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「障害乳幼児の発達研究」抄読・《1》 子ザルの異常な社会的行動(1)

「障害乳幼児の発達研究」(J・ヘルムート編・岩本憲監訳・黎明書房・昭和50年)を抄読する。今から39年前に発行された本だが、その内容は(私にとって)斬新である。と言うのも、それ以後、科学技術の進歩はめざましかったが、その方向は分子生物学の分野に偏りがちであり、人間のありかたを「総体」として捉えようとする姿勢が減退していったように、私には思われる。例えば、自閉症に関する生物学的研究や遺伝(子)研究が、その端的な例だが、研究者の目は、自分自身の肉眼よりも、コンピューターによる脳波解析、物理工学テクノロジーに基づいたCTスキャン、MRI、PETによる画像診断、光学顕微鏡による染色体の確認、採血によるDNA鑑定などなどに依存しすぎ、明解な成果を見出せぬまま、いわば自縛的な混迷状態から脱出できないでいる、というのが現状ではないだろうか。そんな折り、本書の巻末に収録されている論文「子ザルの異常な社会的行動」(スティーブンJ.スウオミ、ハリーF.ハーロウ)は、たいそう魅力的な内容であった。人間の子どもを、生後まもなく「社会的な環境」から隔離して育てたらどうなるか、おそらく「異常な社会的行動」が生じるであろうことは「強く推測」されるが、それを実験・実行することは許されない。そこで、対象を赤毛ザルに代えて実験した結果が報告されている。なお、この論文は発達心理学者、障害児教育関係者にとってはあまりにも有名、斯界の「必読文献」として、いわば「古典」的価値を有している、と私は思う。以下、その内容をかいつまんで要約する。

《子ザルの異常な社会的行動》
【序】
・生後すぐに完全に社会的隔離状態におかれると、それが後日の社会的発達におよぼす効果といった(そのような)理論的問題は《仮説的》に人間の被験者に関してのみ考えられうるが、動物の霊長類では、これらの問題は仮説的ではなくて《実証的》にとりあげられうるのである。
・自由な野外環境では発達上の行動異常は例外であり、まれにしか観察できないが、実験室の経験をすると本当に“正常な”社会的発達をとげる被験体は生まれ育たない(Jay 1965)。野生で、同腹の子ザルと一緒に育ったサルが出くわす環境と同じ環境を提供できる実験室は世界のどこにもない。
・この章でとりあげられる赤毛ザルにとっては“標準的な”野生環境というものはない。自由区域の赤毛ザルはインドのジャングルの森の中でも、また市街地でも見られる、市街地の赤毛ザルが示す行動のある社会的側面は、森の中で生活しているサルの社会的側面とかなりかけはなれたものである(Singh 1969)。これと対照的に、赤毛ザルの知的行動は、インドの森または市街地から来たサルであろうと、アメリカの実験室で育てられたサルであろうと、本質的に同じ結果を示したのである(Singh 1969, Harlow, Schiltz および Harlow 1968)。換言すれば、赤毛ザルにとっての“正常な養育環境”を定義することは、人間にとっての正常な養育環境を定義するのと同様ほとんど意味がないのである。どの野生環境であっても、サルの一貫的行動によって正常性を定義する方が、その行動に先立つ環境要因によって定義するよりも、もっと有意味なことではなかろうか。
・正常な行動の発達とは、赤毛ザルの野外観察においてみられたきたような行動パタンのことである。Wisconsin霊長類研究所の研究者は、実験室の子ザルが野生養育条件下の子ザルにみられる社会的行動の発達と本質的に同じものを示すような養育の範例を工夫した。反対に、これらの範例を変容させたり分裂させたりすることによってサルの社会的発達を規準的パタンから逸脱させることができる。これらの逸脱の形式、すなわちサルの示す行動異常が本章の根幹になるだろう。
・本章は4部に分かれている。第1部では、養育経験とはかかわりなくすべての赤毛ザルが示す行動、実験室の環境で母ザルや仲間と広く交渉をもつ機会を与えられたサルの“正常な”社会的発達について取り扱われる。第2部では母ザルや仲間ザルと一緒の養育範例の要素を取り除いたり、変容させることによってどのような行動がおきるかについて取り扱われる。第3部では、赤毛ザルの特殊な形式の精神病理学的行動すなわち抑うつをわざわざつくり出し、そのデータが紹介される。第4部では、不完全な初期の社会的経験のために、異常、すなわち現実には存在しない社会的行動を示すようになったサルにリハビリテーションを行うための前向きの努力について取り扱われる。
・われわれはただデータを提出し、ここでひき出されるどんな類推も厳密には読者の判断にまかせたいと思っている。
【Ⅰ 優性行動と“正常な”社会的発達】
・赤毛ザルは、生下時には比較的無力な動物であるが、数ヶ月もたってくると幅ひろい世話を要求しつづけるようになってくる。
・赤毛ザルは、多くの優性行動パタンや反応傾向をそなえて世の中へ出てくる。
(a)反射タイプの行動は、生下時、その直後にあらわれ、動機づけの要因とは比較的独立している。
(b)生まれたての赤ん坊ザルが自由選択事態におかれると一貫した社会的偏好がみられる。(c)潜在的行動パタンは、生下時ではなくて幼少期の終わり頃にあらわれる。
・われわれは、これらのパタンを非学習性または優性行動パタンとよぶ。
A 反射行動
・赤毛ザルは胎内にいるとき、あるいは生後すぐに①すがりつき反射(腹部の表面を他のサルのからだに接触させること)と②捜索吸啜反応の2つの重要な反射行動をあらわす。そのような反射行動によって子ザルは母ザルと親しく身体接触を保ち、母親から栄養を取ることができる。子ザルを平たくて固い平面に上向きに寝かせてみると、すぐさまうつ伏せの姿勢になる。そのとき、柔らかいものでおおわれたものがあれば、そのまま背中をつけてそれにぴったりとくっつけてしまう(MowbrayとCadell 1962)。このことは、脊椎動物におけるすべての反射体系のうちで最も主要で共通のものとしてみられている平衡復帰反射としてのすがりつき反射の優性遺伝を示しているのである(Hnmburgur 1963)。
・生まれたての赤ん坊ザルの顔、口の付近を刺激してやると口による接触がなされるまでは頭を両側にあるいは縦に回転させたりする。しかし、すぐさま吸啜するようになる(HarlowとHarlow 1965)。
・赤毛ザルは正常な社会的行動を発達させるものもそうでないものもすべて生下時にあるいは生後まもなくすがりつき反応や吸啜反応を示す。
B 社会的偏好パタン
・子どもの赤毛ザルは、選択状態におかれると、たとえ以前に1度もどの種の成熟したサルに当面していなくても、赤毛ザルにきわめてよく似た弁髪のある成熟した雌のマカークザルまたは短毛のマカークザルよりも成熟した赤毛ザルへの偏好を示す(Sackett,SuomiおよびGrady 1968, Sackett 1970)。同時に、赤毛ザルの子ザルは、以前に見るという経験をしていなくても、成熟した雄の赤毛ザルよりも成熟した雌の赤毛ザルの方を好む(Suomi, Sackettおよび Harlow 1970)。
・最初の1か月以内に社会的経験をすると、これらの非学習性の偏好が変わりうるのだという結果(Sackett Porterおよび Holmesu 1965)があるが、これは後の時期の正常または異常な社会的行動をもたらすかもしれない要因がすでにこの初期にあらわれているという点で重要な意味をもっている。
C 潜在的行動パタン
・優性反応には、生下時には示されないがずっと後になってあらわれてくる行動があり、これは、明らかに以前のまたは現存の環境条件とは別のものである。そのような2つの行動は恐怖反応と攻撃反応とである。
・赤毛ザルの種(Altman 1962)では、しかめ面をしたり連合発声をするといった恐怖反応は、完全な社会隔離状態で育てられた(Sackett,1966)とか、母ザルや仲間ザルと一緒に育てられた(Harlow, Harlowおよび Hansen 1963)ということとはかかわりなく70日から110日の間にかけてあらわれてくる。つぎに、攻撃反応(“暴力的威嚇”や、かみつき)はおよそ6か月になってはじめてあらわれるが、うまく社会化された子ザルの場合、1年たつまでは比較的おだやかな行動である(Rosenblum, 1961)。
・これら2つの反応体系の出現は、子ザルの現在の行動レパートリーに統合されていくが、その統合のされ方は後の発達にとって決定的な役割を果たす。われわれの仮定としては、恐怖反応の種に適切な社会発達への統合は、母ザルまたは代用母ザルの存在によって促進されるということ、攻撃反応の適切な社会的活動への統合は、年長の仲間ザルと遊ぶことによって促進されるということ、そして母ザルまたは代用母ザルがいない社会的環境、または仲間ザルと交わる機会に欠けている社会的環境で育てられた子ザルは、後には異常な社会的行動をたしかに示すだろうということである。換言すれば、種の規準的な社会的発達にとって、子ザルの環境について最小限度社会的に必要とされることは、ある形式の母ザルがいることと仲間がいるということである。
・実験室内の「遊び場装置」で、生後1年間母ザルと子ザルが生活した経過を観察した結果、以下のことが明らかになった。
*赤毛ザルの子ザルは、母ザルと身体接触をしながら、両腕に抱かれて揺すられながら最初の1か月を過ごす。
*最初の1か月までに、子ザルは母ザルと短時間はなれて自分のまわりの世界を探索しはじめるようになる。
*子ザルが母ザルの保護的なだっこからはなれる程度は、母ザルの許可の関数としてみられる。母ザルの態度はたえず時間とともに変わってくるが、2か月になると子ザルの回復反応は最大に達し、4か月までに母ザルは子ザルを外の世界におしやってしばしば拒絶する。その結果、子ザルが母ザルと接触して費やす時間の量は2か月後には急に減少していく。これは、探索しようとする子ザルの熱心さが増していくことと、子どもを揺すって保育していく母ザルの熱心さが減少することとの間の交互作用に基づくものである。
*子ザルの探索行動の発達は2か月目に入ると急速に増加しはじめてくる。子ザルは母ザルを基地として、無生物の遊具や生き物の遊び仲間を調べるために、遊び場に短時間侵入する。しかし、立腹刺激を与えると、子ザルは母親のもとへチョコチョコと走って戻ってくる。母ザルは子ザルにとって安全な基地となっているのであり、子ザルの恐怖反応が生じる時期では非常に重要な役割を果たしている。母ザルから隔離された3か月の子ザルが恐れると思われる刺激を、子ザルと母ザルが一緒にいるときに与えると、こんどは類似の恐怖反応は生じてこない。
・8か月ないし10か月までに、遊びはサルの行動レパートリーを支配するようになり、成長するにつれてだんだん攻撃的になり性的な面も発達をとげてくる。この時期までに性的役割が分離してくる。8か月の雄は同性の仲間ザルを選ぶが、8か月の雌もやはり雌の仲間ザルを選ぶ(Suomi, Sackett および Harlow 1970)。遊び場では、雄と雄と一緒に遊ぶ傾向が強く、遊びは攻撃的であり、乱暴でもつれ合った遊びである。8か月の雌はまれに雄と遊びはじめるが、その遊びは主として接触のない遊びである。
・生後1年の終わりまでに、攻撃的ならびに性的行動は、母ザルや仲間ザルと交わって育てられているうちにうまく統合されていく。遊びは子ザルの活動性を支配しつづけ、母ザル指導型の行動は減少しつづけ、自分のからだに口で接触するとか、手足を用いて自分の
からだを握りしめる行動とか、定型的なゆすりの行動などは事実上なくなってくる。
・最初の1年間母ザルや仲間ザルの中で育てられてきたサルは、後になって同種の他のサルと交わる機会が与えられると十分な社会的行動を示しつづける。あからさまな攻撃によるというよりもむしろ威嚇とかしかめっ面をするとか、ねらいをつけるといったような一風変わった身振りによる社会的な指図をして、非常に安定した優位ハイラーキーを急速に確立していく。性的に成熟してくると、これらのサルはもっと熱心になり悪ずれしてくる(Senko 1966)ようになり、実験室で生まれた多くの霊長類と対照的にそういう行動をたやすく再現していく。母ザルや仲間ザルの中で養育された雌ザルは、一般的にはすぐれた母ザルになってくる(Harlow, Harlow, Dodsworth および Arling 1966)。
・最初の1年間に広範囲の母性的経験や仲間ザルとの経験をもった赤毛ザルは、実験室で生まれて初期に十分な社会的経験を与えられていない霊長類がもっているような重厚な行動異常をめったにあらわすことはない。過度に自分のからだに口で接触するとか、自己攻撃をするとか、手足を用いて自分のからだを握りしめるとか、強迫的な揺すりとか、定型的な動揺を伴った握りしめなどはめったにおこらない。
・母ザルや仲間ザルの中で育てられたサルは、野生の環境で観察されたサルにまったく匹敵している(Altman 1962, Imanisi 1963, Koford 1963, Southwick, Berg および Siddiqi 1965)
・出生後すぐ母ザルや仲間ザルがいる社会的環境で育てられたサルは、種にとって規準的社会的行動というような範囲内での行動パタンを発達させていくことができる。

 以上が、第1部の要点である。著者らは「序」で〈第1部では、養育経験とはかかわりなくすべての赤毛ザルが示す行動、実験室の環境で母ザルや仲間と広く交渉をもつ機会を与えられたサルの“正常な”社会的発達について取り扱われる〉と述べているが、「子ザルが“正常な”社会的発達」を遂げるためには、①母ザル(または代用母ザル)が必要なこと、②子ザルの生得的な「すがりつき反射」「吸啜反応」が母ザルとの「身体接触」の中で保障されること、③母ザルは子ザルの潜在的行動パタンである「恐怖反応」に対して、「安全基地」の役割を果たすこと、④また「攻撃反応」は、仲間ザルとの「遊び」によって適切に調整されること、といった条件をクリアする必要があることが、明解に「実証」されていた。サルが成体に成熟するまで5~7年かかると言われている。人間が成熟するまでには15~18年かかるとして、約2~3倍の速度で発達するが、だとすれば、サルの生後1年間は、人間の生後2~3年間に相当する、などと考えながら、とりわけ〈子ザルが母ザルの保護的なだっこからはなれる程度は、母ザルの許可の関数としてみられる。母ザルの態度はたえず時間とともに変わってくるが、2か月になると子ザルの回復反応は最大に達し、4か月までに母ザルは子ザルを外の世界におしやってしばしば拒絶する。その結果、子ザルが母ザルと接触して費やす時間の量は2か月後には急に減少していく。これは、探索しようとする子ザルの熱心さが増していくことと、子どもを揺すって保育していく母ザルの熱心さが減少することとの間の交互作用に基づくものである〉。〈子ザルの探索行動の発達は2か月目に入ると急速に増加しはじめてくる。子ザルは母ザルを基地として、無生物の遊具や生き物の遊び仲間を調べるために、遊び場に短時間侵入する。しかし、立腹刺激を与えると、子ザルは母親のもとへチョコチョコと走って戻ってくる。母ザルは子ザルにとって安全な基地となっているのであり、子ザルの恐怖反応が生じる時期では非常に重要な役割を果たしている。母ザルから隔離された3か月の子ザルが恐れると思われる刺激を、子ザルと母ザルが一緒にいるときに与えると、こんどは類似の恐怖反応は生じてこない〉という記述に、特段の興味をそそられた。(2014.3.12)
障害乳幼児の発達研究 (精神医学選書)障害乳幼児の発達研究 (精神医学選書)
(2008/10)
J. ヘルムート、 他

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「障害乳幼児の発達研究」抄読・《2》 子ザルの異常な社会的行動(2)

【Ⅱ 社会的ディプリペーション環境下の養育から生まれてくる異常行動】
・赤毛ザルの社会的発達に影響するパラメーターを調査するために、Wisconsinの研究室の実験者は、母ザルと仲間ザルの中で養育される環境を、体系的な代償と、この環境における社会的要素をとりのけることによって変えてきた。これらの研究の目的が異常行動パタンをつくりだすことではなかったけれども、ある社会的異常性というものが観察された。これらの異常性の関係を論ずるのがここでのねらいである。
《A 代用母ザルと仲間ザルの中での養育は後日どのような発達をとげるか》
・養育環境の1つの変容として、実の母ザルの代わりに布製の代用母ザルを用いた(Harlow 1958, HarlowとSuomi 1970c)。布製の代用母ザルのもとで育てられた子ザルも、すがりつき反応をするし、見知らぬ事態に対する恐怖反応も緩和されることがわかってきた(HarlowとZimmermann 1959)。代用母ザルと仲間ザルがいる環境で育てられたサルは、いくらか遅れるとはいえ、十分な社会的発達を示し、成熟するにつれて相対的に見て正常な社会的、性的、母性的行動を示すことがわかっている。Hansen(1966)、Rosenblum(1961)、HarlowとHarlow(1968)、SuomiとHarlow(1969)、HarlowとSuomi(1970c)らの研究の結論としては、代用母ザルと仲間ザルの中で育てられると行動異常はほとんど生じないが、ただ自分のからだに口で接触する反応は多くなり、また手足を用いて自分のからだを握りしめたり、定型的な揺すりを時折示した。このようなサルは成体になるまでに、社会的、性的、母性的行動の点では相対的にうかく発達してくるのである。
《B 仲間ザルだけがいる事態で育てられると後日の発達はどうなるか》
・この養育条件は“子ザル同士の共生”事態とよばれてきた。この共生群の成員数は2匹から6匹であるが、ある行動異常はグループの成員数とはかかわりなく生じてきた。子ザル同士で育っているサルはすぐに“汽車ポッポ”型として示されてきたような相互にすがりつくことを学習する。この型は、母ザルと仲間ザルの中で育ってきた子ザルよりも、もっと長くつづく。その要因として2つ考えられる。①すがりついている相手は、お互いに母ザルがするようなきびしさで子ザルを拒否しないから。②母ザルと仲間ザルがいる事態では、子ザルはしばしば探索しているため、腹部の母性的接触よりも他の仲間ザルの方へ誘惑される。子ザル同士の事態では、その集団の成員全員がお互いにすがりついているとすれば、探索行動をとっているものはいないのだから、その行動パタンを破る仲間は誰もいないからである。
・仲間同士で育つサルは、長い間すがりつき反応を示し、それに加えて過度に自分のからだに口で接触する反応を示し、移動や探索行動も異常に低い水準を示し、また遊びの行動や性的身構えの点でも遅滞している。彼らは最小のストレス事態に対しても過敏であるが、このことは社会環境の中で保護的な母性的事物が欠けているからである。
・しかし、仲間同士で育ったサルは、5か月頃からすがりつき反応をしなくなり、正常な遊びの型が生じてくる。遊びの頻数や強度は、母ザルと仲間ザルの中で育てられた同年配のサルと同じ水準までにはならない。攻撃的遊びはめったにあらわれない。自分のからだに口で接触する反応は成体になるまでつづくが、それは恐怖刺激に対する感受性や攻撃行動に欠けているからである。彼らはおくびょうである。性的行動は相対的にみて正常になってくるし、雌はよき母ザルになるのが普通である。
・要約すると、仲間同士で育ってきたサルにみられる多くの行動異常は、生後2年目の終わりまでには消えてなくなり、明らかに残っている行動異常としては、後の社会的、性的、母性的行動にいくらかの影響がある程度のものである。
《C 母ザルだけで育てると、後日どのような発達をとげるか》
・Alexander(1966)の研究によれば、以下のとおりである。
・母ザルに育てられた4匹の子ザルは最初の4か月間、仲間ザルと隔離された(A)が、一方つぎの4匹については最初の8か月間、母ザルとだけ交渉させてみた(B)。Aを、後に仲間と交渉させてみると、すぐに十分でしかも典型的なサルの遊びのパタンを示した。母ザルや仲間ザルと一緒に遊び場で育ったグループ(C)と比較すると、仲間との交渉や攻撃性の面ではいくらか低い水準を示したが、それを除いては社会的にも性的にも有能であった。Bもまた、Aと同じような結果であった。
・これらのサルは12か月のとき、母ザルと隔離された。
・2か月後にこれらのサルを生後6か月になる見知らぬサルと対面させてみると、Bはきわめて攻撃的な行動を示し、Aは普通程度の攻撃的行動を示し、Cはほとんど攻撃的行動を示さなかった。仲間ザルとのディプリペーションは、接触をしたがらなくなり、きわめて攻撃的なサルになり、ディプリペーションの期間が長いほどその徴候が大になってくるようである。
・AもBも、一般的に言えば、総体的にみると後日の社会的ならびに性的行動という面では異常はなかった。
*これまでの3つの養育事態では、いくつかの特殊な異常性を除いては、われわれが正常とよぶ限界内での遊びや性的行動、母性行動をつくりだしている。
*しかし、仲間ザルが存在するとか、母乳をもたない代用母ザルとはかかわりなく、実母ザルとの交渉を断ち切られたサルが、過度にしかも長い期間にわたって自分のからだに口で接触する反応を示すという一貫した結果を見捨てるわけにはいかない。
*仲間ザルとだけで育ったサルは、軽いストレスのかかった事態に対しても異常に反応し、一方母ザルとだけ育ったサルは社会的事態においては極めて攻撃的である。
*実母ザルまたは代用母ザルの存在は恐怖反応を子ザルの行動レパートリーへ統合していくことを促進し、一方仲間との交渉の機会は優性攻撃反応の社会化を促進する。
《D 部分的社会隔離の条件で育てると、後日どのような発達をとげるか》
・部分的社会隔離という養育条件がある。サルは裸針金製の檻の中で個別に育てられ、そこでは他の成員を見たり他の成員の発声を聞いたりはできるが、身体接触はできない場面である。そのような初期経験をすると、後日の発達はきわめて意味深いものになってくる(CrossとHarlow 1965)。
・部分的に隔離された赤ん坊ザルは、自分のからだをぴったりとくっつけ、自分の手足の指を吸う反応をする(すがりつき反射・吸啜反射)。これら2つのパタンは少なくとも最初の6か月間彼らの行動を支配している。これに対応して、移動したり探索することが少なく、その代わりに揺すったり檻の中でぶら下がるといったような反復的で定型的な行動パタンを示す。成長するにつれて攻撃反応をあらわすが、社会的な標的がいなくなると、自分自身に向かい自己攻撃を行う(CrossとHarlow 1965)。
・そのようなあからさまな異常行動パタンは(7歳を過ぎると)減少あるいは解消する。(CrossとHarlow 1965)。しかし、移動とか探索といったような適応的行動も成長するにつれて減少する。10歳になると、目覚めているときはほとんどいつもぼんやりと外を見て家庭檻の前部に坐ってばかりいる(Suomi, Harlowおよび Kimball 1971)。もし外部からの刺激作用をうけると、彼らはしばしば急に極端な自己攻撃や異様な定型的な活動をしだす(CrossとHarlow 1965)。
・部分的社会隔離の条件で生後1年間育てられたサルは、社会的、性的、母性的行動という面ではきわめて欠けている。社会的事態では、かれらはめったに他のサルとの間に交渉をもとうとしないが、そのかわり回避ならびに障害行動パタンをあらわすのが普通である(Pratt 1967,1969)。(社会的交渉の機会を与え続けていると)しまいには、ぎこちないやり方ではあるが遊びの活動のきざしを示す。彼らの性行動は無能である。欲望をもっていることはたしかだが、相手が慣れた構えで性行為を望んでも、身構えやテクニックは適切ではない。雌ザルのうち普通のやり方で妊娠した例はほとんどなく、雄の場合も同様である(Senko 1966)。妊娠して子を産み、母ザルになった場合、多くは自分の子に対して無関心であるか、残酷に虐待する。
*要約すると、部分的社会隔離条件での養育は、赤毛ザルの種に適切な行動の発達にきわめて重大な衰弱効果をもっている。サルがもっている社会的レパートリーは制限され、原始的なものであり、自分のからだに口で接触する、手足を用いて自分のからだを握りしめる、自己攻撃とか定型的行動などの異常行動を示すようになる。
《E 完全な社会隔離条件で育てると、後日どのような発達をとげるか》
・完全に社会隔離され育てられると、子ザルは身体的にも視覚的にもどの霊長類の種の成員とも接触を拒むようになり(Rowland 1964)、ある場合には聴覚的接触も拒むようになる(Sackett 1965)。
・生後3か月間完全に社会隔離されて育てられたサルは、その事態から脱け出すと、極端な抑うつ状態となる。しかし、もし社会的交渉をする機会が与えられると、その後正常な社会的発達をとげる(Boelkins 1963, GriffinとHarlow 1966)。
・生後6か月間以上社会隔離されて育てられると、その後激烈に一層破壊的な行動を示すようになってくる。遊び場に入れられても、ほとんど(普通に育てられた)他のサルと遊ぶということがなく、近寄らない(Rowland 1964, Harlow, Dodsworthおよび Harlow 1965)
・探索したり移動する行動が少なく、一層顕著で怪奇な行動を示す。すべて攻撃的行動をとるようになってくるが、自己に向けられた攻撃であるか、社会的事態においてその向け方が不適切な場合にいずれかである。赤ん坊ザルに対して攻撃したり、優越した成体の雄ザルに対して攻撃をかけたりする。(社会的になれっこになっているサルはやらない攻撃)
・性的には不適切であり、雌は母性的には無能力である。
*要約すると、完全な社会隔離はサルの適切な社会行動の発達に関して破壊的な永続効果をもっている。その有害効果は、隔離された期間に比例している。6か月間隔離されたサルは社会的順応がうまくいかず、1年間隔離されたサルは半動物的植物に過ぎず、自分自身をどの社会的事態においても防衛することができないように思われる(HarlowとHarlow 1968)。
*上記の研究ではっきりしてきたことは、初期における子ザルの社会的環境の性質は、後日の社会的発達におよぼす効果が大きいという点である。初期において母ザルまたは仲間ザルがいないと、微妙でしかも重大な変調をきたし、もしそうでなかったら正常な社会的発達をとげるのである。すべての社会的関係が否定されると、その後社会的発達は全くしかも永久的に衰えていく。
*子ザルの隔離操作が、出生時または生後まもなくはじめられると、それが年長になって操作されるよりも悪影響は少ないということは興味深いことである。生後6か月間社会的環境で育てられ、そして6か月間完全に社会隔離されてきたサルは、その後きわめて攻撃的な社会行動を示すが、それでもなおきちんとした遊びや適切な社会的刺激に対する性的反応を発展させうる(Clark 1968, MitchellとClark 1968)。一定の社会的環境に対してどのようにどれだけの期間当面していたかということが、その環境が特殊なサルの社会的発達におよぼす効果の決定因になってくる。

 以上が、【Ⅱ 社会的ディプリペーション環境下の養育から生まれてくる異常行動】の要約である。ディプリペーションとは「剥奪」というほどの意味だと思われるが、子ザルを実母ザルや仲間ザルから引き離して育てると、様々な「異常行動」をするようになる、という経過が「実証的に」述べられていて、たいそう興味深かった。その異常行動は、(隔離養育によって)本来の優性行動が保障されないために生じる。「反射行動」(すがりつき反射・吸啜反応)が阻害(剥奪)されると、自分のからだを抱きしめる、自分のからだに口で接触する。「社会的偏好」が阻害(剥奪)されると、集団から孤立する。「潜在的行動」(恐怖反応・攻撃反応)が阻害されると、探索や移動の激減、反復的で定型的な行動パタン(常同行動)、自己攻撃、性的行動不全、育児放棄などの徴候が顕著になる。これらの「異常行動」は、明らかに「隔離養育」という《環境要因》によって生じている。サルの事例をそのまま人間にあてはめることはできないにしても、母ザルや仲間ザルとの交渉を「剥奪」された子ザルの「異常行動」は、自閉症児の「異常行動」と「瓜二つ」であることに注目しなければならない、と私は思う。自分の手足で自分のからだを抱きしめる、自分のからだをいつも揺すっている、自分のからだを傷つける(自傷)、人見知りをしない、集団から孤立する等々、その「共通点」は明らかであろう。とりわけ、「自分のからだに口で接触する」行動は、人間の場合「指しゃぶり」と言われ、(母子接触を断たれれば)誰でもが行う「おなじみの」行為ではなかろうか。また、〈10歳になる部分的に隔離されたサルは目覚めているときはほとんどいつもぼんやりと外を見て家庭檻の前部に坐ってばかりいる。もし外部からの刺激作用をうけると、彼らはしばしば急に極端な自己攻撃や異様な定型的な活動をしだす〉という記述は、まさに「自閉症サル」といった様相で、少なくともサルという動物においては(隔離養育という)《環境要因》によって、自閉的症状が生じるという明確な証明である、と私は思った。(2014.3.15)
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「障害乳幼児の発達研究」・《「正常幼児と異常行動をもつ幼児の母ー子相互関係行動の比較(1)》

「障害乳幼児の発達研究」(J.ヘルムート編・岩本憲監訳・黎明書房・昭和50年)に収録されている論文「正常幼児と異常行動をもつ幼児の母ー子相互関係行動の比較」(ナーマンH.グリーンベルグ)を精読する。

Ⅰ はじめに
・この報告は、異常行動をもたない幼児と母親(M-CI)および異常行動をもつ幼児と母親(M-AI)の行動的相互交渉の研究に関するものである。情報資料は、録音面接のときの幼児についての話の際に得られた。その幼児被験者は、いつも、面接の際にそこにいて、その幼児と母親との交渉を観察者は観察記録することが可能であった。映写フィルムが、一連の場面での母子について作成され、そのフィルムも重要な情報源であった。
Ⅱ 初期の発達についてのいくつかの一般的概念
A 行動の分化と刺激作用
・われわれは、幼児の発達を、行動パターンと行動の分化の過程であらわれる機能を描き説明することで、あらわす。
・分化的、組織的行動の出現は、発達的進歩や適応水準の向上の証拠資料となる。
・発達的進歩や適応水準の向上の「過程」は、お世話(環境刺激作用、生物学的欲求の充足)、行動的混乱を統制すること、幼児をなだめるというような刺激作用によって強く影響されるだろう。
・発達が進行する上で重要なことは、幼児の側の「行動的可塑性」の向上、「刺激への耐性」、「行動の統制」であり、それらが、適応水準の向上の要因になる。
・内的(内臓の)、外的(身体的)刺激の特性と中枢的メカニズムの機能的使用は、中枢的な神経生理学的分化の程度と質、個性化、中枢的基盤の総合化、感覚閾の発達に影響する。分化の発達的過程は、刺激作用に影響されるから、発達初期の刺激作用の特徴の重要性は、適応の特性とその過程にさがし求められる。
B 刺激作用と母親の行動と幼児の発達
・制限された環境で飼育されている動物を使った研究で、インプット刺激の制限は、破壊的効果をもつし、また、知覚や学習や社会化のような機能を障害した。極端に特殊な行動に対する感受性を発達させる実験動物や、認知的、知覚的、社会的機能の発達に必要な行動の分化に失敗するような動物を育てる環境を計画することは比較的容易なことである。
貧弱な感覚的環境は、行動の発達を阻止し、生物学的発達を遅滞させ、中枢神経系の変容をもたらす。
・幼児の養育は、普通は母親によってなされ、母親は、特に子どもの世話と刺激作用の実際の行動面で、刺激作用の量と多様性に重大な影響をおよぼす。そのような努力の効果性は、吸乳器官・視覚的聴覚的組織・触覚・痛覚・圧覚・位置感覚・運動感覚のような、子どもの感覚運動的組織の要素と母親との相互関係に依存している。幼児ー母親の相互交渉における世話と刺激作用の特性と、子どもの感覚運動器官の機能的使用は、行動分化や組織化の特性に大きく影響をおよぼすし、また、感覚閾を高め、初期の適応的発達を高める。
・要するに、母親の行動は、以下の刺激作用の使用を通して、幼児への刺激作用の重要な要素である。
1.幼児が受ける特殊な刺激の選択。(感覚的環境の形成)
2.分化を促進、維持し、神経感覚的、神経運動的器官の機能的統合を支える。
3.感覚閾を上げ、下げすることによる;
4.行動的状態を変え、興奮状態を統制し、注意深い機敏な行動を養うこと。
5.特殊な世話の方法を実行すること。
・生来の神経欠陥をもたないか、他の重大な出産異常を伴わない幼児の異常行動の出現は、発達の崩壊の証拠と考えられ、また不適な、不十分な、誤った、あるいは極端な虐待的な育て方と刺激作用の結果の証拠と考えられる。乳児と幼児の世話やしつけやその他の刺激作用のそのような障害の結果は、誤った発達、ストレスに対する弱さ、認知的、感覚運動的、社会的、情緒的機能における異常性の発現の大きな可能性を示す幼児の異常な、特殊な行動の出現から知られる。異常行動は、授乳と排便の障害、周期的な多動性、多様な固執的習慣、行動の混乱状態の頻発、行動の主要な領域の誤った、あるいは遅滞した発達を含んでいる。特殊な変化は、吸乳行動と運動パタンと、身体的、感覚運動的、社会的、適応的発達において生じる。
・以前の研究(Greenberg 1970)は、次の4つの異常行動群を示した。
1.失敗ー成功症候:体重増加の低い率、遅滞と悪習
2.鉛中毒による異食症
3.身体ゆすりや頭たたきのような型式化された多動徴候
4.一般的な異常性の徴候

《注》
・ここまでは、この論文の「前置き」(初期の発達についての一般的概念)である。要するに、母親は「子どもの世話」と「刺激作用の実際の行動面」で、重大な影響をおよぼす、ということであり、実験動物の例と同様に「インプット刺激の制限は破壊的な効果をもつし、知覚や学習、社会化のような機能を障害する」のではないか、という仮説である。
・その破壊的な効果、障害の例として、筆者は「身体ゆすりや頭たたきのような型式化された多動徴候」を挙げていることは、大変興味深かった。「自閉症」の「常同行動「自傷行為」に酷似しているからである。
・さしあたっての私の関心は、(「自閉症」という)異常行動をもつ幼児の「母ー子相互関係行動」は、正常幼児の「母ー子相互関係行動」とどのように異なるか、その異なる原因は何なのか、という一点に絞られている。期待をもって、以下を読み進めたい。(2014.6.6)
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「障害乳幼児の発達研究」・《「正常幼児と異常行動をもつ幼児の母ー子相互関係行動の比較(2)》

Ⅲ 親子関係に関する批判と幼児ー母親相互交渉の研究
A はじめに
・環境は、児童期の精神的、社会的、情緒的発達に影響するという概括的な仮定は、発達に及ぼす大切な環境要因は、親のパーソナリティと行動の間に見出されるという考えの基礎になる。また、両親の影響は、発達の初期と、母親との接触が主である幼児期において大きいと、一般的に信じられている。
・これらの考えに従うと、母親の行動は、初期の発達のコースを変容させるので、特に人生の最初の期間にある幼児の発達の環境的影響の研究は、普通、幼児ー母親あるいは幼児ー母親代理者関係の調査を含む。そのような概括的な仮定は、一般的な公理を与え、家族間、両親ー子ども、幼児ー母親の相互交渉の研究を必要とするが、これらは、研究計画に必要な詳細な概念化を欠いている。
B 幼児ー母親の相互交渉の直接的研究
・親子関係についてのほとんどの研究の目的は、子どもの行動と発達における親の行動の影響について知ることにあった。相互交渉についての直接的研究は、多様な状況で行われる観察を記録する項目見本法ですすめられた。自然的観察は、要約した叙述、詳細な物語、逸話、印象などの形態で記録されるか、いろいろな尺度が引き出されるプロトコルを利用して行われた。
・他の研究では、観察中あるいはその直後に、親と子どもの行動の相互交渉の特殊な系列や交渉内容を、予め選定したカテゴリーで評定した(Hattfield, Ferguson & Alpert 1967, Baumrind 1967)。相互交渉の系列は、時間見本法による観察により研究された、(Zunich 1962)。最近、相互交渉の継続的な記録は、重要な尺度を与えてくれる電子工学的監視装置により可能になってきた(Matarazzo, Saslow & Matarazzo, 1956)。
C 幼児ー母親の相互交渉の間接的研究
・幼児ー母親の相互交渉、親としての動機や特性や態度、最近の習慣、子どもを育てる上での日課(きまり)を知るために、訪問面接と質問項目が用いられた。
・親の行動と発達に関する多くの研究は、質問法、面接法、回顧的資料に依存している(Freeberg & Payne 1967)。しかし、それらの報告は、はなはだ主観的であると考えられている(Kogan & Wimberger 1966)。回想的研究において、その幼児の年齢を低く評価しがちであるというようなずれが生じやすい(Haggard, Brekstad & Skard 1960)。
・これらの方法は、子どもの初期の発達上の母親の刺激、しつけや世話の影響について知るために行われる研究に、実質的に広範囲に利用されているが、まだわずかのことしかわかっていない。
D 方法論的問題(欠点)
・第1に、母親のどの行動が幼児の発達のどの側面に影響するかについて注意深く明確化し、論理的に公式化し、明細化した概念化が欠如している。
・第2に、2組の資料が与えられたら、たいての研究者は、その共通の概念を報告することができないか、1組の親と幼児の資料を結びつける概念化を行うことができないだろう。そのような公理化、推論が準備されるべきである。
・第3に、標本上の困難な問題があった。被験者として母親を募集する手続きは適切であったか、研究者は被験者の自己報告以外に被験者のことを知らない、代表的と考えられる同一の状況のもとで観察されたかどうか、など。
・また、技術的、手続き的観点からも、観察者にはきびしい限界がある。“意味のある”特殊な、重要な出来事を明確に確認、承認することは、(一般的な尺度がなければ)「評価者間で一致させる」ことは困難である。
・要するに、幼児と母親の相互交渉の研究を可能にするためには、以下の問題が解決されなければならない。
1.観察可能な幼児ー母親の行動的相互交渉の選択を導く初期の発達理論は何か。
2.評価法は、初期発達の概念に関連している相互交渉の情報を得るか。
3.相互交渉の変数は、実際の身体的な母親の行為、行動の記述を含んでいる経験的な観察可能なものとして述べられているか、非経験的変数は、抽象概念として認識されるか、幼児ー母親の相互交渉の変数は、解釈や主観を要する叙述を含んでいたか、あるいはそれが経験的な叙述に近いか。

《注》
・この章では、「幼児ー母親の相互交渉」をテーマとする研究の「ねらい」「意味」と、先行研究に対する批判、また「方法論」上の困難点などについて述べられている(ような気がする)が、翻訳文体のため、その真意は判然としなかった。
・いずれにせよ、「幼児ー母親の相互交渉」は。「育児」上の問題であり、それを「科学的」に究明しようとするためには、多くの困難が「待ち受けている」に違いない。それらを、筆者らがどのように「乗り超えよう」とするのか、興味津々である。期待を持って、次章を読み進めたい。(2014.6.7)
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「障害乳幼児の発達研究」・《「正常幼児と異常行動をもつ幼児の母ー子相互関係行動の比較(3)》

Ⅳ 方法
A 被験者
1.選択
・母親と幼児被験者は、Illnois大学病院の小児科部門から得られた。被験者は、次のような基準に基づいて対象にされた。
ⅰ. 年齢:30カ月未満
ⅱ. 異常行動:異常行動のリストにあげられた1つ以上の異常状態。
《幼児の異常行動》(リスト)
Ⅰa 哺乳と胃腸系の異常、排泄の障害、身体運動の律動性(常同性)
1b 習慣形成の障害(睡眠障害、くせ)、行動面の誇張表現または興奮
Ⅰc 情緒表出の障害、異常な発達的パタン、初期の事物との関係の障害(回避反応など)、他の身体的(内臓的)障害(皮膚病、呼吸病など)
ⅲ. 身体的健康:生来の中枢的欠陥と他のひどい出産異常を含む大きな障害がないこと。ⅳ. 病院歴:2週間以上の入院の経験がないこと
ⅴ. 母親分離:2週間以上の母親との分離経験がないこと。

・統制群は、ⅱ項(異常行動)を除いて、上記のすべての基準を満たしている16名の男児であった。かれらの母親は、社会経済的に、また夫婦の要因について、異常幼児群の母親と一致させられた。そのうち13名が普通の層であった。
2.標本の大きさ
・45名の異常幼児と16名の普通幼児が扱われた。それぞれの幼児ー母親対は、以下のような資料収集法に基づいて研究された。設定場面での幼児ー母親相互交渉の映写は、11の普通幼児ー母親対(M-CI)と11の異常幼児ー母親対(M-AI)についてなされた。
3.標本の他の特性
・統制群の幼児の母親の学歴がいくらか高く、兄弟の数が少なかった。
・子どもの平均年齢は、13.5カ月であった。
・異常幼児群の出産時平均体重は、6.9ポンド(25パーセンタイル)、研究開始児16.3ポンド(1パーセンタイル)であった。異常行動の幼児群には、(1年後)ひどい発達上の問題があった。
B 資料収集の方法
1.各幼児について
a. 医学的資料:身体的成長についての情報、出産前、出産時および小児科資料のすべて。
b. 幼児の行動目録(IBI):異常行動の特殊な型を見つけ、記録、追跡し、行動の型や結合を決めるために計画された質問項目
2.母親の態度とパーソナリティ
a. 臨床的面接:母親の生育歴や家族の様子、パーソナリティ、態度などについて客観的評価が可能な資料を得るための、録音面接。
b. 投影法:ロールシャッハテスト、TAT、人物画テストが実施された。この資料は、母親の動機づけや人格構造について評価するために用いられる。
c. 個人歴質問項目(両親についての情報 FormⅡ):母親は、自己、家族、医学的資料、教育、興味、職歴を含むいろいろな面についての100項目以上の質問項目票(自己評価による)に答える。
d. 親ー子関係(PCR)質問票
3.母親の行動の評価
a. 母親の行動についての逸話的記述:面接の際、母親から聞いた母親と幼児との相互交渉についての記述。
b. 幼児ー母親相互交渉の逸話的記述:面接の際、別の観察者により観察され、記録されるような・・・。
c. 一定場面での幼児ー母親相互交渉の映写記録
 ⅰ. 指示されない自発的な相互交渉、10分間
 ⅱ. 母親による幼児の授乳、10分間
 ⅲ. 2人に他人が加わる、5分間
 ⅳ. 母親が部屋を出て、知らない人が幼児と一緒になる、5分間
 ⅴ. 知らない人が部屋を去り、幼児が1人になる、5分間
 ⅵ. 母親が帰室して、再開する、5分間

Ⅴ 母親の態度
・母親の態度の比較は、個人歴質問票(FormⅡ)による資料の検討によって行われた。その結果は、次のように要約される。
A 妊娠に対する態度と適応
・妊娠中、異常幼児の母親は、多くのからだの不調をもち、軽い徴候をもったものは少なく、重い徴候をもっていた(P<0,01)。1例を除いて、これらの母親の妊娠は計画的なものではなかった。彼女らはすべて、不幸な妊娠をなげき、ある母親は、自分の子どもの障害の罪を妊娠のせいにした。
B 幼児の問題の認識とその幼児についての意識
・普通幼児群の母親は、自分の子どもの問題よりよく知っているように思われた(P<0.02)。異常幼児の母親は、自分の子どもの将来について、おどろくほど現実的でない話をした。2歳の女児は、全く無視され、歩行もできなくて、面接の間、床の上をはい回っており、母親から全く注意を向けてもらえなかった。その母親は、次のように言った。「よくわかりません。この子は、私たちが非常に可愛がるので、ひどく自己中心的な子どもなのかもしれません」
C 母親の役割
・普通幼児の母親の多くは、満足を与えるものとして、その子ども自身を必要としていたのに(P<0.01)、異常幼児の母親は、満足を与えるものとして、活動に注意を向けていた(P<0.05)
・異常幼児群の母親のかなりのものが、母親としての関心事の面で矛盾しており(P<0.02)、普通幼児の母親よりも、彼女らの関心は、現在に向けられていた(P<0.05)。両群の同じ割合のものが、もう子どもを欲しなかった。
・異常幼児群の母親の大部分は、彼女らの家族の成員は若いものが多く(P<0.05)、そして多分、小さい子どものお世話の機会が少ししかなかった。これらの母親は、普通幼児の母親より、小さい子どもをもち、したがって、自分の子どもについての世話の経験が少なく、実際には、子どもの世話をしなければならないことが多かった。子どもの世話の経験の欠如と未熟な年齢、たくさんの小さい子どもがいるためのひどい忙しさなどの結合が、異常幼児群の母親の「母親としての満足感」を阻害しているかもしれない。
D 家族の役割の認識
・普通幼児群の多くの母親は、父親は家族に情緒的に結びついているとみており(P<0.05)、そして彼女ら自身の第Ⅰの機能は、子どもに愛情を注ぐことであるとし(P<0.01)
、また夫と妻が愛情で結ばれていた。異常幼児群の半分より少ない母親は、夫婦間の結びつきは愛情であることをわかっていた。そして彼女らの多くは、夫と父親としての役割間、また妻と母親としての役割間の区別をあまりしていなかった。

《注》
 ここまでは、著者らが行った研究の「方法」と、結果の一部(母親の態度)について述べられている。「方法」は、42名の異常幼児と16名の普通幼児および両群の母親を「被験者」として選出し、両群の資料(幼児の医学的資料、行動目録、母親との面接記録、投影法、個人歴質問項目、親ー子関係質問票、逸話記述、幼児ー母親相互交渉の映写記録など)を比較検討するというものである。
その結果、「母親との面接記録」「個人歴質問票」を検討した内容が「Ⅴ 母親の態度」であろう。それを、私なりに要約すると以下の通りである。
①異常幼児群の母親は、妊娠中に「何らかのトラブル」(身体的・心理的不調の徴候)があり、その「不幸な妊娠」をなげいていた。
②異常幼児群の母親は、自分の子どもの問題を、よく「知らなかった」。子どもの状態を理解していなかった。
③「普通幼児群の母親の多くは、満足を与えるものとして、その子ども自身を必要としていたのに、異常幼児群の母親は、満足を与えるものとして、活動に注意を向けていた」。「普通幼児の母親よりも、彼女らの関心は、現在に向けられていた」。
④異常幼児群の母親には、子どもの世話の経験の欠如、未熟な年齢、ひどい忙しさなどの結合がめだち、それらが母親としての満足感を阻害しているかもしれない。
⑤普通幼児群の母親は、子どもに愛情を注ぐことが「第1の機能」(役割)であることを自覚し、夫と妻が愛情で結ばれていたが、異常幼児群でそのような母親は「半分より少なく」、多くは、夫、父親、妻、母親の「役割間の区別」があいまいであった。
 以上で、③の一節は、翻訳文体のためか、判然としなかった。私なりに解釈すれば、普通幼児群の母親の多くは、子ども自身の存在、成長を「生きがい」と感じていたが、障害幼児群の母親は、子どもの「問題行動」ばかりが目につき、それが少しでも改善されるような「活動」が現れたとき、はじめて「生きがい」を感じられるようになる。また、したがって、子どもの「現在」の一挙一動(だけに)に関心が(限られて)向けられている。・・・ということになるのだが、はたしてその解釈が正しいかどうかはわからない。 
 いずれにせよ、さしあたって私の関心事は「母親のどの行動が幼児の発達のどの側面に影響するかについて注意深く明確化し、論理的に公式化し、明細化した概念化が欠如している」といった先行研究への著者らの批判(方法論的問題)が、この研究でどのように克服されているかの一点にある。期待をもって読み進めたい。(2014。6.12)
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「障害乳幼児の発達研究」・《「正常幼児と異常行動をもつ幼児の母ー子相互関係行動の比較(4)》

Ⅵ 母親の行動と幼児ー母親の相互交渉《録音面接の際の母親の叙述とそのときの幼児ー母親相互交渉についての観察者による逸話記録に基づいた研究》
A はじめに
・録音面接時の母親の叙述は、面接時の観察者による幼児ー母親相互交渉の描写と比較された。それによって、一致を示した相互交渉が、この研究の知見として報告された。
B 特殊な感覚運動的様相と行動的状態を伴う母親の相互交渉
1 理論的基礎
・幼児の感覚運動のメカニズムは、行動の状態を統制するのに、母親により利用される。そのメカニズムは、授乳、おしゃぶり、抱くこと、運動、笑いをさそいかける音と、視覚的刺激作用などを含んでいる。行動の状態を統制するのに使われる多様な幼児と母親の感覚運動的相互交渉の観察は、興奮の増加と減少の面から幼児の出来事を記述することができる。
・母親ー幼児の均衡は、刺激作用となだめることの特殊なメカニズムにより作用する2つの系から考えることができる。これらの行動状態は、母親の違いにより、異なる反応がみられる。初期の精神構造は比較的単純であるため、これらの相互交渉は、観察可能な幼児と母親の感覚運動的相互交渉から得ることができる。
2 逸話的(面接)資料の使用
・臨床面接の1つの目的は、子どもがもっと小さかった頃の母親の様子について質問し、その頃のお世話行動、刺激パタン、母親と赤ん坊との特殊な(普通でない)相互交渉について、母親から資料を得ることにある。
・この研究で、母親の叙述は、幼児との相互交渉の特徴的なパタンについて知るために使われる。この種の情報は、十分な信頼性があるように思われる。
C 幼児ー母親相互交渉の感覚運動的パタン:子どもの世話の面でのこれらの使用の評価
・幼児ー母親交渉の6つのパタン(焦点)が、異常幼児群の16名の母親と普通幼児群のの16名について比較された。そのカテゴリーは、次のようなものである。
1.新生児の母親のすべての反応(授乳を含む)
2.幼児の泣き声に対する母親の最初の反応とその後の反応
3.あやすこととフラストレーション
4.抱くこと
5.ゴム乳首のようなおしゃぶりの利用
6.幼児との遊びと幼児のすべての楽しみ
D 新生児期の母親のすべての反応
1 最初の出産
・各群16名のうち8名のものが第1子であった。両群の母親は、強い心配、不安定感、無力感、不足感を経験した。泣き叫ぶ子をうまくなだめること、授乳に熟達すること、脆弱な子どもを扱うことの不安定に集中していた。
・8名の異常幼児の母親のうち7名のものが、このような反応を長い期間(3~7カ月)続けていた(普通幼児の母親は2,3日~2,3週間)。
・普通幼児の母親は、幼児から全面的に手を引くことに苦悩を感じ、幼児の世話を他の大人に代えること、泣くのをなだめるのにおしゃぶりを利用すること、授乳以外のときに抱くことが比較的少ないことを示した。
・異常幼児の母親は、生後の最初の1カ月の間における多くの苦悩を示し、子どもの泣き声を統制することに専念していた。そのために、子どもはよく抱き上げられた。
2 2番目の出産
・両群の各8名の幼児のうち各7名は、2人兄弟の2番目である。悩みの期間と不十分さの感情は、一時的であり、普通児群の母親にはそれがみられないこともあった。異常児群の母親は、本質的には、初産についての記述と同じ反応を報告した。
E. 授乳
・異常幼児群の授乳上の障害が、普通幼児群より、多く見られた。異常幼児の母親は、いつも、嘔吐、もどし、拒食、口中保持、弱い吸乳、反すうなどの摂食障害に直面していた。母親は余分な努力を強いられていた、
・異常幼児は、出生後3カ月の体重増加率の遅れが明白だった。
・普通幼児の母親は、おとなしくさせるために授乳と乳房などを吸わせることを利用した。おしゃぶりは、早くから与えられ、よく利用された。
・異常幼児群の母親は、子どもをなだめるために、授乳することは(摂食上の障害がある
ので)気がすすまなかった。
F. 幼児の泣き叫びに対する母親の最初の頃とその後の反応
・両群の母親は、幼児の泣き叫びに対処することの最初の失敗、無力感、不十分感など「共通」していたが、普通幼児群の母親は、(しだいに)余裕ができてきた。泣き叫ぶ原因を軽減するために、おしゃぶりを与えたりした。
・異常幼児群の母親は2つの異なった反応の型を示した。その1は、いつも子どもをなだめ、静かにさせるタイプであり、その方法は、長い時間抱いていることであった。その2は、泣き叫びに対し無関心と放置で対応した。これらの母親は、子どもを打つようになり、7カ月頃から回数も増加した。2人の母親は、赤ん坊が2、3カ月の頃、すでに打っていた。
・異常幼児群の母親は、しばしば、自分の怒りのコントロールを失っていた。
G. あやし静めること欲求不満
・子どもの泣き叫びは、2つの意味をもつ。「苦痛のサイン」と「満足の要求」である。・普通幼児群の母親は、あやしたりなだめたりすることに意識的葛藤(いつもあやされていると、赤ん坊はそれを期待し、要求するようになり、子どもをスポイルするのではないか)を示した。しかし「いつも満足させることは悪い」という自分の考えを実行してはいなかった。」 
・異常幼児群の母親の1つのグループは、泣き叫びを欲求不満のあらわれとして受けとっていないように思われた。泣き叫びは、その子どもがもはやどうしようもなくなったときにひどくなった。もう1つのグループは、「はやく強い子にする」「子どもの要求を無視する」という意識を抱くに従って、「何も感じない」か「無関心」かであった。
H. 抱くこと
・両群の母親とも、“抱くこと”に対して「否定的」であった。子どもに要求ぐせをつけ、わがままにして子どもをスポイルするというのである。
・しかし、実際の行動面では、両群の母親は異なっていた。普通幼児の母親は、遊びと授乳の間に抱いていたが、抱く時間の長さを考えて抱いていた。異常幼児の母親は、多くの時間を抱くことに費やし、料理や洗濯をするときさえ、泣き叫びを防ぐため抱いていた。I.II
I. おしゃぶりの使用
・哺乳びんとおしゃぶりが、普通幼児群の多くの母親に利用された。おしゃぶりは、子どもを抱くことの代わりになった。子どもと一緒に遊び、子どもをよく世話する母親は、おしゃぶりの利用回数が少なかった、
・おしゃぶりは、異常幼児群の母親では、まれにしか使われなかった。
J. 幼児との遊びと全体的楽しみ
・普通幼児群の母親は、幼児との楽しみと家族的参加について自発的な説明を示した。(抱くこと、ほほ笑みかけ、遊び、おしゃべりなど)このことは、異常幼児群の母親にはみられなかった。普通幼児群の母親は、授乳は楽しいと話したのに対し、異常児群の母親は、苦しい試練であると報告した。
・遊び、ほほ笑みかけ、話しかけが、普通幼児群の母親の働きかけの顕著な特徴であった。話しかけや母親の存在は、いらいらしがちな赤ん坊をなだめることになると考えた。赤ん坊のいらいらは、やさしく接してもらうことを求めており、赤ん坊が泣きさわいでいるとき、求めているのは、そばに母親がいること、話しかけることであり、遊びや抱くことを要求しているのだという見解が、普通幼児群の母親の共通のものであった。これらの態度と行動は、子どもが安静になることと、ほほえみ反応によって、いっそう強化された。赤ん坊の安静(ご機嫌)を維持するための方法として、音の出るものと見るものが重視された。
・異常幼児群の母親は、(自発的にも、質問されても)話しかけや、歌ってやることや、赤ん坊にふざけ、刺激することなどを想起しなかった。
 
《注》
 ここでは、「母親の行動と幼児ー母親の相互交渉」の《実態》が、普通幼児群の母親と異常幼児群の母親ではどのように異なるか、について述べられている。その内容を、かいつまんで要約すると、以下の通りである。
1 子どもが第1子の場合、両群の母親は、ともに強い心配、不安定感、無力感、不足感を経験したが、普通幼児群の母親では、それが早くて2,3日、長くて2,3週間で「解消」したのに、異常幼児群の母親は3~7カ月間「継続」した。
2 異常幼児群の授乳上の障害(摂食障害)が、普通幼児群より、多く見られた。その結果、異常幼児群の母親は、子どもをなだめるために「授乳」することは、気がすすまなかった。
3 幼児の泣き叫びに対して、両群の母親は、ともに恐々として無力感、不十分感を感じたが、普通幼児群の母親は、「泣き叫びの性質について考えるように」なり、余裕が出てきたが、異常幼児群の母親は、ただひたすら「抱き続ける」か、「無関心と放置」するか、であった。さらに、「打つ」ことも加わり、その回数が増えていくこともあった。母親自身が「自分の怒り」をコントロールできなくなっていた。
4 普通幼児群の母親は、子どもをあやすことを(わがままになりはしないかと思いつつも)繰り返し続けたが、異常幼児群の母親は、「はやくく強い子どもにする」「子どもの要求を無視する」という意識で、あやすことについて何も感じないか、無関心かであった。
5 普通幼児の母親は、遊びと授乳の間に、抱く時間の長さを考えて抱いていたが、異常幼児群の母親は、泣き叫びを防ぐために多くの時間抱いていた。
6 普通幼児群の多くの母親は、哺乳びんとおしゃぶりを利用したが、おしゃぶりは、異常幼児群の母親ではまれにしか使われなかった。
7 普通幼児群の母親は、授乳や子どもとの遊びが楽しいと話したのに対し、異常幼児群の母親は「授乳は苦しい試練」であり、子どもと遊ぶ楽しさ(ほほ笑みかけ、話しかけ、歌いかけ、おしゃべりなど)を思い起こすことができなかった。
 以上で、私には次のような疑問が生じた。
①出産直後の母親の「心配」「不安」は《皆同じ》である。しかし、それが「まもなく解消に向かう」ケースと「長期間継続または増大する」ケースに分かれるのは、どうしてか。泣き叫ぶ子どもの方に原因があるのか、それとも、泣き叫ぶ原因を究明できない母親の方に原因があるのか。  
②普通幼児群の母親に比べて、異常幼児群の母親が子どもを「抱く」回数・時間が多い。にもかかわらず、子どもが「安定」しないのはなぜか。
③異常幼児群の母親の中に「はやく強い子にする」「子どもの要求を無視する」という育児観が感じられるが、その育児観が子どもを「異常」にしてしまうおそれはないか。いずれにせよ、母親が(子どもの現状とかかわりなく)「幼児との相互交渉」を楽しんでいるか、苦しい試練と感じているか、が子どもの成長・発達に大きな影響を及ぼしていることはたしかなようである。。(2014.6.17)

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「障害乳幼児の発達研究」・《「正常幼児と異常行動をもつ幼児の母ー子相互関係行動の比較(5)》

Ⅶ 幼児ー母親の相互交渉の型と刺激の特性《映写観察を使用したセット場面での行動的相互交渉の評価》
A 背景
・(幼児ー母親の相互交渉を「映写観察」〈その記録を分析〉することにより)、刺激パタン、刺激の数や多様性、回数・強さで示される刺激の量、刺激時間の評価が容易にできるようになった。映写観察は、評価者間の信頼性を高め、回顧と再検査ができ、また観察の正確さと精密さを向上させる。
B 映写フィルムのプロトコル(手順)
・母親は、来所する1時間前から子どもに授乳しないように、また哺乳びんか食べ物を持ってくるように頼まれた。映写観察のため特別な部屋が設けられ、それは普通の居室と違いすぎないような部屋であった。
・ズームレンズ式の16㎜シングルシステムの音声記録可能なカメラが専門家により操作されて。一方視の観察窓から撮影された。映写の長さは、普通、40分間続けて観察された。
C 幼児ー母親相互交渉のパタン:物語的記述
1.はじめに
・映写フィルムは、何回もくりかえし見られ、幼児ー母親対の行動が注意深く観察された。各々のフィルムは反復して観察され、詳細な叙述が2人の観察者によりなされた。その叙述は、さらに同一フィルムの観察によってチェックされ、修正された。
2.間接的な幼児ー母親相互交渉の系列
a 遊び
・両群の母親は、10分間、部屋の中でのいろいろな玩具、人形に依存する傾向があったが、遊びの相互交渉の質は、明らかに差異があった。
・普通児群の遊びは、組織化され、母親は実際的で、いくつかの遊具は見慣れないものであったが、遊びそのものはそうではなかった。母親は、機嫌よく「おしゃべり」、その他の音声表現を行い、赤ん坊に注意を向け、その場面のおもしろさを維持していた。
・異常幼児の母親は「非常にせわしい」「無為的」「非社交的」などと記述された。少数の母親には、元気のいい活動と静かな冷淡さが交錯してみられた。4名の母親は、映写の最初の10分間に全く無為で非応答的であった。その他の母親は、偶然的で、無定見で、あまり組織化されない貧弱な遊びで時間を過ごした。玩具や人形が選び取られることはなく、その代わり、「はやくやり返し」「忙しそう」にしていた。注意は1つのことから別のことへ「はやく変わり」「持続せず」、次々に変化して行った。
b 顔の表情と他の表現行動
・異常幼児群の母親の表現は、しばしば、ステレオタイプで固いと記述された。2名の母親は、極度に仮面的な表情で、空虚な顔をしていて、決して笑わなかった。母親の声は、通常やわらかで、ときには聞こえないくらいで、単調であった。表情の乏しい状態が、怒りが赤ん坊に向けられているとき、一時的に高められた。
・彼女らの大きい身体運動は抑制され、活気ある活動は見られなかった。偶発的な強い表現は、たとえば“ダメダメ”“悪い子”“馬鹿になったんじゃないの”というような単語や句で、直接赤ん坊に向けられた。これらの母親は、多くの小運動に終始した。小さい物を手でせわしくもてあそぶこと、爪かみ、唇ならしが頻発した。
c 刺激作用のある特質
・異常幼児群の7名の母親の特徴は、明白な反復的な身体的な過度の刺激作用であった。軽い平手打ち、ふざけてかむこと、やさしく打つこと、玩具で赤ん坊のからだを強くなでること、あらあらしくなでること、しっかりつかむこと、つつくこと、ちょっとかむことを含み、幼児の身体のいろいろな部分をなでまわして、多くの時間が過ごされた。
3.授乳
・年長の異常幼児は、母親からの刺激作用によって「かまわれすぎている」ように思われた。以下はその事例。
ⅰ 母親が赤ん坊にポテトチップを与える。母親と赤ん坊はいくつかのチップをつかみ出して、それを持っている。母親は1つ与え、幼児はそれを食べる。母親はバッグからチップを取り出すようにうるさくいうが、赤ん坊が手の届くところからバッグを遠ざける。そして再び赤ん坊をからかう。
ⅱ 赤ん坊は哺乳びんを与えられ、それを口に持っていきそして吸う。母親は赤ん坊をあやし、そして哺乳びんをとりあげ、哺乳びんにキッスし、それからそれを戻す。母親はそれをとりあげ、吸う音を大きく出して、哺乳びんを口にくわえる。
ⅲ 赤ん坊は、母親に抱かれている間吸うためのミルクびんを与えられる。母親は、それを取り上げ、次に再び口に入れてやり、また取り上げて、そしてまた赤ん坊の口に戻してやる。このことが6,7回もくりかえされる。赤ん坊は、びんを吸い続け、母親は、赤ん坊がミルクびんを吸い続けている間中、赤ん坊のおむつをとりかえている。
4.未知の人、分離、再会の系列
・普通幼児6名と異常幼児7名の年齢は、9カ月異常であった。普通幼児の全部が、不安な様子で未知の人の出現に反応し、母親にすがった。母親が部屋から離れると、全部が泣き出し、5分間の母子分離の間、泣き続けた。母親が帰室すると泣くのが弱まり、あるいは泣きやんだ。
・異常幼児の反応は一様ではなく、無反応、引きこもり、回避行動、身体ゆすり、普通の泣き方、母親がいない間中、悲鳴をあげてのひどい泣き方などを含んでいた。また、いろいろの反応が生じた。最も悲嘆していた子どもは、助けを求めた。母親がいなくなっても反応しなかった2名のものは、母親が帰室しても同じ様子であった。また、母親が去ったとき始めた身体ゆすりは、母親の帰室でやんだ。
D 幼児ー母親相互交渉のパタン:母親の刺激作用の特性
1.刺激作用の変数
・母親の刺激作用の質的・量的側面を特徴づけるために、一連の10個の記述が選定された。10個の記述は、4つの感覚的様相のカテゴリーに含まれた。〈表Ⅱ〉
*表Ⅱ 母親刺激作用の変数
a)身体運動的
1.母親が幼児をもてあそぶ。赤ん坊の身体的位置が変わる。高い高いなど。
2.母親が赤ん坊の手足や頭をもてあそぶ。(位置は変化しない)
b)触覚的
3.母親がゆり動かし、キッス、くすぐり、自分の身体部分か事物で可愛がる。
4.母親が幼児の手に物をおくか、幼児が母親が持ってきた事物に手を出し、ふれる・
5.母親が幼児の口の中に哺乳びんかおしゃぶりを入れる。
6.母親が世話をする。衣服の着脱、口を拭く、髪をきれいにする、鼻や耳をほじる。
c)聴覚的
7.母親が幼児に声をかける。話しかけ、合図、はやす。
8.母親が音を出す道具を使う。ガラガラ、ミュージックボックス、ラジオなど。
d)視覚的
9.母親が「惹きつけられる」「目で追う」事物を見せる。
10. 母親がしかめ面をする」。幼児の模倣をする。幼児に笑いかける。視線を合わせ続ける。
2.映写フィルムの評価手続きとその装置
a)評価手続
・各映写フィルムについて、10個の母親の刺激作用変数と6個の幼児の行動状態が、3つの刺激表示ボックスの使用によって連続的に評価され、記録された。
・各ボックスは、母親の刺激作用の4つの種類に応じて押せる4つのボタンを備えている。各ボタンの上方に、12のタイプの母親の刺激作用が選択できるつまみスイッチがつけられている。6名の訓練を受けた評定者のうち3名が、各フィルムの評定を依頼された。1つの行動が観察されたとき、対応するボタンが押され、行動が続いている間、そのまま1onの状態におかれる。3つの群(刺激1~4,5~8,9~12)のそれぞれのボタンからの電気信号が、以下のような値をもつ合成的信号を生じるように2進法値を使って、おくられた。
1X(E1)+2X(E2)+4X(E3)+8X(E4)
Ep=0(刺激がないとき)
Ep=1(刺激があるとき)
p=1~4 ; 5~8 ; 9~12
 合成的信号値は、0(刺激なし)から15(4つの刺激が全部みられるとき)まであることが理解されよう。ボックスの1つは、子どもの6つの水準の行動状態を示すため、6個のボタンをもっている。
b. 同時記録
・3つの合成的刺激と行動状態の信号は、4チャンネルの視覚的記録をするためBeckman
Dynagraph記録用紙に送られる。補助的記録は、Precision Instrument FM磁気テープレコーダーを使ってなされた。
c. 計数記録
・4つの信号は、1秒間に10スカンの割で、Raytheon加算装置で計数された。その結果の数値は、Precision Instrument加算テープ記録機によって磁気式計算テープに記録され、次に、高速度計算作業のために磁気式レコード円盤に記録された。
d. 評価者間の信頼性
・評定者間の信頼度は2つのやり方で測定された。第1は、10個の母親変数が記録されてる全時間についての比較である。ピアソンの相関係数は、0.84~0.99(中央値、平均値も0.91)。第2は、部分的チェックを加えることであった。それぞれの変数は、60個の20分間ずつの部分に分けられ、2人の判定者が両方とも記録された行動例をあげているかどうかをみるために、その各部分について判定者間の比較がなされた。判定者間の一致率は、90.9~95.9である。                             ・評定者間の信頼性の2つの尺度は、本質的な一致がその判定間にあったことを示した。
e. 母親の刺激作用評定の計算
・6つの幼児の行動状態の変数に加え10個の刺激作用の変数の連続的、同時的評定は、多様な問題と統計的方法をもたらす。刺激の量対無刺激作用時間、刺激作用変数の時間数、単一変数の使用、刺激作用の結合、そして、他の幼児の資料との比較によって、広範な尺度が、個人や集団、刺激作用の質の年齢効果を見分けるのに役立つということが明白になった。
3.母親の刺激作用量:間接的相互作用系列の分析からの知見の要約
・母親の刺激作用についての評定は、2つの幼児群の各々7名について実施された。
・刺激作用の全時間の平均の割合は、両群の間に有意差はなかった。(異常幼児群65.3%
普通幼児群61.2%)
・目覚めておとなしいときと泣いているときの刺激作用の割合は、両群間に差はなかった。
・両群間の差異は、統合刺激作用の使用と個別の刺激作用の使用の点で生じた。異常幼児群において統合刺激作用時間が全刺激作用時間の平均61.2%である2つの下位群があった。異常幼児群の4名は刺激作用時間平均42.1%(低)、他の3名は87.0%(高)であった。
・特に、聴覚的、感覚運動面において両群の差があることが示された。異常幼児群において、聴覚的刺激作用の時間数(秒)として測定された聴覚的刺激作用量は、決定的に低く(<0.02)、そして感覚運動刺激作用量は有意に大きかった。
・ある異常幼児の身体感覚運動的刺激作用が高いとすると、聴覚的、視覚的、触覚的刺激作用は、その時間数の面で低かった。普通幼児群では、2つないし3つの主要な刺激作用の併用が特徴的であった。全刺激作用の時間の割合を高めなかったが、むしろ、刺激作用時に強化的特性をもたらした。

Ⅷ 討議
・幼児ー母親対の2つの群の相互交渉のパタンにかなり明白な差異がある。
・これらの研究において集められた資料から、異常行動、異常発達、悩まされそしてしばしば引きこもった母親、赤ん坊の世話や扱いの軽視と虐待、そして多様な個人的、家族的、生活状況的困難、これらが交錯していることがわかった。
・異常行動と異常発達は、不十分な、誤った、あるいは極端な刺激によって誘発され維持される。
・正常な分化と適応の発展に適した環境において、豊かな刺激作用が与えられるということは当然である。適度の強さの刺激作用が反復され、恒常と新奇とのバランスに富み、幼児の状態と要求に適切に提供される。刺激作用の水準は、変化に富むことを必要とするが、過度の刺激作用とか刺激作用の欠如のような両極端を含む必要はないのである。

《注》 
 ここでは、「幼児ー母親の相互交渉」場面を映写し、その記録を分析しながら、普通幼児群と異常幼児群の「実際」を比較検討した結果が述べられている。その場面は、①入室から10分間の自発行動、②母親による授乳、10分間、③2人に他人が加わる、5分間、④母親が部屋を出て、他人と2人だけになる、5分間、⑤他人が部屋を去り、幼児が1人になる、5分間、⑥母親が帰室して再会する、5分間という構成である。①においては、普通幼児群の母子が、そこにある玩具や人形を使って「楽しい」時間を過ごしたのに対して、異常幼児群の母子交渉は、動きが少なく、単調であり、遊びも貧弱で「組織的」に発展していかなかった。母親の表情は固く、微笑み、笑いかけは見られなかった。②においては、母親からの刺激作用によって「かまわれ過ぎて」いる。③においては、普通幼児群の全部が「泣き出し」「母親にすがろう」としたのに対して、異常幼児群の反応はまちまちであり、「無反応」な子どももいた。その子どもたちは、母親が帰室し再会したときも「無反応」であった。 
 著者らは、さらに、これらの場面を「母親の刺激作用の特性」を変数として《統計学的》に研究を行った(ようだが)、その結果は、残念ながら判然としなかった。  
 しかし、子どもの「異常」と、母子の相互交渉のあり方が「交錯」しながら、さまざまな問題・支障を生み出していることは明白であり、たいへん参考になった。(2014.6.22)
 以上で、この論文は終了するが、今後、母親を対象とした「同種」の研究が行われることを期待したい。 
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(2008/10)
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