述べているが、「どの面から見ても発達と進歩が見られた」と言えるかどうか・・・。特に「乳幼児精神発達質問紙の各領域別の発達年齢を見ても順調な伸びを示している」ということだが、私の独断と偏見によれば、順調な伸びを示しているのは「運動」の領域(だけ)であって、「生活習慣」は3歳レベル、「探索」は2歳レベル、「社会性」「言語」は1歳レベルにとどまっているではないか。たしかに、「絵画語い能力検査」の語彙年齢は3歳8か月まで向上しているが、それは単語レベルの理解力が向上(語彙のレパートリーが増えた)しただけであって、「コミュニケーションを豊かにする」というStageⅢ-1の課題達成には寄与していない。言い換えれば、N君の「言語能力」(シンボル表象水準)は、「認知発達学習」という《非日常的場面》(学習場面)に《限られてのみ》向上したのであって、日常の生活に般化されていない。著者らは、N君の今後の課題として、「基本的な比較の概念を獲得すること」を挙げており、その課題を達成すれば「柔軟な言語思考を獲得することが期待できる」と述べているが、「柔軟な言語思考」とはどのような思考だろうか。そのことによって「コミュニケーションを豊かにする」というStageⅢ-1の課題も達成できるのだろうか。再び、私の独断と偏見によれば、N君の最大の問題は「会話はいまだにパターン的であり」という点にある、と思う。治療開始時の保護者の主訴は「言葉の遅れ、きまりが多い、対人関係がうまくできない」であった。その「きまりが多い」(ある物事にこだわる)ことと「会話がパターン的である」ことは、同質の問題ではないだろうか。N君は、自分の「話し方」にも「きまり」を定めている。著者らはそのことについて(治療開始時)〈言語表出は、抑揚のない単調な言い方で「こっち、こっち」と同じ言葉を何度も繰り返し、拒否のときに「やなの」と言うだけで、コミュニケーションとしての言葉の使用は乏しかった〉と評しているが、単調な言い方で「こっち、こっち」と繰り返すこと(叙述)も、拒否のときに「やなの」と言うこと(拒否の表現)も、コミュニケーションとしての言葉の(豊富で的確な)使用例である。つまり、N君は4歳9か月時、コミュニケーションとして言葉を使用し始めていたのである。大切なことは、その「芽」を育むことであり、具体的には「抑揚のない単調な言い方」が「怒り」や「憤り」「くやしさ」「悲しみ」「喜び」「楽しさ」「笑い声」によって「変化」するような「心の交流」の機会を設けることではなかったか。東大デイケアの生活にもそのような機会があったに違いない。しかし、著者らが重点を置いていたのは「認知発達学習」を中心にした「認知能力の向上」のための(プログラム化された)《課題》の方であった。その結果、「会話はいまだパターン的であり」という残念な状況が続いているのだ、と私は思う。
 著者らは「この2年間の治療教育の経過の中でN君は大きく変化した」と総括している。しかし、その変化が、自閉症の「本態」(私の独断と偏見によれば、新しい場面・物・人への不安と回避、葛藤)にかかわるものであったか、その根本的改善(治療・治癒)を示すものであったか、は疑問である。そのことは、「⑻治療効果と今後の課題」で示されている「発達質問紙の経時的変化」のグラフを見れば一目瞭然、「社会性」の伸びはほとんど見られないのだから・・・。(2014.2.14)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《25》 Ⅶ章 自閉症の治療と家族(1)

【要約】
《Ⅶ章 自閉症の治療と家族》
【はじめに】
・本章では、まず自閉症と家族の考え方の歴史を概略し、自閉症の親子関係について現在あるいは今後解決しなければならない課題を提起する。その後に、治療者としての観点から、自閉症児を持つ親への理解を深めるために、私たちの研究を紹介しつつ、親のストレスとその緩和についてのあり方について述べる。そして、子どもの各年齢段階において乗り越えなければならない課題を整理して示す。最後に、家族を支える社会的な援助体制に触れる。
【1.「自閉症と親」の歴史】
・「自閉症と親」の問題は、Kannerが、自閉症の親は特徴的な性格を有しているとしたことに端を発する。
・Kannerは、11人の症例をもとに、自閉症の特徴をまとめて「情緒接触による自閉的障害」と題して報告した。両親は知的には高いが冷淡で機械的で強迫的であるとの特徴を指摘したが、同時に、子ども自身に情緒接触を形成させる能力に生得的な障害がある、との考え方も強調している。
・病理的な性格を持つ親の接し方が自閉症の障害をつくりだすという考え方は、Bettelhei(1967)に代表される精神分析学派の専門家を中心として主張されてきた。自閉症の治療は、精神分析的な治療法に基づいて絶対受容を基本とする精神療法が行われてきた。
・Rimland(1964)は、著書「小児自閉症」の中で、自閉症の原因を親からの心理的な要因に求めることは実証的根拠がないことを論じ、その考えを批判した。生後まもない異常、男児に高い性比、一卵性双生児研究による高い一致率、独特な症状などから心因説を否定し、遺伝を含めた生物学的な障害の関与を主張した。
・McAdooとDeMyer(1978)は、MMPIを用いて自閉症児の両親と児童ガイダンスクリニックに通う両親とを比較したところ、大きな差は見出されず、この両群と成人の精神疾患外来患者は大きく違っていたことにより、自閉症児の親は精神病理的なパーソナリティを持っていないことを明らかにした。
・現在までに明らかにされた点は、次のようにまとめられる。①生後に受ける親の影響が自閉症の原因であるとする心因説が否定された。②親の精神病理的なパーソナリティ特徴の存在が否定された。③自閉症児自身に生物学的基礎を持つ発達の障害が推察される。親との関係では遺伝負因や胎内環境など生物学的な検討が今後必要である。
・自閉症と家族のテーマには、他の障害児の家族に比べて配慮しなければならない特別な意味がある。①自閉症は療育の際に対処の難しさがある上に、家族全員の生活を巻き込むほどに強い影響を与える。②自閉症児は親をはじめとして家族との間に特有な関係を形成しやすく、相互関係は自閉症状に強く関連し、時には激しい不適応状態をつくりだす。③自閉症児は脳機能障害が推測される発達障害として位置づけられようになったものの、治療・教育の現場では今なお育て方の不適切さによる情緒障害として親が責められることが多い。
【2.障害への親の認識過程】
1)障害の発見
・言葉の遅れと異常、人への反応の乏しさ、多動、耳が聞こえないかのように振る舞う、ということで、2歳から2歳半の時期に気づくことが多い。
・現段階では、早期治療、療育指導の方法は確立されていない。
2)成長過程と親の認識
・自閉症の症状は、4~6歳くらいから最も典型的に現れる。
・低年齢の子どもの親は、言葉の遅れと異常は訴えるが、後に大きな問題となる知恵の遅れに関して訴える親は少ない。
3)学童期
・親は、情緒・行動上の問題に加えて、言葉の遅れだけでなく、知恵の遅れを強く訴えるようになる。
・我々の研究(Ohota,et.al.,1986)によると、学童期の初期には行動上の異常に認知の訴えが加わり、最も多彩な症状の訴えとなって現れる。年齢が高くなるに従って、背後にあった認知の障害が前景に立つようになる。
・10歳以上になると、行動上の訴えは減少するが、大部分に言葉の遅れや問題、知恵の遅れが残る。一部の子どもには、思春期を迎えて、激しいパニック、自傷、強迫的な行動が現れ、親の対処が難しく、家族全体の不適応状態の訴えとなって表れることがある。
4)青年期
・対人関係は改善されるが、柔軟で自然な対人関係には発展せず、社会性の問題を残すことが多い。社会的に独立した生活を営めるほどになる者は非常に少ない。
・親の意識も、当初は独立して生活を営めるようになることを期待するが、年齢が高くなるにつれて、現実的な厳しさを伴い、せめて親の援助で家庭生活を営めるようにという願いに変わっていく。予後は、楽観的には考えられないものである。
【3.家族への理解】
・我々は、家族のストレスに関する一連の研究(永井,1985,1986,1987;永井・太田,1987)を行ってきた。(対象:自閉症児の母親89名、精神遅滞児の母親38名)(方法:Hillの社会ストレスモデルであるABCXモデルを応用した)
1)親のストレス
・自閉症の子どもを持ったために親の情緒や精神面に悪い影響を与えているとの訴えが強かった場合には高ストレス、この訴えが強くない場合は低ストレスとして解析を行った。高ストレス群について治療者側からも臨床的な評価をした。その結果、高ストレス群には、特別な配慮が必要な人たちが多く含まれていることがわかった。(かなり必要24.2%,ある程度必要48.5%。特別な必要なし27.3%)
⑴子どもの要因
・「その子どもを持ったことによる家庭生活への影響」(DeMyerとGoldberg・1983から引用)の11項目について“良い影響、特に影響なし、少し悪い影響、かなり悪い影響、非常に悪い影響”の5段階で母親に答えてもらった。他の調査項目と合わせて、ストレス因としての子どもからの影響の程度を知る手がかりとした。
①子どもが障害児であること
・自閉症の幼児を持つ母親と比較するために、東京近郊の幼稚園・保育園に通う同じ年齢の一般幼児を持つ母親286名の協力を得て調査を行った。その結果、情緒的・精神的問題、身体的問題、夫婦関係、家族の人格形成、他の兄弟の要求への対応、兄弟同士の関係、友人や近隣関係、親戚関係、家事一般、家計、家族のリクリエーションのすべての項目において、一般幼児の母親は“良い影響”と答えた割合が高かった(40%以上)が、自閉症児を持つ母親は“悪い影響”と答えた割合が高かった(30%~80%)。
・さらに、健康調査票を用いて自己評価式により母親の健康状態を調査した。自閉症幼児の母親は、毎日の気分がすぐれない(42%)、将来のことが心配だ(84%)、との訴えが非常に高かった。また、つかれやすい(73%)、家事をしたくない(48%)、すぐに不安になる(45%)、死んでしまいたい(68%)などの、不安・抑うつ的な項目において、一般幼児の母親に比べて訴えの割合がかなり高かった。
②子どもが自閉症であること
・自閉症児の母親と、自閉症状を持たない精神遅滞児の母親と比較してみた。その結果は、回答のしかたにはほとんど差がなかった。母親にとって子どもに発達の障害があるということは、障害の種類にかかわらず、母親を非常に大きなストレス状態に置くと言える。
③子どもの年齢による違い
・対象となった自閉症児を幼児と学童以上の年齢によって2群に分けて比較してみた。その訴えの強さにはほとんど差が認められなかった。子どもの将来の見通しに関しては、子どもの年齢が高いほうが,親はより現実的・悲観的になることが示されていた。
④子どもの症状による違い
・自閉症の重症度(精神発達質問紙による母親の評価、「太田のStage評価」、多動傾向により決める)によって、親のストレスに差があるかどうかを検討した。多動で重度な子どもの場合には、親のストレスがより高いことが明らかになった。子どもの障害の「重症度」は、親のストレスの強さに影響する。しかし、幼児期の子どもを持った母親では、ストレスの強さは、精神遅滞の重さに必ずしも比例しないことが示されていた。
⑵家族の要因
・親のストレス状態は、「家族の資力」がどの程度あるか、「ストレス因の認識のしかた」によって違ってくる。
①家族の資力
・高いストレスの母親は両親ともに高学歴の傾向があり、この要因は子どもの障害認知と関連してストレスを高める要因の1つになっている。さらに、高ストレスの母親は、不安・抑うつ的な症状を強く訴えていた。それが、どの程度親の本来の特性なのか区別しがたい。ストレス因としての子どもの障害を受け止める親側にも、それに反応し精神・身体症状を起こしやすい特性があるように思われる。
・家族の資力として最も重要な“家族の凝集力”については、客観的な評価がされていないが、離婚家庭はなく、全体として、自閉症児を持った家族の凝集力の強さを示す1つの指標ともなろう。
②ストレス因の認識のしかた
・高いストレスを訴える母親とあまり訴えない母親とでは、子どもの障害の認識のしかたに大きな違いが見られた。高ストレスの母親は、子どもの以上を脳機能の障害との関係で捉えており、症状や発達の遅れを強く認識していた。低いストレスの親は、子どもの障害の原因や病気としての認識の点で“わからない”と答える割合が高く、子どもの発達レベルに関しても、軽く認識する傾向が見られた。
⑶社会の要因
・家族の適応の良否は子どもの障害の重症度よりも社会的な援助が影響するという研究(Bristol,1987)があるが、専門的な指導や援助のあり方が親のストレス状態に強く影響する。専門機関の指導が不十分であったり、不適切であったりすることによって、親のストレスを増してしまうことのあることに留意する必要がある。
2)親のストレス状態の緩和
⑴家族への理解の側面から
・母親は、抑うつ的な反応を示しているとはいえ、全体として見れば、子どもの症状を正しく捉え、子どもの障害を受容してなお積極的に適応しており、ストレスは正常な親としての反応の範囲である。これらのことを十分に考慮して家族への援助をする必要がある。
⑵親の精神保健の側面から
・多くの親は不安と混乱による危機的なストレス状態の時期を抜けて、親自身の生きる価値観を考え直し、前向きに生きる力を奮い立たせ、家族を再構築させて適応を図るという困難な作業にとりかかる。治療者は、そのプロセスを見守ることしかできないかもしれない。しかし、方向性を定めるときの助言者として、疲労したときの片時の援助者としての役割を果たすことはできる。
⑶子どもの治療的な側面から
・治療者は、まず第1に、子どもの発達を促して理解力をつけるとともに、多動やパニックなどの異常行動を改善しるような働きかけをする。そうすることで、長期的な視点から親の強いストレスを減少させることができる。第2に、親が子どもの障害や発達を正しく捉え、子どもの行動の意味を理解して療育の目標を定めることで、日常の中でどのように働きかけたらよいかを助言することである。それによって、親の過度の不安を低減することができる。

【感想】
 ここまでを読んで、著者らが「自閉症の治療と家族」に関して、何が言いたいのか判然としなかった。【はじめに】では、〈まず、自閉症と家族の考え方の歴史を概略し、自閉症児の親子関係において現在あるいは解決しなければならない課題を提起する〉と述べられているが、その《親子関係において解決しなければならない課題》とは何なのか。【1.「自閉症と親」の歴史】の節で述べられている、〈自閉症と家族のテーマには、他の障害児の家族に比べて配慮しなければならない特別な意味がある。①自閉症は療育の際に対処の難しさがある上に、家族全員の生活を巻き込むほどに強い影響を与える。②自閉症児は親をはじめとして家族との間に特有な関係を形成しやすく、相互関係は自閉症状に強く関連し、時には激しい不適応状態をつくりだす。③自閉症児は脳機能障害が推測される発達障害として位置づけられようになったものの、治療・教育の現場では今なお育て方の不適切さによる情緒障害として親が責められることが多い〉ということであろうか。それとも【2.障害への親の認識過程】で述べられている、「成長過程と親の認識」の内容であろうか。いずれにせよ、《どのような親子関係で、どのような課題を解決しなければならないのか》著者ら自身も判然としていないのではないだろうか、と勘ぐってしまった。親子関係にはいくつかのタイプがある。「厳格型」「拒否型」「溺愛型」「不安型」「盲従型」「干渉型」「不一致型」等々、自閉症児の親子関係にはどのような傾向が見られるか、その傾向をどのように改善していけば課題解決が図られるか、またそれらのタイプと様々な自閉症状とにはどのような関連性があるのか、ということについても知りたかったのだが・・・。また【はじめに】で、〈自閉症児を持つ親への理解を深めるために、私たちの研究を紹介しつつ、親のストレスとその緩和についてのあり方について述べる〉とあるように、その結果が【3.家族への理解】に詳しく述べられているものの、再び「言わずもがな」の内容であり失望するほかはなかった。いわく、「高ストレスの親は、精神面への特別な配慮が必要な人たちが多く含まれている」、いわく「自閉症幼児を持つ母親は、一般幼児をもつ母親に比べて“悪い影響”をより多く感じている、つかれやすい、家事をしたくない、すぐに不安になる、死んでしまいたい、などの不安・抑うつ的な症状を訴える割合がかなり高い」、いわく「自閉症の母親と精神遅滞児の母親の回答のしかたにはほとんど差がなかった」、つまり、一般幼児の母親が、その子の誕生を喜び、家族全体に“よい影響”を及ぼしていると感じているのに比べて、自閉症児を持つ母親は正反対、すべてに“悪い影響”を及ぼしていると感じている。しかし、その反応は他の障害児を持つ母親と比べて差はない、ということである。まさに「言わずもがな」であり、「研究」をしなければ明らかにできなかった内容であるとは言い難い。もし、この調査研究が、1歳未満の乳幼児を持つ母親を対象に行われたらどのような結果になったであろうか。私の独断と偏見によれば、「健康調査票」の項目1「つかれやすい」は、一般幼児の母親の方が「圧倒的に多い」のではないだろうか・・・。ただ一点、「1)親のストレス ⑵家族の要因 ②ストレス因の認識のしかた」の節で、「高ストレスの母親は子どもの異常を脳機能の障害との関係で捉えており、症状や発達の遅れを強く認識していた」という記述は、著者らの「学説」そのものが「親のストレス」を高めているという意味で、たいそう興味深かった。「専門機関の指導が不十分であったり、不適切であることによって、かえって親を不安におとしいれ、親のストレスを増してしまうことのあることに留意する必要がある」と自戒しているが、私も心底から同意する。同時に、それはまた子どもを不安におとしいれ、子どものストレスを増してしまうことがあることも付記したい。(2014.2.21)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《26》 Ⅶ章 自閉症治療と家族(2)

【要約】
【4.家族への療育指導】
・自閉症の発達過程には生物学的な要因の関与が大きいとはいえ、同時に環境要因が大きく影響する。治療者は、自閉症の子どもが個人個人のレベルに応じた自立を目指し、社会の中に受け入れられて生き生きと活動でき、同時に、家族員がそれぞれの能力を活かして充実した人生を送られるように援助することが必要である。ここでは親が療育する際に、子どもの各年齢段階で乗り越えなければならない発達課題を呈示しておく。また、家族の協力体制に関しての留意点のも触れておく。
1)療育上の親の課題
①対人関係を育てる
・自閉症児は、幼児期には興味のある物への執着はとても強いが、人との関係は希薄である。治療者が「子どもと十分に遊ぶように」と親にアドバイスしても、大抵の場合は子どもが楽しまなかったり反応しなかったり、拒否的な態度を示したりするために、親は失望し、子育ての能力がないのではないかと落ち込んでしまう。これは親が悪いのではなく、治療者側が反省しなければならない。なぜなら容易に人との遊びを発展させることができないことがまさに自閉症の障害の特徴であり、治療者はその点に配慮して親を励ましつつ療育相談やアドバイスをする必要がある。
・まず、基本的には親への愛着行動を形成するように働きかける。抱っこやおんぶ、髙い高いやふりまわしなど、要求を引き出すような身体を接しての遊びを十分にすることである。おもちゃは、その機能に合わせて遊ぶことができない子どもが多い。徐々に、大きなボールをやりとりするなど、物を介して楽しめるように持っていく。人とのやりとり遊びは、最初は短時間から始めて、少しずつかかわれる時間を伸ばしていくように親を励ましていく。
・人とかかわることが楽しいという経験を積み重ねることによって、親や身近な大人などとの基本的な関係を育てていくようにする。そうすることによって要求を引き出し、要求する手段を子どもが獲得できるようにする。この時期には自閉症の子どもはクレーン現象を用いることが多いが、相手を人間として認知できず、道具としてしか見ていないなどと悲観することはない。発達の一時期に見られる現象で、立派な対人活動であり要求手段の1つである。発達に伴って徐々に指さし、身ぶり、言葉などの複雑な要求手段を獲得していく。
・子どもの発達にとって本来ならごく当たり前に獲得していく基本的な対人関係について、親は丁寧に根気よく働きかけなければならず、もどかしさを感じることが多いだろうが、母子関係をはじめとして家族の基本的な対人関係をつけておくことは、幼児期における療育上の重要な課題である。
・対人関係は、親子の関係だけでは自ずと限界があるので、就学前に2年間くらいはできるだけ集団保育に参加させて、大人との関係を広げることと、子どもへの関心を広げることを考えたい。一般に、自閉症児は、保母や多くの子どもたちからの働きかけが発達に良い影響を与えることが確かめられている。
②生活習慣の確立に向けて
・幼児期には、対人関係を育てる課題と並んで、生活習慣の確立が重要な課題となる。
・しばしば自閉症児は睡眠、食事などの生活のリズムが整いにくく、親が苦労することが多い。睡眠障害が激しい場合は、一時的に薬の服用により生活のリズムを整えることもできるので、医師に相談するのもよい。偏食に対しては、好きな食べ物をごほうびにして励ましながら徐々に食事の幅を広げていくことを基本とする。
・排泄や洋服の着脱のしつけは、日常の積み重ねにより最も効果の上がりやすい領域である。幼児期の間に生活のリズムを整え、身辺の処理が自立的にできるようにすることは、この時期の大切な課題である。
③認知・言語の発達を促す
・シンボル機能を獲得できるかどうかは、その後の発達に決定的な影響を及ぼす。この機能を獲得できるかどうかは脳機能の発達と強く関連するが、シンボル機能の芽生えを促すような働きかけが同時に必要である。具体的な目標は、日常生活の流れの中で、言葉かけにより行動ができるようにすることである。物と言葉、行動と言葉をできるだけ一致させるように、母親や家族が丁寧な言葉かけをする必要がある。短くわかりやすい表現にするように配慮する。言葉の表出を強制しないことも大切な留意点である。オウム返しになる言葉は子どもにとってまだ十分に理解されていない場合なので、まわりが正しい言葉に言い換えるとともに、コミュニケーションを楽しむような気持ちで接することが大切である。
・母親や家族が絵本を読んであげるのも、自然のうちに認知・言語を発達させる基礎となる。
⑵学童期の課題
①対人関係を育て、自立心を養う
・学童期での課題は、幼児期に獲得したことを基本として、より広い対人関係が持てるように促していくことである。言葉の出ていない場合には、身振りやサイン、指さし、絵カードなどのコミュニケーション手段を工夫したい。
・人との関係では、できるだけ多くの人との関係が保てるようにする。密着した母子関係を卒業して少しずつ精神的に距離のある関係に持っていく必要がある。家族の役割を決め、それがきちんと遂行できるように教え、家族の一員としての自覚を促し、精神的に自立の方向に励ましていく。きちんとほめたり礼を言ったりすることを忘れないようにする。時には、毅然とした態度で叱ったり、注意したりすることも必要である。この場合には、必ずどうすればよいかの適切な行動を具体的に教えていく必要がある。
・どんな発達段階の子どもであっても、精神的な自立に向けての働きかけは将来の適応のためにぜひ必要な課題である。
②基礎的な認知・言語の力をつける よう
・学童期は人生にとって最も発達する時期である。それぞれの発達段階に合わせて基礎的な言語能力や思考能力、計算能力などを身につけておくようにする。しかし、プリントでの漢字や計算の訓練ばかりに偏らないように注意しなければならない。基礎的な思考能力を促すこと、学んだことを実生活の中で応用できるようにすることを常に考えておく必要がある。
③家庭作業スキルを習得する
・自閉症児は手先での仕事はあまり得意ではないが、教えたことはきちんと習得する特徴を持っている。遊びを教えるよりははるかに家事を教えるほうが簡単である。家族の一員としての本人の自覚を促すだけでなく、家族員の受け入れを肯定的なものにする。料理などは親とともに楽しむことができ、趣味の1つになることもある。手先の協応動作や集中力を養い将来の就業という面からも役立つだろう。
⑶青年期の課題
①社会参加と適応を促す
・自閉症の青年は残念ながら親から完全に独立して自力で生活できるようになることは極めて少ない。
・各年齢段階での発達課題を乗り越えてくれば、自閉症児の多くは素直でごまかすことを知らず、時間をきちんと守り、仕事は正確で律儀な性格が生きてくる。
・本人の意思や要求を見逃さないようにして社会参加を促せば、多くの自閉症の青年は本人に適した仕事を一生懸命にするときに最も安定し、目が輝いてくる。
②不適応行動の予防
・「強度行動障害」と呼ばれる者の多くは自閉症であると言われているが、かなりの部分が育つ過程の中で周囲の対応の悪さから行動の障害を大きくしてしまっていることを再認識する必要がある。そのことは、家庭だけの責任ではない。医療、教育、福祉の未熟性のために、親子が一貫しない指導の中で不安と混乱に揺れ動きながら成長した結果、問題を大きくしてしまった傾向が強いように思われる。このような困難な状況の中で、親は多くの情報や多くの指導法の中から子どもにとって何が大切なのか正しい選択をする力を養う必要がある。現状の中では、そのことも親の重要な責務と言わざるを得ない。
・「強度行動障害」を起こす要因には生物学的な要因の関与も大きいことから薬物などの医学的な治療や生物学的な研究を含めて、治療や働きかけの方法を検討する必要がある。
・現在はまだ青年期の自閉症に対して、十分に科学化するほどに臨床経験や研究が積み重なっていない。専門家も試行錯誤の段階から抜け出していない。その中で、親は自閉症児の成長過程を通して、何が発達課題として必要なのかを具体的に実行していくこと、自閉症に対する社会の理解を深めるように働きかけることが必要である。
2)家族の協力体制
・早期から家族が力を合わせて協力し合うことが必要であり、その体制を整えておくことが自閉症児の適応と大きく関係する。
⑴両親の役割
・両親で話し合いながら一貫した療育方針を検討していくことが、自閉症児の成長にとって必要であり、母親の精神安定につながる。
・両親が精神的に不安定であると、子どもの異常行動は大抵の場合増悪する。
・親や家族の生き方としては、過度に犠牲的精神を発揮するのは好ましいものではない。親自身の生活の主体性を持ちつつ、それぞれの家族員が生かせるようにお互いに工夫することが大切である。
⑵兄弟姉妹への対応
・兄弟姉妹への対応で大切なことは、それぞれの発達水準から設定した家庭での課題はどの子にも守らせる必要があるし、それぞれの子どもの権利を守ってあげる必要もある。
・兄弟姉妹に対しては、親を共同治療者として位置づけると同様に、家族全体で治療にかかわることによって、兄弟姉妹の自己評価を高めつつ、障害の子どもの受容を促す方法も効果があることが指摘されている(ハウリン・ラター,1990)。
3)社会との連携
・自閉症児を持つ家族は、とりわけ社会との連携を大事にする必要がある。近隣からの理解と温かい受け入れは家族のストレスを低減する。また、友人、親の会や地域との交流は家族の心の支えになるだけでなく、必要な情報を得ることもできる。
【5.家族に必要な社会的な援助】
・早期発見・診断後の療育指導と治療は現段階では決定的な方策がない上に、適切な指導が行われているとは言えない。
・通院している発達障害児を対象にした実態調査による報告(星野ら,1989)では、発達の異常を指摘された率は1歳半では15%、3歳では55%であるとしており、保健所の乳幼児健診が早期発見にかなりの役割を果たしていることがわかるが、その後の適切な治療や療育指導の内容が十分に検討されない限り、単に障害児のレッテルをはることによって親の不安を増強するだけになりかねない。
・学齢期においても、特殊教育の内容は十分に整備されておらず、親の不満やストレスは高い。
・今後、医療を含めた専門的な立場からの社会的な援助体制とその方法論を確立し、治療や指導の質の向上をはかる必要がある。
【おわりに】
・自閉症の本態の究明、自閉症児への教育の整備、環境との相互関係のあり方、自閉症の青年期の問題など、課題は山積している。今後も、親と専門家の不断の努力と協力が不可欠であろう。(永井洋子)  

【感想】
 以上で、「Ⅶ章 自閉症の治療と家族」は終了する。ここでは、「家族への療育指導」と「家族に必要な社会的援助」について述べられているが、その内容もまた私の期待に応えるものではなかった。「家族への療育指導」では、親の課題が《各年齢段階》別に呈示されている。「⑴幼児期の課題」では①対人関係を育てる、②生活習慣の確立、③認知・発達の発達を促す、ことが挙げられているが、この3つの柱は、ただ「並記」されているだけであって、相互の関連性が明らかにされていない。私の独断と偏見によれば、自閉症の本態とは「人に対する関心・反応が乏しく」「対人関係がうまくできない」(ように見られる)という一点にあるのであり、さればこそ、親(および治療者)の最重要課題は、まさに①対人関係を育てることに「特化」されなければならないのである。著者らは〈治療者が「子どもと十分に遊ぶように」と親にアドバイスしても、大抵の場合は子どもが楽しまなかったり反応しなかったり、ときには拒否的な態度を示したりするために、親は失望し、子育ての能力がないのではないかと落ち込んでしまう。これは親が悪いのではなく、治療者側が反省しなければならない。なぜなら、容易に人との遊びを発展させることができないことがまさに自閉症の障害の特徴であり、治療者はその点に配慮して親を励ましつつ療育相談やアドバイスをする必要がある〉と述べているが、「大抵の場合」とはどんな場合か、治療者は(自閉症の特徴である、人との遊びを発展させることができないという)「点」にどのような「配慮」をすべきか、については明らかにしていない。親が子どもと遊ぼうとしても、「子どももが楽しまなかったり反応しなかったり、ときには拒否的な態度を示したりする」のはなぜか。実を言えば、その問題こそがまさに自閉症を治療する際の「最重要課題」でなければならない。なぜなら、親が「子どもと十分に遊び」、子どもが「人との関係」に執着し「人との遊びを発展させること」ができるようになれば、自閉症の「特徴」は消失してしまうからである。著者らいわく「親は失望し、子育ての能力がないのではないかと落ち込んでしまう。これは親が悪いのではなく、治療者側が反省しなければならない」。では、誰が悪いのか。「子どもと十分に遊ぶように」とアドバイスした治療者が悪いのか。それとも、人との遊びを発展させることができない子ども自身がが悪いのか。大切なことは、「子どもと十分に遊ぶように」とアドバイスしても、《大抵の場合は》などと一括するのではなく、「こういう場合」(例えば感覚過敏がある場合、過度な不安、心傷体験がある場合など)は「楽しまなかったり反応しなかったり、ときには拒否的な態度を示したりする」、したがって、親は「このようなことに留意して」子どもと遊ぶ必要がある旨を明記することである。子どもは、治療者とは「十分に遊び」「楽しむ」のに、親との遊びには「拒否的な態度を示す」とすれば、親の《接し方》《育て方》に課題があることは明らかであろう。治療者は親を「落ち込ませて」はならない。それは「言わずもがな」のことである。しかし、現に親の《接し方》《育て方》(環境要因の1つ)が、子どもの発達過程に「大きく影響する」と著者ら自身が述べているではないか。だとすれば、「環境要因」をそのままにして、子どもの発達を「促す」ことは《誤り》ではないか。(その結果、自閉症の予後は楽観できない、ということになるのではないか)この「対人関係を育てる」という課題は、自閉症治療の第一義的な課題であり、それを「乗り越える」ことができれば、「生活習慣の確立」「認知・言語の発達を促す」ことなどは、容易に達成できるに違いない、と私は確信している。年齢が高くなるにつれて自閉症児の「基本的生活習慣」が向上することは検証済み、また「認知・言語能力」は子ども一人ひとりによって「千差万別」であることも疑いようがない。したがって、「自閉症治療の到達点」は、まさにこの「対人関係を育てる」課題の一点に絞られてこそ見えてくると思うのだが、そのことが曖昧模糊としていて残念!極まりなかった。以後の「学童期の課題」「青年期の課題」は、自閉症の特徴を残したまま成長してしまった自閉症児・者に対する「対症療法」が述べられているだけで、特段興味をそそられる内容はなかった。また「家族の協力体制」「社会との連携」も、他の障害児一般にも共通する内容で、特筆することはない。【5.家族に必要な社会的な援助】【おわりに】では、治療・療育の現状が述べられ、当面する課題が列挙されているが、社会体制(環境)の側から見ても「自閉症の予後は楽観できない」ことが強調されているばかりで、それほど参考になることはなかった。(2014.2.26)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《27》 Ⅷ章 自閉症の薬物療法(1)

【要約】
《Ⅷ章 自閉症の薬物療法》
【はじめに】
・薬物治療は自閉症の総合的な治療の中で一定の役割を果たすようになってきている。
・「1.薬物療法の意義と問題点」の節では、理論的な説明がしてある。「2.薬物療法の実際」の節は、薬物療法の具体的なイメージアップに役立つと思われる。「3.主な薬物療法・・歴史と到達点・・」の節は個々の薬物について辞書的に使っていただきたい。
【1.薬物療法の意義と問題点】
1)薬物療法の位置づけとその意義
⑴薬物療法の始まり
・1960年以降、自閉症の異常行動に対して神経遮断薬(強力精神安定剤、向精神薬ともいう)が試みられるようになったが、体系だった薬効効果はほとんど行われていなかった。
・1970年代に入って、診断基準の整備や薬効研究の方法論の洗練化が進み、薬物療法の有効性が示されるようになってきた。
⑵診断基準の整備
・DSM(アメリカ精神医学会)やICD(WHO)という診断基準が整備されたことにより、小児・思春期の精神障害の診断が、ある程度客観性を持って行えるようになってきた。
診断に対する薬物療法を目指す方向にあるが、一部の障害を除いてまだ困難であり、自閉症でも症状を標的とした対症的薬物療法が中心である。
⑶薬物研究の方法論の洗練化
・1つには、交叉二重盲検法や統計的処理の採用があげられる。この方法を用いることで服薬中に症状が改善したのがプラセボ効果(薬を飲んでいるという本人や周囲の安心感により症状が改善される)なのか本当に薬の効果なのかが明らかにできるようになった。
・もう1つは、標準的な評価法と観察法が開発されたことである。評定尺度としては、例えばCPRS(Children's Psychiatric Rating Scale:小児の様々な精神障害に対応する項目からなる評定尺度)の中の自閉症に関する項目やCGI(Clinicai Global Impression:7段階で全般的な評価をする)などがあげられる。これらについては、妥当性と信頼性が確かめられている。我が国では、小児行動評価研究会作成の小児異常行動評価表がしばしば用いられる。⑷現時点での薬物療法の位置づけ
・薬効研究の進歩の結果、自閉症においては、高力価(抗精神病作用が強く、あまり鎮静的ではない。坑ドーパミン作用が強い。ドーパミンとは、神経伝達物質の1つ)の精神遮断薬を少量用いると、認知を損なうことなく異常行動を改善できることが示された。しかし、長期服用に伴って、遅発性ジスキネシア(口をもぐもぐさせるなど、顔面の動きが中心の不随意運動。四肢や体幹をねじったり揺すったりする動きが見られることもある。非可逆性であるとされ重要視されている)という副作用が発現する可能性があることから、神経遮断薬に代わる薬物の模索も行われている。
・より本態的な治療を目指して、様々な薬物療法が試みられてきた。少数例で驚異的な改善が報告されても、症例数を増やして交叉二重盲検法で評価すると、効果は確認されないことが常であった。とはいえ、開発していくことはますます必要となろう。
・薬物療法は他とはまったく独立した治療ではなく、治療教育を含む総合的な治療、リハビリテーションの中で考えられるべきである。今後ますます重要性を増していくと思われる。
2)薬物療法の問題点
⑴有効性および安全性の評価
・以下の問題がまだ残されている。
①子どもが発達する存在であることに基づく問題
・薬物療法中に発達が認められた場合に、自然の経過によるのか薬物により促進されたものかの区別が難しい。
・精神・身体の発達への悪影響を完全に予測することは不可能である。
②評価の方法論についての問題
・適切な対象を一定数確保することが難しい。生物学的な指標(脳画像、生化学的検査の所見、器質的障害の合併の有無など)がほぼ均質な群を選ぶことが難しい。IQや太田のStageなどで示される発達の水準や年齢をそろえることも難しい。
・交叉的二重盲検法には不十分な点がある。自然な発達の影響を完全に排除することはできない。
・薬物療法に伴う異常行動の増減や情緒の変移は比較的評定しやすいが、認知機能の発達への影響を的確に測ることは難しく、実際にもほとんど考慮されていない。
⑵薬物の開発
・ここでは、アメリカの食品医薬品局(FDA)による幼児、小児による精神作用薬の臨床評価指針を紹介して、評価の重要性、困難性について述べる。
①FDAの、幼児、小児における精神作用薬の臨床評価指針
・この評価指針は、前臨床試験と4つの相からなる臨床試験で構成されている。
a.前臨床試験
・動物による薬理活性と毒性の前臨床試験が行われる。成長、発育、性的成熟、生殖に関して起こり得る薬剤の影響を、実際に動物で査定する。脳の生理学や化学、神経の発達や機能、学習、認識能力、行動などの変化を広範囲に調べる必要がある。人間のモデルになるような適当な動物で、行動や学習の試験を行うべきとしている。
b.臨床試験
・〈第1相前期・初期試験〉短期間(2,3日)の投与による安全性の試験である。まず、健康な成人での試験を経た上で、少人数(6~10人)の小児科患者で行われる。
・〈第1相後期〉有効性および安全性の予備試験が行われる。有効性の測定にあたっては、妥当性、信頼性、感度を考慮した尺度を用いるべきであるとしている。安全性の樹立のためには、行動・心理学的状態と、身体的特徴・発育と、全般的な身体的・生理的状態という3つのパラメーターを調べるべきとしている。
・〈第2相〉治療効果の可能性と安全性に関する明白な根拠を樹立するための最短期間の試験が行われる。この段階では、客観的な有効性の根拠を得るためにプラセボを対照とする二重盲検査法が行われるべきとしている。
・〈第3相〉有効性・安全性試験の延長である。市販される前の最終段階であり、より多くの群の患者を含む、広範囲の管理された臨床試験が行われなければならないとしている。この段階では、市販薬が使える場合には、既存の薬剤と新しい薬物との比較は欠くことのできないものとしている。
②日本の現状と今後の問題点
・日本においては、ホパンテン酸カルシウム、ピモシド、ペントキシフィリンの3剤について、治験が行われ、現在、ピモシドのみが(自閉症に使用する薬物として)厚生省に認可されている。ハロペリドールは、有効性と安全性が確認されたものの、認可は受けていない。実際にはこれらの薬物療法によって恩恵を受ける自閉症児が多数存在しており、その安全性が比較的高いことも臨床的に確かめられている。
・自閉症の治療薬がまったく孤立して他の薬物との比較検討が困難になったり、製薬会社が自閉症の治療薬の開発を放棄するようになるのは望ましくない。
・薬物の使用と開発に際しては、子ども自身からどのようにして同意を取るかということも含めた倫理面の考慮も必要と思われる。

【感想】
 著者らは、【はじめに】で、〈「1.薬物療法の意義と問題点」の節では、理論的な説明がしてある」と述べているが、肝心な「理論」は一向に判然としてこなかった。要するに、①薬物療法は、「自閉症においては、高力価の神経遮断薬を少量用いると、認知を損なうことなく異常行動を改善できることが示された。(中略)しかし、神経遮断薬の長期服用に伴って遅発性ジスキネジアという副作用が発現する可能性がある」という「両刃の剣」であるということ、②一方で「薬物療法は他とまったく独立した治療ではなく、治療教育を含む総合的な治療あるいはリハビリテーションの中で考えるべきである」としながら、他方では「薬物療法中に発達が認められた場合に、これが自然の経過によるのか薬物により促進されたものかの区別が難しいことがある。常にそれを明らかにしようと試み続ける必要がある」と言う説明(理論)に矛盾があること、つまり、子どもの発達が「薬物により促進されたもの」かどうかは、それが「まったく独立した治療ではない」限り、明らかにしたくても、できようはずがないのである。・・・といったこと明らかになったに過ぎない。著者らが、「より本態的な治療を目指して、少なくとも発達の促進や賦活的な効果をねらって、様々な薬物療法を試み」「少数例で驚異的な改善が報告されている」と言うのなら、その《少数例》の実態こそを詳細に述べるべきである。「症例数を増やして交叉二重盲検法で評価すると、少なくとも当初のような効果は確認されないことが常であった」などと否定的な評価をしてしまうようでは、「少数例の驚異的改善」の成果も《疑わしい》。著者らは、〈実際にはこれらの薬物療法によって恩恵を受ける自閉症児が多数存在しており、その安全性が比較的高いことも臨床的に確かめられている〉と述べている。だとすれば、どのような薬物が、どのような作用で、自閉症児のどのような症状を改善するのか、そのことを「理論的」に説明してもらいたい、と私は思った。(2014.3.1)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《28》 Ⅷ章 自閉症の薬物療法(2)

【要約】
【2.薬物療法の実際】
1)薬物療法の主な対象
・薬物療法の対象は、非特異的な情緒障害や異常行動、および自閉症に合併する精神医学的状態の2つに大別する。
⑴非特異的な情緒障害や異常行動
・パニック、自傷行動、攻撃行動、睡眠障害については薬物療法を早期に開始して症状をいくらか軽滅させつつ適切な働きかけをしていくことがしばしば有効である。
・常同行動については、程度が著しくて適応上の問題の大きい場合以外は、一般には薬物療法の適応とはならない。
①こだわり
・こだわりとは、日課や道順や物の位置や状態などをいつもと同じようにする行動であり、この変化を嫌うということは同一性の保持とも言われ、ほぼすべての自閉症児に認められる。
・こだわりに対しては、高力価の神経遮断薬であるハロペリドールやピモジドが少量(例えば、ハロペリドール0.5~3mg/dayくらい、ピモジド1~6mg/dayくらい)で有効なことが多い。フルフェナジン(高力価の神経遮断薬)も、ときには用いられるが、副作用(錐体外路症状)の予防のために、服用開始時には坑パーキンソン剤の併用が望ましい。
②パニック、自傷、攻撃行動
・パニック(不安が強まり混乱して大騒ぎをする状態)は自傷や他害に発展することがある。
・これらの異常行動は、社会適応を大きく妨げるために薬物療法の対象となることが多く、効果がかなり期待できるものである。
・ハロペリドール、ピモジドなどの高力価の神経遮断薬あるいはクロルプロマジン、チオリダジン、プロペリシアジンなどの鎮静的な神経遮断薬が少量(クロルプロマジンでは5~50mg/dayくらい)で有効なことが多い。坑パーキンソン剤の併用が望ましい。これらでも改善が認められない場合は、感情調整薬を併用したほうがよいことがある。(坑けいれん剤:バルプロ酸・カルバマゼピン・フェニトイン・クロナゼパム・フェノバール、リチウム)
③睡眠障害
・鎮静的な神経遮断薬の中でもレボプロマジンがごく少量(5~10mg/dayくらい)で著効を示すことが多く、重症な場合には第一選択と言えよう。ただし、ほんの数mgの差で過鎮静を起こすことがあり、量の微妙な調節が必要である。さほど重症でない場合には、坑ヒスタミン剤の塩酸シプロヘプタジンでも改善することがある。
④多動
・少量のハロペリドールやピモジドなどが有効なことが多い。中枢刺激剤は、多くの場合無効あるいは有害とされている。
⑵自閉症に合併する精神医学的状態
①トゥレット障害および全般的チック
・運動チック(まばたき、首振り、全身を震わせる)、音声チック(咳払い、鼻鳴らし、卑猥な言葉を言ってしまうプロラリア)の症状は増悪と軽快を繰り返しながら長期間持続する。自閉症での合併の頻度が比較的高い。
・少量のハロペリドールあるいはピモジドの服用が必要かつ有効と思われる。
②“神経症様”状態
a.“強迫神経症様”状態
・自閉症のこだわりでは、真の強迫症状と判定できる場合は少ない。しかし、知能の高い症例では、強迫行為のみではなく強迫観念も認められることがある。また一般にも、思春期になり、こだわりが増強する自閉症は少なくない。持続する場合には、薬物療法の検討をしたほうが治療上適当と思われる。
・少量のハロペリドールあるいはピモジドが有効なことが多い。不安が強い場合には,少量の鎮静的な神経遮断薬か感情調整薬の併用が考慮されよう。知能が高く、病識が言語的に十分確認できる例では、坑不安薬であるプロマゼパムが少量で有効かもしれない。セロトニン再取込み阻害剤であるクロミプラミンの使用は慎重にしたほうがよいと思われる。
b.“不安神経症様”状態
・坑不安薬を大量に使用すると、しばしば、かえって混乱する。少量の神経遮断薬か感情調整薬を服用すると改善することが多い。さらに、少量の坑不安薬(ジアゼパムでは4~6
mg/dayくらいまで)を組み合わせるとより有効な場合がある。
③周期性気分変動(過活動状態および減動状態)
・“気分変動”(行動量の増減から推察する)が思春期以降の自閉症に起こり得ることが明らかになっている。
・成人の感情障害で用いられる感情調整薬を基本にして、神経遮断薬などを適宜加えることで、安定させることができよう。
・坑うつ剤の(単独での)使用は適切ではないことがある。
④“精神分裂病様”状態
・基本的には、神経遮断薬が有効であり、ハロペリドールなどの高力価な薬剤と鎮静的な薬物の併用となることが多いと思われる。意外と少量で効果が上がることがある。精神分裂病で通常予測されるよりも過鎮静をきたしやすいので、注意が必要であろう。意識障害や気分変動が認められて非定型精神病に類似した病像の場合には感情調整薬などの使用も考えられる。
⑤てんかん
・通常のてんかん発作と同様に、発作型や脳波所見を参考にして薬剤を選択して、血中濃度を測定しつつ服用量を調整していくのが基本である。多様な発作に有効であること、認知・行動上の副作用が少ないことから、バルプロ酸がよく使われる。
⑶その他
・発達の促進や賦活的な効果を通して行動の改善を図るという薬物療法もある。
2)薬物療法を活かすために
⑴薬物療法に過度に期待することも、副作用を過度に恐れることも誤りである。現在の薬物療法の多くは対症療法的であり、適切な働きかけと組み合わさることでその効果を発揮することを念頭に置いておきたい。
⑵異常行動が長びいて自閉症児と周囲の人々との関係が悪化している場合には、薬物療法の可能性を考慮する。早期に薬物療法を導入したほうが、結果的には服用量少なかったり、服用期間が短くて済むことも多いようである。
⑶薬物療法を開始したら、服用量の調節や服用の中止などを勝手に行わず、医師の指示を仰ぐようにする。また、服用状況をきちんと医師に報告する。特に、坑けいれん剤については減薬や中止でてんかん発作を誘発する可能性があるので、決して勝手な調節を行ってはならない。
⑷薬物療法の有効性や安全性を的確に評価するためにも、自閉症児にかかわる人々と医師とが連携や協力を図る。服薬開始後の変化がすべて薬物の影響と決めつけずに総合的に検討することが必要である。また、薬物療法をより的確に評価するためには、異なった立場からの情報を付け合わせたほうがよい。親の報告だけでなく、子ども自身の行動の観察が必要なのはもちろんであるが、療育・教育機関などからの情報もしばしば有用である。評価の客観性を高めるために、あらかじめ観察のポイントを打ち合わせておいたり、共通の評定票を使用するのもよいかもしれない。てんかん発作については、発作の起きた時間や状況、発作時の子どもの様子、持続時間などの情報が薬剤の選択や調節上でとても参考になる。
【3.主な薬物療法・・歴史と到達点・・】
・ここでは、神経伝達および自閉症における生化学的研究についてまず簡単に述べる。その後に、脳機能の改善を目的にする薬物、非特異的な情緒障害や異常行動および合併する精神医学的状態の改善を目的とする薬物と大きく二分した上で、主な薬物について1つずつ概説した。
1)神経伝達と生化学的研究
⑴神経伝達
・神経細胞(ニューロン)には長い軸索が伸びており、その終末と次の神経細胞との接合部にはシナプスが形成されている。情報は樹状突起から細胞体を通って軸索へと電気的に伝わる。他の神経細胞との間ではシナプスを介して神経伝達物質によって化学的に伝達される。
・神経伝達物質は、送り手側のシナプス前膜からシナプス間隙に放出されて、受け手側のシナプス後膜にあるリセプターに結合する。リセプターはそれぞれの神経伝達物質に特異的であり、両者は鍵と鍵穴のような関係にある。情報が伝わってしまうと、シナプス間隙に残っている神経伝達物質はシナプス前膜に再取り込みされたり代謝されたりして不活性化される。
・神経伝達物質には、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、アセチルコリンなどがある。自閉症で最近注目されつつあるものにエンドルフィンなどの内因性オピオイドペプチドがある。どの神経伝達物質が主に作用するかによって、神経系はいくつかの系列に分けて考えられる。
・薬物には、これらの神経伝達物質と同じように作用するもの、神経伝達物質がリセプターに結合するのを阻害するもの、神経伝達物質を放出させてその機能を低下させるもの、神経伝達物質の再取り込みを阻害するものなどがある。神経伝達物質の代謝に関与する補酵素も薬物治療に用いられることがある。
⑵自閉症における生化学的研究
①ドーパミン、セロトニン
・ドーパミンとセロトニンは精神障害の病態とも関連して注目され、研究されている神経伝達物質である。精神分裂病におけるドーパミン系の機能亢進や、躁うつ病におけるセロトニン系の機能低下が想定されている。
・ドーパミンやセロトニンについては、それぞれのリセプターが存在し、その機能が異な
・ドーパミンの代謝については、フェニルアラニン→チロシン→DOPA→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンという経路を辿るが、ドーパミンの代謝経路の最終産物が、ホモバニリン酸(HVA)である。この代謝経路に働く酵素に対して、ビタミンB6あるいはR-テトラハイドロバイオプリテンが、補酵素としてその働きを助けるように作用する。ビタミンB6は、この他の多くのアミノ酸代謝経路にも作用する。
・自閉症については、HVAが、脳脊髄液中では正常から高値、尿中では高値と報告されている。
・セロトニン代謝については、トリプトファン→5-HTP→セロトニン→(モノアミサン酸化酵素)→水酸化インドール酢酸(に分解される)という経路をたどるが、この中でもビタミンB6とR-テトラハイドロバイオプリテンが補酵素として作用する。
・自閉症の約1/3で血中セロトニンの高値が認められるという報告が多い。ただし、値のばらつきが多く、低値の者も少数存在する。
②オピオイド
・モルヒネと特異的に結合するリセプターが脳内に存在することが認められ、その結果、内因性のモルヒネ様ペプチドであるオピオイドペプチドが発見された。オピオイドには、エンドルフィン、エンケファリン、ディノルフィンがある。
・オピオイド系は脳内に広く分布しており、痛みへの反応をコントロールするのみならず、情緒や意欲にも関与している。内因性のオピオイドはセロトニン系と密接な関係がある。
・内因性のオピオイドが発達過程をコントロールしていることが示唆されている。
・少量のオピオイドを与えた幼弱動物と自閉症児とには、痛覚の鈍麻や自傷行為などの症状の類似性が認められる。その症状を呈した実験動物にオピオイド拮抗薬であるナロキソンを与えると、症状が消退する、自閉症児の脊髄液中でエンケファリンが上昇している、という報告もある。
2)脳機能障害の改善を目的にする薬物
・このカテゴリーの薬物はすべて研究途上にあるものばかりであり、本態に迫る治療とは言いがたいのみならず、有効性が乏しいのが現状である。効果と副作用のバランスに問題があるのでよりいっそう配慮する必要があると言えよう。
⑴坑痴呆薬あるいは向知性薬
①ペントキシフィリン
・脳の微小循環改善による脳血流増加作用をもつ薬物である。オープン試験で評価して改善が見られたものの、頻度や程度は顕著ではなく、二重盲検法では効果は確認されていない。副作用は軽微で少ない。
②塩酸ビフェメラン
・脳内のアセチルコリン、ノルアドレナリン、セロトニンの低下を抑制する薬物である。自閉症に試みられた報告が散見されているが有効性などについては検討途上と言えよう。
⑵ビタミンB6を中心とするビタミンB群
・ビタミンB6の大量療法については交叉二重盲検法で評価した研究がいくつかあり、自閉症の一部では部分的に行動を改善することが認められている。(
Rimland,et al.,1978; Ellman,1981; Lelord,et al.,1981)また、尿中ホモバニリン酸(HVA)を服用前後で比較したところ、自閉症児では健常対照児と異なり、初めは高値であったものが正常近くに低下していたという(Lelord,et ai.,1981)このことから、ドーパミン系への作用が大きいかに見えるが、ビタミンB6が作用する代謝経路は数多く、単純には結論できない。
・効果は著しくなくとも、通常の薬物より副作用が少ないことを考え合わせると、ビタミンB6にはある程度の有用性はあると思われる。
②その他のビタミンB群
・きちんとした二重盲検法での研究報告はない。
③L-DOPA、5-HTP
・L-DOPAはドーパミンの前駆物質であり、5-HTPはセロトニンの前駆物質である。
・自閉症者に対してL-DOPAか5-HTPあるいは両者を使用したところ1/3で有効であったが、イライラがひどくなったり、睡眠障害が誘発されたりして悪化例が認められたと報告されている(成瀬,1988)。
⑷フェンフルラミン
・フェンフルラミンはセロトニンを放出し機能を低下させる薬物(枯渇剤)である。自閉症では血中のセロトニンが高値であることから、セロトニン系の過活動を自閉症の原因と仮説して治療に導入された点が特徴的である(Geller,et al.,1982; Ritvo,et al.,1983)。
・実際に、フェンフルラミンの服用によって血中のセロトニンの低下が認められたが、その結果については概ね否定的であった。さらに、神経毒性であることが指摘され、安全性に疑問が持たれている(Aman & Kern,1989)
⑸R-テトラハイドロバイオブリテン
・R-テトラハイドロバイオブリテンは、カテコールアミンやセロトニンの代謝経路に作用する補酵素でもある。二重盲検法(成瀬・武貞,1988; 成瀬ら,1990)や多施設におけるオープン試験(長畑ら,1990)により評価されたが、著しい改善は認められなかった。1992~93
年に多施設共同で二重盲検法による試験が改めて行われ、有効性は否定された。
3)非特異的な情緒障害や異常行動および合併する精神医学的状態の改善を目的にする薬物
⑴神経遮断薬(強力安定剤あるいは坑精神病薬)
・神経遮断薬は、自閉症の対症的薬物療法の中心であり、かなりの効果を上げられることが明らかになっている。
・まず、副作用の主なものについて簡単に説明する。
*神経遮断薬副作用チェックリスト(ニューヨーク大学メディカルセンター)
1.食欲不振 2.体重減少 3.体重増加 4.鎮静 5.過活動(の悪化)6.活動減少状態(の悪化)7.易刺激性 8.多尿 9.流涎 10.ジストニア 11.アカシジア 12.振顫 13.口渇 14.排尿困難 15.便秘 16. 歯車現象 
・しばしば起こり副作用として、錐体外路症状がある。筋強剛(身体がスムーズに動かなくなる、歯車現象)、振顫(パーキンソン症状)、ジストニア(筋緊張が亢進した状態で、首がねじれたり口があいたままふさがらなくなる)、アカシジア(足が勝手に動いてしまってじっとしていられない)。これらは、坑パーキンソン剤の併用により容易に消失・軽快させることができる。小児では、錐体外路症状が起こりやすいので、神経遮断薬の服用開始時には坑パーキンソン剤の併用が望ましい。
・錐体外路症状に関連する副作用として、遅発性ジスキネジアが注目され研究されてきた。ジスキネジアは不随意運動の一種であり、口の周囲を中心とする顔面のややゆっくりとした動きが代表的である。ジスキネジアの頻度については報告によって幅が広く、Perryら(
1985)は、小児・青年では8~51%とまとめている。Gampbellら(1988)は、82例の自閉症児(2.3~8.2歳)にハロペリドールを6か月間使用して異常不随意運動尺度を用いて評価したところ、24例にジスキネジアを認めたが、これらはすべて可逆性であったと報告している。
・ジスキネジアという副作用を念頭に置いておくこと、薬物療法を開始する前の運動症状(常同運動やチック症状)を評価しておくことが望ましい。
・以下に、主な神経遮断薬について個別に述べる。
①ハロペリドール
・ドーパミンに拮抗する作用の強いプチロフェノン系の神経遮断薬である。情緒不安定、攻撃性、多動をはじめとする情緒障害や異常行動に対する有効性が高いとされている。
・Campmellら(1978)、Andersonら(1982,1984,1989)、Perryら(1989a,1989b)、Joshiら(
1988)により、常同行動・引きこもりの改善、多動行動の改善、多動・かんしゃく・引きこもり・常同行動の減少と対人交渉の増加、落ち着きのなさ・引きこもり・反応性の乏しさ・言葉の偏り・常同行動の改善、多動・攻撃性の減少と対人関係の改善、が報告されている。
・我が国では、多施設交叉二重盲検法でピモジドを評価する際にハロペリドールが比較に用いられ、ともに偽薬より優れていることが示されている(小児行動評価研究会,1980)。
・全身におよぶような重度のチック症状が持続する場合には、ハロペリドールの使用が望ましい。
②ピモジド
・坑ドーパミン作用の選択性がハロペリドールよりも高い、高力価の神経遮断薬であり、ハロペリドールとほぼ同様の標的症状に用いる。
・効果の程度は、ハロペリドールと大差なかったが、意欲については優れていた。また、鎮静を起こしにくいという報告もある。
③低力価で鎮静的な神経遮断薬
・クロルプロマジン、チオリダジン、プロペリシアジン、レボメプロマジンなど、情緒不安定や攻撃性などを鎮静することを目的に使われることが多い薬物である。
・アメリカでは発達障害者の破壊的行動に対して最も多いのが神経遮断薬であり、その中でもチオリダジンが最も多い(NIH,1990)。精神発達遅滞ではチオリダジンが少量で攻撃行動に有効であるが、認知機能や作業成果が落ちるという報告がある。
・レボメプロマジンは特に過鎮静をきたしやすく、日中の使用は慎重に考えたほうがよい。安定した睡眠を得るには最適の薬物と言える。
⑵感情調整薬
・坑躁薬とも言われており、躁病や躁うつの気分変動の治療に用いられる。自閉症をはじめとする発達障害においても周期性気分変動や衝動性・攻撃行動を標的にした使用も試みられるようになってきた。
①炭酸リチウム
・躁病や躁うつ病の治療薬である。その他の精神障害でも感情が双極性の変化を示したり、衝動性・攻撃性の強い場合に試みられている。
・Campbellら(1972)、Kerbeshianら(1987)の報告に、攻撃行動が改善した例がある。
・精神遅滞の攻撃行動に関しては、多くの報告がリチウムの有効性と安全性を示している。特に、多動で情緒不安定な者に最もよく効くと言われている(Stewart,1990)
・自閉症でも、周期性気分変動、攻撃行動を主な標的として試みてみる価値があるように思われる。(脳波の悪化、けいれんの誘発という副作用に注意を払うことが必要である)
②カルバマゼピン、バルプロ酸
・元来は坑けいれん剤であるが、躁病や躁状態に有効であることが明らかになってきた。
・精神遅滞の攻撃行動にカルバマゼピンが有効であるという報告がある(Stewart,et al,1990)。
・てんかんの治療のためにカルバマゼピンを服用していた自閉症児において発作のみならず自閉症状の改善も認められたという報告がある(Gillberg,1991)。
・今後は、周期性気分変動や衝動性・攻撃性を主な標的として自閉症でも試みていく価値があると思われる。(脳波所見が効果の予測に役立つか、服薬中止時にけいれんを誘発しないかなど有効性と安全性に関して検討すべき点がある)
⑶オピオイド(阿片様物質)拮抗薬
・ナロキソン、ナロトレキソン。
・オピオイド系が痛みへの反応をコントロールすることから、当初は自傷行為を標的として自閉症の治療に導入された。
・Herman,et al.,1987、Campbell,et al.,1989、Walters,et al.,1990、Pankseep,1991らの報告によれば、自傷行為の頻度が減少、引きこもりが改善・常同行動が減少、自傷行為が減少・対人関係が改善、多動・攻撃性・自傷行為・常同行動が減少、社会的接触を求めるようになったという。
・オピオイド系は自閉症の本態にかかわる可能性もある。
*我が国では自閉症の治療に使用できない。
⑷セロトニン再取込み阻害剤
・クロミプロミン、フルオキセチン、フルボキサミン。
・坑うつ剤の中でも神経終末におけるセロトニン再取込みを阻害する作用が強い薬物であり、強迫性障害に有効であるとの報告が最近多い。
・自閉症に対する使用は今のところ逸話的なものにとどまっている。
・我が国ではクロミプロミンが使用可能であるが、抗うつ剤は自閉症の行動を悪化させる可能性が高いと思われるので、“強迫的”症状へ安易に使用することは望ましくない。
⑸中枢刺激剤
・メチルフェにデート、ペモリン。
・多動症候群に対する第一選択薬であり、自閉症には禁忌とされていた。最近になり、自閉症に有用な場合もあるという症例報告が散見されるようになったが、無効ないし有害なことが多く、使用しにくい薬物であることに変わりはない。
⑹坑けいれん剤
・てんかん発作があれば、通常のてんかんに準じて使用するのが原則である。
・服薬をいつ開始するか、いつまで継続するかについては検討が必要である。(自閉症の中には生涯における発作回数の少ない者がいる。重度の精神遅滞を伴い脳機能障害が重いと想定される場合には、発作消失後に服薬を中止する時期を定めにくい。
・薬剤選択にあたっては、発作型や脳波所見が大きな助けとなる。
・自閉症のてんかん発作は大発作が多いとされているが、複雑部分発作も少なくないので、てんかん発作について注意深い観察をして、発作型に合わせて薬物の変更や調整を行うことが望まれる。
・認知への悪影響が少ないように配慮することも大切である。
・フェノバルビタールやクロナゼパムなどのジアゼパム系が、混乱や多動などの副作用を引き起こすことはよく知られており、注意が必要である。
・てんかん性脳波異常のみで、てんかん発作がない場合に一律に坑けいれん剤を使用するのは望ましくない。
⑺その他
①坑不安薬あるいは緩和安定剤
・多動や混乱を増して状態を悪化させる可能性が高い。少量の神経遮断薬と組み合わせて少量用いるのが安全と思われる。
②β-ブロッカー
・アドレナリンのリセプターのうちで主に末梢のβ-リセプターを遮断する薬物であり、頻脈性不整脈、本態性高血圧、狭心症などの心循環器系の疾患に対して広く用いられている。慢性不安、自律神経系の身体症状に有用なことが明らかになってきた。
・精神遅滞の攻撃行動にたいして有効であるという報告もある(Stewart,et al.,1990)。自閉症においても攻撃行動を主な標的として試みてもよいかもしれない。
③坑ヒスタミン剤
・食欲増進作用がある塩酸シプロヘプタジンは、軽度の睡眠障害に対して使用してもよいと思われる。それでも無効な場合は神経遮断薬の使用を検討すべきであろう。
【おわりに】
・治療教育に一定の限界があることは明らかであり、直接的に脳にアプローチする薬物療法の発展が大いに期待される。しかし、その薬物療法の成果を活かすのは、治療教育を中心とする総合的な治療であることには変わりはないであろう。(金生由紀子)

【感想】
 この著書が発行されたのは1992年、以来20年余り経過しているが、「自閉症の薬物療法」の現状に大きな進展はないようである。現在の東京大学医学部精神科監修のホームページ「自閉症 よりよい治療の手がかりを求めて」を見ても、〈【脳機能障害】 脳機能障害そのものに働きかける薬物は、研究段階にあるものばかりで、現段階では実用化には至っていません。 【異常行動や気分障害】 パニックや自傷/他害/攻撃行動、睡眠障害などが著しい場合や、その他に精神医学的な状態が合併した場合に抗精神病薬(リスペリドン、ハロペリドール、ピモシドなど)を使用することがあります。副作用として身体が硬くなったり、震えたりすることがある(錐体外路症状)ため、抗コリン薬などを副作用改善のために用いることがあります。気分の変動が認められたり、多動と減動を繰り返す場合などに気分安定剤(バルプロ酸、カルバマゼピン、リチウムなど)や抗うつ剤(フルボキサミン、パロキセチン、クロミプラミンなど)を使用することがあります〉と述べられているだけで、本書の内容に加えられる情報は皆無であった。また、国立特別支援教育総合研究所のホームページには、以下のような記事もあった。〈自閉症の治療薬は?― オキシトシンの可能性 ― (国立特別支援教育総合研究所客員研究員 渥美義賢)  現在、自閉症に対する薬物療法は基本的に対症療法です。すなわち、自閉症にしばしばみられる二次障害、すなわちパニックといわれる情動興奮、不安、不眠、抑うつ気分等に対する向精神薬や、てんかん発作が随伴する場合に用いられる抗けいれん薬等が用いられています。一方、自閉症を治癒させる薬物や、自閉症の中核的な症状である対社会性の障害やコミュニケーションの障害、限定された関心等に明らかな効果を持つ薬剤は開発されていません。これまでに、自閉症の症状そのものに有効な薬剤ではないか、としていくつか薬物が候補としてあげられ、現在検討中の薬物もありますが、客観的な有効性の検定を通過し科学的に有効性が証明された薬物はありません。
【オキシトシン】
自閉症に効く薬かもしれない、と最近注目されている物質にオキシトシンがあります。オキシトシンは元々ヒトの体内にあるホルモンのひとつです。これは脳の視床下部内で合成され、2つの経路で2つの働き方をします。(略)1つはホルモンとしての働きで、血液を通して脳以外の全身への働き、主に平滑筋に作用します。(略)神経繊維内を移動して脳下垂体後葉に行き、そこから血液中に分泌されます。血液中に分泌されたオキシトシンは、分娩時に子宮筋を収縮させて分娩を促進させたり、授乳時に乳管平滑筋を収縮させて乳中分泌を促進させる働き等をします。血液中に分泌されたオキシトシンは、脳にある血液脳関門のために脳内に入ることはできません。もう1つの働きは、脳内における神経伝達物質としての働きです。その経路を図1の青矢印で示しました。情動等を司る大脳辺縁系や、それと密接に関連する側座核(略)を中心に脳内に広く伝わります。この脳への働きが近年注目されています。
「愛の薬」? ~脳への作用~
 このような作用があることから、オキシトシンが「愛の薬」と報道されることがあります。そして、社会性・対人関係に作用する可能性があることから、オキシトシンが自閉症の治療薬になるのではないか、と期待されています。自閉症のある人たちへの実験的な投与もなされ、その結果として、社会性の改善、不安・恐怖の軽減、反復行動の改善等が報告され、自閉症の中核症状に有効である可能性が推測されています。期待されるが・・・
自閉症の中核症状がオキシトシン(同じく視床下部で合成され化学構造が類似しているペプチドホルモンであるバソプレッシンも)の投与によって改善されることへの期待は多く、現在多くの研究がなされています。オキシトシンは自閉症の治療だけでなく、うつ病や社会不安障害等の他の精神障害に対する治療にも役立つのではないかと期待されています。
しかし、現時点では自閉症の特効薬になるかどうかについて不明確なことが多くあります。問題点としては、鼻から吸入させる等の投与の方法と脳への移行の問題(血液から脳内にはほとんど移行しない、経口投与では消化管で直ちに分解される)、分解が早いこと(血中では3分間で濃度が半分に分解される)、薬剤の有効性を検定する基本的な方法である二重盲検法による研究がなされていないこと、静脈注射時ですがくも膜下出血や一過性の高血圧、吐き気等の副作用、等があります。オキシトシンが自閉症の治療薬となりうるか否かの解明、治療薬になるとしてそれが実用化に向けて、なお研究されるべきことが多く、かなりの時間を必要とするでしょう。また、オキシトシンの対人関係への作用が自閉症の対人関係の障害の特性に有効かどうかの検証も必要でしょう。オキシトシンの動物実験における社会性・対他関係に対する効果は、プレーリーハタネズミや羊におけるつがいの形成や母性行動の発現ですが、これらはつがい以外の動物や自分たちの子ども以外に対する攻撃性の増強(選択性の形成という重要な母性行動)を含みます。最近の研究で、オキシトシン投与により、自国中心主義を増強する―すなわち身近な対人的陽性感情の増強と疎遠な対人的陰性感情の増強する可能性が報告されました。対人関係と言っても幅広く多様な内容を含むので、オキシトシンが対人関係の変化をもたらすとしても、どのような対人関係にどのような変化をもたらすのかを明確にする必要があるでしょう〉・・・、ということで「自閉症の薬物療法」は未だに「研究途上」、著者らが《まず知っておいていただきたいのは、両親の性格や育て方などが自閉症の原因ではないということです。子供の自閉症発病は両親の責任であるかのように言われていた時代もかつてはありました。しかし、科学的な研究を通じてそれが間違いであることが明らかにされています。》(前出・東大精神科ホームページ)と言うときの、「科学的な研究」の現状が空しく示されているに他ならない、と私は思った。(2014.3.7)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《29》 Ⅸ章 自閉症の生物学的研究

【要約】
《Ⅸ章 自閉症の生物学的研究》
【はじめに】
・ここでは、自閉症の生物学的研究の歴史の概略にふれ、その後、臨床脳波、誘発電位、事象関連電位、画像診断、神経病理、生化学などの生物学的な研究を主に方法別に紹介するとともに、自閉症の臨床で日常なされている検査の意味などについても簡単に触れる。
【1.自閉症の生物学的研究の歴史】
・1940年代に、Benderが「小児分裂病」に脳障害を想定して、ソフトサインなどを研究していた(Bebder,1947)。
・1950年代になると、自閉症の追跡研究や脳波の研究がなされるようになった。
・1960年代になると、追跡調査で自閉症にてんかん発作が高率に見られたことや、脳波検査で自閉症に高率に脳波異常が認められたことから、自閉症に脳機能障害があることが一般的に認められてきた。
・1970年代に入ると、CTスキャンや誘発電位などの医療機器が、自閉症研究にも応用できるようになった。
・1980年代以降は、事象関連電位による研究も盛んになされ、覚醒時脳波解析の研究にもコンピュータによる自動解析が導入された。画像診断ではCTスキャンに加えて核磁気共鳴画像、ポジトロンCTなどがなされるようになった。フェンフルラミンやテトラハイドロバイオプリテンなど、自閉症の根本的な障害についての仮説に基づいた臨床薬理の多施設研究もなされるようになった。臨床的にも、脳波検査がますます重要性を増すとともに、CTスキャンが普及し、日常の臨床で広く使われるようになった。
*現在までに、自閉症に対する生物学的な研究は広くなされ、その報告の多くで、異常が示されてきた。しかし、結局は、その異常は、自閉症にだけ見られる異常ではなく、自閉症特有の障害とは直接関係していないとされた。現時点では、自閉症の生物学的な研究は、自閉症の脳機能障害を示唆するにとどまっており、自閉症の特有の症状を説明できる生物学的な異常は見つかっていない。
【2.神経生理学】
1)臨床脳波
・脳波とは、脳の表す自発的・律動的な電気活動を記録したものである。
・臨床的には、てんかん、脳血管性障害、脳腫瘍、脳炎、頭部外傷などの補助診断に有用である。
・脳波の異常は、突発性異常(発作波)と非突発性異常に分けられる。突発性異常は、背景脳波から際立った変化が突然出現し、急激に消退する脳波上の変化の異常であり、主にてんかんに見られるが、てんかん発作と必ずしも結びつくとは限らない。非突発性異常とは、主に基礎律動の異常である。脳腫瘍、脳出血、ある種の発達障害など、意識障害や脳機能低下、脳の成熟異常などがあるときに、しばしばこの異常をきたす。
*自閉症と臨床脳波:自閉症の睡眠脳波は、通常、明確な非突発性異常は認められない。自閉症では、高率に認められる突発性異常が注目されている。
2)突発性異常とてんかん発作
・現時点までの自閉症の脳波異常の研究をまとめると、自閉症のうち脳波異常は、1回の検査では30~40%前後、経時的に脳波検査を施行すると60%程度の者に認められるという報告が多い。この脳波異常は、知能の低い群に多いと報告されている(清水,1986: Minshew,1991)脳波は、年齢とともに変化し、脳波異常の見られた者がその異常が消失したり、その逆もしばしば見られる(川崎ら,1989)
・自閉症では、てんかん発作は自閉症の数十%から35%程度に見られるとされている(清水,1987; Minshew,1991) 発作型は、全般性強直間代発作(いわゆる大発作)が多いとされていたが、最近では複雑部分発作(短期間の意識消失、舌なめずり、手でボタンをいじるなど)のほうが多いという報告もなされている(Gilberg,1991)。てんかん発作もIQやDQの低い者に高率に認められる。また、てんかんの遺伝負因を重視する可能性を指摘する報告もなされている(Lenti,1992)。
・非自閉症者のてんかんの初発時期は幼児期が多いのに対して、自閉症者の初発時期は、幼児期と思春期の2つの時期にピークがあるとされている(Deykin & MacMahon,1979)。①自閉症では、てんかん発作が高率に認められ、幼児期から思春期までの広い年齢層で初発し得る。
②自閉症では、脳波異常は、知能障害の重さなどとともに、てんかん発作を予測できる可能性がある。
③自閉症の青年期にときに見られる退行は、てんかん発作と関係している可能性がある。
*10歳を過ぎたら、発作のない子どもでも2~3年に1回程度の脳波検査を受けることが望ましいと言えよう。
3)基礎波(自閉症の覚醒時脳波の非突発性異常)の研究
・自閉症の基礎波に関する研究の数は多くはない。何らかの脳の機能障害を示唆する異常が指摘される報告もなされているが、報告間で一致しておらず、その意味づけも定まっていない。
4)事象関連電位
・事象関連電位とは、種々の刺激によって生じる脳波の変化である。
・通常の臨床脳波は、安静覚醒時または睡眠時の、自発的な脳活動を表しているが、事象関連電位では、刺激に対する反応といった、より能動的な脳の活動について表していると言える。
・事象関連電位には、音、光など単なる感覚刺激に対する受動的な中枢神経の反応と考えられる誘発電位と、ヒトの認識、判断などに関連すると考えられる狭義の事象関連電位とがある。
⑴誘発電位
・誘発電位は、単純な感覚刺激を与えたときに生じる脳波の変化である。与える刺激の種類によって、視覚誘発電位、聴覚誘発電位、体性誘発電位に分けられる。
・自閉症では、聴覚誘発電位(ABR)がよく研究されてきたが、特徴的な異常は認められないとする報告が多い。
・臨床上は、幼児期に「呼んでも反応がない」ときなどに、聴力障害の有無を調べる検査の1つとして役立っている。
⑵狭義の事象関連電位(ERP)
・心理学的な課題を課しつつ脳波を記録する方法である。
・精神科領域では、ERPの中で、潜時約300msec程度の後期陽性成分(P300)がよく研究されている。
・P300は、精神分裂病、痴呆、頭部外傷などを対象とした研究で、種々の課題で振幅が小さいことが知られており、「認知」の障害との関連が注目されている。
*自閉症と事象関連電位(ERP)*
・現在、ERPは、自閉症の認知障害に関する客観的な情報を得たり、治療を客観的に評価したりする手段の1つである。ただし、ERP自体が、いまだ不明のことも多く、自閉症の認知障害とERPの異常所見とがどのように結びつくのかわかっていない。
・現時点では、自閉症のうち、ERPが施行可能な者は、高い知能を持つ者に限られている上に、ERPで異常が出たとしても、その意味づけが明確にされていないことから、ERPは研究的な要素が強く、臨床的に利用できる段階ではない。
【3.画像診断】
・画像診断は、CTスキャン(SPECT)、核磁気共鳴画像(MRI)、ポジトロンCT(PET)などが含まれる。
・自閉症の研究における画像診断の導入は、60年代の気脳写に始まり、70年代にはCTスキャン、近年はMRI、PETなどによる報告がなされている。
1)CTスキャン
・CTスキャンは1972年に開発された。これによって、頭蓋内の脳出血、脳浮腫、脳腫瘍、脳萎縮など、脳の形態的異常がすみやかに診断できるようになった。
*自閉症と頭部CTスキャン*
・60年代後半の気脳写(脊椎などから空気を注入し脳室に空気を入れ、それにX線をあて脳室や脳の表面の形を調べる方法)の報告では、自閉症の脳室の拡大が報告された。
・70年代後期から80年代初期のCTスキャンの研究でも、自閉症に側脳質の拡大など
の報告がなされてきた。
・最近の研究によると、概ね自閉症に特徴的な異常が見られないという報告が多い。
・結局、自閉症のCT上の所見は、ときに種々の非特異的な異常が見られるようである。しかし、自閉症に特異的な、CTで捉えられるような、特徴的な粗大な異常はなさそうである。
2)頭部MRI
・MRIは、核磁気共鳴現象を利用し画像を構成する診断法であり、脳の表面や内部の構造を調べる方法である。
*自閉症とMRI*
・MRIの自閉症の研究が発表されてからまだ数年しかたっておらず、報告の数も少なく、報告間でもしばしば結果が一致していない。
・自閉症の小脳に異常が認められる可能性があることが注目を集めている。
・しかし、MRIの異常所見が追試によって確認されたとしても、自閉症の行動や認知の障害とこれらの所見を直接結びつけることには慎重を要する。その評価については将来に委ねることになる。
3)PET
・PETは、体内に投与した放射線核種の分布を画像化するもので、脳の血流量、脳の代謝など脳の機能面を捉えることができる。また、課題を施行しながらやれば精神機能と脳機能の両面を同時に捉えられる可能性もある。短所としては、高価であること、多量の放射線を被曝することなどがあげられる。
*自閉症とPET*
・自閉症のPETについての報告はいまだ数が少なく、その評価は今後に委ねられよう。
・安全性の問題から、小児期の自閉症児にPETを施行することは慎重にするべきである。
【4.神経病理学】
・自閉症の神経病理学的な研究の報告はいまだ乏しい。小脳のプルキンエ細胞の数が少ないという報告は、MRIの自閉症の研究の一部で報告されている。“小脳に異常が認められる”という所見と一致するように見える。これらの所見は、最近、小脳が認知機能や情緒に重要な役割を果たしているという研究結果と合わせると、非常に興味深い。しかし、プルキンエ細胞は、栄養障害、中毒、感染、無酸素症など、しばしば非特異的な要因で脱落することが指摘されており(平野,1986)、その意味づけについては慎重を要するだろう。
【5.生化学】
・精神科の領域では、分裂病ではドーパミン系の活動亢進が、うつ病ではセロトニン系の活動低下が報告され、病態の解明のきっかけになるとともに、薬物治療にも貢献している。精神機能の異常と伝達物質の異常とは密接にかかわっていると考えられている。
*自閉症と生化学的研究*
1)セロトニン
・セロトニンは、中枢神経系、腸管、血液の血小板に存在する。
・1961年にSchainnが23名の自閉症児の血液中のセロトニン濃度を対照群と比較したところ、有意に自閉症群のほうが高かったと報告した。以後の追試でも、概ね自閉症の1/3程度に血液中のセロトニンの値が高値であることで一致している(Elliott & Ciaranello,1987)。
・現時点では、自閉症の一部に高セロトニン血症が認められること以外に、一致した所見はない。重度精神遅滞児の約半数にもセロトニンの高値が認められる(Hanley,et al.,1977)、その所見は自閉症に特異的なものではなく、意味づけも一致していない。
2)その他
・現在までのところ、自閉症の生化学的研究は、診断の問題、薬効評価の問題、研究の方法の問題、対照群の問題など多くの問題をかかえている。しかし、今後、自閉症の根本的な障害を明らかにすることばかりでなく、その治療薬を開発するためにも、生化学的な研究は重要になると思われる。
【6.自閉症をきたす病態】
・現在までに、Duchenne型進行性筋ジストロフィー、ダウン症、神経繊維腫症、ヘルペス肺炎などに自閉症の診断基準を満たす症例があるという報告がなされている。高率に自閉症をきたす病態として、点頭てんかん、結節性硬化症などがあげられている(中島,1991)。
・レット(Rett)症候群は、ほぼ全例一時期に自閉症になることが知られている(Rett,1966)。
・このことは、自閉症の症状が、なんらかの脳機能の障害によって生じることを示唆している有力な証拠である。
【7.その他】
・免疫、内分泌、眼球運動などに異常が認められるという報告がなされているものの、研究の数が少なく、不明のことが多い。
【おわりに】
・現時点では、自閉症の精神症状を説明できるような生物学的な異常は見つかっていない。
・現時点では、自閉症の日常の臨床でなされている脳波やCTスキャンを含めた生物学的な検査から得られる情報には、直ちに治療に役立つものは多いとは言えない。このような検査を含めた臨床経験の蓄積ももちろんだが、自閉症の脳の障害の本態を明らかにするための、各方面からの生物学的な研究は非常に大切と言える。そのことは自閉症の治療にも大きく貢献するはずだからである。(横田圭司)

【感想】
 「Ⅸ章 自閉症の生物学的研究」では、著者ら自身が〈現在までに、自閉症に対する生物学的な研究は広くなされ、その報告の多くで、異常が示されてきた。しかし、結局は、その異常は、自閉症にだけ見られる異常ではなく、自閉症特有の障害とは直接関係していないとされた。現時点では、自閉症の生物学的な研究は、自閉症の脳機能障害を示唆するにとどまっており、自閉症の特有の症状を説明できる生物学的な異常は見つかっていない〉と述べているように、その成果は判然としない。この著書が発行されて以来20年余りが経過した現在でも、大きな進展は見られないようである。インターネット情報によれば、
浜松医科大学が、2012年〈・自閉症者においては活性型ミクログリアが脳の様々な部位で増加していることを,世界で初めてポジトロン断層法(PET)によりとらえた。・脳部位間の活性型ミクログリアの分布パターンは自閉症と対照とで同様であることから,自閉症における活性型ミクログリアの増加は,局所の異常ではなく脳内ミクログリア数そのものの増加を反映している〉という研究報告をしたが、結論は〈研究の被験者には脳局所の萎縮や脳炎などないことが確認されていること,および,自閉症者の活性化ミクログリアの脳内分布が健常対照者と変わらないという所見から,自閉症ではミクログリアの分布は正常と同様ながら,その総数が増加していることが示唆されました。今後,ミクログリアの活性化につながる胎内の環境要因を明らかにすることが自閉症発症メカニズムを理解する一助になると期待されます〉という程度にとどまっており、「そのことは自閉症の治療にも大きく貢献するはず」とは言い難い。
 私の独断と偏見によれば、自閉症の原因を「脳の機能的障害」と推定しているかぎり、その本態は「専門家」によって解明(改善)されぬまま、支援を必要としている自閉症児たちは「自閉症者」として成長し、その生涯を終えることになるのである。著者らは〈(・MRIの自閉症の研究が発表されてからまだ数年しかたっておらず、報告の数も少なく、報告間でもしばしば結果が一致していない。・自閉症の小脳に異常が認められる可能性があることが注目を集めている。・しかし、MRIの異常所見が追試によって確認されたとしても、自閉症の行動や認知の障害とこれらの所見を直接結びつけることには慎重を要する。その評価については将来に委ねることになる〉と述べているが、もうすでに(当時の)「将来」は「過去」になってしまっているのである。(2014.3.9)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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「自閉症治療の到達点」精読・《30》 Ⅹ章 自閉症の遺伝研究

【要約】
《Ⅹ章 自閉症の遺伝研究》
【はじめに】
・自閉症は、現在では中枢神経系の先天的異常がその主な原因であると考えられるようになってきている。先天的とは、脳を形成する神経系の遺伝情報の異常と、遺伝子レベルには問題がない場合の胎生期の環境による発生の異常とを含んだ意味である。前者では、フェニールケトン尿症、結節性硬化症に合併したものがあげられ、後者では先天性風疹症候群があげられる。
・古典的な遺伝学では、形質(病気や瞳の色などの特徴)が同一の家系内に高頻度で見られる場合に、その形質の遺伝性や病原性を追究することが可能であった。ある形質が遺伝することやその遺伝のしかたが明らかになった後に、その遺伝子を追究するという方法で、いろいろな形質の遺伝子が明らかとなってきた。しかし、現在ではその逆の方法での研究がすすんできている。遺伝子の把握が先になされて、その異常に対応してどのような形質上の異常が生じるのかを研究することが可能になってきている。近年、分裂病、躁うつ病、てんかんなどの精神神経疾患でこのような方法を用いた遺伝的研究が行われている。今後、自閉症を含めた発達障害の研究にもこのような方法が応用されていくものと期待される。
・この章では、自閉症における遺伝的アプローチの現状とその可能性を理解してもらうことを主な目的としている。前半では、遺伝学的に見た自閉症や発達障害の理解に役立つと思われる基礎知識を紹介し、後半では遺伝学的に見た自閉症について述べておく。
【1.遺伝に関する基礎知識】
・自閉症が遺伝学の対象となった途端に、自閉症が遺伝性の疾患であるかのように誤解されることがある。
・遺伝学的な異常とは、遺伝子レベルの異常なのだが、これは親の代では存在しなかった異常も含めて考えているのである。いわゆる突然変異などを含めて考えてもらうとよい。
1)親から子どもへ何が引き継がれていくのか?
・ヒトがヒトとして生まれてくるのは、ヒトの遺伝子を持っているからである。遺伝子は1本の染色体を単位として、母親と父親から子どもへその半数ずつが伝えられる。その新しい遺伝子の組み合わせで子どもの持つ基本的な構造が決定される。ヒトに脳があったり、1つの鼻や2本の腕があったり、性が存在したりするのも、親から子へ正常な遺伝子が伝えられた結果である。
・親から子へと伝えられた遺伝子は、その個体を構成するタンパク質がどのようなものであるのか、そのタンパク質がいつつくられるべきであるのかという情報を担っている。前者に関する遺伝子を構造遺伝子、後者に関するものを調節遺伝子と呼んでいる。
・遺伝子は、他の遺伝子や環境との相互作用の中で形質を表現している。親から子へと物理的に引き継がれるのは遺伝子であって、出来上がったヒトそのものではない。個人の形態や能力は潜在的に遺伝子によってある程度の傾向が決定されていても、遺伝子がそのまま表現されるわけではない。
・環境との関係:(例)筋肉の量はトレーニングによって増えるが、その量は遺伝子のみによって決定されているわけではなく、環境との相互作用で決まる。環境や訓練が、遺伝子から形質へとつながる複雑な過程に介入して、結果として遺伝子の発現を調節している
のである。
・他の遺伝子との相互作用:(例)脱毛症の中の一部は優性遺伝することが知られているが、この遺伝子が形質を発現して脱毛が生じるのは男性ホルモンをつくる遺伝子が存在するときだけ、つまり男性だけである。
2)遺伝子を運ぶもの
・遺伝子を運ぶものは染色体である。正常な核型(染色体の組み合わせ)のヒトでは、44本(22組)の常染色体と、男性ならX染色体とY染色体がそれぞれ1本ずつ、女性ならX染色体が2本ある。このX、Y染色体は性染色体と呼ばれる。
・生殖細胞から配偶子ができる際に、男性では22本の常染色体とX染色体あるいはY染色体のどちらかの計23本の染色体を持った精子が形成され、女性では22本の常染色体とX染色体1本の計23本の染色体を持った卵子が形成される。生まれる子が男性か女性かは、受精にかかわる男性側の精子の性染色体がX染色体なのかY染色体なのかで決まる。
3)遺伝子のある場所
・染色体上のどの位置(遺伝子座)にどの遺伝子が並んでいるかは、染色体ごとに決まっている。
・正常な遺伝子型のヒトは1つの番号につき2本ずつの常染色体を持っている。(この1対を構成する染色体を相同染色体と言う)から、遺伝子は母方由来の染色体上のものと、父方由来の染色体上のものの2つある。相同染色体の同じ位置の遺伝子座には、対をなす遺伝子がある。これを対立遺伝子と言う。
・1つの遺伝子座には1つの遺伝子がある(将来2つ以上に分けられることもある)が、その1つの遺伝子は複数種類のうちの1つであることが多い。例えば、ABO血液型を決める遺伝子は9番染色体の長腕の34という位置にあると考えられているが、その遺伝子座にあるのはA型かB型かO型の3種類の遺伝子のうちのいずれか1つである。
4)遺伝子のモデル
⑴単一遺伝子モデル(メンデル形質)
・1つの遺伝子座で決定される形質をメンデル形質という。この形質が疾患であれば、それを単一遺伝子疾患という。メンデル形質には、遺伝形式にいくつかのパターンがある。遺伝形式が優性であるとは、2本の染色体のうちの1つにあれば必ず表現されることを意味し、劣性であるとは、1つだけでは表現されないことを意味する。これが常染色体上にある場合と、性染色体上にある場合とがある。
・性染色体上にある遺伝子の発現形式には、常染色体上にある遺伝子とは異なった特徴がある。X染色体連鎖の場合は、男性と女性で表現のされ方が異なっている。女性ではX染色体が2本あるので、常染色体上にある場合と同じである。男性ではX染色体が1本しかないために、劣性優性にかかわらず発現する。Y染色体上にある遺伝子については、通常の男性ではY染色体は1本しかないから、優性劣性の区別なくY染色体連鎖遺伝と呼ばれる。
⑵多因子モデル
・複数の要因で形質が決定される遺伝形式を、多因子遺伝と呼ぶ。糖尿病がその代表的なものであり、遺伝的素因に加えてどのような環境で生活するかといったことも発症するかしないかの重要な要因である。多因子遺伝は、多遺伝子遺伝と呼ばれることもある。複数の遺伝子が相乗的に、相加的に作用していることを意味している。
5)遺伝子の本体
・染色体は、デオキシリボ核酸(DNA)が二重螺旋構造をとりながら1本につながって何次元かに折れ曲がったものと、その周囲にくっついたタンパク質から出来ている。DNAとは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4種類の塩基の総称である。
・このDNAが遺伝情報を伝える本体であるが、DNAは1個1個それだけでは何の遺伝情報も伝えない。遺伝情報は、4種類のDNAの並び方(DNA配列)の中に暗号のような形で蓄えられている。このような配列が1本に並んだDNAの鎖の中にとびとびに存在している。このDNA配列のひとかたまりを遺伝子と呼ぶ。
6)遺伝学的異常
⑴光学顕微鏡レベルの異常
・光学顕微鏡で明らかとなる異常は、染色体レベルの異常である。採血によって得られた白血球を培養し、目的に合わせた染色をすることで確認が可能である。染色体異常には、数の異常と形態の異常がある。
・数の異常には、正常なら2本で1対となっている同じ番号の常染色体が3本あるトリソミー、1本であるモノトリソミーがある。ダウン症は、21番染色体のトリソミーである。
・形態の異常では、欠失、転座、脆弱などがある。形態に異常があれば、DNA配列に異常が生じていることは容易に推測できる。
⑵遺伝子レベルの異常
・遺伝子のわずかな異常は、染色体を顕微鏡で調べただけではわからない。分子生物学的な手法を用いて明らかにすることができる。通常は、採血を行いその中の白血球のDNAを調べる。
・遺伝子レベルの異常は、DNA配列の異常である。A、T、C、Gの4つの塩基のうち、AがTに置き換わったりする置換、一部のDNAが欠ける欠失、余計なDNAが入り込む挿入などがある。Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)で異常の見られるDMD遺伝子は、X染色体の短腕の21という部位にあり、種々のタイプの欠失が見られている。
7)親から子へ引き継がれる際に遺伝子に異常の起こる原因
・ここでは、組み換えと突然変異について説明する。
⑴染色体の組み換え
・1本の染色体を単位として、遺伝子は親から子へと遺伝する。しかし、親の1対の染色体のうちの1本がそのまま子へと引き継がれていくわけではない。生殖細胞から配偶子ができる際に、組み換えという現象が生じていて、相同染色体どうしの間で部分的に染色体を交換し合う。この際に不均等な入れ替えが起こって、一方での染色体である遺伝子が欠損し、もう一方でそれが重複するといったことが起こることがある。
⑵突然変異
・DNA配列には、一定の確率で突然変異が生じている。
・臨床的には、精子形成や卵形成の際の減数分裂で生じる塩基置換が問題になる
8)まとめ
・遺伝子の本体はDNAの配列である。染色体や遺伝子は、親から子どもへ少しずつ内容を変化させながら遺伝する。さらに、その子どもの環境や、他の遺伝子からの作用を受けて形質を発現させる。
【2.遺伝学的に見た自閉症】
1)自閉症で遺伝的基礎が考えられる根拠
・自閉症の男女比は概ね4:1であり、男に多い。これは性染色体の関与を示唆するものである。
・一卵性双生児と二卵性双生児で一致率を見ると、一卵性での一致率が高い。これは、自閉症の発症に、遺伝レベルの素因が存在していることを示唆している。
2)双生児研究
・11組の一卵性双生児と10組の性が一致している二卵性双生児で、自閉症の一致率を調べた研究(Folstein & Rutter,1977)では、一卵性で36%、二卵性で0%であった。さらに、認知面の障害まで広げて一致率を見ると、一卵性で82%、二卵性で10%であった。
・これ以外に、一卵性で91% 、二卵性で0%という報告(Steffenburg,et,al.,1989)、一卵性で96% 、二卵性で24%という報告(Ritvo,et,al.,1985)があるが、自閉症の範囲が広すぎる、二卵性の中に性の不一致例がある、などの批判もある。
・一方で、不一致例の存在は、すべてが遺伝子レベルで決まるものでもないことを示している。
3)家族研究
⑴同胞に関する研究
・IQ70以上の自閉症児の家族を対象に調査して、読字障害や言語面の障害の家族歴が1/4以上の家族に見られた(Bsrtak,et,ai.,1975)。
・自閉症の同胞71例とダウン症候群の同胞38例を対象に、認知障害の頻度を調べた結果、前者の15% 、後者の3% に認められた(August,at,al.,1981)。
・自閉症の同胞50例に心理検査を施行して、約10%に精神遅滞を認め、言語性IQが動作性IQに比べて低い傾向があった(Minton,et,al.,1982)。
・78例の自閉症と22例のダウン症候群の同胞を調べて、自閉症の同胞15%とダウン症の同胞4.5%に認知面の障害を認め、多くは特異的言語障害であった。言語遅滞や社会性に異常のある者の140例の同胞のうち4例に、自閉症89例の同胞のうち3例に自閉症を認めた(Rutter,1991の紹介)
⑵両親に関する研究
・神経症的傾向や内向性や強迫性が高い(Kolvin,at al.,1971;Cox,et al.,1975)。
・他の障害児の両親と比較して、共感性、社会性、強迫性に差がない(Wollf,et al.,1988)。
⑶家族研究についての考察
・自閉症児の家族の一部に認知障害や性格傾向を含めた一定の特徴を肯定するものが多い。遺伝負因を肯定する結論とみなしてよいであろう。
・同胞には、自閉症以外の発達障害や認知障害が認められている。親については、発達障害よりも性格傾向を議論しているものが多い。遺伝要因は親のほうが同胞より自閉症児に近い関係にあり、環境条件は同胞のほうが自閉症児に近い。自閉症を含めた発達障害の発症に関与する遺伝子レベルの異常は、片方の親からそのまま引き継がれているものではない可能性を示している。
4)自閉症と関連が報告されている遺伝的形質
⑴染色体異常との関連
・自閉症が男性に多いことから、Y染色体の異常が検討され、自閉症の男性のY染色体は通常に比べて長いものがあるという報告があったが、支持も否定もないまま現在に至っている。
・ほかに、性染色体関連の異常として、脆弱X染色体が検討されているが、自閉症児での頻度は、他の精神遅滞児の頻度を超えるものではない(Hashimoto,et al.,in printing)。
・脆弱X症候群は何らかの中枢神経系の障害の原因になり得るものであり、常同行動などの自閉症様の症状が認められることもあるが、自閉症の主要な原因ではないと考えられる。
⑵単一遺伝子疾患と考えられる疾患
・より高率に自閉症を合併するものとして、ウェスト症候群、先天性風疹症候群、フェニールケトン尿症、結節性硬化症がある。これらのうち、フェニールケトン尿症と結節性硬化症は単一遺伝子によるものと考えられる。フェニールケトン尿症の多くで異常の認められるフェニルアラニン水酸化酵素も遺伝子は12番染色体上にあり、そのDNA配列が明らかとなっている。結節性硬化症は9番染色体長腕と11番染色体上の別個の2座位との連鎖が明らかになっている。
・これらは自閉症のうちのごくわずかを説明できるにすぎない。
5)自閉症における遺伝学的研究の可能性
・自閉症における遺伝学的研究にはいくつかの困難点が存在する。
①自閉症が行動面で診断されるものであるため、遺伝子レベルの原因において不均一性である。
②家族に見られる認知障害のうち、どこまで自閉症に関連する遺伝子によるものと想定するべきか。
③自閉症は分裂病や躁うつ病や合併症にないてんかんと異なり、子どもを生む可能性が少ないため、原因遺伝子を何世代かにわたって追跡することが不可能である。
④複数の原因遺伝子の関与を想定した場合に、変数が多くなりすぎて技術的に解決が困難になる可能性がある。
・したがって、現在次々と明らかになりつつある単一遺伝疾患と同じような展開での解決は困難であろう。
・しかしながら、分子遺伝学的方法は自閉症の原因解明の有力な手段である。例えば、神経系の発生とその機能に関与する遺伝子の異常の有無を、個々の自閉症において確認することが可能である。また、どの家族に自閉症関連の遺伝子の形質が現れているとみなすかという問題や、自閉症の不均一性の問題は、これまでに自閉症で所見が指摘されてきた生物学的特徴(血中のセロトニン濃度)や心理学的特徴(WISCなどのプロフィールなど)を利用して、臨床的にある程度克服することも可能であろう。
・遺伝子レベルでの原因が明らかになることで、自閉症をとりまく環境もかなり変化するであろう。すぐに根本的な治療法が開発されるとは限らないが、生物学的な原因が不明なために精神遅滞一般と同じ枠組みでしか対応できなかった状況が、医療面でも、行政面でも改善されるであろう。
・現在の分子生物学の進歩は、遺伝子レベルの情報を驚くほどの速さで利用可能にしてきている。まだまだ現在の状況は楽観的なものではないが、そこに甘んじる必要はないであろう。
6)まとめ
・自閉症の双生児研究や家族研究の結果は、素因としての遺伝子レベルの問題を示唆している。自閉症の遺伝子レベルの原因解明においては、他の単一遺伝子疾患や精神神経疾患についての方法に加えていくつかの工夫が必要と考えられる。
・今後の分子生物学の発展や、自閉症の心理学的、生物学的理解がすすむ中で、自閉症をとりまく環境が改善され、さらに根本治療に道がひらけることが期待される。(橋本大彦)

【感想】
 以上が「Ⅹ章 自閉症の遺伝研究」の内容だが、「Ⅸ章 自閉症の生物学的研究」と同様に、《研究の成果》は判然としなかった。著者らが、「自閉症の原因は脳の機能障害」であり、さらにその原因が「遺伝子の異常」にあると主張するのなら、まず第一に、「遺伝子レベルの原因」を解明することが先決ではないだろうか。インターネットの情報(「じゃじゃ丸トンネル迷路」)では、「自閉症の遺伝(FolsteinとRosen-Sheidleyの総説)」という論文があったが、その「結語」は以下の通りである。〈この10年足らずの研究を基盤にして,遺伝素因はあきらかに最も有力な自閉症スペクトルの原因として取り上げられるようになった.染色体異常やメンデルの法則に従う特異な疾患との関連に関する症例報告は数多くあるけれども,おおくのケースは特発性で明らかに複雑な遺伝パターンを背景としている.このことが易罹患性遺伝子の発見を困難にしている.にもかかわらず,いくつかの遺伝子(座)に関して注目される染色体領域を同定することに関しては,かなりの進歩があり,特に第2染色体,第7染色体,第15染色体,X染色体に関しては報告が成された.これまでのところ所見は決定的ではないが,候補遺伝子に関する研究は進行中である.候補遺伝子の選別は,連鎖シグナルの近傍にあることや,染色体異常のブレークポイントにあること,胎児発達時期の脳における発現性,そして限られてはいるが病態生理学的知識に基づいている.補足的アプローチには,動物モデルやヒト脳組織の研究がある.自閉症の遺伝に関するより意義のあるデータを得るためには共同研究が必要であるとする認識に加え,このような強力ないろいろなアプローチ法がそろっているので,今後の革新的な進歩が期待でき,この最も難解な状態(自閉症)を理解できる日が近いという楽観的な考えを持つことができる〉。この論文は(おそらく)2001年頃の作物だと思われるが、それから10年余りが過ぎた現在、未だに「遺伝子レベルの原因」は解明されていない。(最近の)国立特別支援教育総合研究所のホームページには、「自閉症の遺伝子治療は可能か?― 自閉症の多様性 ―国立特別支援教育総合研究所客員研究員 渥美 義賢」という記事が載っている。そこでは、レット症候群に対する遺伝子治療が「動物実験で成功した」例が紹介されているが、末尾は〈マウスでは生後3~4週からMECP2もしくはMeCP2を補うことでレット症候群の発症を防ぐことができることを証明しました。ヒトでいえば、生後半年くらいから正常なMECP2遺伝子かMeCP2を補えばレット症候群を予防できる可能性があるといえるでしょう。しかし、実験におけるマウスの死亡率の高さ等、ヒトへの臨床応用にはかなりの時間がかかりそうです〉ということで、私には「楽観的な考えを持つこと」など、とうていできないのである。 
 
これで「自閉症治療の到達点」精読は終了する。「自閉症治癒への道」の著者、ニコ・ティンバーゲン博士は、自閉症の治療教育の現状を見て「敗北主義」と評したが、今、そのことを「実感」として受け止めざるを得ない。(2014.3.11)
自閉症治療の到達点自閉症治療の到達点
(1992/12/01)
太田 昌孝、永井 洋子 他

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